言いそびれた言葉
翌日、私は学校へ行く。
下駄箱のところで祐美が声をかけてきた。
「侑乃ちゃん、おはよう」
別に疑っていたわけではないが、声をかけてくれたことに私は驚いた。
私の周りにいた女子も少し驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「おはよう、祐美ちゃん」
何気ない挨拶を交わすことが、
「侑乃ちゃん、昨日は楽しかったね!」
昨日を振り返ることが
こんなにも楽しいと今まで知らなかった。
学校の窓ガラスに映る自分は少し楽しそうで、まるで自分じゃないみたいで。
祐美と話しながら、教室の前まで来て、私は現実に戻る。
「祐美ちゃん、本当にいいの?」
別に今、迷ってもいい。裏切るなんて汚い行為ではない。
私を突き放したとしても、私は貴女を決して責めないから。
それでも、普段の私ならきっと願わないことを願ってしまった。
どうか、できるなら離れず傍にいてほしいと。
「何が?侑乃ちゃんと一緒にいるって私決めたんだよ」
いとも当たり前のように言い放ち、私に笑いかける祐美。
安心して涙が出そうになるのをこらえ、ふーんと言った。
ありがとうと言えなかった。あまりにも動揺してしまったから。
貴女に言いそびれたありがとうはいくつあるだろう。
今思い出しても数えきれない。