門出の後
ただひたすら甘い。
本当に夢のような結婚式だった。
夢じゃないという確証がほしくて、ずっとレオンの手を握ってた。
レオンも優しく握り返してくれて、決して離そうとはしなかった。
「全く・・・むちゃなことをするわ・・・。」
小声でレオンに話しかける。間違いなく、たくさんの人に無理をいったんだろう。
「驚かせて、ごめん・・・。でも、僕は一刻も早く君を僕の花嫁にしたかったんだ。そして、君を苦しめた過去を幸せな記憶で塗りつぶしたかった。君に誰よりも幸せな花嫁になってほしかったから・・・。」
「だから、父と母を呼んだのね・・・。」
「うん。機会さえあれば上手くいくと思ってたし。ただ・・・どちらも君に似て本当に頑固でね・・・説得するのは大変だったよ・・・。」
でしょうね。
父は頑固の塊みたいな人だし、母はどんなに時間をかけても自分の意見を通そうとするし。
「ベラとニックはどうして呼んだの?」
ニックはともかく、べラの顔はすごいことになってたのに。
「ある意味、彼らは僕らのキューピッドだからさ。ニックが君を選んでいたら僕らは永遠に出会わなかったかもしれない。それに・・・。」
「それに?」
「君はもう僕のものだとニックに見せつけてやりたかった。」
まぁ・・・ニックのこと、そんなに気にしてたなんて・・・。
そこまでしなくてもと思う気持ちもある。
でも・・・
「・・・それじゃ、私もあなたが私のものだってベラに見せつけちゃおうかしら。」
それ以上にレオンの気持ちも理解できる。
私だって、レオンが私のものだと見せつけたい。べラだけじゃなく世界中の女性に。
自分で言った言葉を私は実践した。レオンの首に両腕をまわし、ぐっと顔を近づける。
するとレオンは私の腰をつかみ、体ごと引き寄せた。
「見せつけるまでもないよ。僕は君しか見てないんだから。・・・最高にきれいだよ、僕のリリー。」
どこまでも甘いレオンの視線と一緒に、その言葉は私の体の奥底まで染みこんでいく。
私は腕に力をいれ、さらにレオンを近づけた。
「素敵な結婚式をありがとう、レオン。私・・・すごく幸せだわ・・・。」
今のこの気持ちを全てレオンに伝えたいのにちゃんと表現できる言葉が見つからなくて、もどかしい。
でも、レオンにはちゃんと伝わっているようだった。
「僕もだよ・・・。」
レオンは私を優しく見返しながら言った。
同じ気持ちであることが嬉しくて、甘えるようにレオンの胸に顔をうずめた。
「この三日間は、あなたがいなくて、とても寂しかったわ、レオン。」
「僕だって寂しかったさ。君の声が聞きたくて何度、真夜中に君を起こそうとしたか。」
「起こしてくれてよかったのよ、ただし・・・。」
「優しいキスで、だろう?寝起きの悪い僕の奥さん?」
そう言いながら、レオンは軽いキスをくれた。
「だって、しょうがないでしょう?一番、気持ちよく起きられるんだから。キスの上手な私の旦那さま?」
私も軽くキスを返した。
「僕が上手なのはキスだけかい?リリー。」
レオンの目が妖しくなった。
しまった・・・。やりすぎたわ・・・。
この目になったレオンは私の手におえない。
いつだってレオンの好きなようにされてしまう。
ど、どうしましょう・・・。
「リリー?他にもあるだろう?」
レオンが私の耳に息を吹きかけながら言う。
なんともいえない感覚に体が震えた。
まずい・・・これは、まずいわっ!
エロモードに入ったレオンを何とか止めるべく声をあげようとした・・・その時
「お二人さん。そういうことは結婚パーティが終わってからしなさい。」
低くて心地いい声が聞こえた。
この声は・・・
「お義父さまっ!」
「やぁ僕の可愛い娘。どうしようもない息子ですまないね。でも、君たちの晴れ姿をこうして見られたことを心から嬉しく思うよ。」
大富豪である彼の存在感はすさまじい。人を圧倒する力を彼はもっている。
だけど、私や子どもたちにはいつだって優しく接してくれる。
そんな彼の笑顔に暖かい気持ちになった。
「父さん、邪魔しないでくれるかな。」
レオンは不満げに言った。
こちらとしては、邪魔してくれて本当にありがとうございます!と言いたかった。
あのままだったら、恥ずかしいことを言わされていたに違いないもの。
「君たちはこれからもこれまでもずっと一緒なんだから、今夜ぐらいは我慢して思いっきり私たちに祝われなさい。リリー、すまないが息子を少し借りるよ。私の仕事仲間に挨拶しなければならなくてね。みんな忙しいのに慌てて来てくれたからね。」
レオンは心から嫌そうな顔をしたが、結局笑顔のお義父さまにひきずられるように連れていかれた。
・・・お義父さま、あなたは素敵です。
そう思いながら、二人の背中を見送っていた私に後ろから声がかけられる。
「さぞ、いい気分なんでしょうね。リリー?」
来たわね。
「久しぶりね、べラ。また会えるとは思ってなかったわ。」
レオンが徹底的に防御してたから。
後ろを振り向けば、挑発的なドレスを着たべラがいた。
・・・間違いなく結婚式に着てくる服じゃないわね、これは。
「レオンが招待してくれたもの。ぜひにってね。」
レオンが気にしてたのはニックだけだったみたいだけど。
「そう。来てくれて嬉しいわ、べラ。」
棒読みになるのは、しょうがないわよね。
「あなたもこれから大変ね、リリー。レオンのような人の生活スタイルを受け入れなければならないんだから。」
「?」
意味がわからないわね。
確かに研究バカの生活スタイルに慣れるのは大変だったけど。
「レオンのように魅力的な男性が一人の女性で満足すると思って?あなたは知らないでしょうけど、権力を持った男性は外に刺激を求めるものなの。家のことは従順な妻にまかせてね。」
つまりは愛人ってことね。
でも、その定義からレオンは外れてるのよね。
「確かにたまに家に帰って来ないことがあるわね。」
べラは私の言葉に目を輝かせた。
「ほらね。自分が一番レオンに愛されているなんて思わないことね。」
べラの顔が優越感でゆがむ。
・・・本当に私の不幸を願ってるのね。
一体どこでこんなふうになってしまったのかしらね。
「そうね。たまにレオンの一番は私じゃなくなるわ。」
べラはクスクスと笑う。
「かわいそうなリリー。同情してあげるわ。」
傲慢に言い放つべラを見ながら私はゆっくり口を開いた。
「えぇ、同情してちょうだい。レオンったらずっと仕事、仕事なのよ!ディナーの約束も何度かすっぽかされたし。一日中そばにいてくれるって言ったのに電話一本で研究所に行っちゃうし。まぁ、次の日はずっとそばにいてくれたけど。研究所に泊まりこむのもやめてほしいわ。私が子どもたちと一緒に寝るだけで自分は寂しがるくせに、私は大丈夫だって思ってるのよ。私だって寂しいのに!ちょっと聞いてるの、べラ?こないだだってね・・・」
なおも愚痴という名ののろけを話そうとする私をべラが大声でとめた。
「もういいわっ!!」
そして、一瞬悔しそうな顔で私を睨んでから、背を向けて足早に去っていった。
もっと聞いてほしいことがあったのに・・・。
「知らなかったよ。君がそんなこと思ってただなんて。」
後ろから愛しい人の声。
振り返る前に抱きしめられる。
「ふん!私はできた妻だもの。わがままなんか言わないわ。」
口ではそんなこと言いながら、私はレオンの体に自分の背中を押しつけた。
「本当に僕にはもったいないくらいのできた妻だよ、君は。べラに何か嫌なことを言われてるんじゃないかと心配で慌てて来てみれば、一人で追い返してしまうんだから。」
「今の私は無敵なのよ。」
愛する人に心から愛されているから。
「でも一つ訂正があるよ、リリー。僕の一番はいつだって君だ。」
レオンが耳にささやく。
私は体を動かし、レオンと向き合った。
「それを証明して、これから一生かけて。」
レオンは私を強く抱きしめ答えた。
「喜んで。」
その誓いをキスで封じた。
夢はまだまだ終わらないみたい。
読んで頂きありがとうございました!突然ですが、ネタが浮かんだので『夢見る場所』連載再開しようと思います!内容は活動報告にて。もしよろしければ、引き続き読んでやって下さいませ。