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夢見る場所  作者: 紅屋の仁
現在
6/9

門出

あなたは愛されている。

休養と称してお義父さまの別荘で過ごし始めて3日―

私は家族と平穏な日々を過ごしていた―


表向きはね。




あれからベラが何度も訪問したが、レオンは対べラ専用の門番を雇い家の中に入れることを頑なに拒んだ。家の管理人さんにも絶対入れないようにと命令して、見ているこっちが「そこまでしなくても」って言いそうになるほどの徹底した拒みようだった。

・・・本当にベラが嫌いなのね。

というか、そこまでされてあきらめないベラもすごいわ・・・。


べラに対しては、そんな風に思うくらいで特に気にしていない。

ぶっちゃけてしまえば、もうどうでもいい。


この3日、私の心を乱すのはべラではなく・・・


『リリーへ おはよう。

よく眠っていたので、起こさずに行きます。

帰りは遅くなります。 

レオンより』


レオンだ。

私の思いを伝えた夜が明け、目覚めると机の上に置かれていたメモ用紙。

最初は、誰にも起こされずにレオンが私より早く起きたという事実に心底驚いたが、それが3日続くと、さすがにそんなこといってられない。


レオンは、朝早く起きて、夜私が子どもたちと眠ったあとに帰ってきてるらしい。

ここに来てまでレオンが動くのだから仕事でなにかあったのだろう。


5年前、結婚した直後のようね・・・。

ベッド以外では、お互いに関わらない生活。

でも、それは最初だけで、お互い少しづつ歩み寄っていったのに・・・。

なぜ、また?



・・・私が自分の思いを告げたから・・・?


一度そう思い至ってしまうと、必死で否定するのに、どんどん悪い方向に考えてしまう。


・・・私の気持ちが手に入ったから、もう興味なくなっちゃったの・・・?


・・・あんなに優しくしてくれたのは嘘だったの?


・・・もう私はいらないの?


子どもたちといると大丈夫なのに、一人になると不安でどうしようもなくなる。


・・・レオンのバカ・・・。



そして今日も一人で眠る。

明日は机の上にあのメモがなくて、隣にレオンがいるように心から祈って。




「起きなさい、リリー。」


・・・何でこう人に起こしてもらうと、逆に起きたくなくなるのかしらね・・・。

私の性格が問題なのかしら・・・。

・・・おまけにこの声は、最もさからいたくなる相手だわ。


「・・・すぐ起きるわよ・・・。


 お母さん・・・。」


ん?

お母さんっ!?


飛び起きれば、本当に母がいた。

・・・なんで?

わけがわからず周りを見れば、大きなベッドに豪華な部屋。

うん。ここは間違いなくレオンのお義父さまの家で、私の実家じゃない。


「なんでお母さんがここにいるの?」


戸惑いつつ尋ねる私を完全に無視し、母は無言で私のシーツを剥ぎ取り、私の腕を引っ張る。


「30分あげるから、すみずみまできれいにしてきなさい。」


と言って私を浴室に投げ入れた。

・・・横暴だわ。そう思いながらも、母の言うとおりにするのは幼い頃からの習慣だからかしらね。

全くなんなのかしら。

べラの頼み・・・としか考えられないわね。大方、パーティでも開いてレオンを呼ぶつもりなんでしょう。断れないように母を使って。私はそのおまけってとこかしらね。

それなら、出来るかぎりきれいにならなくちゃね。

ニヤリと笑って、自分の体を丁寧に磨いていった。


「洗ったわよ、お母さん。」


30分後、私は再び母の前に立った。


「・・・化粧台の前に座りなさい。」


「はーい。」


私はさからうことなく母の言葉に従った。

べラとニックが結婚した時は、両親のことを憎んだ時期もあったけど、それまでは厳しくもちゃんと育ててもらっていたし、レオンと結婚してから仕事を大事に思う気持ちも理解できるようになった。

親の大変さも今、身をもって感じてるしね。

だから、普通に接することができる。


化粧台の前に腰かけた私の髪を母がくしでといていく。

懐かしい。


「久しぶりね、お母さんにこうやって髪をといてもらうの。」


「・・・。」

また無視ですか。まぁ昔から、あまり話さない人だったけど・・・。

はぁ・・・


静かな部屋に髪をとく音だけが聞こえる。

目を閉じ、どこか安心するその音を聞いていた時、母が口を開いた。


「・・・私たちを憎んでいるでしょうね、リリー。」


母の言葉に驚き、後ろを振り向こうとしたけど・・・「動いてはだめ。」という母の一言で止まった。

母は私の髪をときながら続ける。


「いいのよ、憎まれて当然のことを私たちはしたのだから。自分たちの保身のために娘の幸せを売った。」


「お「黙ってお聞き。」」

母の苦しそうな声に耐えられず、止めようとした私を母がさえぎった。


「あなたに少しでもいい暮らしをさせたくて始めた仕事だったのに、いつのまにか仕事が中心になってしまってた・・・。べラ様のご家族に、何度も娘にニックをあきらめるようにいえと言われても、そんなこと絶対言わないとお父さんと誓ったのに、最後の最後で仕事を選んでしまった。」


そう・・・だったの。

確かに両親からニックと別れなさいと言われたことは一度もない。

あの時まで、二人は私の味方でいてくれたのね・・・。

母はくしを置き、私の髪を結い始めた。


「あなたが、いなくなった後で自分たちのしたことの残酷さに気づいたけど、もうどうしようもなくて必死であなたを捜してるときに、あなたからの手紙が届いたの。この家の主の息子さんと結婚したと。

初めはとても信じられなかったわ。でも、この家の管理人さんから聞きだして事実だと知った。あなたを本当に幸せにしてくれる人かどうかこの目で確かめたかったわ。」


「でも、返事さえくれなかったじゃない。」

思わず口をはさんだ。

心のどこかで期待してたから、とてもショックだったのだ。


「・・・出そうとしたわ、何度もね。でも、もしあなたの親が使用人だと知られてしまったら、結婚がダメになるかもしれない。あなたの立場が悪くなるかもしれないって考えると怖くてだせなかった。会いに行こうにも、合わす顔がないしね。」


っ!!

そんな風に思ってたなんて・・・。

髪を結い上げる母の手が暖かさとも手伝って・・・涙がでそうになった。


「そんなある日、来てくださったのよ。レオンさんが。」


「レオンが!?」


「えぇ。挨拶が遅れたことを謝ってから、あなたを必ず幸せにすると約束して下さったの。それで、私たちは安心してあなたをまかせた。レオンさんは言って下さったわ、『いつかきっと和解できる。リリーの心が落ち着くまで待っていてほしい。』って。あなた、本当にいい旦那さん見つけたわね。」


なんで、たまにすごくかっこいいことするのかしら・・・。

家の中じゃダメ人間のくせにっ!


「子どもができたときも、写真を何枚も送ってくださったわ。お父さんが大事に保管して、いつも寝る前に二人で見るの。」


母が幸せそうに言う。

お義父さまに送る用にとか言って撮ったやつね。

面倒みてるつもりが、ずっと面倒見てもらってたのね。

・・・なんだか、ものすごくレオンに会いたくなってきたわ。


レオンは私をもう十分、大事にしてくれた。

今度は私の番。

この先なにがあっても、あなたを愛していく。


「お母さん。私、幸せよ。だから、もう誰も憎んでないわ。」


髪を結い終わり、化粧に取り掛かる母に笑って言った。


「そんなこと帰ってきたあなたの顔を見て、すぐわかったわ。誰かに心から愛してもらってる女性の顔だったもの。だから、べラ様に見せびらかしに行きなさいと言ったのよ。」


「・・・言葉が足りなくて、意図がわからなかったわ・・・。」


「行きなさい。」と言われただけだったもの。

というか、見せびらかしにって・・・。

私の性格の悪さは遺伝だったのね!


大きなブラシで私の頬を彩りながら、私の目を見て母は言う。


「リリー、誰よりも幸せになりなさい。私たちはいつでも、そう願っているわ。」


「・・・はい、お母さん。」


どこまでも優しい母の顔。

長く待たせてごめんね。


「・・・さぁ、これを着てでかけましょう。」

突然、立ち上がった母が奥の部屋から持ってきたもの。

それは――



とても豪華な車に乗って、たどり着いたのは5年前のあの日、絶望した場所。

すこし寂れたけど、ほとんど変わっていない教会。

5年前のあの日と同じようにたくさんの人が集まって、中には知った顔もいる。

あの日と同じように皆、祝福してる。


でも、5年前とは全然違う。

5年前、美しい花嫁となったべラが立ってた場所に私はいる。

どこまでも白いドレスを身にまとって。

絶望の匂いなんか、全くしない。

あるのは幸福だけ。


車から降りる私の手を握ってくれたのは、父だった。

無言で私の手をとり、自分の腕を持たせる。


そして、ゆっくり進み始めた。

この先で私を待っている、あの人のもとへ。


「ママっ!」

その声のした方を見れば、可愛らしく正装したわが子たちがいた。

ちょっと、誰か写真撮って!

朝から静かだとは思っていたけど、ここにいたのね。

「ママ、パパを怒らないでね・・・。パパ、どうしてもママをパパの花嫁さんにしたかったんだって。」

あきれた・・・子どもたちまで巻き込んでたのね。

全く・・・。自然と微笑みが浮かんだ。


少し緊張した様子の子どもたちの先導で、父と進んでいく。

教会の中は、ここにいるはずのない人たちでいっぱいだった。

目が潤んでるメアリーにお忙しいはずのお義父さまにお義母さま。

そして、祝福しているとは思えない顔をしているべラとニック。

・・・なんで、来たのかしらね。


そして、バージンロードの先には―


レオンがいた。


ゆっくりとレオンに近づいていく。

そして、父の手を離れる直前・・・「幸せになれ。」と聞こえた。

・・・もう十分幸せなんだけど。


神様の前でレオンと向き合う。

レオンの顔は今まで見たことないくらい幸せそうに微笑んでた。

その顔に免じて、この3日間私を放って置いたことは許してあげるわ。

溢れでる喜びをレオンに伝えたくて私もゆっくり微笑んだ。



遠い昔、夢見た場所は奪われた。

でも、私はまた夢見てる。

愛する人たちとずっと一緒にいられる未来を


あなたの隣


ここが、私の夢見る場所




―The End― 



読んで頂き、ありがとうございました。2話で終わるはずだったのに、まさかここまで続くとは・・・。本当は、もっと細かく5年間のことを書こうかと思ったんですが、グダグダになりそうだったんで、書きたいとこだけを書いてみました(笑)思っていた以上に書きやすい二人なので、また話が思いつけば書きたいと思います。読みたいエピソードとかがありましたら、教えてやって下さいな。最後までお読み頂き本当にありがとうございました!

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