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「登場」の続きになります。大事なことだからこそ。
呆然と口を開けて、突っ立ってるべラとニック。
うちの子がそんな顔してたら、口にイチゴとか投げ入れいてあげるんだけど。
この二人にそんなことしたら・・・やだ、ちゃっと楽しそうだわ。
「ありえない・・・。」
そうね。
私の顔を見るべラの顔が、憤りからか赤くなっていく。
これは・・・あまり子どもたちに聞かせたくないこと言うかもしれないわね。
「レオン、荷物を降ろしてきて。アランとララもパパを手伝ってあげてくれる?」
「「はーい!」」
いいお返事ね。
レオンは、私の顔を心配そうに見つめる。
私は「大丈夫」と伝えるために少し微笑んだ。
それを見たレオンは
「・・・わかった。」と言って、「何かあったら、すぐ呼ぶんだよ」と言うように軽く私の肩に手を触れて、離れた。
全く心配性なんだから・・・。
レオンと子どもたちが離れるとすぐにべラが声をあらげた。
「私があれだけレオンを求めていたことを知っていながら、レオンと結婚するほど、私たちを憎んでたの!?」
「えぇ。」
はっきりと答えた。
あまりにあっさり認めた私に二人ともが面食らったような顔をする。
「5年前はね。」
そうすることでしか自分の心が救えないと思うほど、追い詰められていたから。
でも、今は・・・
顔が自然と微笑みに変わる。
「私、とても幸せよ。べラ。」
あなたたちのおかげでね。
かつて夢見た場所がかすむほど、幸せなの。
「それをあなたたちに伝えたくて、ここに来たのよ。」
それが、私の復讐。
我ながら、なんて意地の悪い。
でも、これでやっと誰も憎まななくてよくなる。
誰かを憎むのも結構しんどいのよね。
「リリー、そろそろ行こう。」
荷物を持ってきたレオンが私に声をかける。
そのとき、もう立ち直ったのかべラがレオンに近寄って言った。
「・・・あのっレオンっ!今日は私の家にお泊りにならない?
昔みたいに仲良くしましょうよ!」
色っぽく微笑みながら、誘う。
まぁ、まだあきらめていないのね。
ニックが側にいるのに、よくやるわね。
ある意味、感心するけど相手が悪いわ。
レオンはべラを冷たく睨みながら言った。
「君と仲良くなったことなどないし、僕はリリーと二人きりで過ごしたいんだ。」
4人よ、レオン。
そのたまに、子どもたちの存在を忘れる癖、何とかならないかしら。
「でもっ!っ!!」
まだ、あきらめないべラをレオンは鋭い一瞥で黙らせ、荷物を持っていない方の手で私を掴んだ。
「行こう、リリー。」
べラとニックからさらうように、レオンは私の手をひく。
あら、やだ、ちょっとカッコいいわ。
許可をもらい、今日はお義父さまの別荘をお借りすることになった。
4人で過ごすにはあまりある豪華さと広さ。
私たちの家はどちらかといえばシンプルだから、ちょっと落ち着かないわね。
「父さんとは趣味が合わないんだ。」
とレオンが苦笑しながら言った。
住み込みの管理人さんがいるので、食事の準備などもしなくてすんだ。
広い庭で子どもたちと遊び、ゆったりと過ごす。
時々、レオンの問いかけるような視線を感じたけど、それは後でね。
子どもたちを二人で寝かせた後、ソファで一息ついていると、私の表情を窺いながらレオンが話しかけてきた。
「リリー、怒ってるかい?」
怒る?
「何を?」
「君が一人で来たいと言ったのに、来てしまったから。」
怒られるかもとビクつきながら言う姿は、世界に認められた研究者とは思えなくて、思わず微笑んだ。
「いいえ。来てくれて嬉しいわ、レオン。」
レオンを安心させたくて、手を重ねた。
その手をレオンがぎゅっと握る。
「本当かい?それなら、いいんだけど。
朝、目が覚めたら隣に君がいなくて、僕はパニックになってしまったんだ。部屋を探し回っても見つからなくて、メアリーを問い詰めて、やっと君が帰郷したことを思い出したんだ。」
朝っぱらから災難だったわね、メアリー。
「それで一度は落ち着いたんだけど、今度はどんどん不安になっていったんだ。」
不安?
「君がもう帰って来ないんじゃないかって。」
思っても見なかった言葉と切羽詰ったレオンの表情が胸をうった。
「そう考えだすと、いてもたってもいられなくて来てしまったんだ。」
「心配することなかったのに。ちゃんと帰るつもりだったわよ?」
慰めるように、優しく言う。
「本当に?僕は・・・君が僕を捨てて、ニックを選ぶんじゃないかと思ったんだ。それなら、なんとしてでも奪い返さなきゃいけない。だから、僕は・・・「レオン。」」
レオンの言葉をさえぎり、話しかける。
不安に怯えるレオンをこれ以上、見たくない。
レオンと目を合わせ、意を決して私は言った。
「あなたを愛してるわ。」
レオンの目が驚きで見開かれる。
そして、唐突に私を抱きしめた。
「もう一度、言ってくれ。」
懇願するような声だった。
「あなたを愛してるわ、レオン。」
私を抱きしめる力が強くなった。
「あなたに愛してるって言いたくて、私はここに来たのよ。」
ニックに抱きしめられたあの時、私の胸には何の感情も湧いてこなかった。
喜びも憎しみさえも。
こうしてレオンに抱きしめられると、安堵すると同時にどきどきする。
もう終わったのだと確信できた。だから、ニックに言えたのだ。
『私は今のままで、とても幸せよ。さようなら、ニック。』
微笑むことさえできた。上出来な最後だ。
これで、ちゃんとレオンと向き合える。
「でも、言わなくても伝わっていたと思うんだけど?」
言えなかったけど、態度で示していたつもりなんだけど。
「あぁ、伝わってた。でも・・・ダメなんだ。君の側を離れると、すぐに不安になってしまう。」
レオンの声は少し震えてた。
それから、しばらくそのまま抱き合っていた。
やっと落ち着いてきたのかレオンがそっと体を離し、私を見つめる。
「僕の思いも伝わっていただろう?」
私の頬を撫ぜながら、レオンが尋ねる。
「えぇ、だから逃げていた過去と向き合う決意ができたの。」
私もレオンの頬を両手で包んだ。
レオンが確認するように問いかける。
「本当に僕を愛してる?」
「えぇ。」
「神に誓って?」
「誰にだって誓えるわ。」
なんだか、とても幸せな気分だ。笑い出したくなる。
「ふふ・・・いい気分だわ、そう思わない?レオン?」
レオンはそんな私を見つめながら、ささやくように言う。
「あぁ・・・最高だよ、リリー。」
視線が重なり、自然に二人の顔が近づき始め、唇が・・・「ママーっ!!」
触れようとした時、幼いが大きな声が響いた。
声のした方向を見れば、怒った息子がいた。
「ひどいよっ!今日は一緒に寝てくれるってお約束したのにっ!」
「ごめんなさい、アラン。パパとお話があったのよ。すぐに行くわ。」
「・・・あと1センチだったのにっ・・・。」
小さな声でレオンが嘆くように言う。
「しょうがないわよ。」とレオンに微笑みかけ、そっと頬にキスをした。
愛する人たちを心から愛せるという幸せを、私は手に入れたのだ。
読んで頂き、ありがとうございます。おそらく次話で完結します。