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夢見る場所  作者: 紅屋の仁
現在
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閑話 理由

家政婦だけが知ってる。

皆様、初めまして。

わたくし、レオン様のお宅で家政婦をしております、メアリーと申します。


わたくしは元々レオン様のお父様にお仕えしていたのですが、レオン様が家を出る時に「あいつに一人暮らしなんてさせたら3日で死ぬ。」とのご家族全員のお考えの下、わたくしもご一緒することになったのでございます。


レオン様は幼い頃からそれはそれは優秀なお子様でした。

勉強でも運動でも常に一番で、わたしたちを喜ばせて下さったものです。

ですが、一つのことに集中すると周りが全く見えなくなる所がございました。

それが、レオン様が18歳のとき大問題となったのでございます。

ある日、突然レオン様はご家族全員の前で宣言したのです。


「僕は薬品開発の研究を生涯の仕事にするつもりだ。父さんの跡は継がない」


レオン様のこの言葉には、大変驚かされました。

だってそうでございましょう?

お父様の跡を継げば、なに不自由ない生活が約束されているのに、それを捨てるというのですから。

ご家族も大反対されたのですが、レオン様の頑固さはお父様ゆずり。

誰が何を言っても、聞き入れず、結局押し通してしまったのです。


そして、家を出たレオン様は薬の研究に文字通り全てを注ぎました。

研究所に泊まりこみ、食事もほとんど摂らず、一睡もしない日が何日も続きました。

わたくし共も、とても心配していたのですが、立場上強く言うことができず、誰もレオン様の生活を変えることはできませんでした。


その結果、レオン様の研究は世界に認められ、ご自分の力で富と名声を得たのです。

しかし、レオン様はそれに満足することなく、さらに研究にのめりこんでいきました。

わたくしは、見守ることしかできませんでした。


そんな日々が続いていた、ある日・・・


レオン様がリリー様を、結婚相手として突然連れて来られたのです。



わたくしは、とても驚きました。

レオン様はお母様に似て、とても美しいお顔されていますから、昔から女性には大人気でございました。

ですが、レオン様はあまり女性に興味を持たず、まれにお付き合いしたとしても長く続きませんでした。

そんなレオン様を見て、お父様も「孫の顔を見ることは一生ないかも知れない・・・。」とぼやいておられたほどです。

そんなレオン様が結婚・・・っ!!



お相手のリリー様が、今までレオン様が付き合って来られた目を見張るような美人ではなかったことにも、驚かされました。リリー様は気取ることも、堅苦しさもなく、わたくし共に挨拶をして下さいました。その時のどこか悲しげな瞳が印象に残りました。


困惑するわたくし共をよそに、リリー様とレオン様は一定の距離を保って生活され始めたのです。



リリー様がレオン様に怒りをぶつけられるまでは・・・。



「レオン、ちゃんと睡眠と食事をとらないと離婚するわよ!」


仁王立ちしながら、言い放つリリー様の姿にわたくし共は慌てました。

止める間もなく、レオン様が言い返します。


「君は僕の研究には口を出さないそういう契約だったはずだぞ!!

 僕の作る薬を待っている人が大勢いるんだ!睡眠や食事なんかどうでもいい!!」


言い方は違えど、わたくしも同じようなことを言われたことがございました。

わたくしは、レオン様の強い意志に負け、返す言葉が見つかりませんでしたが、リリー様は・・・


「このままの生活であなたが体調をくずしたら、できる薬もできなくなるわ!

 知ってるのよ、たまに立ちくらみしてること!!」


一歩もひるむことなく、レオン様に立ち向かっていきました。

さすがのレオン様も、真っ当な言い分と自分を心配する言葉に、言い返せないようでございました。

そんなレオン様をなぐさめるように優しく、リリー様は言います。


「これから、たくさんの人たちを救うためにも、あなたは健康でいなきゃ。」



それ以降、レオン様とリリー様は一緒に食事をされるようになりました。

研究所に泊まることも少なくなり、お二人の距離はぐっと縮まりました。

誰がなにを言っても自分の考えを変えることがなかったレオン様を、リリー様は変えたのです。



わたくし共も、とまどいを捨てレオン様の奥様としてリリー様と接するようになりました。



そして、長男アラン様が生まれたのです。


わたくし共は大喜びし、誰もがアラン様見たさに仕事の手を止め、リリー様の部屋をのぞきに行きました。リリー様もアラン様から離れず、愛情を注ぎ続けておられました。



その頃です。

レオン様の悪い癖が変わったのは。


レオン様は小さい頃から片付けることがお嫌いでした。

リリー様と結婚された後もそこは変わることはなく、きれい好きのわたくしはひそかに落胆していたのでございます。リリー様も何度も注意されたのですが、結局改善することはありませんでした。


しかし、その散らかし方が変わったのです。


レオン様が小さい頃から片付け係だった、わたくしだけが気づいた小さな変化。


レオン様が片付けることが苦手なのは、どれが必要なものでどれが不要なものかを決めることができないからでございます。足の踏み場もないほど、散乱した書類や書物はどれもレオン様にとって大事なものなのです。だから、書類は必ず読めるように表を向き、書物も雑に扱われることは決してなかったのですが・・・


アラン様が生まれてからは、それらの秩序がなくなったのです。書類は表裏バラバラで、書物も折れ曲がっているのです。ただ、散らかっているだけの様子に、わたくしは眉をひそめました。


何故?


その謎は、レオン様のお側で仕事をしていた時に判明しました。



「レオンーーーーっ!!」


あぁ、この声は・・・。

レオン様が散らかした部屋を見つけたときのリリー様の声。

レオン様、あなたまた・・・

ため息をつきつつ、ふとレオン様を見れば・・・



レオン様は、とても嬉しそうに微笑んでいらっしゃいました。



その笑顔を見て、わたくしは理解しました。


散らかすのは、リリー様に自分を見てもらうためだと。


常にアラン様のお側にいる、リリー様に少しでもこちらを向いてもらいたくて、


部屋を散らかしているのだと。


全くなんて不器用な人でしょう。

ちゃんと口で言えばいいのに・・・。


ですが・・・

リリー様に怒られながら、口はへの字になっているのに、目はとても嬉しそうなレオン様を見て・・・


「ちょっと聞いてるの?レオン!」


「聞いてるよ・・・。」


こんな日々が続けばいいと、わたくしは思いました。




散らかされた部屋を見て、やっぱり続かないでほしいとすぐ思いなおしましたけどね。




僕を呼んで


僕だけを見て


僕にかまって


僕の側に来て


僕のリリー



読んで頂き、ありがとうございました。

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