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夢見る場所  作者: 紅屋の仁
現在
2/9

登場

いつだって少し遅れて登場する者。

とても清々しい気分で目が覚めた。

朝食の時間まで、まだ少し余裕がある。

シャワーでも浴びようかと考えていたら、携帯電話が鳴った。

表示された相手の名前を見て苦笑する。


「本当にじっとしていられないんだから。」


そう言いながら、彼が私を呼ぶ声のようにけたたましく鳴る物に手をのばした。





「ねぇ、リリー。あなた今日も泊まっていくでしょう?」

和やかとは程遠い朝食の最中にべラは言った。

ちぎったパンを、口に運ぼうとした手を止める。


「まだまだ話し足りないわ。あなたのご両親にはもう了承してもらったのよ。ねぇ、いいでしょう?」

根回しがいいこと。

私が泊まっていくことは、すでに彼女の中では決定事項ね。

そして、昨日の尋問の続きがしたいのでしょう。


だけど・・・


「悪いけれど、それは無理だわ。」

さも残念そうに言ってみる。

べラの顔が少しゆがんだ。


「どうしてなの?やっぱり昔のことを恨んでいるから?」


「いいえ。」

これは本当。


「ならば、なぜ?」


「実は今日、夫と子どもがこちらに来ることになったの。」

それはもう嵐のように前触れもなく突然にね。


「!!それなら、旦那さんと子どもたちを家に招待するわ!!」

べラが興奮したように言う。獲物を見つけたサメみたいだわ。実際には見たことないけど。

自分の目で私の夫を見定めたいのね。


「とても嬉しい申し出だけど、ごめんなさい。 

 夫がね、久しぶりに家族だけでゆっくり過ごしたいと言い出したの。」

本当はべラの家なんかに泊まりたくないって言ったんだけど。


「私の家でも、ゆっくりできるのに・・・。」

ニックの家でもあると思うんだけど。

本人はさっきから存在を消してるけど、大丈夫かしら。


「えぇ、私もそう言ったんだけど・・・聞かなくて。」


「それなら、私が説得するわ。何時に駅に着くの?一緒に迎えに行きましょう。」

そうきたか。

男性であれば、ほとんどの人はあなたの言うことを聞くものね。

早く会えるし、一石二鳥ね。

でも、そう上手くはいかないわ。


「残念だけど、電車では来ないの。」

自分で運転できないものは嫌いだから。


「じゃ、車で?」


「いいえ。車でもないわ。」

ルールが多すぎるって言って聞かないのよね。

これまで会話に全く参加していなかったニックもさすがに気になるのか、私を怪訝そうに見てる。


「それじゃ、どうやって・・・。」


私は、チラリと自宅がある方角の窓を見た。

音はまだしないけれど、姿は見える。


「ほら、あれよ。」

そう言いながら、青空に浮かんでる白い物体を指差した。



「「ジェット機っ!?」」

べラとニックの声が重なる。


そう、無駄にでかいあれよ。

夫の移動手段は、自家用ジェットと船とそして自転車に限られてる。

理由は、ある程度の自由に動けて、なおかつ自分が運転できるから。

全く極端なんだから。


「さて、私は村はずれにある滑走路に迎えに行くけど、あなた達はどうする?」

唖然としてる二人に声をかけてみる。

答えなんかわかりきってたけどね。




広いだけの土地に、滑走路がのびている。

まわりにはほとんど何もなく、あるのは滑走路だけ。

上を見上げれば、雲一つない青空と、さっきよりは大分近づいた白い機体。

それと耳に低く響いてくる轟音。

これに慣れるのに、何年かかったことやら。


「信じられない。あなた本当にお金持ちの老人と結婚したのね。」

心なしか悔しげにべラは言う。

老人ってとこは外さないのね。

私は答えず、べラに向かって微笑んだ。



私の人生は、あなたが想像する以上におもしろいことになってるわ、べラ。




程なくして、ジェット機は危なげなく着陸した。

そして、耳障りな音を立てて止まった機体から、すぐに飛び出してきた人物。

背が高く、明るめのブラウンの髪を風になびかせ、駆け足でこちらに向かってくる。

顔には満面の笑みと無精ひげ。

また研究所に泊り込んだわね。

あれほど、私がいなくてもちゃんと睡眠をとるように言ったのに。

しょうがない人。


「リリー!!」

べラもニックも顔見知りなはずなのに、彼女たちには目もくれず、彼は私に駆け寄ってきた。

そして、何のためらいもなく私を抱きしめる。


「リリー、会いたくてたまらなかったよ!!」

そう言いながら、私の顔中にキスしてくる。

ちょ・・・恥ずかしいわ。

手で彼の顔を離そうとすると、今度はその手に口付けてくる。

もうっ!やめなさいと叫びそうになった時・・・


「パパー!ひどいよ!!僕たちも降ろしてーー!!」

と幼い声がジェット機の中から聞こえてきた。


「あぁ、忘れてた。」

このバカっ・・・。


彼の腕から何とか逃れ、幼いわが子を迎えに行く。

ジェット機の中を覗き込めば、ふてくされていた顔がほころぶ。


「ママっ!」


よかった・・・。4歳の息子と2歳の娘は元気そうだった。

ジェット機から二人を降ろし、抱きしめる。


「よく来てくれたわね、二人とも。」


「それは、僕に最初に言ってもらいたかったな。」

後ろを振り返れば、今度は夫がふてくされてる。

三十路を超えた男性がする顔じゃないわ、それ。


「はいはい、あなたも来てくれてありがとう。」


「心が全くこもってない!!」

大げさに嘆く彼を見ながらため息をつく。

すると、抱きしめていた息子が小声で言った。


「パパね、今日の朝ママがいないー!って大暴れしたの。でね、ママを探して部屋をメチャクチャにしてたの!」

息子よ・・・。それは楽しそうに言うことじゃないわ。

メアリー(家政婦)が部屋を見て、絶望しないといいけど・・・。

待っててね、メアリー!帰ったら、私も一緒にその腐海の森に立ち向かうからね!!

だから、絶対死なないでね!!潔癖症の家政婦に心からエールを送った。


カッ


その時、響いたべラのハイヒールの音に、私は自分たち家族以外の存在をやっと思い出した。

べラとニックに目をやれば、二人とも信じられないという顔をしている。

まぁ、当然よね。

私は彼らの前に立ち、夫と子どもたちを紹介した。

「レオンのことは、二人ともよく知ってるわよね?レオンと私の子どもアランとララよ。

 二人とも、ママとパパの知り合いのべラとニックよ。ご挨拶して?」


「こんにちわー。」

可愛らしく挨拶したアランを無視し、べラは叫ぶ。


「そんなっ・・・。あなたレオンと結婚したのっ!?」


「えぇ、5年前にね。」


「嘘でしょうっ!!」



本当よ。


あなたが、かつてニックの前に自分の結婚相手にと望んだ大富豪の息子レオンが私の夫。


全く、おかしな運命よね。




読んで頂きありがとうございます。2話で終わるはずだったんですが・・・無理でした。次話は、ヒロインとやっと出てきたヒーローとの馴れ初め話です。もう気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、ヒーローちょっと変わった(困った?)人です。

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