帰郷
突然、思いついた作品です。設定がざっくりですが、気にしないでやって下さい。
5年前、惨めでやるせない気持ちで後にした故郷に私は今日戻ってきた。
あの日、涙でにじんで見えた二人の顔が今ははっきり見える。
その上、笑いかけることさえできる。
月日が変えてくれたものを、改めて感じた。
「久しぶりね、リリー。」
美しく着飾ったベラが笑う。
「えぇ。久しぶりね、べラ。」
彼女の顔を見ながら、化粧にかかった時間を考えていた私は、現実に引き戻された。
目だけで30分はかかってるわね。ひっぱったらどうなるのかしら、あのやたら長いまつげ。
「あなたのこと、ずっと心配してたのよ?何も言わず出て行ってしまったから。」
元婚約者と元親友の結婚式で私に何が言えるのかしらね。
祝福の言葉?冗談でしょう。
「悪かったわ。あの時はいろいろあったから・・・。」
どうやって駅まで行ったのかさえ覚えていない。
ただ、逃げ出したくてしょうがなかった、ベラと・・・
「連絡してくれればよかったのに。」
そう、ニック。あなたから。
私を捨て、ベラを選んだ元婚約者。
少ししわが増えたけど、相変わらず魅力的だ。
「新婚さんを邪魔するような野暮なことしたくなかったのよ。」
あの時、電話したらずっと呪いの言葉を吐いてたわね。留守電にもたっぷり。
女ってこわーい。自分だけど。
「そんなこと気にしなくてよかったのに、ねぇダーリン?」
甘えるような声でベラはニックに声をかける。
「あぁ。」
対するニックは素っ気ない。
あらやだ倦怠期かしら。
探るようにニックを見れば、彼と目が合った。
何かを訴えるようなニックの視線から私は目をそらした。
目が合うだけで嬉しかった、あの頃の自分はもういない。
ニックと私は幼馴染で、小さい頃から一緒にいた。
ニックは議員の息子で、頭もよく優しかった。学生時代から彼を思い、彼から告白された時は、嬉しくて気を失いそうになった。彼だけを崇め、讃えた。恋していたのだ、盲目的に。
大富豪の息子に相手にされなかったべラが、次の標的としてニックに目をつけるまでは。
ターゲットを定めた彼女の行動は早かった。
私の恋を応援すると言った同じ唇でニックに言い寄り、彼の家族に私より自分の方が家柄的にも彼に合っているとアピールした。べラは大学教授の娘で、私の両親はべラの家に勤めている使用人。
私がニックと婚約することさえ嫌がっていた二ックの家族が、どちらを選ぶかなんてわかりきったことだった。
そして、最終的には彼もべラを選んだ。
べラの家で働いている両親は、私の味方をすることなく私がニックと付き合っていた事実さえなかったことにし、ニックとべラを祝福した。村の人たち全員が、美しい花嫁と花婿を祝福した。みんなニックと私が婚約していたことを知ってたはずなのに。
あの時、逃げ出す以外の選択肢が私にはなかった。
「リリー?」
べラの声で過去から意識が切り替わる。
「それで、あなたは今なにをしてるの?」
次は尋問ってわけね。
「専業主婦よ。」
その言葉にべラとニックの目が見開く。
私が結婚してることに驚いたんでしょうね。
ちょっと、その顔写真に残しておきたいわ。
落書きのしがいがありそう。
「結婚したの?」
「えぇ。子どももいるわ。」
小さくて可愛い子が2人と、やたら大きい子が1人ね。
「・・・そう、よかったわ。ほら私、あなたが夢見ていた場所を取ってしまったでしょう。
これでも気にしてたのよ。あなたがずっとニックだけを思いつづけて幸せになれないんじゃないかと思って。」
私の幸せを奪った当事者がいうセリフじゃないわね。
それに、私がニックだけを思い続けて幸せになれないことを望んでいたんでしょう?
自分の今いる場所が、特別だと優越感に浸れるものね。
あら、二ックの顔がゆがんでる。
あなたも、私がずっとあなただけを思っていると考えていたのかしら?
べラは続ける。
「それで、旦那さんはどんな人なの?」
知りたいでしょうね、でも・・・
「ご想像におまかせするわ。」
というか、説明するのがめんどくさいわ。
「え~。教えてくれてもいいじゃない。私たち親友でしょ?」
元ね。あなたと親友なんて、もう二度とごめんだわ。
「そうね・・・それじゃ、当ててみて?」
当てられるものならね。
「そうねぇ・・・今リリーが着ているドレスそれなりに高級な物よね・・・。」
さすが、目ざといわね。
「そして、あなたは今、結婚指輪をはめていない。結婚したことを大っぴらにしたくはないんじゃないかしら。」
その通り。
「わかったわ!あなたは好色でお金持ちな高齢の男性と結婚したのねっ!!」
・・・好色っていうのは、どこから出てきたのかしら?
勢いにのって彼女は続ける。
「老い先短い男性に子どもがほしいと頼まれて、あなたはお金の為にそれを承諾したのよ!きっと!」
どうしても私を不幸でかわいそうな女にしておきたいのね、あなたは。
必死な様子が滑稽にさえ見えた。
今日はここまでにしよう。
「さて、どうかしらね。あら、もうこんな時間。私は眠るわね。おやすみなさい。」
間をおかず話し、素早く席を立つ。
このままじゃ、一晩中べラに拘束されちゃう。
「あっちょっと!もう明日、絶対教えてもらうからね!」
なるべく早く起きて逃げよう。
でも、少しなら教えてもいいか・・・
「・・・あえて言うなら・・・恐らく私はあなたが夢見た場所にいるわ、べラ。」
べラが首をかしげる。
「?何の話?」
これ以上話すことはない。
「おやすみなさい。」
べラの家の客室はホテルみたいだった。シャワーを浴び、ベッドに寝転ぶ。
今回の帰郷でべラとニックに会う予定はなかったのに、両親の口からべラに私のことが伝わり、ぜひとも話がしたいとべラが言ったのだ。私の両親はなんの迷いもなく、私にべラに会いに行くよう迫った。
そして、私はここにきた。
二人の顔に自分がどう反応するのか、ちょっと興味があったから。
コンッコンッ
部屋の窓に何か当たる。窓を開け下を見るとニックがいた。
昔、こんな風に何度かニックに呼び出された。懐かしいわね。
静かに部屋を出て階段を降り、裏口から外に出た。元親友の家だから、構造はよく知ってる。
広い庭先でニックを見つけた。
「また、夜の学校にでも忍び込むの?」
あまりにニックが真剣な顔をしているので、からかってみる。
「・・・いや。」
効果なし。おもしろくないわね。
「そう、残念だわ。つまらないから、私は寝るわね。」
きびすを返そうとした私の腕を、ニックが掴んだ。
「待ってくれ!君は本当に・・・べラが言うような男性と結婚したのか?」
「そうだと言ったらどうするの?」
「・・・もし、そうなら僕にできることがあったら何でも言ってほしい・・・。」
「どうして?」
「・・・僕は心から後悔してるんだ。5年前のことを。
本当に思っていたのは君だったのに、家族のことを思ってべラを選んでしまった・・・。」
強い力で腕が引かれ、ニックに抱きしめられた。
「でも、信じてほしい。君のことを思わない日はなかった。だから、少しでも君の力になりたいんだ。」
ニックの言葉に私は目を閉じた。
あぁ・・・私やっぱり・・・。
お読み頂きありがとうございました。べラのセリフを考えるのが一番、楽しかったです(笑)