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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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88話 【断章】『ドロリオン旅行記』

 

 その旅行記の始まりにはこう書かれている。



◆◇

 

 我らはただの旅人、異邦人である。


 だからこそ、この意味の無い見聞録をここに記す。


 そして、この記録をもし理解できたものがいるのならば、どうかこの続きを紡いでいって欲しい。


 

 そんな言葉が書かれた始まりのページを読んだ私にはなんのことかわからなかった。


 寝起きの枕元に落ちていた本は私を何故か不快にさせた。

 しかし、その本を捨てる気にはならなかった。


 私がこの記録を書こうと思ったのは単純な暇潰しだ。



 そこまでが書かれた本が私の前に落ちていた。一体なんだ?



 っていうところまでが書かれた本が俺の前には落ちていやがる。



 ────なるほど。そういうことですか。



 ※以後の者はこれ以上始まりを書き記さないようにしなさい。


◆◇



 その後はとりとめの無い日記の断片が続く。ほとんどがただの一行日記だ。


 だが、その中におかしな記録がいくつか混じっていた。


 以下はルクスが興味を持った章をまとめたものである。


 なお、作者は文章を書くのが苦手らしく、文法も意味も間違っている所が多々存在していた。

 そのため以降の文章はルクスが自分なりに翻訳している。原本はもっと酷かったという。




【世界最古の発明】


 世界最古の発明と聞いて何を思い浮かべるのか。


 武器か? 衣服か? 住居か?


 そんなところだろう。


 だが違った。


 私が訪れたのはゼルガマンティスという者が支配する大地。

 その誰も住まぬような山の中だった。


 ここを訪れた理由は勿論あるが、その詳細はいずれあとのドロリオンが書くことになるだろう。


 とりあえず地面を掘った。


 かなりの労力を使い発見したのは“手のひらサイズの板のようなもの”と、“壊れた車輪”だ。


 この土地に人間はいない。そんな歴史はない。

 ならばこれを作ったのは誰だったのか。


 その答えは勿論──『人間』である。




【酒場で出会ったホラ吹き】


 久しぶりにやってきた人里で、私は奇妙な人物に会いました。


「ボクはたった一つだけ魔法を使えるんだ」


 魔法を使えることを自慢するのは、身分が低い証です。身分の高い人々はいちいち喜んだりはしません。


 しかも、たった一つしか使えないのもおかしな話でした。


「それはそれは凄いものなのサ」


 面白い話をしてやるというから、酒を奢っているというのに、これではただのタカりです。


 ならばその凄いものを見せてみろと私は言いました。


「残念! これは一回だけしか使えないんだ。そして、もう使っちゃっタ」


 呆れた私はその席を立ちました。

 お金の無駄でした。


「明日また来てヨ。そしてまたボクに話しかけてくれ。それでどんなものかわかると思うよ」


 案の定、詐欺師の常套手段でした。


 なぜなら、次に会ったその人物は私のことを忘れていたのですから。


「やあ、初めましテ。そして、ありがとう。君のおかげで使う決心がついたヨ」


 昨夜よりも訛りのきつくなった共通語で、そのホラ吹きはそう言いました。 




【五百年前の大災害】


 この世界はすでに一度、滅んでいるかもしれない。


 まあ、ありきたりな話ではあるが、魔石というものを見ればそう思うだろう。


 そして、実は五百年前に世界はまた滅びかけていたということをご存じだろうか。


 原因は巨大な隕石だったらしい。これもまあ、ありきたりな話か。


 今も世界のあちこちに空いている大穴は、その隕石の破片が落ちた跡だ。

 フットプリントという湖が有名だろうか。


 私が気になっているのは、その隕石がどうして破片となったのかである。


 残念なことに五百年の寿命を持つ人間はいない。


 そしてまた残念なことに魔族とは会話できないと思われる。


 そうなると、知るために行える方法も残念なことに一つしかないのである。

 

 というわけで次にこれを読んだ者はよろしくね。




【水湖の怪】


 世界に鎮座する巨大な大地。その果てには真水でできた湖があるという。


 真水と聞いて、綺麗な水という印象を抱くかもしれないが、自然界において真水とは存在し得ないのだ。


 どんなに澄んだように見える川も、目を凝らせばその水には何かが混ざっており、それが生き物を育んでいる。


 あの日、確かに私の目の前にはその真水でできた湖が広がっていた。


 その特性故か魚も鳥も見当たらない。その湖周辺には草木すらも見当たらない。


 命の香りがまったく存在しないその風景に私はとても感動した。

 風と水の音。色の無い透明な水と陽光の輝き。


 停止した世界とも言えばいいのだろうか。


 大地の果てとは言い得て妙だった。



「こ、こんにちは?」



 感動して座り込んでただその風景に心奪われている私に話しかけてくる声があった。


 人語が後ろから聞こえてきたのだ。

 命がまったくない世界に感動していたその時の私にとって、それは現実に引き戻される不快なものでしかなかった。


 そもそも微生物すら存在しないその地に、好き好んで来る人が私以外にもいるとは思わなかった。


「……邪魔しないでくれるかな?」


「あっ……。その、ごめんなさい……」


 落ち込むような声。

 私を襲わずにいるところから、変な人なのだろうと私は考えた。


 大地の果てで挨拶を交わそうなどと、まともな人の行動ではない。


 まるで少女のような声でその人は話しかけてきた。

 無視して座る私に対して、その人は何を思ったのか隣にやってくる。


 そして無言で座り、そのまま私の顔をじっと見ていた。

 湖には一切の興味がない様子であった。


 奇妙な人だった。


 そこまでくると興味を持つしか無い私はその人物の特徴を横目で見た。


 角と翼と尻尾。縦に割れた瞳孔。

 まあ基準的な見た目と言えるだろう。


 その人の視線はずっと私に向いていた。


「なにか用なのかな?」


「その……あなたはどうしてここに来たの?」


 私があそこに行こうと思った理由なんて大したものではない。見たことがないものを見たかったというだけだ。


 だが、その人はずっとあそこに住んでいるのだと言った。


 見る人によっては絶望でしかないあんな世界を見ながら、たった一人で暮らしていたのだ。


 自己紹介をした私たちは会話を重ね、私を気に入ったのか、その人は自分の住処へと案内してくれた。


「これは……家なのかな?」


「ち、違うの?」


 そこには『巣』と呼ぶべきものがあった。


 石で囲まれた場所に遠くから拾ってきた草葉が敷かれているだけのもの。

 屋根など存在していないし、寝心地は最悪だった。


 危険な旅で疲れていたからこそ、私はそんな場所で眠ることができた。

 しかしその人は普通に熟睡し、安眠をいつものように繰り返していた。


 いろいろな人物を知る私だが、未だにあれ以上の変人を知らない。


「ねえ、昨日のお話の続きをしてほしいわ!」


 そこから数日、その人は私のつまらない話を気に入り、ずっと話をさせられた。


 先住民であるその人に対しての滞在費の支払いだと思えば、安いものだった。


 その人の興味の持ったものはもっぱら技術や人の作るシステムといったものであり、その理解も早かった。


「それはどういう原理なの?」


 それを説明するために私は実際にやってみせて、作ったものを提供した。

 主義や政治といったものは記録を語るしか無かったが。


「すごい! すごいわ!」


 そして、極めつけはその人の住居だ。


 巣での生活に耐えられなくなった私はその人の協力の下、家を建てたのである。


「あははは! すごい! この寝床、気持ちいいわ!」


 ベッドで跳ねながら上機嫌なその人の顔を私は生涯忘れることはないだろう。


 実際のところ私は大したことはしていない。その人が魔法でなんでも用意してしまったからだ。


 その人は力があっても、活かす(すべ)を知らなかった。

 羨ましいものだ。私には力がないのだから。


「ありがとう!」


 何かをしてもらったらお礼を言う。

 何かをしてしまったら謝罪をする。


 そんな簡単なことをその人と私は共有したのだ。


「正直とても不安だったの……」


 ある日、ベッドで寝転びながらその人は話し始めた。


 私は夕食の準備をしながら、それを聞いていた。


 私が文明的な生活を与え続けた結果、その人はすっかりぐうたらな生物となってしまった。

 狩りすら忘れてしまったのだろう。


「あの娘達が張り切っていたから任せてみたけれど、世界の平定なんて難しいことをできるなんて思っていなかったわ」


 私と会話を重ね、その人は最初のしどろもどろな話し方が無くなっていた。

 実に理性的で知的な雰囲気がその人には出てきていた。


「でも、あなたを見て安心したの。あなたの話してくれたような光景がきっと今の世界には広がっているのね!」


 その感想に対して私は何も言わなかった。

 私が話したのはあくまで私の生まれた国の話だ。それ以外の世界がどうなっているかなどわからないからだ。


 平和なのかもしれないし、荒れているのかもしれない。


 引きこもる現在の家の外は酷いものであるから、平和ではないな。


「みんな頑張ってるのね! 早くまた会って平和な大地で遊びたいわ」


 何かに期待していたその人の感情が裏切られることになるのは一体いつのことになるのだろう。


 私にとってそれはきっと未来の話だ。



 そんな生活を繰り返し、湖のほとりでいつものように景色を眺めていた私はその人に別れを告げた。


「……え? なんで? どうして……?」


 どうしてもこうしてもない。

 私はあくまで旅人。一処(ひとところ)に留まるつもりは無かった。


「いやっ!! いやよ!! ここにいて!!」


 いつものようにその人の我儘が始まった。

 慣れたものだったが、その時ばかりは苦労した。家が壊れるところであった。


「まだたった10年しか一緒にいないのにっ!! いやっ!!」


 時間の違いというものは残酷なものだ。


 その人と私では何もかもが違う。

 

「違わない!! 同じよ!! 同じ世界で生きる命でしょ!? ねえ、お願いよ、一緒にいて……」


 感覚も、肉体も、力も、勿論違う。


「力の強さなんて、どうでもいいでしょう……? 私がいるんだもの。私にできないことなんてないわ。あなたが教えてくれれば、なんでもできるのよ? そうよ……あなたを脅かすものなんていないの!! 任せて? 全部からあなたを守ってあげる。誰も、何も、私には勝てないんだから!」


 そして、価値観も異なっている。


「は……? それこそ私達は同じものを持っているのよ? “他者を愛し、争いを嫌う。命溢れる世界に感謝をする”。違わないでしょ? ねえ……? そうでしょう? ねっ? ね?」


 かつてその人は語っていた。


 この世界の原初の霊長について。


 『激しきモノ』が支配していた破壊と絶望の世界があったのだと。

 だからこそソレらは滅び、『穏やかなるモノ』を世界は求めているのだと。


 原初より人は『激しきモノ』。だから理性と秩序で自分自身を塗り固めなくてはならない。


「ええ、そうよ。自分の激しさを封印して、殺してこそ穏やかなる世界が待っているの。外の世界を見てどう思う? 命が(あふ)れているだけでこんなにも世界は素晴らしいの!」


 その人の言う外の世界は湖の外のことだ。

 大自然と様々な種族が織りなす多様性の世界。


 だが、それは私にとっては命(こぼ)れる世界だ。


 そしてなにより、人の原初。私の国の原初の霊長は『激しきモノ』などではない。


 歴史に記されぬほどのつまらない日常の繰り返し。

 だが、それは長く、永く続いていた。


 “激しさ”は後より飛来したものだ。


 原初の霊長とは『穏やかなるモノ』である。


「そんなわけがない!! どうしてわかってくれないの!? いやよ!! ねえ……あなただけなの……。私のことを同じ生命として見てくれたのはあなただけなのよ……」


 実に馬鹿なやり取りだ。

 破局した男女のようなくだらないやり取りだ。


 結局のところ、私はその人が嫌いなわけではなく、ただやりたいことがあるだけだった。


 だから、私は嘘をついた。真実に近い真っ赤な嘘を。


「……帰ってきてくれる? 本当? 嬉しい……っ! 私、待ってる!」


 確かに帰ってくるとも。だが、その時の私は私ではない。おそらくではあるが。


 泣き腫らし、大暴れしたその人が笑った。


 アレは湖にてさまよい続ける怪異。水湖の怪。

 人間になんとかできるものではない。


 だが、今考える唯一の心残りは彼女のことだ。


 この世にたった一つであるが故に絶対的な究極。

 この大地を統べる女帝となるだろう貧弱で怠惰で臆病なあの少女。


 ここまで読んだのであれば、わかるだろう。


 ──次の私はお前だ。だから、どうか、頼みたいものだ。


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― 新着の感想 ―
この少女がアルテだとして、魔族の超技術の基礎になる知識はこのドロリオンから学んだのかな…? 銃やら何やらはアルテが独自に発展させたのか、それともこの世界でドロリオンが生きた文明がそこまで発展していたの…
ヴァンボロイズがドロリオンならば、その、10年は、長かったなあ
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