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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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82話 悪箔嘲笑 Experimentum Solum


 『リエーニ』が見つけたのは山岳に潜む反王軍の拠点だった。


 なにも気にせずに見れば深い夜の山が広がるだけである。

 視覚的な隠蔽がしてあるが、人間が行動している時点でリエーニには見抜けてしまう。


 だが、王国軍すら見つけられない盲点をついた場所だ。

 もし今後聖国が攻めてきた場合、この拠点から生じる反王軍は王国にとって脅威になる。


 “ならば人々の安寧のために潰さなければならない”。


 リエーニはそんなお(ため)ごかしをして、進んだ。


 握るのは土で作った剣だ。

 だがそれは魔力を纏って輝いていた。


「? なんだ?」


 人型の土人形が歩いているのだ。驚きもするだろう。


 見張りの男が何か声を上げた。


「なんだ……あれ?」

「魔物? ゴーレム?」


 馬鹿みたいな反応で、リエーニはつまらなかった。

 もっと驚いてもらいたかったのだ。


「……え」


 リアクションがつまらなかったので、リエーニは炎を放った。


 山岳にあるその拠点はよく燃えた。


「うああああ!?」

「なんだ!?」


「殺せええええええ!!」


 弓矢が飛んできた。


 だが、それは人間相手に効果を発揮するものだ。

 せめてアンリーネくらいのものを用意するべきだ。


 ルクスが組んだ体の防御魔法が全て弾いてしまう。


 自分に対して礼儀がなっていないとリエーニは怒った。


 だから、武器を作った。


 聖芸品を見たことがあるし、重火器も知っているので、すごいものを作ろうと思った。


 大きな弾倉がついた機銃が作られていく。


「聖芸品……?」

「逃げろッ!! あれは──」


 グリムプレートを見たことがある反王軍の一人が退避を促すが遅かった。


 リエーニがトリガーを引くと、弓矢など及ばない破壊の飛び道具が人間たちを襲った。


 顔のない土人形の表情はわからないが、とても楽しんでいるように思えた。


 木製の建物が崩壊し、石で作られた場所にも穴ができはじめる。

 そして砕けた骨と吹き出した血が飛び散る音が木霊する。


 遠くにいる弓兵も焼き殺して、リエーニはその重そうな機銃を片手で撃ちながら進んでいった。

 口がついていたら歌でも歌っていたかもれない。


 王国を助けるために王国民を殺すのは気分がいい。


「貴様っ!!」


 熟練のような動きをする騎士がやってきた。


 魔法で強くした盾でなんとかリエーニに近づこうとしてくる。


 リエーニは少し面白そうだと思ってなにもしない。ただ銃撃を続けた。


「がっ……!」


 だが、気合いだけだったようだ。

 魔法の盾は大した戦果もなく吹き飛んでいった。


「ががががが」


 そのまま男を撃ち殺す。最後の声は面白かった。

 穴開きだらけの男がダンスしたのだ。


 上機嫌でリエーニは丁寧に“破壊の塗り絵”をしていく。


 お残しをしないように端から端へと真っ赤な絵の具を塗ろうと思ったのだ。


「ひいいいいいいいっ!!」


 ここを守る仕事を放棄して、馬で逃げようとする集団がいた。


 それはいけない。

 なぜなら仕事をサボることになるからだ。


 他の人の迷惑になってしまう行為だからだ。

 その集団が逃げたことで他の人がなにもできずに死んでしまうのだ。


 結局全員死ぬことになるのだとしても、過程というものは大事だ。


「ぐあっ!? なんだ!?」


 馬がリエーニの作った土の柵に激突し、騎手は投げ出された。


 そして、土が形を変えて彼らを拘束した。


 動けぬ標的となった彼らにリエーニの照準が向けられる。


「いやだああああああ?!」

「やめてくれ!!」

「お願い!! 子供が故郷にいるの!!」


 とても面白いセリフが聞けたので良しとしよう。


 そう思ってリエーニは()()()()()()()()()


「……?」


 リエーニはタレットと呼ばれる自動機銃装置を作り出し、持っていた機銃をセットした。

 ゴーレム魔法の応用である。リエーニは人型にこだわりなどない。


 そのゴーレムは起動すると、蜘蛛のように動き出し機銃掃射を続け、狩りに繰り出した。

 再び破壊と悲鳴の音が響き渡る。


「な、なにあれ……?」


 脱出しようとした集団の人間たちは続く虐殺を放心しながら眺めていた。


 リエーニはもう一機作ると、拠点の反対側に向けて送り出した。

 その作業を終えると、リエーニはその集団を見た。


「誰か! いないのか!?」


「連絡は!?」


「もう少しで……!」


 リエーニはルクスと違い、気絶させるなどという酷いことはしない。

 喋ることができないというのは可哀想だからだ。


「な、なに……?! いや!! 助けて!!」


 気絶させたらこんな綺麗な声も聞くことができない。


 ボロボロの土人形が、拘束されたまま地面に転がる無様な女に近付く。


「ひっ!?」


 そして服を剥ぎ、その胸元に刻まれている印を見つめた。


 『逆さまの王冠』である。

 リエーニはシンボルに特に興味はない。くだらない意味を込めたところで、効果に変わりはないからだ。


 この刻印が不死騎士を自動作成する仕組みを持っている。


 魂に干渉する魔法の勉強をリエーニは始める。

 学びを得るということは素晴らしいことだ。生活を豊かにする。


「お願いします……! やめて下さい!!」


 刃物を見せると女性は生を願った。

 生への渇望。それはとても尊いものだ。


「あぎゃっ……!!」


 ──だからこそ強い魂を持つ。


 リエーニは彼女の喉を切り裂いた。

 同時にコードを入力する。


 コードは一度あのパーティホールで聞いていた。

 入力方法は図書室で無様な女教師から教わった。


 そして、魂を侵食する方法はフィフを名乗るガラクタから学んでいる。

 【エヴリ・ファイバー】は完全に学習できていないのが惜しい。


 それはそのガラクタが侵食を止めようと必死になっているからだ。

 さっさと乗っ取ってしまえばいいものを、今更人間に対しアレは慈悲を覚えている。


 リエーニにとっては誤算だった。


 女性の死体だったものが形を変え、鎧となって形成される。


 リエーニが意識すると、その不死騎士が思う通りに動き始めた。


 かつての大戦争の際に作られた一つの命令しか実行できないものとも違う。


 そしておそらく魔王が改良した学習、自己判断をできるようになったものとも違う。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ルクスとリエーニは学んだことを楽しむことへと変換していく。


 だが、その方向性は違う。


 ルクスは他者との共有を優先し、皆を楽しませる。


 リエーニは自分だけの満足を優先し、一切の配慮をしない。


 一体目の作成を終えて、少し修正点を考える。


 そしてリエーニはまた不死騎士の作成に取り掛かるのだった。


 “素材はたんまりとある。失敗しても大丈夫だ。前向きに行こう”


 そんなことを思いながら、リエーニは楽しむのだった。



◆◆◇



 大仕事を目前にして、反王軍の中核で人間に紛れている魔族、『ケログ』は焦りと苛立ちを隠すことができなかった。


 反王軍が分裂しかかっていたからである。


 中核メンバーがバラバラに行動し始めたのである。


 カシアンは理想を捨てずに圧政に苦しむ民の全てを拾い上げようとしていた。


 その中には当然使えぬ孤児や浮浪者が混じっているため、軍としての動きが鈍くなっているのだ。

 一応刻印は刻み込んでいるが、起動するか怪しい。


 クルモンド・ハーグラエティクは敵の本拠地を襲撃しにかかっている。


 彼が狙うのはロルカニア王国の王都である。

 魔王領と結託して支配を進める憎き敵として彼は認識しているのだ。


 たしかに王都襲撃は最終目的である。


 しかし、クルモンドは早すぎて、カシアンは逆に歩みを遅くしている。


 実のところ、謎の戦闘狂グリムプレートが一番忠実に仕事をこなしていた。


 ハピフクス家を通じて聖国を手引し、王国東部侵攻の準備を整えた。

 そして、彼女は次なる作戦を実行しにかかっている。


 会話がまともにできぬのが玉に瑕だが、命令すれば無言で彼女は逆らうことはなかった。


 人間にしては見どころがあると、ケログは称賛していた。


 しかし、反王軍全体としては非常にまずい。

 当初は短期で王国を切り崩す予定だったのだ。


 だが、現在のケログの上司から作戦休止の命令が突然飛んできたのである。


 その上司の名前はモードス。魔王領幹部である。


(クソっ!! あの魔物が止めなければ今頃王国は粉々になっていたのに……!)


 魔王アルテの覚えがいいだけの雑魚魔物に対して悪態をつく。

 魔族である以上、彼もまた魔物を見下している。


「ケログ様、報告が……」


「なんですか……?」


 ケログの部屋に部下がやってくる。その部下はマシな人間である。

 だが、部下がこうして報告をしてくるときというのは、何か不安要素が爆発したときなのだ。


「“山岳拠点”からの連絡が途絶えました」


「!?」


 ケログは叫びたい衝動をなんとか抑えた。


 その反王軍の拠点は、まもなく実行される王国の王都包囲の要となる場所だからだ。


 その拠点からの奇襲が無くなれば、与える打撃がかなり減ってしまうのだ。


「いつから!?」


「……今夜からです。向かわせた者も何故か戻ってきません」


 明らかになにかが起こっている。


「『音聞』とかいう害虫のせいで、また情報が漏れたのか……!?」


 反王軍の侵攻が遅れた原因の一つ。

 裏の情報屋を名乗るふざけた存在。


 ケログすら探知できぬ厄介な者だった。


 それと『夜の騎士』と呼ばれる工作員まで出始め、ケログの考えた兵站(へいたん)の供給路が絶たれ続けたのだ。


「わかりません。どうしましょうか……」


「私が向かいます! 貴方達は明日に備えなさい!」


 おろおろする弱小種族に腹が立ったケログは自ら解決することにした。


 人間たちの馬を用意する時間が無駄であり、彼ならば転移魔法が使える。


 正体が露見する恐れがあるため使いたくはなかったが、緊急の対応を求められる案件のため止むを得ず使うしかない。


 馬を使って一人で出るふりをしてケログは転移魔法を使った。

 

「…………! 何が……あった?」


 その転移先で彼が見たのは、火に包まれ、赤く、紅く染まった拠点だった。


 王国軍がいるわけでもない。

 だが、その破壊の跡は災害が訪れたようだった。


 馬から下りて、魔族としての身体能力で岩を登っていく。


 不思議だったのは、血の跡も、戦った跡もあるのに()()()()()ことだ。


「────なんだ?」


 その理由をケログは知った。


 魔族である彼をして異常な光景だった。


 この世界にそれを意味する単語はない。

 だが地面いっぱいに広がるそれは『十字架』と、ある世界では呼ばれる。


「────」


 その十字架に張り付けられているのは、人間の死体だった。


 丁寧に補修された状態で十字架に打ち付けられていた。


 十字架から伸びた数本の棘が死体の喉、右腕、両足を貫通し、彼らを固定しているのだ。


 “芸術作品”だとその制作者は思っているのだろう。


 こだわり抜いた配置をされていて、道を作っていたのだ。


「何者だ……? 貴様」


 不快なオブジェを辿ったその先にそれはいた。


 赤と黒の鎧。

 人間の肉と魂を使って作られる低級の魔物。

 命令されなければまともに動けない木偶の坊。


 『不死騎士』。


 それが座っていた。


 いや表現としては正しくないのかもしれない。


 なぜならば、そこには『玉座』があったからだ。


 人間の肉と骨で作られた立派な作りの玉座に、その不死騎士は横柄な態度で()()()()()


 片足をもう片方の膝の上に乗せ、手に顎を乗せていた。無礼な姿だ。


 こんな山の中で、炎と血に囲まれているのにもかかわらず、何故かそれは玉座として成立しているような気がした。

 当たり前だ。玉座とは王が座る場所。


 そこに()わすものが王であるのならば、その至高の主が座する場所が自動的に玉座となるのである。


「不死騎士……? 誰が作ったのだ……」


 ケログが辺りを見回しても、その作成者は見つけられなかった。


「まあ、いい」


 ケログが魔法を使う準備をした。

 浄化魔法程度、魔族ならば誰でも使えるからだ。


 それはこの世界に循環する魂を正常に戻すことで呪いを解除する魔法だ。


 世界に還るはずの魂を繋ぎ止めることでその魔物は作られる。


 “我らが世界に在る魂よ”

 “醜く、歪み果てたその心よ”

 “我ら同胞の祈りを以て、浄化せん”


 ケログが詠唱を始めた。


 それを不動のまま退屈そうに玉座に在る者は見ていた。

 自分を消すはずの光を止めること無く見ていた。


「【コンル・クリアランス】。取り敢えず消えておけ。ただの兵器が」


 白き光が不死騎士を囲んでいく。


 詠唱の通りに、この世界の魂の歪みをこの世界の法に則り浄化する。そんな力だ。


「…………ん?」


 その鎧は(わら)っているように見えた。

 動かぬまま、ケログの行為をただ(あざけ)るように見ているような気がした。


 12年前のあの日、大戦争中にトーリアの部隊が遭遇した事象。

 浄化魔法が効かない無敵の騎士の存在。


 トーリアはその原因を探った。

 そしていくつかの仮説を立てていた。


 その中に答えはあった。


 しかし彼女はその答えを苦笑しながら有り得ないと投げ捨てた。


 なぜなら一番突拍子もなく、滑稽な理由だったからだ。


「……ッ!? がああああああああああッ!?」


 種類の違う発砲音が響き渡る。


 口径も速度も違う弾丸がケログを撃ち続けた。


「なんだ!? おのれえええええッ!!」


 ケログは銃痕をあちこちに作りながらも生きている。

 そして、人間の皮を脱ぎ、本来の姿になった。


 別の世界では『陸ガメ』と表現されそうな姿だ。


 頑丈な甲羅と、一瞬で傷を癒やす再生力。

 鉄さえ砕く強靭な顎。大地の龍と言い換えてもいいかもしれない。


「【コンル・クリアランス】!! ……なんだ!? なんだお前は!?」


 白き光はただの演出にしかなっていない。

 まるでスポットライトだ。


 だが、その光は王の趣味には合わない。


「がっ!? じ、地面……に?!」


 突然ケログの体が重くなる。


 なぜなら地面から赤黒い騎士の腕が生えてきたからだ。

 そして、その腕を持つモノたちはケログを握りつぶそうとしながら、這い出てきた。


 不死騎士の大群だった。


「は────?」


 ケログは驚愕する。


 その光景は彼が思い描いたものと合致していたが、実現不可能だと思っていたからだ。


 “人間全てを不死騎士へ変換する”。


 それは不可能だったはずなのだ。


 だが、彼の目の前にはこの拠点にいた人間たち全てを使った不死騎士が並んでいた。


 銃撃は止まない。

 おそらく遠くにも不死騎士の部隊が配置されていた。


「ッ!! 【コンル・クリアランス】!!」


 魔法の行使範囲を拡大して、ケログは浄化魔法を放った。

 女神にすがるような人間と同じような無様さだった。


 ────()()()()()()()()()


「…………?」


 理解を越えた現象を見て、ケログの思考が停止した。


 大地から出てきた騎士たちが次々に抜刀する。

 一指乱れぬ動きだった。


 自動で動くはずの不死騎士が完全に統率されている。


「なんなんだあああああッ!?」


 ケログは今度はただの力技で不死騎士を吹き飛ばした。

 尻尾で弾き飛ばし、魔法で爆発させた。


 だが、しかし、何も変わりはしない。


 その光景を玉座に御わす王は楽しげに御観覧なされた。


 “もっと見たい”。


 そして、そんな他愛のない意思を共有なされた。


「ふぎゃああああああッ!?」


 騎士たちが剣を振り始める。

 この世に蔓延る悪を罰するために。


 人間を虐める酷い生き物を倒すのだ。


 王はご機嫌だった。

 やはりこの世界は素晴らしい。美しい。


 そして、──馬鹿らしい。



 トーリアが気付きつつも見なかった解答。


 浄化魔法が正常にする魂とは何か?


 それは『この世界の魂』だ。


 つまり────例えば『別の世界の魂』があったとするのならば。


 この世界の循環に関わらない孤独な魂が存在するのならば。


 たとえ呪われたその魂を浄化できたとしても、循環しないのであれば。


 きっとそれは──“永遠に地上に君臨し続ける”のであろう。


 やがて、朝日が昇る。

 正常な心が再び壊れ、この素晴らしい時間が終わりを迎えてしまう。


 この殺戮は一夜限りの幻となる。


 だが、ご勤勉であらせられる王はすでに(にく)を得る方法を考案なされている。

 後は重なる精神を一つにするだけだ。


 それももう時間の問題であろう。


 早くこの光景を世界中に届けてあげたい。


 鎧は空洞であるはずなのに、その中身は笑っているような気がした。


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― 新着の感想 ―
別世界の魂って事はリエーニの魂をコピーか分割かして貼り付けてんのかな?大丈夫なんか… というかこの理論だと魔王も別世界の人なのか…? 別世界の奴が隣うるせえな寝てられねえだろ!って乗り込んできてこんな…
更新ありがとうございます!! じゃああの不死騎士もそうだったのだろうか…
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