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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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71話 流転する舞台


 オリジェンヌの屋敷と同じように散らかったジジイの部屋の椅子に腰掛け、見回す。


「アンタ学園長やる気あるの?」


「必要なことはやるとも」


 これだよ……。


「こっちは客やぞ。お茶は?」


「道具はあそこだ」


「……ものぐさジジイ。いってえッ!?」


 早すぎて避けられなかった。三年でジジイも成長してやがる。


 ジジイが指し示した机にはまったく手のつけられていない茶葉があった。

 しぶしぶと俺はお茶の用意を始める。コップを二つ用意して、お湯を魔法で沸かす。


 お湯を入れているのもビーカーみたいなやつだ。

 研究者ってやっぱこんなのしか使わないのか……。


「武帝国はどうだった?」


 準備中の俺に、本を読みながらジジイが話しかけてくる。

 俺に対してこの人は敬語を使わない。


 俺はフォノス家の養子となった。だからこそそれはジジイなりのスタンスの示し方だった。


 自然体で、俺もそっちの方が良い。


「ある意味自由だったわ。内戦が酷いけど」


「そういうところだからな。戦時中に組みたくない奴らの筆頭だった」


 目分量でできるようになった茶の調整をしてお湯を注いでいく。


「なんで学園長なんかやってんの? こういうの苦手じゃない?」


「お前の父親との約束だったからな」


「……え?」


 振り向いたジジイの顔は、皮肉げな笑みを浮かべていた。


「ワシの家名はロターク。お前の祖母はワシの妹だ。甥だからとハットリュークの教育係を任されておった」


 グスタフ・ロターク。それがジジイの名だった。

 つまりは俺の大叔父ってことか?


「マジかよ。なんで言わなかったんだよ」


「必要無かったからな。どうせわかることだ」


「あのさあ……情報の共有は大事でしょ」


「お前が言うな、悪たれめ」


 染み付いた動作でお茶を机に並べていく。

 ジジイは当然だと言わんばかりに礼も言わずに飲みやがった。このやろぉ……。


 俺は大袈裟な動作で椅子に座る。


「……お前の父親は戦争を望まずにこういったものばかり作ろうとしていた。

 金の無駄遣いだと文句を言われて苦労しておったぞ、クハハ」


 校章の描かれた仰々しい壁を見ながら、懐かしそうにジジイは語った。


「へえ……。あ、そういや文句があるんだったわ」


「ろくなことではなさそうだが、言ってみろ」


「知識の蔵のでけえ騎士像だよ。ひでえ目にあった」


 それを聞いてジジイが固まった。

 そして、溜め息をついた。


「嫌なことを思い出させおって……。あの被害の責任をワシに被せようとする輩が多くて面倒なのだ」


 ああ、だから入学式にも出てなかったのか。


「別にジジイのせいじゃねえよ。あのクソ鎧の作戦だよ」


「……なんだと? 詳しく話してみろ」


 俺からあの日の事件の真相を聞いたジジイは取り敢えず俺を普通に手で殴った。


「馬鹿者が! そのレベルのゴーレムを現地調達できるような実力者に挑みかかるなど……まったく……」


「だってさぁ……」


「フィフに頼りきりか? 宝剣を自慢するクソガキと変わらんぞ」


「う……」


 痛いところをつかれちまった。


「けどさ……オヤジとジジイが作ったところを、アイツは……あんな風に……」


「…………」


 言い訳をし始める俺に呆れたジジイは、俺の頭にぶっきらぼうに手を置いた。

 髪の毛をグシャグシャにされ、ある意味拳骨よりも効いた。


「ハットリュークのせいでもあるな。アイツは危険だとワシが言うのも聞かず、カッコいいから作っての一点張りだったわい」


「バカすぎだろ、少年すぎる」


 オヤジィ……。またアンタかよ。


「集客効果を狙ってのことだったとは思うが、アレの趣味ではあるな」


 まあ、それは間違ってなかったけど、そのせいでめっちゃ人が死んじまったんだよな……。


「お前はなんでわざわざ騒ぎの日にあそこに?」


「タイミングはたまたまで、図書院に用事があってさ」


 もう無くなっちまったけどな……。

 すまんタコクイーン。


「何を読みたかったのだ?」


「タイトル知らねえんだけど、2-26-53489っていう番号らしい」


「2番……歴史書か」


 そうだったのか。

 なんか暗号でも隠されてるのかと思ったけど、単純に勉強してこいって女王は言ってた……のか?


「それなら()()()()()()()()


「────え?」


「お前のバカオヤジは大量に写本を作っていたからな。改竄(かいざん)や盗難を警戒してのことだったが、役立つとは。クハハハ」


 やるじゃねえかクソオヤジ。最近ムカついてたけど、許してやらあ。


「この学園にあるのか!?」


「許可制の図書室に行け。担当の教師がいるはずだ。

 ……言っておくが持ち出したら殺すぞ」


「……ういっす」


「まったく……」


 バレてら。さすがジジイ。


 少しの興奮と期待を胸に俺は学園長室を後にする。


「また来るわ。魔石のこと聞こうと思ってたの忘れてた」


「あれの爆発に巻き込まれたくせに懲りんガキだの。……いつでも来い」


 空気の手が俺の背中を叩いて送り出してくれた。





「失礼します」


 なんとか図書室にやってきたが、人の気配が無かった。

 いねえのか。ここまで来て出直したくねえなぁ。


「んあ? お客様ですか? お待ちをー」


 なんか間抜けな声が奥から聞こえたな。

 明らかに寝起きだった。


「お待たせしました。なんのご用ですか?」


「……あ、あの……探している本がありまして。ここならあるかもしれないと学園長に紹介されました」


 やってきた女教師の格好を見て、俺は驚いた。


 それは白と青を基調とした礼服。

 その人の首にかけられているのは女神のシンボル付きのネックレス。


 孤児院以来に見たちゃんとしたネトス教徒だった。

 チビッ子シスターはなんかちげえからノーカンだ。


「学園長から? よく会話できましたね。あの人怖いでしょう? 一応、学生証を見せて貰えますか?」


 学生証を渡すと、女教師は受付のリストを確認しに向かった。

 やっぱ教師陣もジジイこえぇんだな。


「ルクス・フォノス君ですね。どうぞ、中へ」


「失礼します」


 受付を過ぎると、明らかなサボり場の机があり、その先に三重の扉があった。


 ロックは鉄の鍵と呪文と女教師の魔力認証によってかけられていて、かなりガチだ。


 進んだ先には広大な図書館が広がっていた。

 でかい本屋くらいはある。さすがじゃんオヤジ。


「お探しの本はどんなものですか?」


「えっと元々図書院で探していて、2-26-53489っていう番号だけわかってるんですけど……」


「ああ、なるほど……。でも、そこまでわかっているのなら探しやすいです。こっちです」


 図書院で探していたと聞いて女教師は察してくれた。そのまま彼女についていく。


 並ぶ本の背表紙は統一されているが、言語がバラバラだった。

 翻訳すると意味が歪んでくもんな……。そのこだわりわかるぜオヤジ。


「ありました。図書院と同じ管理番号なので間違いないはずですよ」


「ありがとうございます」


 手渡された本は思っていたよりは地味で、薄かった。


 タイトルは【()()()()】。武帝国の言葉で書かれていた。


「戦前のものですから情報は古いですが、余計な上書きもありません」


 女教師の蘊蓄(うんちく)が入った。ここを任されるだけあって、詳しいのだろうか。


 色々と頭を回転させながら俺は本を開いた。

 

(“5ページ目の最初の行”だっけか……)


 そこにはただ『名前』が書いてあった。


 “初代武帝、その名を『シズ』という。”


 その一言だけだった。


 初代武帝の名前は確かに初めて知ったが、その後に書いてあるものはよく知る武帝の治世のことだった。


「……?」


 なんだ? これは何を知らせている?


「武帝に興味があるのですか?」


 俺が思考の迷路に迷い込んでいると、女教師が話しかけてきた。


「あ……えっと武帝国出身なので……」


「ああ、そうなのですね。初代武帝はわずか12歳の少女だったらしいですよ。すごいですよね」


 ……違和感はある。何かが引っかかっている。

 それが分からずもどかしい。


 俺の頭にあるのは、あの駄剣のことだ。


 考えろ。俺が今まで知った情報を並べるんだ。


 まずは前提条件だ。


「初代武帝は人間……ですよね?」


「そうですよ? まあ、バケモノだと思いたい気持ちはわかりますが……」


 いきなり俺の知るものと食い違う。


 初代武帝が生み出したとされる剣術は魔族が生み出したものだ。

 ならば初代武帝が人間だということとは矛盾する。


 しかし、俺は12歳の人間が武の頂きを手にする方法を知っている。

 俺は実際にその極技【冷凛たる一刀】を放つ感覚を知っている。


 魔族が生み出した剣術を人間の子供が使う。可能だ。

 武帝の証はある「剣」である。


 『その剣を手にしたものが武帝となる』。


 それは()()()()()()()なのだ。


 もしその定義を受け入れるのならば、今代の武帝って────。


 いや今はそれはいい。

 あともう一つ俺の知る情報で浮いているものがある。

 

「えっとその先生……?」


「トーリアと言います」


「よろしくお願いします。少しお聞きしたいことがありまして、先生は魔族に詳しいですか?」


 俺がトーリア先生にそう質問すると、彼女は驚いたあとバツが悪そうな顔をした。


「それは、はい……。しかし、今の世の中あまりいい顔をされないので、内緒にしていただけると有り難いです」


「そうですか! そんなのどうでもいいです。質問いいですか?」


 助かった。魔族自体に詳しい人あまり周りにいなかったからな。


「ど、どうでもいい……? えっと、なんでしょうか?」


 俺が知るアイツについてのもう一つの情報。

 

 それは初めて会った時にあの女王が漏らした言葉。


 『────……か。ああ、お前も生きていたか……。すまないが、私はもう無理だ……。去れ』


 あれはきっと俺がアイツに侵食されていたから勘違いしたのだ。

 通常の武帝であったならば、それは間違いなく侵食済みの体のはずだった。


 意識の残る俺の状態がイレギュラーなのだと、女王は驚いていた。


「“()()()()()”って名前を知っていますか?」


「あら、()()()()()よく知っていますね。貴方歴史マニアですか?」


 ああ──そうか。そうだったのか。

 簡単なことだった。


 人間でも魔物でもないアイツがこの世界では何に分類されるのかなんて決まっていた。


 ──“フィフは魔族であり、武帝そのもの”。


 それは確定した情報だ。だが、まだそれだけでしかない。



「どうぞ」


「ありがとうございます」


 図書館を離れ、俺とトーリア先生は彼女のサボり場でお茶をしていた。

 準備された菓子が脳みそに効くぜ。考えすぎて頭が痛え。


「さて、オーレイルですか。貴方の世代で知る者は稀でしょう。……いえ、私の世代でも知る者は少なかったですね」


「それはなぜですか?」


「魔族殲滅を掲げる人間連合にとって不都合な魔族だったからです」


 それは……。


 考え込んだ俺にゆっくりと先生は説明してくれた。


「……いいですか? もし、“人間に友好的な魔族”がいたとしたら排除思考の人々はどうすると思いますか?」


「…………え? まさか……」


「ええ、そのまさかです」


 そう言って先生は一冊の本を俺の前に出して開いた。

 そこにはある古い文章が共通語で書かれていた。


『【明照天(エーテルミナ)・プロティナ・アグオイア】。

 【流深主(アビサルカレント)・コーロン・ウテズユーク】。

 【暗静尊(ノクティスセレン)・オーレイル・ニリアー】。

 以上三体の名前を連ね、ロルカニア王国の樹立を宣言し、これを認める』


 その本には【王国史】と書かれていた。


「王国が……?」


「正しくは人間の独立、ですかね。ロルカニア王国は人間領域に初めて建てられた国ですから。五百年も前の話です。

 この歴史書も書かれたのが二百年も前でした。もう今の歴史書には書かれていないことです。

 ……人間の独立が魔族のお膳立てがあって達成できたという事実は、魔族を憎む今の価値観には合わない」


 それは都合がいいと言える。

 しかし、人間の団結のためには消すしか無かった。


「彼女たちは前魔王に仕えた穏健派でした。大戦争はもしかすると早期講和がありえたのです」


「というと?」


「彼女たちは前魔王に講和を提案していたと聞いています。実際に明照天からの使者がやってくるのを戦地で見たことがありました」


 戦地で見た……?

 まさかこの人も……。


「私は最前線で戦っていました。もう一線は退いていますが」


 どうなってんだこの学園。


「ちなみにオーレイルってどんな形の魔族だったのですか?」


「形ですか? 口伝しか人間領域にはありませんが、静かで落ち着いた女性だったと言われています」


「そう……ですか……」


 そういえば今のフィフの外見もアイツの注文だったな。


 人間を手助けする魔族か……。


 整理しよう。


 フィフは魔族である。

 そしてアイツの本名が【暗静尊・オーレイル・ニリアー】とやらだ。

 アイツは前の魔王に仕えていた穏健派だった。

 そして剣を使って武帝となる人間を作り出していた。


「えっと……オーレイルは今はどこに?」


「あら? それは知らないんですか?」


 ん? 常識なのか?


「“現魔王アルテ・リルージュに殺されました”よ。知りませんか? 彼女は前魔王と大魔族の首を持って人間の前に現れたと──」


 そういうことか。

 アイツが……。いや、アイツらがアルテに怯える理由。


 アイツらはきっと人間に肩入れし導き続けた。


 女神となって文明を発展させ、女王となって統制を図り、武帝となって暴力を築き上げた。


 だが、アルテによって叩き潰された。


 彼女たちの感情を思い出す。


 『……私が教会を去って、どうなるというのです。世界中の信者がいなくなったとしても、私だけは残らなければなりません』

 悲しみに暮れた教会で。


 『私はたまたま逃れたただけの弱い個体。そして、“稼働期間”が決められた存在だ。もうじき──停止する』

 絶望を抱えた玉座で。


 『それに耐えられず諦めて戦い方を変えた。醜悪でおぞましい戦い方。その時に私の何かが息絶えた。結果がこの有り様』

 敗北に満ちた戦場で。


 アルテに蹂躙され、アイツらはなんとか生き残った。


 “だがもし理解してもなお、我らの力を利用しようとするのならば、私は貴様に手を貸そう”、と女王は言った。


 情報の奔流に圧倒される俺だが、その言葉だけは思い出すことができた。



 心を落ち着かせて先生に礼を言い、その場をあとにする。


 向かうのは俺が今住んでいる学生寮。

 とは言っても貴族が使うような豪華なものだ。


 そこで俺の帰宅を待つ存在。秘密だらけのどうしようもない奴。


 そいつは俺の姿を見つけると、マイペースに近付いてきた。

 一日が暇だったと愚痴を言う姿はいつものことだ。


 べたべたくっついてくるその行動を今日だけは許した。


 俺は今日知ったことを自分の都合のいいように解釈していた。


 先生が語ったのは人間側からの視点でしかなかったのにもかかわらず、俺はフィフ達を理解した気になっていた。


 『彼女達は人間の為に動いていた』と、そう思いたかったのだ。



 ──もしそうならば、なぜ大戦争は起こったのか?

 ──フィフがどうして頑なに事情を話そうとしないのか?

 ──アルテ・リルージュがなぜ彼女達を排除したのか?



 俺はフィフにその話をしなかった。しないようにした。

 その矛盾に気付かないように俺は思考を止めていた。


 すぐそばにあった答えから、俺は目を背けたのだ──。


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