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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
1章:幼少・オリジェンヌ編

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6話 出会いというのは突然で


 ちょっと脱出しよう。


 そう俺は決意した。休日の申請はしたものの、結局みんな同じ屋敷にいて食事もするから、家事は発生する。鍛錬も日課になってるから暇なときにやってしまう。魔法関連も学ぶ方法が読書なので、ついつい読み進めてしまう。


 これって休日か? 


 趣味と言える一人カラオケも、なんか気まずくてやってない。聞かせる子どもたちもいねえしな。


 逃げ出すと言うよりは、気分転換で外出してみようと思ったのだ。出てみてえと言えば多分許可はされるだろうけど、保護者同伴って形になるだろう。それがちょっと嫌で脱出計画を立ててみた。


 と言っても単純なもので、土系統のゴーレム魔法を使って俺の変わり身を作成。音を消して、姿を消して出ていくというだけだ。


 ゴーレムとは、泥人形のすごいやつって感じで、ジジイは鎧騎士みたいなのを作って戦わせることまでできていたが、俺はまだ動かすことまではできない。見た目だけは俺の“波いじり”で修飾できるので変わり身としてはまあまあだ。


 髪と目の色をいじったやり方で多分透明人間にはなれるはずだ。眼の前で動いたらさすがに気づかれるだろうが、暗闇の中で音を文字通り消して行くので問題ない。


 就寝時間に毎日少しずつ部屋に持ち込んでいた石をかき集め、俺モドキを作成。石膏像みたいな自分自身に魔法をかけ、見た目を俺にする。触られるとバレるが、彼らが就寝中の俺の部屋に入ってくることは一度もなかったので、直接確認されることはない。


 部屋にかけていた遮音魔法を解除し、自分に透明化をかける。鏡を見ると、動いたときに揺らぎが出てしまう程度なので激しく動かなければ平気だ。


 自分の周囲10センチくらいに遮音魔法を纏わせ、部屋から出る。結局貴賓室を使っている俺の位置から使用人室までは遠い。彼らは律儀にそこを使用していて、三人とも集まっているようだった。どうせ俺のしごき計画を立てているのだろう。


 堂々と正面玄関から出た俺の眼の前には綺麗な夜空が広がっていた。


(さてさて)


 年甲斐もなくワクワクしながら俺は柵を飛び越え、散策に出る。


 街は住宅街、それもでけえ建物ばっかりで、あまり面白味は無かった。明かりもついていて笑い声が聞こえてくるような場所もあったが、そういうところは成金臭くてなんだか嫌だった。


 さらに遠くに来てみると、日本の駅前みたいな雰囲気だった。夜更けにも関わらず賑やかで、飲みつぶれた男があちこちに倒れていた。

 接触しないように気をつけながら縫うように人通りの中を進む。


 見える店は、飲み屋とか賭博場とか風俗店とかが多かった。身なりの良い人が多く、騒いでいるが柄は悪くない。少し日本と雰囲気は似ていると思った。


 俺がちょっと興味を引かれたのは武具屋。鎧とか剣が並べられている光景はかなり興味を引いた。売り物と言うよりは展示物に近かったが、そのどれもが使い込まれた一品だ。

 その店は修理を請け負うことがメインのようで、店主はなにか貴族っぽいやつと会話をしていた。


 この街の大型店みたいなものだろう。


 注意を払いながら店内を歩いていくと、中古品の格安コーナーがあった。最近理解した貨幣換算をふまえてみても、かなり安かった。おそらく、消耗品として壊れる前提の使い方で利用されるものだ。


(ん?)


 その中の一つ。見た目も本当に地味なのだけれど、その一本の剣がどうにも気になった。


 “こっちを見ている”ような気がする。触れるわけにはいかないのでそれをじっと見ていると、声をかけられた。


不躾(ぶしつけ)……』


(やべっ)


 誰かに気づかれたのかと思って見回すが誰もいない。店主も入口付近で会話したままだ。


(? なんだ?)


『──聞こえたの?』


(は?)


 まさかと思って、正面を見るとさっきの剣と目があったような気がした。


『驚いた。貴方は何?』


『いやこっちが聞きてえんだけど』


『それはそう』


 どうやらコイツにも風声が聞こえるらしい。剣まで超能力持ってんのマジでうぜえ。


『大丈夫?』


 がっくりと頭を下げる俺に変わらず話しかけてくる剣が一人? 一本?


『いやなんでもない。常識知らずであれなんだけど、お前みたいなのって普通なの?』


『私の状況を言うのならば非常識』


『その理解でいいなら良かったよ……。で、お前はなんなの? どういう構造なの?』


 表情すらわからない無機物と話す状況。俺の常識の破壊度はまた更新された。


『私は私』


『そういうのやめない?』


『意識を持った剣という認識で構わない』


『……呪いの剣的な?』


『無礼。間違いではないけれど』


『マジかよ……』


 握ったやつに取り付くいわくつきの剣か。それにしてはコイツは愉快な性格をしているようだ。


『そちらこそどうせ盗むのなら、入口の方の宝剣がいいと思う』


『あ? 盗む?』


 コイツ俺を泥棒だと思ってやがる。失礼な。


『そんな姿をくらませて、音まで消している。なのに盗まない? 何をしているの?』


『いや別に何も』


『…………? 意味がわからない』


『ただ店を回ってるだけだが』


 困惑の感情を放ちながら、安物の剣は黙ってしまった。しかし、こんなのも売ってるんだな。不思議な世界だ。


『お前めっちゃ珍しいんだろ? なんでこんな安売りゾーンにいるの?』


『少し礼節と言うものを勉強するべきだと私は思う』


『今勉強中だが』


『人間のレベルは冥界にまで落ちた』


『お前も勉強したら?』


 なんで鉄の塊に罵倒されたんだ俺は。純粋な疑問を投げただけだろうが。


『店主とは話せないのか?』


『そもそも剣と話せる方がおかしい』


『あ?』


『褒めているのだけど……』


『煽ったが』


『フフ……』


 セール品に笑われたんだけど。壊していいかコイツ。


『まあいいや。じゃあな、格安呪剣』


『…………』


 なんか、急に黙りやがった。


『……どうせ売れ残ってんだろ? また来るよ』


『理解できない。人間って本当におかしくなった? きゃっ』


 口の減らないガラクタを剣の束の奥の方へ押し込むと、店を後にした。正直アイツ面白そうだから欲しいけど、どうしたもんか。

 頭を悩ませながら俺はさらに街を散策した。


 良くないモノに魅入られている。心の奥底にそういう感覚はあるにはあった。





 俺の育った孤児院は教会の建てたものだった。

 その教会の名前は『ネトス教』というらしい。女神の声を聞いた始まりの巫女が作り上げ、大戦争のきっかけにもなったこの世界に欠かせない存在だ。


 どうしてこんなことを考えてるかと言うと、今俺の目の前にその教会があるからだ。


 街の中心からは外れているが、通りに面していて人通りはある。アクセスもいい。

 しかし、壁はボロボロで窓ガラスは割れ、(さび)れた廃墟のようだった。


 女神は魔族を倒す為の武器と戦略を神託として与えた。しかし、その結果は現状維持の休戦。教会勢力は戦後大きく力を失うことになる。


 俺のいた孤児院が苦しかったのもその影響なのだろう。


 人の気配のない敷地を進んでいくと、倒れた樹木や、壁に消えかかった落書きがあった。わずかに読めるそれらは口に出すのも(はばか)られるような罵倒ばかり。


 荒らされたこの教会は今のネトス教の現状を表しているのだろう。


 立派な装飾のあったであろうグラスの穴から中に入ってみると、柱と壊れた椅子しか無かった。

 後は、翼の欠けた女神像が祭壇跡に飾ってあるだけだ。


 見上げるその表情は悲しげだった。汚れてはいないが、気分の良いものじゃない。


「もう盗るものなんて残っていませんよ」


 脈絡なく響く声があった。氷のように冷え切った声。

 見回すと奥の方から現れた少女の姿が。その視線は明らかに俺に向けられている。


 俺が声をかけられたってことか? なあ、俺の魔法って役に立たないのか? キレそう。


「祈ってるだけだけど、許されないのか?」


「もっとマシな嘘をつくことですね。手の込んだ魔法を使ってまで、嫌がらせに来ましたか」


 シスター服の少女の手にはバケツとブラシがあった。落書きを消していたのはコイツなのだろうか。


「なんもしてねえって。女神サマもそう言ってるだろ?」


「……知らないんですか? その彫刻は何も言いませんよ」


「ええ……。教会の奴がそれ言っていいのかよ」


「事実ですから」


 少し警戒を解いた少女はバケツとブラシを放りだして、疲れたように座り込んだ。


「はあ……ややこしいですね。この教会は確かに“女神の口”の一つとして機能していましたが、もう何も語ることはありません。神託をお望みでしたら残念でしたね」


「別に。ただ寄っただけだし」


「?」


 ぶっきらぼうに言い放つ少女に対し、俺はあっけらかんと答えた。大した用事が無いのは本当だ。


「俺、孤児院出身でさ。ちゃんとした教会を見るのは初めてだったから興味が出てな。一応人はいるんだな」


「孤児院? ああ…そんな施策もありましたね。ここにはもう私以外住んでいませんよ。力の無い場所に人が残るはずもないでしょう」


 ボロボロの椅子に腰掛ける少女は何も無い天井を見上げ、何かを悔やむように眉をひそめた。


「じゃあお前はなんで残ってんだよ?」


「……なんてことを聞くのでしょうか。野盗の子供なんてそんなものですか」


「野盗じゃねえっつの。これでもお屋敷のメイドな? 見ろよこの格好を」


「ちぐはぐで見るに耐えません」


「うっし、喧嘩か?」


 ちらりとこちらを見た生意気なチビは、こちらに背を向けポツリと零した。


「……私が教会を去って、どうなるというのです。世界中の信者がいなくなったとしても、私だけは残らなければなりません」


「ふーん」


 どんな責任がコイツにあるのかは知らないが、その重さはなんとなく理解できた。


「まあ、教会が無くなるのは気分がわりぃから、しばらくはお前だけでも頑張ってくれ」


「気分が悪いのですか? 良いのではなく?」


 こちらの言っていることを素直にコイツは受け取れないらしい。かなりの被害を受けたのだろう。


「そりゃあそうだろ。俺は教会に助けられた人間なんだから。感謝してる。無理になっちまったけど一応聖職者になろうと思ってた」


「助けられた……?」


「ああ。俺は命を救われたんだ。あの孤児院があったのは教会があったからだろ? だから感謝ぐらいしても…っておい?!」


 こっちに歩いてきたかと思うと、少女は突然泣き出した。そして、崩れ落ちた。


「うぅっ……、ひぐっ! うううううううッ!」


「な、なんだ!? どうした!?」


 慌てて駆け寄るが、どうにも泣き止まない。コイツが落ち着くまで俺は付き合うハメになるのだった。


「お見苦しいところ見せました」


「えっ、ああ、そうだな」


「そこはフォローするところですよ」


 しばらくして、少女と俺はボロボロの椅子に座って女神像を見つめていた。


「ネトス教の中心は聖国に移りましたが、始まりの巫女はここで女神の声を聞いたのです。何も無い土地でした。神という概念はあってもそれを具体的に説明できない時代でした」


 まるで見てきたかのように少女は歴史を語った。

 そんな歴史的に価値がありそうな場所なのにこんな目に合うんだな。戦争の爪痕はやはり深いんだろう。


「夜の街は危険です。子供が二度とこんな時間にうろつくのはおやめなさい」


「へいへい。子供に言われちまったぜ」


 まあ、今日のところはこのくらいにしておくか。


「……外見で相手を判断しないことです。少なくとも私は貴方より年上です」


「別にたいして変わんねえだろ?」


 せいぜいが12歳くらいだろ。年上ぶるのもまあわかるぞ。

 呆れたような少女がこちらを見つめる。その瞳は全てを見透かすような深い光を宿していた。


「光をいじったところで、貴方の真実はゆるぎません。ああ、なるほど……。発育具合から誕生7年を経過したところ。特徴的な金色の髪と瞳。波動を操作するその特性……」


「──ッ!」


 本当に全てを見たようにこの女は語った。俺の外見だけではなくその能力も。


「争いに異を唱え続け、終戦間際の混乱の最中、凶刃(きょうじん)(たお)れたあの傀儡(かいらい)。その血は残っていたということですか」


「…………」


「貴方の迷いは正しいものです」


「あ?」


「貴方個人の力はあまりにも弱々しいのですから。そして、それを貴方も理解しているからこそ迷いが生じているのです。“自分でなくとも他にやりようがあるのではないか?”と」


 ムカつくくらいバッサリとコイツは俺を語る。なんだ今度は俺を泣かせたいのか?


「今の自分に迷うのなら、まずは他者に理由を見つけるのです。貴方が力を持つことで救われる人々がいるのでしょう?」


「それは、俺が偉くなればいいってことか?」


「形だけでもいいのです。まずはその孤児院を助け、ついでにおこぼれを頂ければ嬉しいです」


 茶化すように女はそう言ってきやがった。それは女神のように優しい笑顔だった。


「あっそ。まあテキトーに生きてくわ」


「そうしてください。きっと女神も貴方の行いを見ていますよ」


「あんな白目向いてちゃ無理だろ」


 今度はこっちが茶化すように、女神像をいじると女は笑った。


()()()。──()()()()()


「熱心な信徒だな」


「また来てくださいね」


 肩をすくめ、俺は教会を去った。



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