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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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54話 惨禍顕現 Relentless Rampage


 混乱が木霊するその空間で、冷静にソイツはこっちを見た。


 そしてソイツが魔法を使うと、出入り口が崩れ塞がれる。


『閉じ込められた』


 フィフがそう言う。


 おそらくアイツは男達が()()()()()()()()()()()

 完全に把握していなくとも、透明な存在を警戒している。


 そしてアレは瓦礫の中から立ち上がった。あんなものは最初は無かった。

 つまり、アレは生成されたもの。


『ゴーレムか』


『そう。おそらくそれを纏っている』


 ジジイが使うゴーレムナイト。それを前衛に使わず、自分に鎧として纏っている。

 利点は操縦者に強固な守りがつくこと。


 逆三角形の大きな胸部。そこに本体が入っている。


「────」

 

 アレが突然動き出し、巨大な塊が俺達に向かって振り下ろされた。


『なっ!?』


『大丈夫』


 重い剣は俺達の近く──“俺が気絶させた男”に振り下ろされた。

 鈍い音ともにその男は潰れた。不快な音が耳に入ってくる。


 仲間を殺した──? いや、そうか。


『やば……っ!』


 不死騎士とかいう気色悪いやつが起動しちまう。

 それは不味い。


「…………」


 だが、それは失敗に終わった。

 なんだ……? 


「がっ!?」

「かはっ……!!」


 悲鳴が上の階から上がる。


 アレは魔法を使って床から大きなトゲを生やして他の二人を串刺しにした。

 だがそれらにも変化は起きず、ただ不気味なオブジェができただけだった。


『起動しないのか……?』


『条件はわからない。でも、どちらにしろ生成された不死騎士は行動不能になると思う』


 そうか、助かる──って、ヤバイ!!


「!!」


 アレは串刺しの魔法をそこら中に放った。

 ホールの床がゲームのトラップ床みたいになっちまった。


「ギャッ!?」

「ひいいいいぃッ!!」


「────」


 地獄みたいな光景が広がる。

 俺はフィフに抱えられ、二階部分の柵にいて無事だった。


 人の骨と肉でできた十字架が平和だった場所に広がっていく。

 オヤジの作った文化の明かりがアレに蹂躙され、人の痛みが木霊する忌み地へと変えられていく。


 その中心でアレはご満悦だ。じっくりと見回していた。


「…………ッ!!」


 俺は炎魔法を飛ばす。基本的な魔法だ。だが、俺の風によって火球はアレの頭部にまとわりつく。


 パイロットがいるなら当然呼吸はしている。

 蒸し焼いてやる。そして酸欠で死ね。


 だが、アレは蚊でもいたかのように振り払った。火は弾かれたように消えていく。


『駄目。おそらく、強力な防御魔法が敷かれてる』


『……どんくらい強力?』


『基本魔法無効』


 ……それってかなりやばくないか?


『中の酸素はどれくらい持つ?』


『見た限りあれは()()()()()()()

 つまり、内部で酸素を生成する仕組みが組まれている。もしくは酸素貯蔵庫を内蔵している可能性が高い』


 くそが。

 狂った奴のくせにちゃんとしてやがる。

 同系統のゴーレム使いとして褒めてやるよ。


 先程の攻撃で俺達がいることを確信したのか、アレは“柱”を攻撃した。


 順番に。無慈悲に。


「いやあああああああああっ!?」


 逃げ遅れた人たちが奥へ逃げる。

 だが、崩れた2階部分が落下していく。このままだと彼らも危ない。


 ──破壊の音は止まない。


『私の透明化を解除して。陽動する』


『わかった。俺はどうする?』


『私が鎧を崩した後に、直接接触して魔法を送り込めば届く。……相手の防御魔法に干渉するから、あの時のように負担が来る』


『やってみる』


 『あの時』、つまり『オリジェンヌ襲撃』の魔族とやった魔法干渉バトルのことだ。

 そんな顔すんな。まずは生き残ることが優先だろ。


 俺が自分で柵を掴んだことを確認すると、フィフは跳躍した。


「────ッ!!」


 着地と同時の一閃。それはアレの巨大な右腕を切断した。

 おそらく、本体以外の防御魔法は薄い。


 フィフが姿を現す。


「……倒す」

「くくく……」


 フィフが敢えて挑発するように声を出す。

 それに対してあの鎧は喜びを持って答えた。


 轟音と静音。

 それが奇妙なメロディを奏でている。


 俺はなんとか一階部分に着地する。もう床と呼べる部分がない、アスレチックだ。


 アレは右腕を再生しながら左腕を()()()()()()()

 例えるなら“鉄球”。左腕の肘部分から何重にも編まれた管が伸び、その先の前腕と繋がっている。


 俺がゴーレムの髪の毛を作るときと同じ技術だ。だが、それが凶悪な使い方をされている。


 振り回される破壊の旋風をフィフは軽くいなしている。

 おそらく直撃すればアイツの体は一瞬で粉々になる。


 俺はゆっくりと地形の変わったホールを移動し、近づいていく。


 アレの右腕の再生が終わる。今度その腕に装備されていたのは、“大砲”だった。

 地面に生えたトゲの一部が魔法によって砲弾に変換され、アレの右腕に装填される。


「くく……っ!!」


「…………」


 発射される。

 フィフは避けたが、魔力によって燃やされた砲弾はその後ろに巨大な破壊痕を残す。


 また砲弾が作られていく。もはや自動装填だ。次々と砲撃がフィフを狙う。


 左腕の鉄球の攻撃も止むことは無い。引力を利用した一撃をフィフは躱すのみ。

 一瞬、フィフの刃が鉄球と左腕の間の管を斬ろうとするが、切断できていない。


 おそらくあの部分だけ強力な防御魔法を張っている。

 

「────」


 それを見破ったフィフは今度は魔力を剣に宿らせ伸ばした刃でその部分を切断した。


 本体周りほど強力では無いが、防御魔法がかかっている左腕の管部分。

 しかし、それを容易く斬り捨てるフィフの魔力操作は卓越している。


 左腕の近接兵装が破壊され、右腕には遠距離用の兵装だけ。


 ──()()()


 音も姿も無く俺は進む。

 阻むものは何も無い。一直線にカス野郎の背中に剣を突き立てる。


 そのはずだった────。


「────」


 それはよく知る現象。


 ありふれた災害。特に俺の生きた世界、国では日常の一部。


「…………は」


 揺れてる。


 振動する。


 ()()()


 ──“震えている”。


「はっ……、はっ……」


『ルクス……ッ!?』


 ──息が苦しい。


 分かってる。アレが使った魔法だ。苦し紛れの意味のない魔法だ。

 フィフにはなんの影響も無い。


 ぐらぐらと響く音が俺の脳を揺らす。


「はあっ…!! はぁっ…!!」


 全身が硬直する。


 震えているのは俺だ。大丈夫。たいしたことない。震度5もない。でも、どうしよう、動かない。動けない。足があるのに、潰れていない足があるのに────。


 いや何を言っているんだ……?

 ()()()()()()()()()()()()()


『ルクス!』


 膝から崩れ落ちる俺は心底から湧き上がる恐怖を思い出し、動けない。


「がッ!?」


 それは俺ではない誰かの声だった。


 あの鉄の塊が伸ばした管が、上階で固まっていた女性を刺した。

 またアレは人を簡単に傷つける。


 そして、その刺さったままの人を()()()()()

 ()()()()フィフを攻撃する。


 その女性はあぶくを吐きながら絶命した。砕かれ、撒き散らされた血が辺りに飛び散る。

 赤い水で遊んでいるようだった。


 そして、────


「くくく……」


 ──その血が俺に()()()()


「────」


 透明の空間に立体像が赤く浮かび上がる。


 アレは最初から俺を探していた。そんな気がする。

 そして、──見つかった。


『立って! ルクス!』

 

 アレの右腕の大砲が正確に俺を狙う。丁寧に魔力を込めて。


 頼む、もうちょっとで元に戻るから。まだ足がない感覚なんだ。車椅子がここにはないんだ。義足は気持ち悪くて嫌なんだ。


 破壊の一撃が放たれる。

 俺の目の前には必死な駄剣。


 お前、アホかよ……。今来たらさ……。


 突き飛ばされた俺の目の前で、──()()()()()()()()()()()



 ──何かを失った瞬間だった。

 わかってる。フィフは無事だ。


 剣に戻るだけだ。


『ルクス、どうしたの?! ねえ、聞こえてる!?』


 再調整してまた透明になった俺は柱の影で必死に息を殺している。


 俺は今(フィフ)を握っている。何も問題は無い。

 砕けたのはただのゴーレム体だった。


 でも──そうじゃなかったら()()()()()()()


『フィフぅ……。なんで来たんだよォ……』


『…………ルクス』


 情けなく剣に抱きつく。無様でみっともない。


 その“もしも”に耐えられない。


「うわあああああああああああああああッ!!」


「助けてッ!!」


 ──銃撃音。


 あの狂った鎧はここに来ても命を奪う。決められた動作で逃げ惑う人を一発で仕留めていく。

 あれはきっと挑発だ。


 “出てこないのか? 止めてみろ”


 許せるものか。

 

 俺は戦場帰りの兵士に怯えたりしないし、犯人を撃った警官を攻めたりしない。

 復讐に燃える人を応援する。

 そんな人間だ。


 だが、あの殺しを許しはしない。

 あれは手段としての殺しだ。


『フィフ……()()


『…………条件として【冷凛たる一刀】だけは使わないでほしい。

 そして同化中は貴方はほぼすべての能力を失い、髪の色だけしか誤魔化せなくなる』


 ああ、それで十分だ。





 任務を忘れてソレはご機嫌だった。達していた。


 鉄の塊、グリムプレートは酔っていた。鉄の匂いに。聞こえてくる生命の激しい声に。


 残念なのは、先程の女騎士が消し飛んでしまったことだろうか。子供の方を庇うとは勿体ない。

 

 子供の方は出てきてくれない。泣いて塞ぎ込んでしまったのだろうか。

 悲しくて、寂しくなった。


「────」


 何かを感じた。

 それは魔力の奔流。ただ純粋な魔力の流れだ。


 グリムプレートは“魔法使い”だ。それくらいは感じ取れる。

 だが同時に不味いと思った。


 巨大な魔力が練り上げられ、こちらに向かって放たれたのだから。


 振り向いた先にあるのは“熱の塊”だった。噂に聞いた魔族の放つ魔力砲撃と同等のものだった。


「────!」


 ()()()()()

 グリムプレートが練り上げた防御壁。単純構造ゆえに強力な壁が一撃で2つ持っていかれたのだ。


 獲物狩りで移動していたため距離は遠くなっていたが、攻撃の起点はさっきの玄関ホールだ。


「くくく」


 興奮が勝った。

 だってそうだろう。


 ──きっとあの子だ。あの子が立ち上がったのだ。なんて尊いのだろう。


 すぐさま祝福の砲弾を発射する。


 しかし、それは真っ二つに切断された。


「…………」


 驚愕だ。見えたシルエットはまだ成人になってさえいないただの子供だ。

 それがエネルギーも抵抗も無視して切断したのだ。


 左腕の鉄球を振り回し、あの異物に向かって飛ばす。

 ゆっくりと距離を詰める。装填された砲弾もついでに放つ。


 ──切断。さらに切断。


 アレに近づいたものは全て二つに割れていく。


「くくくくくくく」


 大興奮だった。


 そして、ちょっとだけ任務を思い出す。

 大砲を大剣へ変換。左腕を大盾に変換。


 鎧を変化させる。

 内部構造を軽量化し、運動性能を向上させる。

 物理防御性能を排し、熱耐性と魔力攻撃に対する耐性を全パーツに展開する。


 そして余分魔力を全て背後に吐き出し、空中を飛んでいく。一瞬で距離が詰まる。

 触れた生物を挽き肉にする突進をグリムプレートは行った。


「────」


 それを迎え撃つ為に子供が放ったのはただの魔力を纏った一閃。薙ぎ払い。黄金の輝き。


 それだけでグリムプレートの大盾は溶けた。左腕はどこかへ飛んでいった。

 防御魔法の意味がなかった。


 そして、さらに相手の踏み込んだ一撃。

 グリムプレートは多重に防御魔法を加えた右腕の大剣で受け止める。


「────」

「…………」


 表情が見えた。

 やはり子供だった。


 魔力のぶつかり合いが起こる。

 体格差をものともせず相手はグリムプレートに肉薄する。


 それは鉄の鎧よりも冷徹な表情をしていた。

 銀の髪の中に金色が見える。なんて素晴らしい色だろうか。


「くくくくくくく」

「…………」


 グリムプレートは笑い声を無視される。なんたる暴君ぶりだろう。将来が楽しみだ。


 鎧の背中側から管を伸ばし、一本を敵へ、もう一本を後ろへ伸ばす。


「!!」


 銀色の暴君はそれに反応し、鍔迫り合いを解除。剣を切り上げ暴力的な魔力砲撃で対応する。

 伸ばした触手ごとグリムプレートは吹き飛ばされ、無様に転がった。


 ホールの中心で上体を起こしながらグリムプレートは興奮する。


「くくくくくくくくくく」


 ()()()()()()()()()()。現地調達の有り合わせの素体とは言え、それをここまで削るとはなんたる威力だろうか。


 串刺し魔法を放つ。修復と“もう一つ”の時間を稼ぐ。


「──!」


 剣を振るわれることもなかった。

 ただの魔力の渦が突き出た地面の槍を防いでいる。


 そして、綺麗な構えをアレは取った。それは第三剣術のもの。


 剣術をかじった事がある者ならば知るその構えを()()()()()()()()()()()()

 だからこそ対応できた。


「──くく」


 化け物たちの目の前に塵が広がる。


 “土煙”。

 目くらましだ。


 お互いの姿が見えなくなる。


 そして、グリムプレートは新たに作り出した左腕の連射タイプの銃砲を放つ。

 当てるためのものではなく、巻くための攻撃。


 動かない鉄の鎧が乱射し続ける。


 だが、──()()()()()()()()


 放たれたのは極大の渦。全てを巻き込みねじ切る“暴風”。

 その災害からは逃げられない。


 苦し紛れの塵のカーテンはこじ開けられ、その旋風が直撃する。

 エネルギーの回転が鉄を破壊し、焼いていく。


 ──あっけなくその鉄の鎧は砕け散った。



「はあ……はあ……」


 バラバラになった鎧が再生しなくなったことを確認して、ルクスは膝をついた。


「あいつ……やばすぎだろ」


『想定以上』


 ルクスは今まで他の魔法に使っていた魔力リソースをほぼ全てこの戦いに回した。

 久しぶりの自分だけの感覚はスッキリとしたもので、かなりの力を発揮した。


 だが、あのバケモノは対応してきた。


 ルクスの目の色が青になる。


「二度とごめんだなぁ……」


 これからそうはいかないことを自覚しながら愚痴をこぼす。


 ルクスは周囲に誰もいないことを確認して、フィフを作成した。衣服は消し飛んだので、今のメイド服は少し違和感がある。


「……別に帰ってからでいいのに」


「落ち着かねえんだよ。っていたたた。久しぶりだこの硬さ」


 素材が石のため今のフィフは硬い。それでもフィフの抱擁をルクスは拒否しなかった。


「そういやなんで【冷凛たる一刀】は駄目だったんだ?」


「…………侵食が進行するから」


 ルクスは本当に嫌そうに言うフィフにそれ以上何も言えなかった。


「あー、はい……。って、うん?」


「どうしたの?」


「なんかすごい振動が……」


 彼らが見るのは、先程の激戦の跡。

 砕け散った鉄の鎧の穴の向こう側。


 そこにはグスタフが作ったとされる魔石の像が立っている。


 その像の魔石、つまり全てが振動し、発光していた。


 鉄の鎧から伸びる管が騎士像に繋がっている。おそらく、戦闘中に何か細工をしていたのだろう。


「マジかよ……」


「魔石の使い方の一つ。爆発」


「また魔法サウナかよぉ……」


 ルクスたちは、できる限りの防御魔法を展開した。


 そして、その熱風は王都の平和を謳った場所を瓦礫の山へと変え、彼の求めた物は焼失した。





 王都は大騒ぎになっていた。


 同時にいくつもの場所でなにやら襲撃があったのだ。

 幸い浄化魔法使いを確保していたおかげで、住民の混乱は抑えられた。


 しかし、一部魔物出現の目撃情報が出回ってしまったので、隠蔽は難しくなっていくだろう。


 狙われたのはどこも王家にゆかりのある場所。

 とくに酷かったのは知識の蔵と言われる場所の一番大きな施設。


 膨大な魔石爆発によって施設はその機能を失ってしまった。


 出口を塞ぎながら、その女性は通りに出た。

 聞こえてくるのは住民の混乱。皆慌ただしく移動している。


「これはなんの騒ぎでしょうか?」


「なんか襲撃があったんだってよ! あちこちひでえぞ!」

「ま、被害受けたのは貴族だけらしいけどな。がははは! もっと減っちまえってな」

「そうだそうだ。税金も減るべ」


 野次馬たちがその破壊箇所に向かっていく。


 女性はドレスについた土埃を払いながら、彼らとは逆方向に進んだ。

 そこには馬車が集まっている。馬車の貸し出し用の停留所だった。


「女性御者で東のグラリアフクスまで一台お願いします」


「かしこまりました。途中乗り継ぎで、結構お代かかりますが大丈夫ですか?」


「構いません」


「では、あちらの馬車でご案内しますね」


 受付の女性がそのまま御者となった。


 走る馬車の中で女性は遠くに見える煙を見た。


「なんかあったんですかね?」


 それを御者も見ていたのか、そう声を掛けてくる。


「さあ……火事ですかね。怖いですね」


「ねえ? 最近は反王軍とかいうのもありますし、()()()()気を付けてくださいね?」


「ああ、わかります?」


「そりゃあもう。ご実家に帰省ですか?」


 御者はその女性の立ち振舞と、馬車を利用する値段を気にせずにいることから彼女を貴族だと思ったのだ。

 しかもかなりの高位の名家だ。提示された女性の身分証が最上級のものだったからだ。


「ええ、仕事を()()()()()()()()。実家でしばらく過ごそうと思います。一時休業ですね」


「ああ……これは申し訳ないことを聞きました」


「そんな事無いですよ? 得るものはありましたから」


 女性が見るのはカバンの中。そこで光る“金色の石”。


 女性は外を見る。

 そこには散歩だろうか。歩いている可愛らしい黒髪黒目の少女が見えた。


 “あの子も強そう”──そう思った。


 女性にとってその仕事は素晴らしい経験だった。とても、楽しかった。最高だった。


「いい出会いでもありました?」


 そんな質問をされ、一瞬その女性の顔が快楽に歪んだ。

 だが、御者にはその顔は見えない。


 その欲にまみれた醜悪な女性の笑顔に──。


「ええ、とっても。──くくく……」


 上機嫌な女を運ぶ馬車。

 それが去っていくのを静かに見つめる小さな黄金の虹彩が二つあった。


 それはすぐに黒色に戻ると、再び散歩を始めた。


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