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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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53話 親子の邂逅


 ある国の王が死んだ。


 舞台は魔王領から最も離れた場所。人間領域の南東。

 原因は反王軍。理由は対策不足。


 少数の部隊に首都が襲撃され、すぐにそれを鎮圧。

 そのあっけなさに笑っていた兵士達だが、次の瞬間には顔を恐怖で歪めることになる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 敵部隊の殆どが不死騎士として再起動し、周辺を地獄へ変えた。


 その国に浄化魔法を使える者が味方にいなかった。

 大戦中、大した支援もせず、我関せずだったその国には魔法使いは少なかった。

 むしろ、冷遇していた。──だから敵の中に浄化魔法使いの姿があった。


 そして、成すすべなく屍の騎士達によってその国の王は殺された──。



「うーん。まずまずだね」


 そんな報告を聞いて、頷く子供の姿。

 豪華な食事場でそんな話題を口にするのは、魔王のお気に入り。


 幹部の一人、『喰心歯(しょくしんし)モードス』。魔物である。


 三年前、()()()してしまった魔族が治めていた領地。

 幹部直轄領となったその地を今は担当している。


「刻印が機能しない場合もあるみたいだし、コードが不完全で直立不動で固まってしまった個体もいるみたいだよ?」


 モードスが語りかけるのは、同じ机で食事を摂る人物。


 机の中心には肉焼き用の網が設置されており、そこにいくつもの肉が並べられている。

 切り分けられた生肉達。そして美味しそうにそこで焼いたステーキを頬張る女。


 モードス配下の『魔族』である。


「そう言われてもねぇ……。あの魔物自体を作ったのはワタシでは無いのだから。

 コードの解析と思考回路の改良を加えられただけでも褒めてもらいたいものだ」


 口から垂れた肉汁を舌で舐めながら、その魔族は答えた。


「だいたいがアルテ様のおかげでしょ? なんでキミを褒めるのさ」


 モードスが呆れたように息を吐く。


 不死騎士の改良と運用システムはアルテが提案したものだった。

 それを実際に使えるように形にするのがその魔族の役目である。


「はあ? アレを現実に使用できるところまで落とすのにどれだけ苦労したと思っている?

 魔王の言ってきたわけのわからない術式を理解できたワタシがすごいのだよ」


 どうしても自分が褒められたい。魔族の典型的な特徴だった。


「じゃあ、今回の結果を見てさらに頑張ってよね」


「それは勿論サ!! 魔王が代わってくれて助かったよ。研究が楽しくてしょうがない!」


 本当に楽しそうにその女はグラスを上げ一人で乾杯した。“赤い液体”がその中で怪しく光っている。


「あのさー、言おうと思ってたんだけど、“人間食”って禁止だよ? アルテ様に殺されるよ?」


 モードスがたしなめるように口にする。


 その液体も、彼女が美味しそうに切り分けているその肉も()()()()()だった。


「いいや。いいや。これは人間ではないよ」


 明らかに人間の匂いがすることをモードスも分かっている。

 今からこの女が語るのは詭弁だ。


「コレは我が領内に不法侵入し、領民(まもの)を殺したのでね。そして、我が領内では殺人は最も罪が重ぉいぃ……」


 一口サイズに切ってまたその肉を女は口にした。


「よってたった今()()()()()なのサ」


 “むふー”っと上機嫌に食事を続ける女を睨みつけるモードス。


 魔族がそう簡単に従うわけがない。

 大戦前は力だけを盲信する馬鹿ばかりだった。そして、そういった勢力はほぼ消え去った。


 だが、古い時代から暗躍してきた彼女のような魔族はまだ顕在だ。

 力が無くとも能力がある分厄介な存在である。


「なにか言われても僕は庇わないよ」


「結構サ。どうせバレているからね」


 尚更たちが悪い。

 そう言い出すのをモードスは我慢した。


 魔物であるモードスの下についているだけで、この女の変わりようがわかるというものである。


「モードス様! 魔王陛下より連絡が」


 噂をすればなんとやら。

 モードスの親愛なる魔王からお達しが来たようだった。


「! 来たね。とうとう王国を──」


「『楽しみができたから、しばらく動かないで遊んでていい』……だそうです……」


「うえええええっ!?」


 手紙とともにそんな言葉を投げかけられ、モードスは椅子ごとひっくり返った。


「あっはっはっは! 愉快だねぇ。我らが魔王は」


 別の肉を焼き始めながら、魔族は笑った。


「アルテ様~~っ」


 別に今に始まったことではない魔王の気まぐれ。

 それに対応自体はできる。簡単だ。


 しかし、人間にはそんな事はできないだろう。


「……うーん。反王軍は()()()()()。よし、しばらくは別プロジェクトに集中しよう」


「了解だよ、坊や」


 頭の中で狂った予定を修正し、新たな道筋を立てていく。

 彼は最弱の魔物である。しかし、人間と比べれば優秀だ。


 計画は静かに形を変えながら進行していった。





『ここらへん来たことなかったけどいいもんだな』


『そう?』


 相変わらず風流のわからない奴だな。


 俺とフィフが今いるのは、上流階級が活動する王都の一角。

 

 日本で言うと物価の高い遊園地的な感じかな。身分は関係ないけど、訪れる人がお金持ちばっかなので必然的に値段が上がっていったみたいな。


 武器だけを透明化して俺達は姿を見せて歩いている。

 人の数が多く事故りやすそうだったし、こういうところで良き出会いがあるかもしれんからだ。

 希望的観測だが、今のままだとマジでホテルに引き籠もってるだけだからな。


 『ルクス』として白昼堂々外に出るのは久しぶりだ。

 まだリエーニに釣られているであろうお目付け役ちゃんには悪いが、後で怒られてくれ。


『あれかー』


 目的地が見えてくる。

 俺が今目指しているのは“王立図書院”。


 赤タコクイーンの匂わせを確かめるためだ。


『早く用事を済ませて』


『分かってるよ。でも、たまにはいいじゃねえか。いろいろ見て回ろうぜ』


『不要』


 図書院は大きな施設の一部だ。

 博物館とか、記念館とかがここには集中していて文化的価値が高い。


 たしか、『知識の蔵』という名前だ。

 こんな世界でもちゃんとこういうのを残そうってやつがいることに安心する。


「ようこそ。どうぞお楽しみください」


 金の力でフリーパスを購入。クソ高えよ。ぼったくりすぎる。

 多分俺の副業2週間分くらいだ。10万円か?

 フィフの2倍やんウケる。


『今ムカつく顔をした』


『なんでわかった』


『ひっかかった。わかるわけがない。後で代償を要求する』


 変なことどんどん覚えていくねキミ。純粋なままでいてほしいなぁ。


 豪勢な施設内は、上品なお客様で溢れていた。

 美術館もあるのか。どういうのが評価されるんだろ。


 戦争が無くなり、急激に生活が発展し、娯楽を求める。


 変わらない流れだ。──だからこそ怖い。


『デッサンまだまだだな』


『なんの話?』


 絵画を見ていく。狂った人体の絵が並んでいる。

 狂気的な絵が多かった。死体の表現だけがリアルだ。


『こんなのあったの?』


『多分』


 博物品ゾーンには最古の車椅子みたいなのと、板で人を殴るバケモノの描かれた石板があった。

 改めて違う歴史なんだなあと思う。


 教会で使われていたものも展示してあった。

 一応、迫害的なものはこの施設には無いらしい。


 あくまで平等に中立に物を羅列している。


「……ん?」


「今度は何。もう疲れた」


 ああ、そういうことか。

 道理で俺の感覚と合った施設なわけだ。


 そこは順路でもなかったし、あまり目立った場所ではない。

 俺たち以外には客は一人しかいなかった。


 そこにあったのは記念碑と肖像画。

 この施設の設立に注力した人物のものだ。


 描かれた顔は真面目そうだが、どこか不機嫌だ。

 きっと、何時間も画家の前に立たされ退屈なのだろう。


 金髪、金眼の仏頂面。かなり若く見える。

 というか若い時にここを建てたようだ。どんだけ暇だったんだよアンタ。


 “よく似た顔だな”、と少し思った。


 『ハットリューク・サルヴァリオン』。

 “文化と歴史、人の営みを愛した才人。その献身に感謝を記念して”。


 そう絵の下には書かれていた。


「────」


 なんか、──泣きそうになっちまった。

 なんでだろうな。俺からしてみれば、他人と変わらないのにな。


 そして、記念碑に書かれた彼の生涯の一文を見て、感情が乱れた。


 “不幸によって戦時中に亡くなった”──。


 オヤジ。アンタの残したもんはでかすぎるよ。

 ダルンってアンタの親友の()()()、俺はここにいるぜ。


 ──“勘弁してくれ”。


 俺のそんな愚痴を聞いて、きっとこの人は馬鹿笑いしているのだろう。

 そういう人だ。俺が保証する。


 まったく……クソオヤジめ。





 図書院は施設の中心、その三階部分にあるらしい。


『なんじゃアレ。でか』


 その施設の吹き抜けのホールの中心には巨大な彫刻品があった。

 黄金の鎧を着た騎士の像だ。


『金ピカや。いくらすんだこれ』


『全部魔石でできている。金じゃない』


 ふーん、そうなんか。

 魔石か……。なんか宿()()あったな。


『魔石って化石燃料的な認識なんだけどあってる?』


『あってる。昔の化け物たちの死体の蓄積』


 もう俺は気にせず使ってるけど、魔法っていう現象がある以上この世界の化学式って違うんだろうなあ……。


 その黄金は凄まじい威圧感を俺に与えた。

 このホールはかなりの有名どころのようで、結構な人数が集まって騎士像を見ている。


『エネルギーとして活用されてんのか?』


『それもある。あと大気中にある魔素よりも高純度で、魔石を介した魔法は一段上になると考えていい』


 そう聞くとこの騎士像のすごさが分かってきた。

 高純度の魔素ってことはコントロールも難しい。手順を間違えれば、強大なエネルギーが暴発するかもしれない。


 お、作者名が柵の手すりに小さく書いてある。


 ん……?


『なんか見たことある名前が書いてあるんだけど』


()()()()


 ええ!? あのジジイこんなのまで作ってんの? 


『別に意外ではないと思うけど』


『いやぁ……まあ……』


 器用だしな。まあできるか。

 オヤジの作った施設にここまで気合の入れたもの作ったってことは仲良かったのかな、あの人とオヤジ。



 そうやって──気を緩めたときだった。


『はあ……はあ……』

『やるぞ……』

『へへへ……』


 あの変な呼吸音がまた聞こえてきた。この施設内だ。

 多分今この施設に入ってきたそいつらは散ったようだった。


『フィフ。三人。多分、パーティのときと同タイプ』


『面倒』


 そう言いつつ俺達は戦闘態勢に移行する。


 リエーニは使えない。

 一体分をどうにかしなきゃいけない。


『ニ階左奥』


『了解』


 人混みに紛れて俺達は姿消しと音消しを使う。

 フィフは階段を飛ぶように登っていった。


 俺は人数の多い人混みから該当の人間を発見しなくちゃならない。


(くそうるせぇ……)


 ハイパーエコーする声の中から見つけたソイツは入口近くの壁で()()()をしてやがった。

 そんな顔するなら──ってどうでもいいかそんなこと。


(あと一人は……、三階か)


 仕方がない。遠距離魔法を使うしか無い。


 多分コイツらにもあの時のように魔物へ変化する何かが刻まれている。

 ほんま最悪のテロだな。


 だから殺すわけにはいかず、自殺も防がなければならない。


『フィフ! 同時に行くぞ! 3、2、1、ほいっ!!』


『気が抜ける合図』


 入口付近の男の頭を触る。脳を揺らして気絶させる。


「────ッ!?」

「きゃあああああっ!?」


 三階へは【鎮圧くん2号】を使用。閃光弾が発動する。巻き添えのお客さんすまん。

 怯んだ変な呼吸音の男を、その後風でボコボコにした。


「ぐえぁっ!?」


 フィフの方は──……一撃で落としてやがる。

 アイツ剣無くても強いんだよな……。それが透明化して不意打ちしてくんだから詰んでるわ。


「なんだ?」

「なになに?」


 騒ぎ始める他の客。衛兵が走ってくる。

 同時に変なことが起こったからな。混乱するだろう。


 コイツらが動く前に対応する以上、俺が能力を晒すわけにはいかない。

 ……偽者ちゃんがいたら、今のも分かったのだろうか。


 そうなると、あの子もレーダー能力強化できるかもしれんな。

 あの子と一緒にいれば俺も表立って対応できるし。


 俺が判別できるのは音だけだ。経験の浅い俺は他の違和感というものに気付けない。


「────?」


 ────だから、フィフが戦闘態勢を崩さない理由もわからない。


『フィフ、どうした?』


『ルクス、気を付け──上っ!!』


「え」


 そう言われて俺が見上げた先には玄関ホールの吹き抜け。

 最上階の透明なガラスはとても綺麗だ。


 だが同時に──“大量の瓦礫”が降ってきた。


「……ッ!?」


 慌てて端へ退避する。


 聞こえるのは人の叫びと、大きな落下音。それと、()()()()()()()()()()()()()


 今ばかりはこの性能の良い耳を恨むしかなかった。


「いやああああああああああああああああああっ!!」


 明るい日差しが差し込んでいる。

 そして、それは血の霧に反射して狂気的な芸術を奏でていた。


 副菜には悲鳴を。メインディッシュには飛び散る肉を。


『ルクス!!』


『平気だ』


 フィフはすげえな。あの瓦礫の雨の中こっちに来やがった。


 血煙が晴れていく。静寂と恐怖が充満する。

 叫び声と狂気が場を支配していく。


「……?」


 赤い花畑の中心で何かが起き上がった。


 それは瓦礫に似たナニか。

 血の雨を浴びて濡らしたその体はかなり大きい。


 無機質な鉄の鎧。鈍重な塊。

 

 いや、違う。あれは駆動機械だ。

 関節の動きまで緻密に造られた、動くアーマースーツ。


 屈んでいたソイツは何かを噛み締めるようにゆっくりと立ち上がった。


 背は4メートルくらい。

 大きな脚立(きゃたつ)くらいある大剣。


「くくく……」


 はぐぐもった声が俺には聞こえた。この耳がソイツの感情を捉えた。


 アイツは──()()()()()()


 この凄惨な状況に対して。

 この地獄を作り出すことができた自分に対して。


 イカれてやがる。壊れてやがる。


 こんなのが……こんなのがいんのかよ。


『フィフ』


『ルクス……』


 危険だとフィフの目が言っている。

 でも、アイツは見逃せない。


 これは正義感じゃない。そんな神々(こうごう)しいものなんかじゃない。


 俺ですら犯したことのない不道徳を、アイツは目の前でやりやがった。


 そして、──一切の後悔がない。


『アレは……放っておけない』


『……わかった』


 剣を抜く。何かが高揚していた。


 アイツが動き出す。させるものか。


 駆け出す俺の顔から──フィフは目を逸らした。


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