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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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47話 じゅんすいむくでいやしいわたし


 わたしは、サフィレーヌ・カルクルールと言います。


 この国で一番偉い人がわたしのお母さまです。

 王様ではないお母さまがどうして一番偉いのか、わたしにはよくわかりません。


 ある日、わたしは友達の家に遊びに行きました。

 その子とは昔から仲が良く、親友でした。


 でも、その子のおもちゃをわたしは“脳無し”なので壊してしまいました。

 泣き出して、わたしを攻める友達。やってくるその子のお父さま。


 わたしは謝りました。いけないことをしたからです。


『気にしなくていいよ。娘が迷惑を掛けたね。こんなのただの玩具さ』


 それが“その男の人”の言葉でした。

 ()()()()()()()()はわたしを睨んで泣いていました。


 お母さまとその男は仲が良かったのです。


 わたしには……よくわかりません。


 だから、みんなわたしのことを“脳無し”と言います。

 “能”無しではなくて、頭が無いんだそうです。


「サフィレーヌ様、お飲み物をお願いしてもいいでしょうか?」


 あるパーティで友達にそう言われました。わたしは喜んで走りました。

 わたしは頼られるのが大好きです。

 

 何か助けてもらうと嬉しいからです。だから、わたしも誰かを助けたいと思っています。


 でも、わたしは脳無しなので、転びました。


 わたしは歩くのが苦手です。動くのが苦手です。

 この世界でちゃんと動けるみんなはとてもすごいと思います。


「あーあ。また日が暮れてしまいますね。ではお願いしますね」


 それを見て笑った皆はどこかへ行きました。早く追いつかなくてはなりません。


 ゆっくりと歩いて、飲み物を受け取ることができました。

 でも、友達はどこにもいませんでした。


 いつものことなので、よくわかりません。



「ここいい?」


 声を掛けられました。

 飲み物を二つ持つ変なわたしが声を掛けられました。


 よくわかりませんでした。


 見上げると、男の子がいました。


 思わず見てしまいました。

 銀色の髪の毛。それはとてもサラサラしていて、触りたくなります。

 怖い顔。それは人形みたいで、冷たいです。


 そして、青い目。それは脳無しのわたしと同じでした。かわいそうだと思います。


 わたしに声を掛ける人はもういません。

 だから、何故わたしが声をかけられているのかわかりませんでした。


「隣に座るね?」


 どうやら隣に座りたかったらしいです。ただそれだけのことなのに、なにかを思ってしまいました。

 ()()()()()()()()()です。


 わたしは誤魔化すように声を張り上げました。


 その男の子の名前はルクス。

 ルクスって言います。苗字は知りません。だから、ただのルクスです。


 わたしも名前を、名前だけを言いました。彼は別に気にした素振りがありませんでした。

 

「親同士の話って難しくて嫌でしょ?」


 それは、すごく優しい言葉でした。

 そうして、わたしは『サフィ』になりました。



 ルクスは怖いと思いました。

 顔と声が怖いです。遠くを見てわたしを見ていない目が怖いです。


 でも、わたしに気が付いていないわけではありません。

 転びそうになるわたしを何度も、何度も助けてくれます。


「これで7回目。もうダンスでも踊ろうか?」


「うん!」


「……本当に?」


 ついには彼はダンスを申し込んでくれました。ホールの方へ行って音楽に合わせて踊ります。

 いっぱい彼の足を踏みました。いっぱい間違えました。


 でも、あの怖い顔の奥で、彼は笑っていました。

 それがなんだか楽しくて、わたしはパーティが終わるまで彼を()()()()()()()()


「じゃあね、サフィ。またどこかのパーティで」


「あ……」


 お別れの時間はあっという間です。

 彼は美しい顔でこちらを見て僅かに微笑みました。


 “またね”と彼は言いますが、心ではそう思っていないようです。


 彼は同い年なのにわたしを“子供だ”と思っていました。

 だからその微笑みは本当に純粋な大人のものでした。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その時のわたしの顔は──よくわかりませんでした。





 彼のことはすぐ知りました。とても有名な人だったからです。


「フォノス家の養子でしょ?」

「そうです。あの金貸しに引き取られた武帝国出身の奴隷って話ですわよ」

「常に従者の美女を二人侍らせているとか。いやらしい」


 友達との会話ですぐわかりました。

 彼はルクス・フォノス。お金持ちの家の子でした。


 養子というのは、本当の息子ではないということです。

 つまり、彼は本当は貴族ではありません。

 そして、そのお父さまのファビライヒという人も外から来た人です。


 だから、わたしのまわりの人達は彼が嫌いでした。


「貴方も大変でしたわね? 無理矢理お金で結婚させられなくて良かったわね」


「……あの、いえ、……はい」


 友達が声をかけたのは、前にルクスとお話をしたことのある女の子でした。


「どんな誘われ方をしたわけ? どうせ、モノで釣ったんじゃない?」


 大声でそんなことを言うのは、ミゼリアちゃん。私の小さい頃からの友達です。

 今ではとても偉い人になって変わってしまいました。


「うわー、ありそうですねー」

「誇り高い私たちがそんなものでなびくはずがありませんわ!」


 ミゼリアちゃんと同じことを言うのも友達です。

 彼女達もルクスが嫌いみたいです。


「あ……はは……」


 でも、ルクスとお話をしたことがある子はそうではありませんでした。

 とてもつらそうにしていたからです。目元は赤く腫れていました。


「礼儀も態度もなっていない男だったんでしょ!! あははっ、見てみたいわね!」


 ミゼリアちゃんが知らない彼を笑いました。それに釣られてみんな笑います。

 さっきの子もなんとか笑っていました。


 わたしは笑いたくありませんでした。


 よく──わかりません。



 わからないので、“お姉様”に聞いてみることにしました。


 学園がお休みの時に、お姉様はサロンを開いています。

 それはお姉様の家が開催し、お姉様が気に入った子しか入れないものです。


 宮殿のとても古い一室を貸し切って開かれる素敵なお茶会。

 綺麗な庭と豪華な家具が並んでいます。


「あら、サフィレーヌ。王女様の誕生会以来ね。来てくれて嬉しいわ」


 その中心にいるのが、ヴィクトリアお姉様です。

 みんな尊敬する英雄です。


「こ、こんにちわ! お姉しゃま!」


「ええ、こんにちは。さあ、隣に座りなさい。貴方は離れなさい、エナ」

「そんなぁ~」


 わざわざお姉様は席を空けてくれました。


「あっ!」


 すぐに座ろうとしたせいなのか、わたしはまた転んでしまいました。


「まったく、落ち着きなさいな」


 お姉様が助けてくれました。

 優しくお姉様の座る一番大きなソファの隣に案内されます。


「ああっ、ずるい」

「お姉様~」


「はいはい。後でね?」


 お姉様は人気者です。

 このサロンにいる子はみんなお姉様が大好きです。


 まわりを見回すとみんな綺麗な女の人ばかり。

 なので、お姉様に呼ばれるということはとても嬉しいことでした。


「ああ……かわいいわねー、サフィレーヌは。貴方も将来は“あんなの“になってしまうのかしら」


「あんなのってフィンナ様のことですか? お姉様」

「羨ましいと思いますけど、あの美貌は」


 お姉様はわたしのお母様のことが嫌いみたいです。


「わかってないわね貴方達。これくらいの美少女が一番かわいいの」


「そ、そうなのですか」

「さすがはお姉様」


 有名な話ですが、お姉様は小さな女の子が好きらしいです。

 あと黒髪だとこのサロンに呼ばれる可能性が高いとも聞きました。


 確かに暗い色の髪の毛の子が多いような気がします。


「ちょっとサイズ小さくなってきたのかしら? また作らせますわね」


 お姉様がわたしの服の大きさを気にします。


 このサロンのルールで、お姉様以外みんなメイド服を着ています。

 大きくなったわたしが服を破ってしまうわけにはいきません。お願いしました。


「それで、どうしましたの? なにか浮かない顔ですが」


 お姉様がわたしを気にして尋ねます。お姉様もルクスと同じようにわたしを見てくれます。

 だから、ルクスが悪い人だとは思いません。


 いろいろと詳しいお姉様なら知っていると思いました。


「ある男の人について聞きたいです」


「あら? ついにサフィレーヌもここを卒業かしら? どんな人?」


 相手ができたらここには来ないというルールがありますが、みんな相手ができても来ています。


 笑顔でお姉様は待ってくれます。


「ルクス・“フォノス”という人です」


「────」


「あ」

「あ」

「あ」


 お姉様が固まってしまいました。なにかおかしかったでしょうか?

 お姉様の持つティーカップがすごい音を立てています。


「お姉様……? あの、ルクス──」


「サフィレーヌ様! ストップ!!」

「やばいやばいやばい」


 急に他の人達がわたしの口を塞ぎました。本当によくわかりません。


「フォ? ──フォ。……フォノスゥ?」


 切れ長のお姉様の目がさらに怖くなっていきます。まるで殺人鬼みたいです。


 持っていたカップをなんとか元の場所に置いたお姉様が、庭の方に出ていきました。


「貴方達! 剣稽古を始めます! 並びなさい!!」


「あっちゃー……」

「今からですかぁ~?」

「だるいっす」


「早くなさいッ!!」


 急に稽古を始めることになりました。

 日によるのですが、こうして訓練をお姉様がつけてくれることもあります。今日は違うと聞いていましたが。


「あの……お姉様」


「さ、サフィレーヌ様。今日はその話題はやめておきましょう?」


 他の方に言われてやめました。お姉様もルクスが嫌いみたいです。

 お姉様は怖かったですが、訓練はとても楽しかったです。


 結局わかりませんでした。

 でも、彼はみんなの中心にいました。彼のことを聞かない日がありません。


 みんなが嫌いなルクスの話を聞いて、わたしは嬉しくなります。

 よくわかりません。



 わたしはパーティが嫌いでした。動くのが苦手だからです。喋るのが苦手だからです。


 でも、パーティによく出るようになりました。

 予定を聞いて、準備をするようになりました。


 せめて転ばないようにお稽古を集中してやりました。


「サフィレーヌ様、今日もパーティですか? ふふ、とうとう慌て始めたんですか?」

「やめなさいよ、ふふふ。まあ、がんばってくださいね」


 友達がそう言いました。

 わたしに相手ができたことは一度もありません。


 みんなわたしと話すと嫌だと言います。


 お母さまはわたしを怒りませんが、“お話”だけはいつもありました。


 『君も自分のためだけに生きることだね』


 それがお母さまの、カルクルールの教えでした。よくわかりません。



 わたしは“誰も飲まない飲み物”をもう一つ持って、──彼を待ちました。


 笑われました。脳無しだと言われました。

 そんなわたしに声を掛ける人はいません。


 そしていつもわたしはもう一つの飲み物を最後に自分で飲みました。

 その大好きなグレンペのジュースは全然味がしなくて、嫌いになりました。





「何をしてるのよ、アンタ……」

「あっ! ミゼリアちゃん」


 またパーティの日、そこにはミゼリアちゃんもいました。


「おかしくなったの?」

「ううん」


 ミゼリアちゃんはわたしの持っている飲み物を見てそう言いました。


 彼女はとてもかわいいです。

 金色の髪の毛と金色の目。女王様にふさわしい人。


 今日もきっと彼女は人気者です。

 さっそくみんなが集まってきました。


「ごきげんよう王女様」

「ミゼリア様、今日も大変美しい」


「当然でしょ? あんたらはまあまあね」


 すごく偉くなってしまったけれど、彼女は変わらず優しい子のままです。


「まあいいわ。それ()()()()()?」


「え……」


 ミゼリアちゃんが手を伸ばしました。

 それはわたしの左手に持つ飲み物です。


 友達が欲しがっていました。

 いつもはいらないと言う友達が、今日に限ってそんなことを言ってきました。


「……だ、駄目!」


「────」


 初めて、誰かを否定しました。


 見えたのはとても悲しそうな友達の顔でした。

 偉そうに指図だけをしていくくせに、拒絶されると泣き喚く弱い女の顔でした。


「はあッ!? あんた、何を……っ!」


「そ、そうよ! 王女様がお望みなのよ?」

「そうだとも。ジュースくらい渡したらどうだ?」


「これはイヤ!」


 張り上げた声は思ったよりも響きました。


「サフィレーヌ……?」


 困惑を以てわたしを見るその顔は滑稽で、嘲笑に値するものでした。

 何を考えているのかわかりやすく愚かな顔です。


 今までの努力が消えていきます。

 わたしの立場が崩れ去っていくのを感じます。


「この脳無しッ!! アンタなんてどこへでも行きなさい!!」


 自分を見失った傀儡の姫君はそう告げます。

 それで困るのはどちらか理解していない哀れな子です。


 確かにわたしは病気を持っています。

 それは生まれつきの『魔力酔い』。人とは違う感覚に惑わされる病気です。


 それでも、罵倒されながらもわたしがミゼリアちゃんと一緒にいたのは友達だからです。

 

 “貴方も”友達なんていないくせに。わたしがいなくなったらどうしようというの?


「ミゼリアちゃん……」


「ミゼリア“様”よ! いい加減立場を弁えなさい!!」


 どの口が言うの? カルクルール家の威光無くして存在しない王家のくせに。


 憎しみが場を支配しようとしていました。

 もし、このまま続けば波は広がり、何かを飲み込んだかもしれません。


 しかし──


「失礼します王女殿下。お飲み物を持ちしました」


 ──響いたその声は波を支配しました。


 それはわたしが待ち望んだ声でした。同時に、今は絶対に聞きたくない声でした。


「何よ、アンタ……」


「ルクス・フォノスと言います。どうぞよろしくお願いします」


「はあッ!? アンタが?!」


「おや。すでに知られていましたか。幸先が良いですね」


 ──嫌です。


「というかそれ私嫌いなんだけど」


「おっと、ではこちらですか?」


「!! 色が変わった?! 何したの?!」


「手品ですよ?」


 ──やめてください。


「よろしければもっと面白い手品ができますよ?」


「ふーん? いいわ。私が見定めて上げようじゃない!!」


 ソレは、その人はわたしの──。


 彼の目には興味がありました。

 少なくとも彼はあの()鹿()()を対等だと思っているようでした。


 何もせずに彼の気を引く親友(おんな)がとても嫌いになりました。


 ──わかりました。()()()()()()()()


 わたしはサフィレーヌ。サフィレーヌ・“カルクルール“です。

 もう他人のことなど考えません。


 綺麗な銀色。同じ青色。運命です。運命なのです。今、そう決めました。


 左手に持った飲み物を持ってわたしは彼のもとに駆け寄りました。


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おお…いったいどうなんや…!? 更新ありがとうございます!!
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