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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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46話 謳歌する自由


 夜の屋敷。

 人が住んでいるはずのその住居施設には、静けさがあり、なんの明るさも感じない。


 そして聞こえる声は人のものではなく、ケモノの(いなな)き。


「フルルル……」


 くちゃくちゃと、命を頂く彼らの声は喜びに満ちていた。


 “今の主人は面倒見がいい。こんなにも食を与えてくれる”


 (すす)られる肉と、砕かれる骨。それとちょっとの()()()


「ひっ……うっ……」


 少なくなっていく塊を見るのは子供達。その血肉から生まれ落ちた存在だ。


「いやあああああっ!!」


「おっと……」


 少女が逃げ出そうとするが、男に手を掴まれる。


 極限状態に絶えきれずに泣きわめく少女は男を苛立たせた。


「めんどくせえなあ……。オラッ!!」


「うっ!?」

「姉さま!」


 壁に強く叩きつけられ、うずくまる少女を庇うのは小さな弟。


 この屋敷の主である貴族の子供達。彼女達に待っているのは絶望だけだった。


「…………」


 食事にありつく魔物を操るのは人間だ。

 彼らがここの貴族を襲い、少女たちを捕まえたのは十分程前。計画的な犯行である。


「おう、兄弟。こっちも終わったぜ。あん? なんだよ生きてんじゃねえか」


 別の男たちがやってきて、驚いた反応をする。

 それもその筈だ、彼らの目的はこの地上から支配を排除すること。


 ならば、“貴族の血など残していいはずがない”。


「アレの命令だ」


「はあ? またかよ」


 家族がわけもわからず殺され、恐怖に怯える子供達には理解できぬ会話だ。


 しかし、自分たちは何かしらの意思によって生かされていると判断することはできた。


「いやああああああああああッ!?」

「うああああああああああああッ!!」


 悲鳴が聞こえた。


 それはこの屋敷に仕える者達の断末魔。隠れていたはずの人々。


 逃げ切れるはずだった尊い命だ。


「ばあや!?」


 その声に無駄だと理解していながら、少女は返事をする。

 返ってきた声は、()()()()()()()()()()


「ひっ!?」


 近づいてくるのは鈍重な足音。ぶつかり合う金属の音。それによって軋む屋敷の叫び声。


 大人たちよりも巨大なのだから、子供達にとってそれは巨人だ。


 屋敷の玄関ホールから廊下に続く扉が破壊され、その向こうから現れたのは──“鉄塊”だ。


 威圧的で無機質なその体。手に持つ大剣にはべっとりと輝く液体が。

 返り血を化粧にしておめかしをするそれはまさしくバケモノだった。


「…………」


「まだ生き残りがいたんですか? すんません、見逃しました」


 ナニかの腕をその鉄鎧は男達の前に放り投げた。

 それは子供達が沢山お世話になってきた人達のものと良く似ていた。


「でも、いいんすか? それ貴族の腕じゃないでしょ?」


 彼らは反王軍。

 市民達はその戦いに巻き込まれるべきではない。


 巨大な鉄の塊はそれを無視した。


「今更だな。それにこの人にそんなの意識させんの無理だろ」


「じゃあ、なんで子供は許してんすか?」


 冷めたように肩を竦める男と、貴族であるのだから子供を生かしておく必要はないと呟く男。


「…………っ!!」


 ──()()()()()


 『グリムプレート』は子供達を見る。勿論、鉄に覆われたその顔に眼球なんてものは見当たらない。

 それでも自分達を見ていると、子供達は感じた。


 なんとなくわかる。あれが──敵の首魁だ。いや、武器だ。

 あれの存在が、ここまでの残虐行為を肯定している。指示している。


 ゆっくりとグリムプレートは足を進める。


「ギャウっ!?」


 道の途中にいた邪魔な獣はその剣で打ち払った。

 “どけ──”と。当然のように。


「────」


 そして、ゆっくりと──()()()


 少女たちを包んだ暖かさを宿す皮。少女たちを肯定してきた優しい肉。

 いつも少女たちを笑顔にした声は、気持ちの悪い鈍い音を放つだけ。


 ソレは彼女達の思い出を簡単に踏み潰した。


「き……さま……。よくも……っ」


 少女も少年もその瞳に強い感情を宿す。それは彼女達の知らなかったもの。

 肯定してはいけないもの。


 この世にあってはいけないもの。


「くくく──」


 その憎悪を宿す純朴な幼子を見て、機械仕掛けの鎧からは笑みがこぼれた。


 敢えて“その場”で止まった。彼女達の愛する者達を踏み潰し、蹂躙した。


 ──からん、という音がした。


 それは子供達の前に落とされた物の音。


「ッ!!」


 小さな存在は“屈辱”を知る。


 その音は剣の音。いや、それは子供達にとってはの話だ。

 平等を語る残虐な殺人者たちからしてみれば、ナイフくらいの大きさの刃物。


 それが丁寧に二本。彼女達の前にある。


 “──憎いだろう?”


 そう誰かが問い掛ける。


 その残酷で陰惨な行為を行った鉄の悪魔は今か今かと待っている。


「うーわ……やば……」


「あの人の趣味だよ。発作だ発作。撤収の準備をしとけ」


 男達の目の前で繰り広げられる一種のショーは、たった一人だけを楽しませる。


「このっ!!」

「くっ……!!」


 陶器のような白い手に血が滲む。

 拾い上げたそれには愛する人の中身がたっぷりと塗られていた。


「くくくくくくく」


 ソレは笑い続ける。

 その愛らしい努力を、無駄な決意を。


「うあああああああああああああああああっ!!」


 初めて握った人を傷つけるもの。それを少女は振りかぶった。


 『なんて無様で、美しい決意なのだろう』


 自身に振るわれるその煌めきに、鉄の塊は絶頂を迎えそうになる。


「あっ!?」


 剣が弾かれ、転がった。当然の話だ。

 なんの技術もなく、またなんの魔法もなく、その鎧は砕くことはできない。


「はあっ……。はぁ……っ。くっ…!」


 剣を落とし、絶望する少女の顔。

 仇を取れぬ悔しさと力の無さを悲嘆する素晴らしい芸術だ。


 ──弟の方はどうか。

 兜がゆっくりと少年の方を向く。


「あ……う……」


 ()()()()

 頭から足から汁を垂らし、情けなく振るえている。とても素晴らしい絵だ。


「ああああああああああああッ!!」


 再び少女が鎧に斬りかかる。何度も、何度も。

 その手を自らの血に染め、親の血液と混ざり合うまで、何度も──。


「くくくくくくくくくくくくくくくくく」


 ソレはご機嫌だった。


 子供が元気になった。こんなにも元気に。


 ソレに子供を殺すつもりはない。

 そんな“非人道的な真似“などできるわけがない。


 子供は助けなければ。生かさなければ。


 だって──()()()()()()()()()()()()()()


「うあああああああああああああああっ!!」

「ねえ……さま……」


 こんな美しいことがあっていいのだろうか。


 きっとこの子達は優秀に育つ。鉄を裂くに値する力を得る。


 そうしたら、“また来てくれる”。


「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく」



 屋敷の中から子供達の怒りと涙の声が聞こえてくる。

 それを聞く男達は眉を顰めた。


「なんなんすか、アレ?」


「しーらね。あの人、貴族に恋人殺されたって噂だぜ。それでおかしくなったんじゃね」


「はあ~。まあ、ちゃんと仕事はしてくれるんで文句ないですけど」


「アレ終わったら次ね。今度は村の騎士かな」


 魔物を使役し、人を殺す男達は自分達が正常だと思っている。

 それこそが狂っている証。


 だが、あの鉄の塊は違う。


 自分の行動が正当化されるから戯言を吐いているのであって、アレは狂ってなどいない。


 むしろ、愛する人を奪った貴族という存在に“感謝”すらしている。


 『理由をくれてどうもありがとう。お陰でいっぱい貴方達を殺せます』


 小さな努力を嘲笑いながら、グリムプレートは日々の幸福に感謝をし続けた。


 このショーは次はどこで開催しよう。ああ、そういえば決まっていた。


 ロルカニア王国だ──。



 朝日と共に異常を感じ取り、領民たちが駆けつけるとそこには見るも無惨な領主と心を殺された子供達の姿だけがあった。





 世界は発展した。それは変わりようがない事実だ。


 文明は高度に。システムは細かく強固に。生活は豊かに。

 この短い期間で主要な土地では根付き出していた。


 だが、──()()()()()()()()()()()()()()


 広がる平原を歩く小さな影。

 旅をするには重そうなカバンを軽々と持ち、一人歩く少女の姿。


 白髪と碧眼は夕焼け空と呼応して、怪しげなグラデーションを築いていた。

 夕日を見つめるその瞳には深い光が生じている。


 少女の服装はボロボロだ。長旅をしていたのだろう。


 まだまだ治安は悪い。

 善き人に見つかれば施しを受け、悪しき人に見つかれば略奪を受けるのだ。

 危険な一人旅と言える。


「────」


 少女の瞳に認識されるものがあった。


 それは争いの跡。


 畑と小さな家屋。羽根だけ、首輪だけの家畜。

 そして、──倒れる男の姿。


 家の外壁にぐったりと寄りかかる男の息は安定していない。今にも消えてしまいそうだった。


「こんにちは。良い天気ですね」


 少女は気にせずに、状況なんてものが見えていないように男に挨拶をした。


「ああ……まったく、いい天気だな」


 痛みに呻くように男は低い声を出しながら挨拶を返した。


「ひどいお怪我をなさっていますね?」


「おうよ……。ひでえもんだよな。やられちまったよ、反王軍だってさ」


 反王軍。王を否定し、理想を謳う人々。

 その夢は否定できずとも、賛同できぬ者が多くいる。


「貴方は“王”なのですか?」


 少女は皮肉を言う。

 なんてことのない平凡な男に対して。


「ああ…、もちろん。この家の王さ」


 男も皮肉で返した。

 血を流し、自虐的な笑みを浮かべる男を見て、少女は笑わない。


「……臣下を盗られた駄目な王だがな……」


 空を見上げ、弱き王は目を閉じた。


 少女が崩壊した家の壁穴をみると、その向こうに“三つのコップ“が置かれた食卓が見えた。


「そうですか。大変なんですね」


「そりゃあなあ……。毎日畑と向き合って、働いて、家で家族と食事を摂る。

 大変だぜ、まったくよぉ……」


 男の息が乱れる。

 汗も吹き出し辛い顔をしている。


「……嬢ちゃんは、旅行中かい?」


 少女の手荷物を見て、男は推測する。

 普通なら危険な一人旅だが、この世界にはバケモノのような女がいるという話はどこでも聞く。 

 なんとなく目の前の少女もそうだと思った。


「ええ。いろいろと見て回っています」


「その歳で見聞を広めるとは、将来立派になるぜぇ……。娘にも見習わせたいなあ……。

 で、どうだい? “世界”ってやつは」


「…………」


 その質問に少女は答えない。答えられない。

 今この男を見てなお、答えたくない。


「そうかい……。まあ、わかるぜ。

 ところで、嬢ちゃんはネトス教徒なのかい?」


「……どうしてそう思うのですか?」


 少女はカバンを下ろし、それを開け、中の荷物を漁り始める。

 その中には手当用の器具がいくつもあった。


「巫女さんとおんなじなんだろ? その髪と目。それでネトス教に入らないなんて勿体ない」


「勿体ない?」


 男の理論が分からず、少女は手を止め尋ねる。


「おうよ。嬢ちゃんが巫女服を着ちまえば、信者がっつり。お金がっぽり。

 ()()()()()が待ってると思うがねぇ……」


「ふふふ……。そうかもしれませんね」


 少女は笑った。

 巫女服を着た最高の人生を知っていたからだ。


「だろぉ?」


「でも、私には向いていませんよ」


 少女はカバンから男に“適した道具”を取り出す。


「『一瞬千秋に思い馳せよ。日々の生存に感謝を』」


「────!」


 それはとても古いしきたり。

 思想教育のため、急遽作ったそれらしい形だけの祈りの言葉。


 聖都にすら残ってはいない形骸化したものだ。

 それを今やっているところは信心深い馬鹿だけだろう。


「『貴方に日々の安寧が齎されんことを──』」


 ()()()()()()()が、撃鉄とともに発射された。

 確実に男の急所を貫く。即死だ。


 “下半身を失った男”は安らかな眠りに落ちた。


 男のつけていた首飾りが揺れている。

 ネトスのシンボルが刻まれた()()()()()()()()()()()だ。


「……恨み言の一つくらい吐いてもいいと思いますよ?」


 男にはその資格があるだろう。


 そのガラクタを少女は“略奪”し、再び歩き出す。

 あれから十年が経った。散々『今』を見た。


 自らの愚かさの末路を見せつけられた。


 世界は今、『あの究極』の為に動いている。

 恐怖と愛を演じ分けながら、あの怪物は世界を構築している。


 “この程度のこと簡単よ”と彼女達に当てつけるように。


「させないわよ、アルテ。貴方だけにはけっして」


 少女は首に掛けたその信憑性も怪しいものを握りしめる。


 見て回った。知って聞いた。

 たとえもう口は聞けずとも、あの夜、始まりの教会で紡がれた、“()()()()()()()()()()()()”のために。


 足は震える。心は壊れそうだ。それでも、少女は歩いている。


 天を見上げる。そこにあるのはかつての栄光。

 そして、罪科。絶対に(あがな)うことができぬ唾棄(だき)すべき歴史。


 目指すのは、──ロルカニア王国。その王都。結局は遠回りの帰郷だ。


 あの怪物(シーハルン)が生き残っているのならば、もうそこにしかいない。

 “他の女王”は確認し終えた。皆死んでいた。


 暴力(つるぎ)の方は確認できていない。武帝国の警備は強固だった。

 だが、魔王があちこちの武具を探っているということは、どこかにいるはずだ。


 過去に比べれば、小さく遅い歩み。欠伸すら出てしまう。

 失くした翼は戻らずとも、今の彼女には足があった。


 ──それだけはあった。


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