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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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45話 銀光と青海


 ういっす帰還! イエイ!!


 紳士淑女の皆様、わたくしは今どこにいるかって?

 ん~、それはね? そんなのはね?


『王都オオオオオオオオオッ!!』


『え、何。こわ』


 くそくそくそくそ。

 嫌な思い出しか無い王都にあいむばっく。


 元気かあああああ、ダルンンンンンン!!

 俺は、元気じゃなああああああああいッ!!


『ひょええええええッ!! 用水路だッ!! あ、街灯?! ひょおっ!? すごいねえ? 時間が飛んだのかな??』


『ルクス、私を置いて逝かないでほしい』


 ええ、安心してください。僕は正常です。


 王都の風景を馬車から眺めております。

 綺麗だねえ。風流だねえ。


 空気も澄んでるねえ、ぶっちゃけ前来た時は臭かったからねえ。


『発展度合いがすげえな』


『貴方の心が本当に心配』


 しがみつく無機物を無視して、俺は街を見る。


 俺達が乗るのはレンタル制の馬車だ。

 なんとタクシー業まで出てきてしまったのだ。自動車が出てくるのも時間の問題だぜ。多分ゴーレム魔法を活かせばできるはずだし。


「ルクス様、そのー、よろしいでしょうか?」


「なんだ?」


 俺に質問をしてきたのは、フォノス家に所属している使用人の子。

 まあ、俺のお目付け役だ。信用がないですねー。


 人畜無害っぽい女の子なのだが、こんな(なり)して凄腕らしい。

 フィフ曰く『血兵(けっぺい)』くらいの実力があるとのこと。


 『血兵』は武帝国の十五のカーストの上から7番目だ。

 一番上が『武帝』、2番目が『暴傑』。つまり十五傑。


 カーティスさんたちについて聞いたら、“あの時の技だけでの判断なら5番目”なんだそうだ。


 俺は? って訊いたら“聞かないほうがいい”だってよ。悲しい。


「フィフとはどのようなご関係で……? 専属というのは承知していますが……」


「それで間違いないが」


「えー? そうなのでしょうか……?」


 ……合ってるよな?

 俺の父親が雇った使用人で、俺を担当している。


『面倒』


『なら離れろよ。そんなんやってるから関係探られてんじゃん』


『いや』


 コイツ……。


「その……お相手を探すのに興味がないのは()()()()()()ですか?」


 うわ。最悪の誤解されてる。

 なるほどね。多分メイドの“お手つき”的な文化の話ね。

 コイツを抱くなんて……、いや結構やってるわ。そのままの意味で。


「そう」


「!!」


 おい、馬鹿か?


『お前なに言ってんの?』


『貴方こそ冷静じゃない。そういうことにしておいた方が有利。

 私と一緒に行動する理由として提示しやすい。あと、愚鈍なメスを牽制できて、面倒が消える』


 いつになく喋りますね?


 まあ、確かにここで否定するほうがややこしいか。

 どうせ一生コイツとは馬鹿やるんだし。


「勘違いはするな。相手探し自体は受け入れている。

 これとの付き合いは関係ない」


「…………」


 すんごい目で見られてる。なんだよ。

 それ以上めんどくさいと、俺が暴走するぞ? いいのかストレスで胃がねじれるぞ? あ?


「もしかして、“姉妹揃って”……ですか?」


 そう言ってその子は隣を見る。

 そこにはぼうっと外を見ている『リエーニ』が。


『うーわ……』


『身から出た錆。節操がない』


 流石にやばくなーい?


(ソレ)と一緒にされるのは心外です。やめてください』


「あ?」


 必死にリエーニに否定させる。

 この駄剣はなんで架空の妹にキレてんだよ。


「そ、そうだよね? さすがにね?」


『当たり前です』


 安心したように笑うメイドちゃん。

 そんなんあったら犯罪でしょ? え? ここだと違う? そうだね!


「……殺す」


『待て待て待て』


 立ち上がりかけたフィフを必死に止める。

 お前そのムーブやめてって言ったじゃん。


 拗ねるようにフィフは俺の腹に飛び込んできた。

 体格差考えてね?


「はあー……。ほんとに仲いいんですね? どうやってルクス様に気に入られたの? フィフ」


「人柄」


 一番ありえなくないか? 頭おかしいんか?


「ええ~? ルクス様の好みって、ちょっと……」


 そこでなんで俺に被害が来るのかな?


 もおおおおお、ホントにこういう話題しんどい。(さか)りやがってよぉ……。


 あーあ……。

 俺の感覚だと別に結婚とか恋愛って選択肢の一つだったからな。


 しないやつはしないし、するやつはする。そういう社会だった。それでもいいと俺は思う。


 俺はなー……。

 “できねえ”分類だったからなあ……。


 デートって言っても部屋のベッドで話すくらい。

 ときめきの出会いも体験も提供できるような甲斐性もない。


 だんだんしんどそうになっていくのは相手の方で──。


「…………」


 ──()()()()()


 なんとなくその手は格安ポンコツの頭の上に置いた。

 最近は素材を変えて、フィギュアくらいの硬さにはなった駄剣を撫でながら外を見る。


 変わっていくのは外だけで、入り込んだ風の匂いだけが俺の世界だった。

 眺めるだけの景色は素晴らしいものだったけど、同時にとても切ないものでもあった。


 そうだなあ。こんな感じだったなあ……。


「フィフは面食いなのねー」


「顔に興味は無い」


「ええっ? うっそだぁ! だって他の男だったら嫌でしょ?」


「当たり前」


「ほらぁー」


 やかましい恋バナは止むこと無く、俺の穴だけが広がっていった。





 王都で俺が拠点としたのは、貴族御用達の宿泊施設。

 各領地からやってきた貴族はだいたいここを利用する。または友人の家が王都にあればそこを頼る。


 使える部屋にもグレードがあり、いくら金を出しても最上級のルームは使えない。


 できる限り上質な部屋を用意してもらった俺はそこでしばらく過ごすことになる。

 ホテル生活とか、贅沢の極みやね。


 勿論情報を抜かれないよう、用心に越したことはない。ここの経営陣おっぱい公爵の派閥の影響受けてるらしいし。


 懐かしいなあのおばさんも。ちなみに全然元気らしい。

 また子供を産んだとか。すんごいパワフル。何人いんだっけ? そんなレベル。


 憎まれっ子世に(はばか)るってかあ? ある意味見習いたいもんだ。


「…………」


「ルクス?」


 でけえ風呂場で天井を見る。

 いつの間にか多層建築が発展して、こんな金持ち風呂が設置できるほどになった王都。


 日本人としてはありがたい。懐かしい感覚だ。


「お前もうちょっと優しくできない?」


「してるけど」


「じゃあ才能ないわ」


「は?」


 髪を洗う用のオイルまで作られていたので、湯船に浸かった俺の髪をフィフがわしゃわしゃと雑にやっている。

 ぶちぶち毛抜けてんだけど? 頭の形変わるぞ?


「んー?」


「そうよ。そんな感じ」


「むず」


 お前が強すぎんだよな。一応アンリーネ仕込みは効果を発揮しているようだ。助かったぜババア。


 ここに来たときお目付け役ちゃんから認定された、“仕事できないのに主人に気に入られて成り上がった女“扱いが嫌だったのだろう。

 あの日以来ポンコツだが俺の世話をしてくるようになった。コイツの根本にあるのは実力主義だ。


「……結婚って何?」


「あー?」


 なんだ藪から棒に。


「人間はいつもしている。意味がなさすぎること。勝手に交尾して増えればいい」


「人外発言ご苦労さまです」


 いろいろ謝れよ。


「機能しているようには思えない。

 弱くなったメスがいた。怒るようになったオスがいた。結局やめた人間もいた。

 無駄」


「まあただの制度だからな。統治者がいるから成り立ってるだけだよ」


 ばしゃっと雑にお湯を掛けられる。目に入ったんだけど?


「体」


「ええー? 別にいいよ。自分でやる」


「黙れ」


「こわい」


 今度はマイボディも洗われる。湯船の中で洗うのは慣れねえなあ。


「それは出生を制限しているということ?」


「まあそれもあるだろうけどさ。一番は()()()()だろ」


「そうなの?」


「そりゃあな。特に貴族社会じゃ誰が誰の子ってのは重要なわけじゃん?

 それがフリースタイルになっちまったら、王様なんか終わりよ」


 いててて。やっぱ雑だよ。お肌が荒れちまう。


「…………結婚したら、私はどうなるの?」


 それは、やっと絞り出した駄剣の鳴き声だった。


「別にどうもなんねえだろ。馬鹿か? 剣に自由はねえぞ」


 さぼれるとでも思ったのか?


「──っ!」


「あのー?」


 俺に抱きつくフィフ。メイド服びしょびしょやん。それ高いんだよ?


 ったくよぉ……。つまんねーこと悩みやがって。


 こりゃあ、早々に相手見つけねえと俺の精神が持たん。


 もう俺は俺のやり方を決めている。

 ここまで来ちまったら悪いとは思うが相手にも本気を求めるしかない。


 それで丸く収まんならハッピーじゃい!


 そうして、次の日から俺の地獄は始まった。



【CASE1】


 流通を牛耳ってる未来成功確定の家の娘。


 所作が丁寧で大事にされているのがわかる。家族仲は悪くなさそう。

 時々、言葉が止まってしまうのも緊張しているだけというのがわかる。


 これからどうなるかわからないが、家族をとても大事にする子になる気がする。

 表舞台で馬鹿やってる間に、裏を固めてくれるのは助かる。


 雰囲気は悪くなかったが、後日の返事は『NO』。



【CASE2】


 地方領主の読書家の落ち着いた娘。

 

 聞き上手で、俺がやってきたことを面白おかしく聞いてくれる。

 詩を書くのが趣味だと言っていたので、俺の作った童話を話したら大層気に入ってくれた。


 趣味の話ができるってのは大事だ。

 友達みたいになってしまうだろうが結婚を前提にするなら関係としては悪くない。


 雰囲気は悪くなかったが、後日の返事は『NO』。



【CASE3】


 同じ派閥、つまり経済系のつながりのある侯爵家の令嬢。


 わがままなところがあって我が強い。言いたいことをはっきりと言う。

 その分素直で気に入った部分は褒めてくれた。


 俺のやろうとしてることを考えるとこのくらい強いほうがいいのかもしれない。

 ブレない意思を持つ子は評価が高い。


 雰囲気は悪くなかったが、後日の返事は『NO』。



 えとせとら、えとせとら……。



 うむ。──これはヤバイ。


 婚活に追われる11歳ってなんだ?

 俺と話してた子が明日には別の男と喋って、もしかしたら成立してんのかなあとかめっちゃ考える。


 ぐおお……。俺にも男としての矜持が、なけなしの少数第一位くらいはある。


 アプローチを変えねばならん……。


 おそらく俺個人ではなく、フォノスという噂が独り歩きしている。

 親を挟む関係上、そこはしょうがない。今更ぐーんと認識が良くなるわけもない。


 彼女達が、俺のフルネームを聞いた瞬間身構えるのがわかった。

 親に社交界の話をたくさんされているはずだ。くそう、恨むぜファビッさん……。


「行っちまうか……」


「どこに」


 夜、部屋の鏡の前にて。

 髪の毛を()かしているつもりで俺の髪の毛をぐちゃぐちゃにしていくフィフに宣言する。


「婚活パーティ!」


「?」


 イマイチ理解していないフィフ。


「明日開かれる社交会があってな? そこは子供の場合専用の部屋で喋れるんだそうだ」


「うん」


「今まではフォノス家のガキが来るってんでビビられてたけど、何も知らない状態で不特定多数に会えるわけよ?」


「うん」


「俺のフルネームを知られる前に勝負する!! 個人技じゃい!!」


「…………?」


 完璧な作戦じゃい!


「意味はわからないけど、貴方がヤケクソになっているのはわかる」


 フィフに放り投げられ、すやすやした。



 次の日、気分全快の俺はパーティを襲撃した。


 多分でかいやつだったので、人は多い。

 実際のパーティの目的はただの親睦会だとか。


 いろいろありすぎてもうスケジュールに名前書いてねえよ。


 感覚で説明すると、飲み会、飲み会、幹事やってる飲み会、宅飲みみたいな?

 貴族ってすごいんだねえ……。いや、毎日大学生って考えるとだいぶクズ度増すな……。


 ……ぐえぇ。フィフにはああ言って理論武装してみたけど、いやだなあ……。

 落とそうと思って落とせる男はホントに尊敬するよ。


「ここいい?」


「?」


 俺がターゲットにしたのは、一人で端のほうにいた女の子。

 年は同じくらい。ちょこんと椅子に座った姿は子供っぽい。


 デパートで親を待つ感じで足をぷらんぷらんしていた。


「……?」


「隣に座るね」


「うん! いいよ!」


 意味が分かってなかったらしい。……早速のテンポロスだと?


 うん? なんでコイツ飲み物二つ持ってんだ?


 右手と左手。右手の方を飲んでいて、左手の方は一切口をつけていない。


「どうして、二つグラスを持っているんだい?」


「……わかんない」


 わかんないかぁ~、そっかぁ~。もう、駄目だわ。次行こうかな。逃げてぇ。


「じゃあ、くれる? ソレ」


「え?」


 いいだろ。なんか飲まなそうだし。それ美味しそうじゃん。


「見たこと無いジュースだからさ。飲んでみたい」


「……いいよ」


「ありがとう」


 うま。いいもん飲んでますねえ、お貴族様は。


「終わった。少ないねこれ」


「うん」


 会話も終わったわ。逃げよう。


「おかわりしてくる」


「えっ」


「……キミもなにか飲む?」


「! うん!!」


 わぁ……いい返事だねえ。飲むのかよ!

 パシリっすか。おら何がいいんだよ。


「グレンペ飲む!」


 そう言ってその女の子は立ち上がった。

 一緒にくんのぉ……?


 っていうかなにそれ知らない。フルーツ?


「美味しいの?」


「うん!」


「じゃあ僕もそれにしようかな」


「! 美味しいよ!!」


 うんさっき聞いた。

 はしゃいで女の子は駆け出した。


 あっ。──慌てて俺はダッシュする。


「きゃあっ!?」


(あっぶねー)


 今すごい捻り方して転びそうになったぞ。歩き方がなってませんよお嬢様。

 コイツちゃんと教育受けてねえのか? リエーニちゃんを見習え?


「気を付けて」


「…………ごめん!」


 うん。元気だね。

 礼節とかの次元じゃないねキミ。


 身分的にはそんなでもないのかな。結構それだと気軽に行けるな。

 まあ、初戦だし楽しけりゃいいか。


「…………」


 深い海色の瞳が俺を見る。

 丸々としたそれは子供特有の光を宿す。


 少しはお眼鏡に叶ったのかな?


「僕はルクス。名前を聞かせて? あ、名前だけね」


 そっち名乗ると俺も名乗らないといけないからね!


「え? 名前だけ? いいの?」


 そこは教育されてんのかよ。


「いいよ。親同士の話って難しくて嫌でしょ?」


「────。うん……とても」


 そういう事情はわかってんのか。


「『サフィレーヌ』。わ、わたしはサフィレーヌ、です」


「じゃあ『サフィ』かな」


 発音しやすいし。


「う、うん! わたしサフィ!! あっ!?」


 あっぶね。また転ぶやん。


「すごい! なんで分かるの、ルクス!」


 だってパターン化してるもん。


「ま、当然だよ。ほら、早く飲み物を貰おうよ」


「……うん!」


 今日一番の笑顔をその子は見せてくれた。


 やっぱそうやってる方が、子供っぽくていいと思う。

 座りながら泣きそうになってる顔は目の毒だからな。

 

 もう一回転びそうになるその子を俺はまた抱き止めた。


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