28話 やるしかねえけどね?
快晴である。夜更かし後の太陽というものはどうしてこんなにつらいのだろうか?
『な? ビュリュー』
「?」
反応したようにビュリューが鳴いた。
反応しただと……? お馬さまですらエスパーなのか…。ちなみにビュリューは超元気だ。体力やばすぎ。
「何してるの」
「べっつにぃ~」
いてえんだよ駄剣。ビュリューを見習え。
日が出てくるギリギリに帰ってきてからずっとコイツは俺に絡んでいる。よっぽどダルンと二人っきりにさせたことを怒っているのだろう。
そんな俺らは現在馬車の中にいる。
ダルンは勿論、カーティスさんもこの屋敷でもてなしを受けている。ダルンに関しちゃ実家だろうが。親孝行大事!
そんでいないものとして扱われている俺らは“檻の中”、というわけだ。しゃあなし。
ご丁寧にカーティスさん作のブービートラップが馬車の扉に仕掛けられている。
レインボーボムの改良版だそうだ。俺が作ったアイテムが俺を追い詰めてるってどういうことだ。
信用がないですねえ……。ちゅらい…。
壁抜け魔法ないのかな…?
「ふわぁあ……ねみぃ~…」
服自体は柔らかいので、フィフも硬い枕くらいにはなる。なんかゴーレム素材もっと考えられないかな。俺の安眠のために。
「で?」
「あん?」
コイツの膝の上で乗っける頭の位置を調整していると、なんか言われた。
不機嫌そうな面だ。毎度思うが表情操作うますぎじゃねえか?
「どこに行ってたの」
「宮殿だよ。気になるとこがあってさ。観光スポットにお邪魔してきた」
「そんな価値のある場所は無い」
「なんで断言すんの?」
ドライっすね。コイツはそういった文化的なものには欠片も興味が無いらしい。ロマンのねえやつだなあ。
「あの時間に行っても、何も無いと思う。入れないものじゃないの?」
「フリーで入れるよ。なんてったって俺の実家だからさ」
「呆然。そこまでして何を見たかったの?」
「孤高の塔ってわかる?」
「知らない」
なんでそういうところは知らないのん?
「あー…元々尊い人専用の牢獄として使われてたところでさ。そこに今いる人に会ってきたんだよね」
「罪人ってこと? 誰?」
そういやちゃんと名前は確認してなかったな。めんどくせえ否定の仕方しやがって…。
でも、反応的に女王で合ってるよな?
「パペヌラーレ・シーハルン女王だよ」
「────」
ん? 頭撫でる手が止まったな?
目を開けて見上げたフィフの顔は、漫画の大ゴマで見るようなシリアス顔だった。
「────生きていたの?」
「え、ああ、まあ、喋ったからね。あとエクスローンもやったし」
「……何をしてるの? 普通に異常なことをしている自覚を持ってほしい」
いつものダウナーフェイスに戻った。なんじゃ? なんか変なとこあった?
「いやあ、アドバイス貰って、ついでに権力パワーでブンブンさせておこぼれを貰おうと思ったんだけど、その……まあ、元気じゃなくてね。あんまり引っ張り出せる状況じゃなさそうだったわ」
「はあ……。貴方は本当に一度怒られたほうがいいと思う」
いて。チョップくらった。
「……肉体に異常は無い?」
「ねえけど……。あっ!? 頭も平常だからな!」
「何に気付いたの? ついでに言っておくと、そこはもう議論の余地がない」
当たり前じゃ。人の正気を疑うんじゃねえぞ。……なんだその目は? やんのか? あ?
「無事ならいい。でも、二度と近づいては駄目」
「え? なんで? 話のできる人だったぜ?」
「────そんなわけ……そう、なの?」
突然考え込むフィフ。コイツの中であの人はそんなにヤバい扱いなのか。
「一番感性が合う感じ。俺の『推し』だ。今のところ」
「は?」
えっ、なに? こわい?! 痛い! 押さえつけないで!!
「──は?」
目がキマりすぎ! た、たしゅけて……。
「────は?」
許して!! もう言わないから!! だ、脱出しないと食われる!!
「そういやさ!! 俺最初別の奴に勘違いされちゃってさ!! 『オーレイル』って!!」
「──────ッ!?」
「……誰かわかるか?」
押さえつけていた手が離れたと思ったら、今度はのしかかってきやがった。大型犬かお前は。
鼻部分が胸に来て痛えよ。おーい。
「…………し、らる、ない……」
言語バグった?
「おーい」
「…………」
動かねえ……。どうすっかなあ……。
カチコチになった駄剣をどうしようかと考えていると、飲んだくれから風声が送られてきた。
『リエーニ。今カーティスを向かわせた。音消しとお前たちは姿消しを頼む。カーティスと共に屋敷の中へ。──お前に客が来た』
だあああっ!! やることが多いんだよ!! タスク減らせ!!
「リエーニ……。その…」
見上げてくんなよ。卑怯な奴め。
駄剣の頭を軽く叩くと、俺は立ち上がった。
「今のところは勘弁してやる。あとで覚悟しとけよ」
「! ……うん」
また俺は余計なタスクを抱え込んでしまった。
◆
『来たか』
カーティスさんの後をついていくと、ダルンが扉の前で待っていた。風声を使っているということは、客は“聞こえる者”ではないのだろう。
俺は透明化を解かずに話しかける。
『誰が来たの?』
『“ファビライヒ・フォノス”だ』
やっぱり、ファビッさんか…。俺をエクスローンでぼこぼこにしたイキリ玄人。
あの口ぶりから、探りを入れていたことは明白だった。
あの日はオリジェンヌの復興支援についての相談を、カーティスさんを通じてやっていたらしい。
情報通の成金こええよ。確信はしてたけど証拠はない。別にいくらでも俺は誤魔化せる。
『わりぃ……屋敷で対応した時にバレてたっぽい…』
『いやいい。私のミスだ。それよりも何が目的だと思う?』
『普通に考えれば、釘刺しじゃねえの? 俺がここにいるとわかって来たんでしょ?』
『わからない。奴の言葉は、“ダルンとその従者たちに用がある”ということだった』
上手い言い方だ。こっちはバレたと思うし、向こうからすればそこで出てくるのがカーティスさんだけでも構わない。
オリジェンヌでのことを挨拶するだけだ。
あの人とのエクスローン思い出して吐きそう。ただでさえ余裕がないんだけどこっちは……。
『…どんな立場の人なの? “メロンメロン公爵”派閥なの?』
『お前…フィンナ公爵のことを言っているのか? 聞いてるこっちが怖くなるな……』
間違ってねえだろうがよ。ぜってえ名前で呼ばねえぞ、あの爆乳タヌキ。
『カルクルール派閥だとは思っていなかったな……。よくも悪くも利益を優先する人物だと聞いている。彼は入婿で、商人の家系だった。その考えは変わらないだろう』
そう考えると、利があるからここに来たということだ。
うーん……。ワンチャン…。でもなあ…。くそ…。
振り返る。俺の視線の先にはいつもの顔でこっちを見ている生き別れていた姉がいる。
『フィフ、これからやること失敗したら、一緒に戦ってくれるか?』
『当然』
────。お、おう、そうか。……まじかよ。
透明化を解いた。あと、色も戻した。
『何をする気だ?』
突然そんなことをした俺に困惑するダルンとカーティスさん。
「ごめん。ちょっと好き勝手する」
「は?」
静止する二人を無視して、勢いよく扉を開ける。
「……! これはまた思い切りの良い…。先日ぶりかな?」
平然とそう挨拶してくる男が部屋で待っていた。
確認済みだが、客間にはコイツ以外いない。一切の音が漏れないように遮音魔法を展開し、ズカズカ進んでいく。
「どーも、エクスローンありがとね。ハマってるよ」
そして、ファビッさんが座るソファーの反対側に座った。やるぞ、おらおらおら。
「…………。それはよかったよ。いや驚きだ」
「何が?」
ファビッさんの表情は変わらない。かなりぶっ込んだと思ったが、そんなに動揺させられてないか。
ここで揺らしておきたかったんだけど。
「キミはかなり慎重だと思っていたからさ。今回の訪問で、こんな対応をしてくるとは思っていなかったよ」
「俺も」
「……。キミは気が違っていると言われたりしないかい?」
失礼な。殺すぞ。
「めんどくさいのはもういいと思ってる。アンタもそうだろ」
「くくく、そうだね。いやぁ……ボクの想定もまだまだだったね。それで?」
俺は、エクスローンの盤面を広げた。そして、ファビッさんを挑発するようなポーズで言った。
「これでアンタに勝ったら、俺を『養子』にしろ」
「────」
空間の音が消えた。やばい、クソ滑ってる。頼む誰かなんか言ってくれ。
「お、おい馬鹿っ! 何を言っている?!」
「おやめください! 彼はエクスローンの制作者で、覇者なのですよ?!」
「フフフ……ククククク……」
うるせえ外野! 助かったぜ!
……かなり、早まったかも。は、吐きそう。あとそこでウケてるセール品は後でシメる。
「……。ああ…ごめんね。ぼうっとしていたよ。人って考えることをやめてしまうことってあるんだね。貴重な経験をありがとう」
「どういたしまして」
くそが。なんか恥ずかしくなってきたぞ。
「ご挨拶が遅れましたダルン様、カーティス殿」
「ああ、今日はどういった要件なのかな? ファビライヒ伯爵」
大人たちは和やかに挨拶している。許さねえ。ていうか無視すんじゃねえ。
「おい、ファビッさん、無視すんじゃねえよ」
「そんな愛称は初めて言われたな……。屋敷でボクをもてなしてくれたのは、誰だったのかな」
俺に決まってんだろ! てめえだってわかってんだろ!
「いいから座れや。オラッ!」
「……ふぅ」
挨拶の礼の為、立っていたファビッさんを座らせる。言葉とは裏腹に俺達の思考はフル回転している。
てめえのやり方はもう知ってんだよ。一分たりとも油断してやんねえからな。
「外野どもは立ってろ」
「な…に…?」
「はあ……」
「何故」
そのやり取りを黙ってファビッさんは見ている。やっと会話が始まる。
「改めてお名前をいいかな? ボクはファビライヒ・フォノス伯爵。なんの力も無い弱小貴族さ」
言ってろばーか。
「リエーニ。リエーニ・“サルヴァリオン”」
「!」
外野の一人がなんかちょっと感動しているが、無視だ無視。
「おや? そんな王族は聞いたことが──」
「俺先手貰うぞ」
「!!」
めんどくせえ前置きをしようとしたので、さっさと進めた。準備されていた駒を動かして俺の手番が終わる。
「……へえ」
相手の番が終わる。勝負を受けた。
「ボクが勝ったとしたら、どうなるのかな」
「なんもないけど?」
「あはははは! わがままな王子様だね?」
うるせえ。お互いの手が進んで行く。最初の盤面形成は、どんなプレイヤーでも似てしまう。たどり着いてしまう。だからこそ定石と言われるものが生まれる。
「ではボクが勝ったら、『この屋敷から宮殿までボクの歩みを邪魔しないこと』を約束してもらおうかな」
こいつ…。俺の考えの先をいくのやめろや。
『俺の情報』を得たいとか、金をよこせとかいうものだったら、実力行使に出るつもりだったのに。
盤面が変わっていく。
「何故、養子になりたいのかな? 自慢じゃないが、フォノス家は金だけだ。このルクレヴィス家にも、カルクルール家にも、ブレイブハート家にも嫌われている成金さ」
「それでいい」
「……なるほどね」
次第に中盤で難しい局面に入り、お互い少しずつ手が止まる。
「キミはそのアドバンテージを捨てるわけだ」
「なに…? リエーニ、どういうことだ」
黙ってろって言っただろ外野。後で説明するわ。
「なおさらわからないな。であればもっといい候補があるじゃないか。この家でも変わらないと思うけど?」
「悪いけど、上位貴族は信じられないし嫌いだ」
後ろから息を飲む音が聞こえる。ごめんけど、素直な気持ちだ。お前は嫌いじゃないけど、あの場で偽者ちゃんに跪いていた奴らを信じることはできない。
そして、『寂しい塔で怯えるあの人』を無視する連中を──。
「フォノス家は信じられると?」
「まだマシだ」
「くくくく……それは、光栄だな」
くそ、余裕あんなコイツ。言葉ではどうにも攻めきれない。
エクスローンの盤面でも、なんとか対策が機能しているがいつまで保つか。
「たった数日でここまで成長するなんてね。正直、怖いね」
「どーも……」
くそが。思ってもないこと言いやがって。
「カーティスわかるか…?」
「申し訳ありません。私も疎く…」
「今攻めているのはリエーニ。どちらが有利かは見えない。お互いに終盤に向けての動きを逆算している」
「ほう」
「見たことのない盤面。どうなるかわからない」
なんか解説始まったぞ。楽しそうだね君達…。
「…………」
ファビッさんが長考する。ふははは、この一撃は痛かろう。
なんてったって俺も痛かったからなあ!
そう、俺が今使っている戦法は初心者の『引きこもり』が使ったものである。
昨夜、俺はファビッさんに使われた戦法をあの人にいろいろ試してみた。
だが、突破するわするわ。簡単に打ち破っていくのだ。信じらんなかった。
最終的にはあの人の戦法を俺が打ち破れなくて詰んだ。これがその戦法じゃい!
つまり、俺は丸パクリで挑んでいるのだ!!
ファビッさんにも通用するとか、どんだけだよあの人。小学生にバブバブしたくせに。勿体ねー。
「──っ!」
「これならどうかな?」
あ、不味い。崩れる。早いよぉ…。
そりゃあ、そうなると思ってたけどさ……。
考えろ……。たった一人であの貴族どもを黙らせていた人が考えた戦法だぞ。
『定石など知らぬ。だが、貴様という情報が落ちている』
その言葉を思い出す。俺の陣形ではなく、ファビッさんが何をしたいのかを考えろ。
ここからは、これからは、──俺がやらなくちゃいけないんだ。




