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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
1章:幼少・オリジェンヌ編

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25話 こっちだって必死なんすよ


 うし、とりあえず侵入してみるか。


 俺の目の前にはすごい不機嫌そうに入場していくカス野郎の背中があった。コイツも俺は車内にいると思っているに違いない。

 馬鹿が。あんな喧嘩売られて黙ってられるかっての。


 カルクルールとかいう奴の顔くらいは拝んでおきたい。


『おい、どうせ起きてたんだろポンコツ』


『……無礼。私は空気を読んでいただけ』


 車内には念の為フィフを残してある。まあ、他の車も停まっている中で直接害そうとしてくるとは思えないが。


 カーティスさんは車から降りて、ビュリューを休ませている。


『カーティスさんになんか言われたら誤魔化しといて』


『無茶を言ってる。そちらこそ何かあれば呼んで欲しい。すぐ駆けつける』


『うい』


 フィフは俺の肉体を通してゴーレム体を維持している。そしてその範囲は俺が魔法を使える範囲と同等となる。


 俺の地獄耳はオリジェンヌ全域をカバーできるくらいにはなっていた。この宮殿の規模ならフィフとの繋がりが切れることはないだろう。

 なんてことのないように言ってるけど、やっぱアイツヤバイ呪物だよな?


(綺麗なもんだ)


 外から見上げる宮殿は悪くない。観光地にあったら一回は見てみたいものになるだろう。

 だが、俺の印象はよろしくない。ゴミカス野郎みたいな坊っちゃんたちが好き勝手やってるイメージしか無い。

 現に嫌がらせ食らってるし。


 巨大な内門でボディチェックされた後、バカアホはでけえエントランスに入った。


 中の装飾はかなり洗練されていて、歴史を感じた。この城はおそらく争いの場所にはなったことがないのかもしれない。


 さらについていくと、マヌケは待機室みたいなところに案内された。待機室にしてはどでけえところだが。時間までここで待てということなのだろう。

 玉座まではまだ時間がかかりそうだ。


 そう判断した俺は扉が閉じられる前に待機室を出た。

 ちょこまかと動いているが、一向にバレることは無かった。


 やっぱアイツらがおかしいんじゃねえか。俺は特別! 最強! 忍者!


 さすがに扉は開け閉めするとバレそうなので、今のところはメインホールをうろつくだけである。


 巡回している兵士は強そうってよりは偉そうって感じ。

 官僚っぽい人がばたばたと走っていたり、丸々とした男がゆっくりと歩いていたり。

 何かを訴えに来た人が追い出されていたり。無情である。


(お、なんか来た)


 屈強な付き人を後ろに控えた青年が歩いてきた。その隣にはおどおどした貴族が必死に何かを懇願している。


「私にそれを言われても困る」

「しかし……」

「政務大臣に言っておけ。私の預かり知るものではない」


 拒否していた青年は金髪金眼だった。もしかしたら親戚なのかもな。まあ()()()()()()()()()


 年がら年中パーティしてるみたいな雰囲気では無く、やるところはちゃんとやってるっぽいな。まあ今見てる場所でしか判断できないけど。


(さてさて。いざ、スニーキン!)


 人のいない場所にこそ情報はあるものである。会話なら聞き取れるし。目で見る情報が欲しい。


 豪華な廊下には肖像画が並んでいる。名前が書いてあったので読んでみると、全員歴代国王のようだ。


(国王と王子の絵はあるけど、()()()()()()()な。消されたのか? 元からか?)


 実質的な支配者だったシーハルンに対するささやかな抵抗なのかもしれない。


 そういや、ウチの女王はまだ生きてるんだったよな。どこにいるんだ?


 大きな窓から外を見る。宮殿の全体構造はわからないが、居住区のようなものが見えた。それと活気のある役所みたいな部分。中心には玉座があるっぽい。

 集中して音を拾う。明らかに雰囲気の違う区画。廊下をうろついて、別の窓から見上げた先にぽつんと塔が建ててあった。


 『孤高の塔』と呼ばれる場所で、昔、悪さをした上級国民を収監するために作られたらしい。歴史だけではなく、物語にもよく登場する有名な施設だ。


 その頂上には人間の声が一切無かった。使われていないのならば当たり前だろう。しかし、塔の出入り口や中部にはサボっているような兵士達の声があった。


「最近、お気に入りの子が──」

「あー……給料上がんねえかな……」


 俺のいる場所から見えるのは、出入り口の兵士だけだ。ちゃんと武装している。つまり、()()()()()()()ということだ。


(あそこかぁ……。どうやって──)


「見ない顔ですね」


 小さな声が後ろから響いた。またこのパターンっすか…。

 両手を上げて振り返ると、赤と黒のシスター服っぽい女の人が立っていた。いつからいたんですかね? ホラーやめて。


 話している言語が共通語なので、外国人なのだろうか。苦手なんだよな……共通語。


 『ついて来い』みたいなジェスチャーをされたので、頷いてしぶしぶついていく。


 この人物理的に音が無い。魔法じゃなくて歩き方が違う。プロじゃん。助けてフィフ! 

 7割くらいビビっていたが、案内されたのはゴミ野郎がいるところとは別の待機室だった。


「ありがとうございます。息抜きができました。暖かい紅茶のおかわりをいただけますか」


「は、はい」


 扉前で待機している兵士にお金を渡してブラックシスターはその扉を()()()開けた。

 へいへいボーイズファーストさせていただきやすよ。


 部屋の構造はアホが案内されてた場所と同じ。つまりはこの人も謁見待ちなのだろう。

 高級そうなソファーに座れと指示されたのでちょこんと座る。ボクハ敵ジャナイヨ。


 ブラックシスターは何かを紙に書いて見せてきた。


『どこの国の者ですか?』


 あれ? 外国のスパイだと思われてる? 

 本当の“色”まではバレていないのか。なんだよこの人五万円以下かよ。ビビって損したぜ。いやヤバイ状況なんだけどね?


 遮音魔法を最小限で展開する。

 一瞬驚くとブラックシスターは筆談しようとしていた紙やペンなどを横によけた。理解できるタイプの人かよぉ……。しんど…。


「貴方クラスの人を送ってくるところというのなら、武帝国かラークフム? …それともまさかネトスなのかな?」


 普通に喋ってくるブラックシスター。どうしよ。


「悪いけど、俺ロルカニア人ね」


「…………」


 あ、固まった。おーい?


「……ロルカニア人? ああ、噂の反乱軍か。まったく、こんな子供まで巻き込むなんて…」


「いや、違うけど」


「──……? なら貴方は、どちらから?」


「観光」


「────?」


 なんかごめんね。


「そっちは?」


「え、わ、わたし? わたしは外交官としてこの国にやってきたの」


 予想通りか。…なんだよこの会話。


「で、俺になんの用? この後予定があるから忙しいんだよね」


「用というと……。うーん? わたしのやりたかったこと全部壊れちゃったんだけど、どうしてくれるかな?」


「知らんけど」


 知らんけど。そっちの都合ですやん。


「キミを売って、信用値を上げて、ついでにキミを後から助けてキミのバックとも仲良くしたかったのに……」


 舌持ちすぎだろ。カス外交やめろ。


「じゃあ、もういいや。見逃してあげるから、わたしに感謝しておいてね」


「あざーっす」


「……なんなのキミ。知らないタイプだなあ…」


 頭を抱えてうなり始めた。愉快な性格してんな。


「人をタイプに当てはめるのやめた方がいいっすよ。占いとか好きそう」


「いたた…結構刺さっちゃった。この国に慰謝料要求するね」


 ざけんな。


「し、失礼します。ミーナ様、紅茶をお持ちしました」


 どうしたもんかと迷っていると、さっきこの人がお願いしていたおかわりが運ばれてきた。遮音魔法を消す。

 ……運んできた人ビビリすぎじゃね? なにやったんだこの黒シスター。ちなみにネトスのシスター服は青と白だ。


「ありがとう。わたしはこの紅茶が本当に好物なの。貴方が選んでくれたのかしら?」


「は、はい。おもてなし用のものは私が管理しています。お口に合ったのでしたら幸いです」


「とても美味しいわ。貴方のいるこの城が羨ましい。わたしのところなんて本当に最悪なのよ」


「そ、そうなのですか?」


 俺そっちのけで会話が続く。まあ当たり前だが。

 見逃すってのも嘘ではないらしい。この使用人と共に退出してしまえばいい。


 なかなかやるやつじゃねえか。今度からはコイツがいねえ日にしとかないとな。うん。


 大人の世界こわいよぉ~。


「どうぞ。お礼を受け取って?」


「いや、受け取れませんよ!」


 お金がすぐに出てくる。


「あら、やっぱり城での仕事は儲かるのかしら」


「全然…。ってそういうことではなくて、当たり前のことをしただけですから! 気にしないでください」


「そうなのね。素晴らしいわ。貴方のお名前は?」


「あの、ジェシカと申します」


「よろしくね、ジェシカ。また訪れた時は貴方を指名するからね」


 わー、なんて爽やかな笑顔なんだ。惚れちまうぜー。

 黒シスターで間違いないだろこんなん。使用人ちゃんもうメロメロですやん。


 これが外交かぁ……。俺には無理や。

 なんか無視されてるのが悲しいので、ちょっと体を動かす。


「──ッ」


「どうされました? ミーナ様?」


「ぐっ…ごめんなさい……。なんでも、ぷくく、ないわ」


 俺は使用人ちゃんの後ろで踊っている。なんとなくだ。これといった意味は無い。


(このッ……がきんちょ……)


 ぼそっとキレる黒シスターの声が聞こえたが無視した。俺は今踊りたいんだ。

 記憶にある限りのかっこいいダンスを披露している。


「さあ、どうぞ。ユルハクテの最高級品です!」


「え…………?」


 黒シスターの前には紅茶が死刑宣告のごとく差し出された。

 意を決してカップを掴むがその動作が停止する。──ついでに俺も停止した。真顔で。


「…………ッ」


「あ、あの…気に入らない部分がありましたでしょうか?」


 もう片方の手で口を抑える黒シスターに不安そうに使用人の子が声をかけるが、この空間の演出を際立たせてしまいさらに黒シスターはドツボにはまった。


「ごめんさ…い。平気よ。本当に、気にしないで」


 カップが震えている。あんだけ媚び売った相手がいるのに飲まないってのは駄目でしょ。


(ぴっ!?)


 人殺しの目で睨まれた。ババアと同じ香りがするこの黒シスター。ちびりそう。


 ──だが、俺は屈するわけにはいかない。


 奴の唇がカップの縁に触れる。嗜好品の究極とも言える滅多に口にできない美食を逃すわけにはいかないだろう。

 ここでそんなお茶を吹き出してしまえば、先程築き上げた使用人ちゃんとの絆がぶっ壊れてしまう。


「──ッ!!」


 はち切れそうな血管を浮かべながら、黒シスターは飲んでいる。頑張るなぁ。

 畜生。外交官強い。こんな胆力なきゃできねえのかよ。エリートすぎる。


 そんな黒シスターの姿を()()()()眺めながら、俺は自分の動きに集中する。


 ──ブレイクダンス。


 なんか、ブカブカの半袖短パンのやつがやってるような、なんか、そういうやつ!


「かほっ……! ────ッ!!」


 俺の景色は回転している。こんなことをやっているのがバレたらババアに殺されちまう。

 俺も命がけなのだ。


「ふぅぅぅぅぅ……。とても、美味しいわ、ジェシカ」


「良かった……っ。そんなに深く味わっていただけるなんて!」


 まじかよ。これを耐えるやつがいるとは……。フィフに見せたら獣みたいな笑い声を上げていたのに。


 一切表情を変えない鉄のブレイクダンス。その視線も絶対に外さない。結構技術がいるのだ。おのれぇ……。


「ふぅ…、ふぅ…。ありがとう下がっていいわよ」


 あ、コイツさっさと出てけって足で言ってきやがった。んだよテメエが誘ったくせによぉ。

 すげえやりきったって顔してやがる。


「あ、あの! ミーナ様! 実はこの紅茶の特別な楽しみ方がありまして、()()()()()()()いただくと味が変わるのです!」


「──ッ」

「──ッ」


 あっぶねッ!! 俺が吹き出すとこだった。

 一方黒シスターは人生の崖っぷちみたいな表情をしている。すげえ。


「も、もう一度…?」

「はい! これはロルカニアの方式なのですが、あまり知られていないのです!」


 なんか、さすがに可哀想になってきたな。一方的にいじるの。


「かはっ!?」

「み、ミーナ様?」

「大丈夫…。そう、そんな楽しみ方があるのね。じゃあ、()()しなきゃね……」


 俺は再び直立不動で固まった。必死に見ないようにする黒シスター。音が聞こえるくらい震えながら、カップを口に運んでいく。


「うっ────」


 もう涙目になってんじゃん。かわいい。


 顔の位置が一切動かない動きをしながら俺はそんなことを思った。


「げがッ……、くふっ……」


「本当に大丈夫ですか? ミーナ様」


 ──ロボットダンス。


 『しつこい』『飽きた』『本当にやめてほしい』と崩れ落ちたフィフにブレイクダンスを馬鹿にされ続けたことで生まれた最終兵器。

 ロボットダンスという概念が無いこの世界にはすごい奇妙にみえるようだ。けしからん。俺は至って真面目だというのに。


「ぶふううううっ!? エホッ!! ガハッ!! ゲホッ!!」


「ミーナ様!! お召し物がッ!」


 勝った。


「ごめん、なさいっ! ふふふっ!! やめなさいっ!!」

「えっ!? あの、拭かなければシミが…」

「ああっ! 違うのそうじゃなくてっ! ぷくく……このっ…」


 ガキみてえに黒シスターは服をゴシゴシされていた。


「本当にごめんなさい…せっかく淹れてくれたものを……。その、むせてしまって……」


 すごい殺気が来てる。こわいよぉ……。


「気にしていません! ふふふ、こちらこそごめんなさい」


「えっ?」


「その、最初失礼な態度を取ってしまって……。そうですよね。ミーナ様は人間なのに、私ったら…」


「え、ああ、そうね…。そうじゃないんだけど、そうね」


 仲良くなったいいシーンなのに、黒シスターは不満顔である。空気が読めねえやつだな。

 俺のおかげってわけ。


「大丈夫ですか!? 何か!?」

 

 騒ぎが聞こえていたのか、扉前の兵士が入ってきた。ちょうどいいや帰ろ。

 開いた扉からスッと出た。あばよー黒シスター。次会ったらぜってえ殺されるわ。


(いないっ!? なんなのあの子ッ!!)


 そんな呟きが部屋の中からは聞こえてきた。

 全力で離れ、物陰に身を潜める。ほんの小さな欠片を頭の中で反復していく。


 “外交官”

 “ミーナ様は人間なのに”


「はっ…、はっ…」


 激しく鼓動する心臓と冷や汗を鬱陶しく思いながら俺は玉座への道を探した。


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この人間性だけで国王には髪と目の色変えてもバレそう どこまでおちょくりに行けるのか
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