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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
1章:幼少・オリジェンヌ編

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24話 こうなっちまったか


「あらららら? そこ行くとこうやっちゃうよん?」


「貴方は礼節と節度と作法と行儀と全てに気をつけるべき」


 めちゃくちゃピキってるじゃん。がははは。えっ、全てって言わなかった??


 就寝前の自室にて、俺とフィフが遊んでいるのは成金のファビッさんから貰ったエクスローンだ。どハマリした俺はフィフにも強制的に覚えさせて、剣の鍛錬でボコられた後はこれでストレス発散している。


 実力はなんだかんだ初心者同士拮抗している。超級者のファビッさんと遊んだことがある俺のほうが若干有利かな。

 剣馬鹿だと思ってたけど、フィフはこういう頭を使うこともできるようだった。一回俺の思考を読んでるんじゃないかと疑ったら、散歩を断られた子犬みたいな顔をされたのでその話題は禁句にした。


「あのさあ? 降伏って知ってる? 無駄に足掻くよりも次のゲームにいった方が建設的じゃないっすか?」


「最後の一人まで足掻いて復讐心をこの身に刻みつける」


 考え方がガチなんだよね。遊びってことを理解してゆるくやってくれよお前の場合。怖いから。


 実際のところは一局にかかる時間は長くない。

 というのもフィフの戦法はハイパー攻撃だからだ。フィフの攻撃が通ればコイツの勝ち。凌ぐ、もしくはカウンターを決めれば俺の勝ち。

 ガチガチに固めてきたファビッさんよりも早く決着はついて、シンプルだ。まああの人との戦いも嫌いじゃないけど、レベル差がすごくてな。


 最初は同じくらいの実力とやるほうがおもろい。


「あいいいいいいいッ!! 俺の勝ち!! 無駄でしたねぇ! 最後の生き残りもいましぇえん!」


「──リエーニ。私はこの遊びはいつの日にか人間を滅ぼすと思う」


「落ち着きましょ?」


 なんか、剣の柄に手が伸びてない? 盤外戦術だからねそれ。


「もう一回」


「ういー」


 負けた方が次の先手後手を選べるルールでやっているのだが、フィフは開始して即先手を選びやがった。熱いねー。


「…俺が言うのもなんだけどよ」


「何?」


「お前、こういうの遊ぶんだな」


「それはどういう煽り? 盤面整理もできない雑魚が暴れているということ? それとも3戦前のミスを未だに思い出させようということ? 自分も同じような失敗をしているというのに?」


「あのー?」


 そういうとこを言いたかったんだけど……。めっちゃ強めに駒を動かしている。ボディが壊れるから無茶やめてください。


「純粋な疑問な? こういう自分の体を動かさないものでの勝負にはあまり興味が無いと思ってたから」


「それも十分無礼。競い合いは望むところ。……それに“駒を動かすこと”は嫌いだけどできなくはない」


「へえー」


「貴方はもう少し私に興味を持つべき」


 知ったところでなあ。どうせめんどくせえ過去背負ってんだろ?


「私の方は貴方のその格好が見慣れていなくて違和感がすごい」


「あん?」


 今の俺は『上等な衣服を着たお坊ちゃま』みたいになっていた。メイド業務を一旦休止し、普通のガキみたいな食っちゃ寝の生活をしている。


「こうして視覚を使って見てみると、色で人間の印象が変わることを再確認した」


「そーすか…」


「自分のことになると消沈するのをやめてほしい」


 なんだかんだパンピージャパニーズマインドを持つ俺は自分の髪の毛は黒の方が落ち着く。でも今はたまに視界に入ってくる前髪の色を認識する度に溜息が漏れる。


 金髪。鏡を見れば動物みたいな迫力の金眼がある。

 孤児院には綺麗な鏡もなく、水に映る姿も薄くて意識することは無かったが、改めて“俺はリエーニ”なんだと認識させられる。


「俺って男なんだよね……」


「? それが?」


「その……気になんなかったっすか」


「?」


「女装」


「別に」


 そうスか……。そういやコイツ人外でしたわ。


 ──まず言い訳から入らせてもらう。

 俺は別に性自認が女なわけではない。最初はささやかな抵抗でしか無かった。


 “女性の格好を好むおかしな男”。そういう認識を少しでも持ってもらって、『こんな気持ちの悪いやつを引き取るのは間違いだった。孤児院に返してしまおう』とでも思ってもらうことが目的だった。


 だがあくまでそれは俺の世界の、俺の中での浅い認識だったのだ。


 勿論、この世界でも男女差はあるが、認識の差が存在している。

 この世界は女性体が敬われるのだ。例えば『女神』。『シーハルンの女王』。『初代武帝』も女性だったらしい。


 よって、強くなってほしい男の子には女性の格好をさせる風習のあるところもあるらしい。くそが。


 それに、この屋敷の奴らは食わせ物ばかりだった。


 『その姿ならバレなくていいな』と悪ノリに悪ノリを重ねてくるアホども。

 多分、この能力を持っていなかったら、それこそ“籠の中の鳥”にでもなっていたのかもしれない。


 まあ、あとは……。

 なんつーか──()()()()()()()()なのだ。


 だから、この顔の特徴を喜ぶ彼らを想うと、複雑な気分になってしまう。


 綺麗に畳まれたメイド服を見る。なぜか、あちらの時のほうが気分は落ち着いた。

 

 ロルカニア王国のすごい人の血を継ぎ、その特徴を持つ男の子。

 きっと俺は──『ソレ』から少しでも逃げたかったのかもしれない。“反対”になりたかったのかもしれない。


 だって、俺はニホンジンだ。「──────」だ。黒髪、黒目の──。


「王都だってよ…。タノシミ……」


「フフ…」



 ゴミカスが帰ってきた。その時に真っ先に告げられたのは、()()()()()()()()


「王城での面会を取り付けられた。ついにだぞ」


 めちゃくちゃ爽やかな顔でアイツは語った。俺の心を知ることもなく。くそが。


 ついでにフィフの紹介をした。カーティスさんが報告していたので認知はしていたようだが、かなり困惑していた。


「私は貴方の意志に従う」


 見慣れてきた盤面を見ているとそうフィフが言った。


「ん?」


「望めばいつでも人間も魔族も斬殺する力が手に入る」


 こえぇよ。なんかマイソードが最近重い。


「いらねえよ」


「本当?」


「ホント」


「恥ずかしがらなくてもいい。貴方が私を愛用していることは理解している」


「──は?」


 マジで調子に乗ってきてやがるな? 無機物がよ。


 それというのも、王都に行くことになって当たり前の話だがカーティスさん達とは離れることになる。滅茶苦茶苦労して築いてやった関係を崩すのは面倒だったので、全力で抵抗した。

 しかし、カーティスさんはクズゴミカス付きの従者であり、ババアとジジイも俺がここにいる間までの契約だったらしい。


 ……王都での話がまとまった後、なにか礼をしとかなきゃなあ。


 ──ってちげえよ。目の前のゴーレム・ザ・リッパーが調子づいている理由だ。


 護衛としてこれからもこの状態で同行させたいとゲボ野郎にお願いしたのだ。剣の状態でもいいのではないかと言われたが、断固拒否した。

 動きやすさが段違いなのだ。もちろん俺の消費を考えなければならないが、俺が使用人を持つようなことがあれば、一々疑うよりも話が早い。


 それに今となっては『メイドのリエーニ』という隠れ(みの)は便利だ。姉とセットで行動するのが違和感がないだろう。いざとなればババアのトラウマであるゴーレムちゃん1号を作ればいい。


 そういう交渉だったはずなのだが。


「大丈夫。人間とはそういうもの。貴方がいくら倒錯的な外見で獣の言葉を喚き散らす意味不明の存在だとしても、所詮は人間の幼体。温もりを求めてしまうというは当然」


「何が温もりだよ硬度3。最近朝起きると肩が痛えんだよ」


 コイツの目には母親と離れたくない駄々っ子に見えたらしい。くそくそくそがよ。


 すると、言動に気を取られている隙に、フィフが格好つけた動作で俺の重要な駒を取りやがった。


「油断。貴方の陣地は死んだ」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


「うるさすぎる」


 やられたあああああ! 試合中の盤面を見れば、俺の駒が食い尽くされていく。コイツいっちょ前に捨て駒とかやってきやがって。釣られたッ!!


「死死死死死死死死死」


「無駄。私には肉体が無い。呪詛で殺せはしない」

 

 まじっすか……。


「『無駄に足掻くよりも次のゲームにいった方が建設的』」


 ────。


「『そこ行くとこうやっちゃうよん?』」


 ────────。


「フフ…。『無駄でしたねぇ! 最後の生き残りもいましぇえん!』」


 あれ? ぼくのなかまがいなくなっちゃった…。どこ?


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


「フフフフフっ……」


 下手くそな人のモノマネしやがってよ! どこで覚えたんだよそんな盤外戦術!


「うっ…。うえっ……、ううううううううううううぅぅ……」


 もう駄目だ。俺は無機物に敗北した人間だ。死のう。


「フフフ、どう、やってるのその大泣きッ…。それやめ、アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 ……ウケすぎやろ。

 普段はこの世の全てが苦手みたいなローテンションのくせに、テーブルを叩いて表情を崩しまくってやがる。


 王都への出発は明日だと言うのに、俺達は徹夜した。やべえ…身長伸びなくなりそう。





「なんだその顔は」


「変わりなく。いつも通りです」


 翌朝、目に隈を作りながらバカ野郎にそう返す。呆れたように溜息をつきながら、クズゴミは玄関を出た。


「それではリエーニ様、いってらっしゃいませ。初の王都をよく見てきてください」

「あまり喋らないようにしたほうがいいですぞ」


 ババアとジジイが送り出してくれる。ジジイは後で殴る。

 力無く返事をして馬車に乗り込む。御者はカーティスさんが務め、アホ坊っちゃんと俺、フィフが向かい合うように座る。


「しかしまあこんな珍しいものをよく拾ってきたものだ」


 ゲボナスはフィフをまじまじと見つめる。フィフは目を閉じて冷静にしているように見えるが、コイツ、スリープモードにしてやがる。俺のメイドやる気なさすぎだろ。俺も寝よっかな。


「たまたまね。おもろくてお気に入り」


「ゴーレムの従者とは、学者も驚くな…」


 近況の報告、この間のカメレオン襲撃のこととか、ヴィクトリアのことなどを話しながら時間は過ぎていった。


「で? 俺はどうなんの?」


「証明書も取った。国王との面会も叶った。安心しろ。お前は晴れて王族だ」


 おえっ…。なんかいやだな。


「そんな顔をするな。家族のところに帰れるのだぞ? 祖父である国王陛下にも会える」


「王族ってそういうもんなの? アットホームな感じしないんだけど」


「どういう思考回路なんだお前は。本を読みすぎたか?」


 結構事実だと思うんですけど。まあ、8歳くらいの考えじゃないか。


「最初っから親がいないとそれに慣れるもんすよ」


「……。しかし、寂しくは思うだろう? 同世代との比較や、世間の家族というものの定義を知れば」


「ノンデリ野郎……」


「お前はそんなこと気にすまい」


 まあ、はい。こんなんでもガキじゃないんでね。


「どんな奴なのかなあ、ってくらいには思うかな。オヤジとはいつからの知り合いなの?」


「アイツとは家の付き合いで会ったな。夕食会だったか。それはもう酷かったぞあの頃のアイツは」


「まじかよ」


「…お前が言えたことではないがな」


「は?」


 そんなこんなでダルンの過去話に付き合うこと半日。王都に到着した。


(でけえな。階層型の計画都市)


 今回は小窓付きの馬車だったので、ちょっと外を覗くと巨大な都市が見えてくる。

 城壁が何重も建てられ、ここからでも見える中心の建築物が宮殿かな。わかっていたことだが西洋風だ。日本だとあのテーマパークでしか見ねえような作りだ。


 住人達の特徴は労働階級って感じ。活気はあるけど疲れが見える。

 食料を運んでいる荷車が大量に行き交い、商人たちが店で販売している。


 さらに都市の中心に近づいていくと、昼間から食事を楽しむ婦人たちの姿が見えてくる。この世界でも世間話に花を咲かせるお姉様方がいるっぽい。

 ここらへんは中流って感じか。軍人や自営業、職人が多そうだ。


「魔王の使いが──」

「怖い──」

「でも──」


 耳を澄ませば、そんな噂ばかりが聞こえてくる。カメレオン襲撃の落とし前をつけるために、魔王はちゃんと外交官を派遣したらしい。まだオリジェンヌには来てねえな。どうなることやら。


「魔族が謝罪してきたってマジなの?」


 王都の風景に気を取られる俺を気持ち悪い顔で見ていたバカアホに訊いてみる。


「聞こえたか。どうやら事実らしい。賠償も行うとのことだ」


「へー。ブレイブハート家がキレ散らかしそうだけど、どうなん?」


「当主のジーク卿はそこまで短絡的な方ではない。怒りはあるだろうがな。私も個人的には受け入れがたい。……しかし、ちゃんとアンリーネの教育は機能しているのだな」


「お褒め頂きありがとうございます」

『舐めんな殺すぞ』


「はあ……。一番直して欲しいところは駄目だったか」


 てめえが強制したことだろうがよ。何時間ババアの小言を聞いたと思ってやがる。態度だってやりゃあできんだよ。カスが。


「──お子が──」


 ん?


 俺達の乗る馬車が宮殿に近付き、大きな建物が多くなったのだが、聞こえてきた噂話の種類が変わった。


「証明も完璧で──」

「尊い色も──」



 んー?


 多分貴族達の会話だと思うんだけど。魔王の使いについてとは別に引っ掛かる単語が聞こえてきた。


「なあ、俺のことって……もう発表したの?」


「発表? まさか。繊細な問題なのだ。今日一日で決まるものではないぞ」


「そうっすよね……」


 では聞こえてくるこの不穏な言葉はなんじゃろな?


()()()()()()()()()ちゃんと後押しを──」

「ルクレヴィス家のダルン様も王都に戻られて──」


 ええっと……?


「私も見ましたよ。綺麗な金髪と金眼でした。尊き血は顕在で──」

「わたくしも見ました。容姿も端正で──」


 うわ、()()()()


 俺の脳内にはファビッさんの言葉が思い出される。


『王都では注意しなさい。人間の敵は魔族だけではない』


 あんの成金め。知ってたな?


 俺は自分の髪を茶色に、眼を緑色に変えた。


「どうした?」


 確かにこのゴミカスは政治下手くそだな。いや、今この状況じゃどうしようもないか。

 それに俺が金髪金眼の状態で滞在していた村もあったわけだし。そこから広まるのは当たり前だ。


「ハットリューク王子の子供が見つかったという噂があちこちから聞こえるんだけど、心当たりはある?」


「なにっ!?」


 カスザコの慌てようは凄まじいものだった。マジでやられたな、こりゃ。(たち)わりい。


「なんかもう俺に会ったことがあるって連中がいるんだけど」


「馬鹿な……。そんな、ことが……」


「カルクルール家が後押ししたって…」


「あの害虫どもがッ!! くそっ!!」


 国の公爵家を害虫呼ばわり。やっぱやべえところなんだな。俺は噂でしかしらないけど。


「どうする……? くっ……何故…」


 なんかもう見てらんねえんだけど。黙り込んだコイツを尻目に小窓を見ると、城門に入っていくところだった。


「……国王への面会ってどんな内容なのか言ってあるの?」


「ああ……。ちゃんとした伝手を使ったのだが……。証明書も既に提出している……」


 ちゃんとしてなかったねえ。


「まとめておきたいんだけど、アンタは利用されたってことでいい?」


「…………」


「おーい」


 頼むよお坊ちゃん。気持ちはわかるけどさ。

 表情は青褪(あおざ)めて、目には絶望が宿っている。やられちまったもんは仕方ないだろ。


「俺は出ていかねえぞ。アンタだけ面会してやり過ごして──」

「それは駄目だ」


 おい。なんでやねん。


「言わせて貰うけど、今この状況で俺が『ただいま』しても、通用するわけ無いだろ」


「お前は、アイツの息子なんだぞ?! そんなことがあっていいはずがない!」


 少し冷静になれよ。


「俺はアンタを信用して、できるだけ従うことを決めている。でも、──()()()()()()()()()


「────ッ!!」


 卑怯だとは思ったが、ここまで言ってやっと落ち着いてくれた。


「俺の中にはもうアンタだけじゃなくて、皆の意志が宿()()()()()()()。カスみたいなことをして自滅なんてできない」


「リエーニ……。ああ、そうだな」


 やっとダルンの目には光が戻ってきた。マジでしっかりしてくれ。


「ダルン様、まもなく到着します。……どうかされましたか?」


 御者台の方からカーティスさんが顔を出し、到着を伝えてくれた。俺とコイツの剣呑な雰囲気を感じ取ったのか、臨戦態勢となっているようだ。


「カーティス。宮殿へは俺一人で行くことにする。リエーニを頼む」


「! は!」


 俺とついでにフィフは透明化を使って姿を消した。


「……私はここまでの屈辱を知らない」


 そうダルンは絞り出すように呟いた。


『まあドンマイ。“リエーニ”によろしく。いや、名前は違うか。まあ俺よりもできるやつだったら文句はねえだろ結局』


 風声で皮肉交じりに返事をする。カルクルール家はハットリューク王子の子供を用意しているはずだ。

 一体どんな奴なのかね。少なくとも年齢は同じはずだよな。ちょっと被害者の会作れそうで親近感。


『誰がなんと言おうとお前がアイツの息子だ』


 到着し、馬車から降りる時に風声でダルンはそう言ってきた。こだわるなあ。


 振り向いたザコザコマンの顔には心が張り裂けそうな悲しい色と燃えたぎるような怒りの色が宿っていた。

 

 だから、お前の顔は子供に見せるもんじゃないんだってば。


『先程までのやり取りで、確信した。──()()()()()()()()()()()()()()()


 重いんだって……。


 俺は答えられる言葉を持ち合わせていなかった。


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