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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
1章:幼少・オリジェンヌ編

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13話 足音


 四つ?


「見るのは三つと言っていませんでしたか?」


「そうじゃよ? でもおんしは“二つ”おる」


 あ? バグか?


「それらしいことを言って惑わす魂胆でしょうか?」


「本当に知らんかぁ…。どういうことなんじゃ」


 いや知らねえよ。


「そうじゃのお…。『暗君と暴君』じゃ」


 妖怪の瞳が怪しく光った気がした。それは好奇心に似た何か。探究心だろうか。

 探らなければ気がすまないといった感じだ。


「さっきのを暗君、つまり何もしない王だとすると、四つ目は暴君。絶対的な支配を好む暴虐な存在よ」


「どういう?」


「…アタシから言えるのは一つだけ。()()()()おんしじゃ」


 どっちも嫌だわ。あやふやで当てにならん。


「ふぇふぇふぇ、何かこの世に触れた気分じゃわい」


 良かったのう。


「ちなみに聞いてよいですか」


「言うてみい」


「ばあちゃん何歳なの?」


「ふぇっふぇっふぇ」


 ひえっ……。こわいよぉ…。





 帰り道、俺は考え事をせざるを得なかった。


 両親の件はまあ、大方予想通りだ。父の姓はサルヴァリオン。つまりは王家だ。そんで母の姓はハピフクス。確か旧家十家に入るこの地方で有名なところだったはずだ。

 

 勉強してたらわかる。金髪と金眼は尊き証。王家の特色。中でも音や光などの波を操ることができるのは、直系の証だ。


 オリジェンヌの屋敷で、ババアはちまちまと俺に教えてきたわけだ。ジジイは力の制御方法を。その昔、力を制御できずに発狂して死んだ王子がいたらしい。こわいねえ。


 で、まあ俺は捨てられた。年齢を考えて終戦間際の派閥争いで何かあったんだろう。父の名前は今の王家には無かったはずだ。死んでんだろうな…。

 母はわからない。目の前のゴミ野郎は何かを知っているだろうが、こちらから話を振る気にはならない。


 そんで今考えるべきは“暗君と暴君”だ。


 俺は突然この世界にいた。別の体で。それはつまり誰かの肉体に入り込んだというわけだ。

 それが本人が二つあったことの説明となる。


 どうして? それがわからない。思考しているのは俺だけだ。意識は俺だ。眠っている間に活動している気配もない。暗君を俺だとするなら、暴君が『リエーニ』となるのか?


 どちらも俺。そうあのインチキは言っていた。よくわからない。


 この俺の状態が、この世界にやってきた“理由”なのだと思えてならない。


「知りたいか? 両親のことを」


「え? あ、ああ」


 意識はカス野郎の声で現実に引き戻された。ぶっちゃけ両親の方は俺自身からしてみればふーんって感じだ。捨てられてた理由もなんとなくわかったし。興味はあんまない。


「お前の父親とは友人でな。昔から仲が良かった」


 まあ、想像の範囲内だ。公爵家なら王家と近い位置にいたことも納得できる。


「常に“意味のない王族をやめたい”とグチグチ言ってる奴でな。根は真面目だから公務はちゃんとやっていたが」


 しゃっきりしろよオヤジ。不思議な感覚だ。俺にとっては関係の無い人物のことなのに、どこか親近感を抱いてしまう。

 クソが。あの妖怪インチキババアの話なんかまともに聞くんじゃなかった。


「……俺の習った王族の中にそんな人物はいなかったぞ」


「……アイツは死んだ」


 だろうな。

 …なんつー顔してんだよ。俺相手に油断しすぎだろ。いい年した男がよ。


 一応、聞いてみるか。


「戦争で死んだのか?」


「ある意味ではそうだ」


「……」


 酒が欲しいな、と愚痴りながらダルンは触りだけを語った。


 まずこの国「ロルカニア」には国王がいる。今ではその権力を振るっているが、大戦前は違った。

 

 終戦まで、人類をまとめていたのは『ネトス教』と『武帝』と『シーハルン家』という三つの勢力だったらしい。


 『ネトス教』。


 俺のいた孤児院を設立した女神を崇める宗教勢力。

 各地に存在する教会は“女神の口”と呼ばれている。それは女神の声を聞いた巫女が人々を導いた場所であるから。


 “女神の導きによって人類を発展させる”


 それがネトス教の教義であり、目的だ。女神の声を聞いた巫女の進言で、為政者(いせいしゃ)が動き、文化が生まれ、道具が作られた。


 魔族討伐へ動くのも納得だ。人類を発展させるためなのだから。武器を人類にもたらし、戦わせ死なせた女神。


 結果は、俺が遊びに行ったオリジェンヌの教会を思い出せばわかる。女神の声はもたらされることは無くなり、人類は魔族に“敗北”したのだ。

 今や多くの信者を失い、教徒達は聖都に引きこもっている。



 次に『武帝』。


 これは武帝国に君臨する皇帝個人を指す。

 武帝を中心に形成された組織がいつの間にか国となったのが武帝国だ。武力を示すことで成り上がるシステムで構成されていて、正直、組織形態としては機能していないと思う。


 武帝の一声で国が動く。武帝の一声で国が消え、国が大きくなる。そういう発展を遂げてきた国だ。


 “世界の頂点となる”


 それが武帝の宣言だった。その矛先は他国から魔物に、他種族に移っていった。武帝に従うのが帝国民なのだから、魔族とぶつかるのは必然だった。


 武帝とは引き継がれるらしい。おそらく、その時の武の頂点が継承し君臨するのだろう。

 そんな現武帝は人類連合軍を率いて大戦を駆けていた。


 そして、──死んだ。

 

 原因は不明だが、突然死だったらしい。おそらくは病気。武帝が次の武帝を決める前に死亡することは初めてであり、武帝国は大混乱に陥った。


 そんで、まあ、戦国時代に突入したらしい。乱世乱世。笑える。



 そして、『シーハルン家』。


 ここが一番関わる話。この国が存在する大陸の西方に、大渦に囲まれた島があるのだが、そこに住まうのがシーハルンという一族だ。


 わかりやすく言うと平安時代の藤原家。十六世紀ヨーロッパのハプスブルク家。その人類界版。


 女系の一族で、各国の王は即位すると“シーハルン島を訪れてそこから妻を(めと)る”という風習があるらしい。


 つまり、世界中の女王はなんちゃら・シーハルンという名前の女性が務めるわけだ。

 そしてやばいのが、“必ずシーハルン家の嫁を正室とし、その間には一切跡継ぎを設けてはならない”、という取り決めも存在する。


 つまり、国王が死んだとしても後継者は側室の子が継ぎ、また即位後にシーハルン家から正室を迎えるのである。


 なんらかの理由で後継者がいなかった場合、妻であるシーハルン家の女王がその国に台頭することになるのだ。


 さっきゴミカスが俺のオヤジが放った愚痴について言っていたが、“意味のない王族”はここから来ているのだろう。


 これまでの話を聞いて眉をしかめた諸君。安心してほしい。問題にならんわけがない。

 とある国では国王が女王を追い出したこともあるし、即位後に嫁さんを貰いに来なかったヤツもいたらしい。


 そんで、そいつらの国は()()()

 考えても見てほしい。その国の周りにはシーハルン家の女王がいるわけだ。綺麗な包囲を形成されて、しっかり分割されたらしい。


 無茶苦茶なことをやっている家だが、実をいうと民衆からの支持は厚く、貴族諸侯との関係性も悪くは無かった。

 記録をジジイの持ち込んだ本で読んだが、シーハルン家の女王が治めている期間の方が安定していると俺は思った。だいたいクソ貴族と王子が台無しにしていたが。


 “絶対の存在による統治”


 それがシーハルンの掲げていたものだ。優生思想の極地とも言える。


 そして、安定化の為に人類に攻撃的な魔族を警戒するのは当然のことだった。連合軍の発足はとても簡単だったろうな。

 国際連盟の会議の場に同じ苗字が過半数並んでいるのを想像してみてくれ。


 大戦は人類の優位に進んでいた。これは客観的に知った後でもそうだと思った。

 しかし、そんな人類の進撃はある事件をきっかけに止まったのだ。


 シーハルンの女王達が次々と死んだ。原因は、病気、毒、発狂、呪い、自殺など。怪事件すぎる。まだ生きている人もいるらしいが、殆どが精神を病み表から姿を消した。


 かく言うこの国の女王も引きこもってしまって、一切姿を見せなくなったそうだ。


 シーハルン本家も連合との連絡を絶ってしまった。


 その後、何が起こったか?


 ()()()()()()()。くっだらねえ。


 “終戦間際の混乱”とはこのアホすぎる権力闘争による人類側の自爆のこと。


 女神の声が消え、武帝が死に、統制を失い、人類がゴタゴタしてるときに来たのが、現魔王「アルテ・リルージュ」だ。

 何が休戦条約だ。人類は()()()のだ。


 そして、この国は国王が引き籠もった女王から権力を奪い、今に至る。


「混乱のとき、真っ先に戦争の休止を提案したのが、お前の父だ」


「…………」


 ああ、そうだよな。会ったことがないけど、間違いなくソレは俺のオヤジの話だ。


「本当に、タイミングが悪かったのだ…。まだ戦意は衰えず、アルテ・リルージュが出てきていなかった。私も…戦地にいた、のだ」


「じゃあ、オヤジは…」


「オヤジ……。お前の祖父である現国王を、お前の“オヤジ”もそう呼んでいたよ」


 国王がじいちゃんだったのかよ。ガチの直系やんけ。嘘やろ?

 いや、でもいっぱい側室がいたから子孫は多いはずだよな? セーフ?


「で?」


「……“疲労から宮殿の階段を踏み外し落下死”」


「……」


 まじかよ。


「意味は、()()()()?」


 怒りに震えるカス野郎の表情は、憎しみで埋もれていて、醜かった。

 だから、ガキに見せちゃ駄目な顔だって言ってんだろ。


「……目星はついてんの?」


「今、王の周りに(たか)るゴミ全てだ」


 わあ…。ぐっちゃぐっちゃやんこの国。


 こりゃあ、王家の血筋見つけました! で終わらないんだろうなあ。


「…あの時点では王家の力は弱っていなかった。あそこでこの国だけでも止めていれば、ここまで失墜することはなかっただろう。アイツは、正しすぎた」


 でも、それが嫌な連中がいた。疲れ切った国を支配するために。戦後を見据えていたのはどこも同じ。違いがあるとすれば、立場だけだった。


「アンタは俺をどうする気なんだ?」


 俺ははっきりと問い掛ける。


「お前をいるべきところに返す。それが唯一アイツにできる私の恩返しだ」


 そうか。そういう感じか。


「わかった。信じる。お前じゃねえぞ。顔も知らない父をな」


「……ッ! リエーニ…。ああ、必ず」


 正直、コイツの独りよがりな行動だと思う。俺の居場所はあの孤児院だったからだ。


 だがまあ、今はそこだけじゃ無い。半年も一緒にいれば情くらい湧くだろ。あの期待は裏切りたくない。


 父親かぁ…。こっちでは生きてて欲しかったなあ。


「そういや母ちゃんはどんななの?」


「ああ、名前は『ハディア』。アイツには勿体ないくらいできたお人だったよ。名家の出だからな」


「ハピフクスだっけ?」


「この国よりも古い家系だぞ。いざとなれば、お前は外国に行ける」


「ここの言語だけでいっぱいいっぱいだよ」


「そうか…。彼女は、お前の父が殺された後に、すぐさま宮殿を脱出したらしい。彼女の部屋は護衛と襲撃犯の死体が残されていた」


 血みどろやね。いやガチで怖いよ今。


「すまないが、生きているか死んでいるかもわからない。お前のいた孤児院周辺は洗ったのだが駄目だった。彼女の生家は今この国とは仲が悪くてな。調べられずにいる。お前を放って匿われるような方ではないはずだが」


「なんとなくだけど、生きてると思う」


「そうか」


 俺の頑固な部分がオヤジなのだとすれば、ちゃっかりしてるのがオフクロだと思う。


「会いたいと、思うか?」


 少し遠慮がちに野郎は聞いてきた。


「まあ、会って一発お見舞いしてぇ気はあるけど」


「お前…実の母親にも…」


「会うときはそのうちに会うから、別に探さなくてもいいよ」


「…………」


 “お前をいるべきところに返す”か。そのためにどれだけ自分を消費する気なんだよアンタは。


 ──会話が終わった。よくわかった。よーくわかった。

 この世界はマジでクソだ。


 目を閉じて、車内の壁により掛かる。

 一定のリズムで回る車輪の音。ビュリューの息遣い。それらが俺の中に入ってくる。


 更に遠くに耳をすませてみれば、風に揺れる草木の音や鳥の鳴く水辺の音。ストレスがやばすぎて最近生み出した、マイヒーリング法である。


 ああー、大自然に癒やされる。たまに肉食動物が肉を引きちぎるグロい音が聞こえるけど。


(────?)


 うとうとし始めた頃に、なにか違和感があった。


 なんだ?


「どうした?」


「いや、寝ぼけた」


「はははっ、主人を前にうたた寝か?」


 上機嫌じゃねえかクソ野郎が。いや、どうでもいい。


 それは馬車の進む方向から見て右後ろの方。見晴らしのいい()()だ。

 

 でも、そこには、その部分にだけ“音が無かった”。


 俺の感覚で直系三メートル、高さ五メートルくらいの筒状の空間。そこには一切の音の波が存在していなかった。


 馬車が進む関係で、俺の感知できる範囲から離れていくがそれは、ゆっくりと移動していた。

 やがて俺の感知では届かなくなる。


(御者は何も言わなかった。通行人だった? わざわざ音を立てない通行人? バカが)


 つまりは、()()()()()()()()()()()()()()のだ。


(遮音魔法と透明化。なんでだ? それにサイズ的にもでかすぎる。力の無駄だ。そのせいで俺にバレてるわけだし…)


 いや? 違うのか?


 何か知らない感覚が、ぞわりと体を走り抜ける。



 ──『ソレ』にとってはあれが最小のサイズだったんだ。



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