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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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99話 アフターグロリアス


 何かを教育する人物は、教え子以上にその知識を有していなければならない。


 俗説ではあるが、創造主よりも優れた創作物はいないのだ。


 古き魔族バルファクトは改良型不死騎士の作成者である。


「本当だ……! 本当にあの方の剣だ!」


(──この相手、かなりできる……っ!)


 ならば、その戦闘技術は不死騎士よりも優れているのである。


 黒き槍を手慣れた様子で振り回し、バルファクトはヴィクトリアに迫る。


 地獄の太陽の熱をものともせずに、ヴィクトリアの領域に侵入してくる。


「どうやってかなァ? どうしてかなァ? 稼働年数から考えてキミはあの方と会えるわけがない」


「…………!」


 両刃が両端に付いた、扱いにくそうな槍を踊るように振り回しながら、バルファクトは肉薄してきた。


「興味は尽きないけど、一旦置いておこうか。くふふふ、キミがあの方の一刀を真似たのだとすれば、その特徴も一緒というわけだ」


 バルファクトが接近した理由は、距離と高さを超えてやってくる一撃を封じるためだった。


(この一つ目の女は、この剣技を知っているの……?)


 ヴィクトリアの放てる一刀は、空間を超越する。

 しかし、その攻撃自体は振るったものと同等になる。


 つまり、振るった攻撃の座標を変えて、斬撃を遠くに出現させているに過ぎない。


 極論ではあるが、その軌道と座標を読み切ることができれば、剣で受けることは可能なのだ。


 だからこそ、バルファクトはあえて近づき、その一刀をただの攻撃と変わらないものにしたのである。


「さあ、どうするのかねぇ?」


 その対策のためにヴィクトリアは超高温の空間を作り出し、獄炎を纏うことで相手を遠ざけようとしていた。


 それすら気にせずに接近でき、槍を使いこなすこの敵の技量が相当高いのだ。


 真っ黒なシルエットの女の、一つ目だけが、生物のようにぎょろぎょろと動いている。

 その体の周囲には羽根が散るように、黒い霧が広がっていた。


 その霧は生き物のようにバルファクトの周囲を漂っている。大きな外套(がいとう)のようだった。


「ふふふ……」


 そして、獄炎の剣と黒き呪いの槍の打ち合いが続く中で、バルファクトが突然大きく息を吸い込み吐き出した。


 吐き出された息には、呪いが混じっていた。


「……? ッ!!」


 何かを察知したヴィクトリアは纏う炎の出力を上げる。

 そして、周囲の黒い霧を打ち払った。


「あっはっはっは! 正解サ!」


 それはバルファクトが持ち込んだ“呪い”だった。


「先生方! ここからできるだけ離れて下さい!!」


「ぐ……すまぬ。少し動きが鈍くてな」


 振り返った先にいるのは支えられながら立ち上がるグスタフとそれをフォローする他の教師たち。


 そして、そのグスタフを追う特化型の不死騎士だった。

 撤退しようとするグスタフをその騎士は執拗に追いかけ回していた。


「……う? これは……」

「か、回復魔法を……!」


 そして、その援護に来ていた教師陣が体の不調を訴えた。


 だがそれは回復魔法では癒せない呪いだ。


「あっはっはっは! 不正解サ! ……!? おっとっと」


「火傷するかもしれません! 失礼します!」


 笑うバルファクトをなんとか蹴り飛ばし、ヴィクトリアは太陽の出力を拡大した。


 そうすることで、教師陣の中に入り込んだ呪いはなんとか殺しきった。


「器用だねぇ……。だが、だが、というやつサ」


「なんてものを……」


「『スリヴシオ』というんだ! 褒めてくれると嬉しいなぁ!」


 バルファクトがこの場に持ち込んだ呪い。


 それは肉体の内部に侵入し、内側から機能を破壊する呪いだった。

 意思を持ってそれらは行動しているのである。


 ()()()()()()()()()()()()()()

 その定義に沿うならば、それは『魔物』だった。


 極小の人の目には映らない生物。それが呪いの正体だ。


 ────『細菌兵器』。とある世界では、その魔物はそのように名付けられている。


破壊剣(エルヴァリス)と一緒だねぇ。キミ()()が強い」


「…………」


「あっはっはっは! その無口もあの方から学んだのかな?」


 バルファクトは黒い鳥の羽のように影を広げた。

 そして、そこから舞う羽根が周囲の生物を攻撃していく。


 悔しいことに、槍を構える醜悪な魔族の姿は様になっていた。


「最終的に生き残るのはキミだけになるのサ。強いって言うのも悲しいねぇ~?」


「────」


 人間の宿敵たる魔族。それを相手にしていても、ヴィクトリアは力強く剣を構えた。



◆◇


 

 ──学園都市の壁内、その学園校舎前の広場にて、トーリアは不死騎士と向かい合っていた。


 彼女は不死ではない不死騎士の対策などとうに終えている。


 “圧倒的だ”とミゼリアは思った。


 トーリアは普段の気の抜けた雰囲気を消し、小さくも凶悪な鈍器を振り回している。

 相手の不浄なる騎士はその攻撃に対応などできない。


 トーリアの使う浄化魔法を真似しても意味はなく、作用する力を操る魔法を扱えるほど不死騎士の性能はよくなかった。


 不死騎士が力を反転させる【ギャハ・ベクトー】を使おうとしても、トーリアは【ボック・ベクトー】を使い、力を増幅させる。

 そうすると【ギャハ・ベクトー】は暴走し、不死騎士は自壊した。


 逆に【ボック・ベクトー】を使っても、トーリアは完璧に【ギャハ・ベクトー】で反転させたのだ。


 それは熟練度、または適正によるもの。


 女神に『そうあれかし』と定義されたトーリアに、新参者が敵うはずがなかった。


 改良された不死騎士たちはかなり強力な存在となっているが、聖騎士のトーリアにとってはむしろやりやすい相手だった。


「【清浄大槍(ライン・クリアランス)】!」


 トーリアの左手に持った円形の盾が、白き大槍を作り出す。


 それは巨大な槍状の光だ。

 だから、()()()()()()()何も起こさない。


 トーリアがその大槍を投げ放つ。

 それは壁も建物も貫通し、遠くで学生たちと戦う残りの二体の不死騎士を光で包んだ。


「何!?」

「浄化魔法……?」


 多少の傷を負っていたクシャルナとブラルタは、安心したような顔をした。


 通常型ならば一撃で消滅する浄化魔法の槍を受けても改良型の二体は健在だ。


 そして、最優先目標を設定し直す。──つまり、トーリアの方へ向かっていくのだ。


 それこそが生存を優先するがあまりにできてしまった改良型の弱点だった。


「よいしょー!!」


 三体の不死騎士に囲まれても、トーリアは余裕の動きを見せた。

 ミゼリアが観戦していられるほどだ。


 近づけば浄化の光に焼かれ、遠くからの攻撃は反射される。


 詰んでいるというのに、不死騎士たちは設定された行動により、逃亡できない。

 どれだけ改良されようとも所詮は空洞の人形だった。


「はいっ!」


 不死騎士の鎧を凹ませ、破壊し、浄化し続ける。

 トーリアはそんな働きを見せる。


 しかし、戦士として戦い続けるトーリアの精神は傷つき、摩耗していた。


(ここまでトラウマになっていましたか……)


 生徒たちの手前、余裕そうな声を出しているが、なんとも演技臭いものだった。


 浄化魔法を受けても立っている赤と黒の鎧が目の前にあるだけで、かつての殺戮場の記憶が蘇る。

 

 対面してみて理解した。

 あの時の鎧と、目の前の鎧たちは違うのだと。


 最初に戦っていた不死騎士が明らかに動きが悪くなっている。

 もう魂のストックが尽きかけている証拠だ。


 あの時の不死騎士はそもそも効いていなかった。動きが悪くなるどころかどんどん洗練されていくバケモノだった。


(良かった。これなら……私は……戦えそうです)


 体は相変わらずよく動く。しかし、心は凍りつきそうだった。


 手に持つことすら苦しむようになった武具を持つことができたのは、あるきっかけがあった。


 それはある変わり者の少年が企画した演劇だった。


 評判がよく、彼とは知らぬ仲ではないので、トーリアも興味半分でその舞台に行ってみた。


 だが、彼女が最初に見たのは三回目の公演だった。


 それはある少女が全てを殺し尽くすという、筆舌に尽くしがたい狂気の物語だった。


 戦いに絶大なトラウマを抱えるトーリアは何度も舞台の途中で退出したくなった。

 しかし、その物語には引き込まれるなにかがあった。


 戦いを、怒りを賛美しながらも、それを否定するような矛盾した演出。

 見る者は絶望に落とされながらも、何故か見届けようと思ってしまう。


 そんな魅力があの世界にはあった。


 放心した状態で見終えたトーリアが見たのは、“明日が最後の物語になる”と、意味のわからない説明をする少年だった。


 だがまあそこまで見るのなら見てやろう。


 そんな偉ぶった態度で見た次の物語は、トーリアの中の何かを破壊した。


 物語が変わるという現象。あり得た未来を想像させる構成。


 それは女神にたった一つの未来を設定された彼女の価値観を木っ端微塵にした。


 戦わずに選び取った未来。殺さずとも突破できる苦難。


 確かに、あの世界は空想だ。

 だがあの瞬間にあの少女たちは存在したのだ。


 そして、だからこそ、戦いを捨てたはずの戦士がこうして戦うことを選べた。


 “一度失った役目はもう戻らない”。


 そんなことはなかったのだ。

 たとえ設定された運命、魂であろうとも、やり直すことができるのだ。


『先生! コンル・クリアランスを唱えることはできますか? 私の力で増幅できそうです!』


「おや? それはまた……」


 動きの鈍った不死騎士を吹き飛ばし、次の攻撃を受け流しているトーリアに少女の声が届いた。


 それは純粋無垢な『最後の妹』の声だ。


 その意図を理解したトーリアは優しい微笑みを浮かべた。

 あの妹はあの演劇で主人公となった少女と似ていた。


 ならば────“自分は白騎士になりたい”と、なんとなくトーリアは思った。


 メイスを地面に叩きつけ、白き光の魔法陣を展開する。

 それはトーリアを中心にして広がり、自身の消滅を恐れた不死騎士たちは近付くことができない。


 遠距離攻撃でトーリアを攻撃しようとするが、トーリアは防御魔法をさらに展開した。


 これは鉄壁ではあるが攻撃方法を失うので、滅多に使わない生存重視の戦法だった。


 だが、ある特殊な能力を持つ姉妹が存在することで、それは退魔の力を得る。


『“我らが世界に在る魂よ”』


 聖なる結界を完成させた聖騎士が祈りを唱える。


『“醜く、歪み果てたその心よ”』


 それは最も基本的で強力な浄化魔法だ。


『“我ら同胞の祈りを以て、浄化せん”』


 それが王の因子により、力を増幅される。

 トーリアの声が大きくなり、浄化の波動が強化される。

 ミゼリアが周囲の音を閉じ込め、その詠唱が反響する。


 折り重なった浄化魔法が、不浄なる魂たちをあるべき姿へと還す。


『【コンル・クリアランス】』


 眩い白き光が世界を包む。それは街全体を包む勢いだった。


 不死騎士たちはそのストックを失い、音もなく消えていく。

 黒き騎士は輝きの中で灰となっていった。


「ふぅ……。やりましたね、ミゼリア。助かりました」


「はい! 私こそ助けられました! ありがとうございます!」


 駆け寄ってきたミゼリアの頭をトーリアは優しく撫でた。


 それはとても慈しむべき光景なのだろう。


 女神の遺産たち。

 設計された人間。

 この世界の人間とはまた別系統の生物。


 ただ消費されるために生まれた女たち。


 そんな役目を負わされながらも、彼女たちは懸命に生きている。


 ネトス教の罪の一端を担うのだとしても、それは祝福されるべき生命だった。


 白と青。女神の輪。三本の線。そして、彼女たち。

 全て女神の残したモノだ。


 それらは女神の存在を証明する“この世界の汚点”である。



 その汚点を──“黒と赤”は許さない。


 線が走る。


 それは直進する。


 まっすぐに女神の罪に向かって直進する。


 それは認識の外から計算された道を走ってやってくる。


「────」


 止まったような世界の中、ミゼリアが見たのは微笑みながら自分を突き飛ばす温かな教師の姿だった。


「────?」


 線が走った。


 それは熱であり光。


 女神の残した罪。そのもう一つ。

 聖芸品(ディバインファクツ)と呼ばれる地上に存在しない技術で作られたもの。


 その内の一つから放たれたものだった。


 その光はトーリアに()()()()()


「…………っ!!」


 誰の目にも明らかだった。


「……先生?」


 向こう側が見えるような穴を開けられて、生きられる人間など存在しない。


 その“線”はこう呼ばれる。


 『撃線』──と。


「……貴方という人は……まったく……。どこまで……」


 その線を撃った人間に心当たりがあるトーリアが、何か喋りながら倒れた。


「いやああああああああっ!!」


 突き飛ばされ、状況を理解できないミゼリアが叫んだ。


「ミゼリア様!」

「こちらに避難を!」


 仲間たちが何かを訴えているが、今のミゼリアには何も聞こえていない。


「先生!! そんな!! いやっ!!」


「……あぁ……お逃げなさい……──」


 うつ伏せに倒れ、肉の焼ける匂いを出しながら、トーリアが退避を促す。


 それを見て放心するミゼリアに()()()()()()()()()()()


 その狙撃手がその都市にいる人物に認識されることはない。


 なぜなら彼女がいるのは遥か彼方の天空だからだ。


 空中に浮かぶのは赤と黒の戦鎧。

 それはネトス教徒の着用する鎧のデザインの色だけを変えたようなもの。


 それを着た女性が引き金を引いた。


 また線が走る。


「……!」


 それは音すら超えて着弾する。

 しかし、その線は大地の隆起に防がれた。


 ミゼリアを中心として、学園都市の地面が崩落したのだ。


 それは反王軍の工作員の仕業だ。地下より潜入していた彼らはこの隙を狙っていたのだろう。


 線はその土壁を焼くだけだった。


「…………」


 狙撃手──()()()()()()は何も語らない。


 女神の足跡がまた一つ消えた。

 それは大変素晴らしいことである。


 そのはずなのに、ミーナは笑わなかった。


 その兜には目元まで隠すバイザーがあった。

 だから、その奥の目が何を見ているのかは、彼女しか知らないのだ。

 

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