お仕事遭遇
1時になり、自動ドアをスペアキーで解錠しマンション内に入る。
こんな時間だけあって中はひっそりとしている。
まずはエレベーターで4階まで向かう。
401号室から順に鍵が閉まっているかドアノブを引いて確認していく。
ガチャンと固く冷たい金属同士がぶつかる音がする。
鍵は閉まっている。
次の部屋も次の部屋も鍵は閉まっていた。
このマンションは部屋数が少なく、1階に10部屋のみ並んでいた。
一番端まで行くとそこには階段があった。
戻ると住人に会いそうだったので階段から降りることにした。単純にエレベーターまで戻るのが面倒だったのもある。
確かに服部の言った通り階段は急で急いでいる時には転んでしまいそうな角度だった。
一つ下の階に降りて3階の戸締りを始める。
3階も4階同様しんとしており、寝静まっている様だ。
今度は310号室から順に戸締りをしていく。
冷たい金属同士が当たる音が静まり返った周囲に響く。
これを聞いて出てきてしまう人がいるのでは無いかと思い少し慎重にドアを引く。
それでも何も無いまま301号室までやってきた。
今度はエレベーターが近いのでエレベーターを呼ぶ。
さっきは4階で降りたはずだが、エレベーターは1階に戻っていた。つまり誰か出ていった様だ。
このマンションには住人がいるということを暗に証明していた 。
少し緊張しながらエレベーターの到着を待ったが、中に人はいなかった。
2階に降りる。どの階も同じように静まっている。
201号室から順に確認作業を行っていく。
最初は怖かった作業も段々慣れてきていた。
何も無いまま終わるのではないかという気がしていた。
ただ、1部屋だけ電気が漏れている部屋があった。
まだ住人は寝ていないようだ。
健に緊張が走る。
そっと鍵の確認をする。
金属同士が当たる音がする。鍵は閉まっていた。
安心して次の部屋に向かう。
なんとなく後ろは振り向いては行けない気がした。
1部屋の明かりが漏れていた以外今のところ特になにも起きないまま階段を下る。
1階は月明かりも入らず、よく伸びた植木のせいで他の階に比べて暗い印象を持った。
今まで雰囲気とは異なる感じに早く帰らねばと第六感が警鐘を鳴らす。
110号室から慎重に素早く確認していく。
何も無いまま105号室を越えた。
あと5部屋。違う階でドアの開閉音が聞こえた。
無意識に息を潜めていた。
エレベーターから袋を持った住人が外に出ていく音が聞こえた。ゴミを捨てに行くのかもしれない。
その住人と遭遇しないことを祈りながら104号室、103号室と進んでいく。
102号室のドアを引く。何故か今までになく軽い。
ドアが開いている、そう気がつくまでに少し時間がかかった。
そしてその間に中を見てしまった。
そこには漆黒が広がっていた。
しかしその漆黒の中に確かに目があった。
ぎょろりとした人間のものとは思えない目が2つ。
漆黒からは今までに嗅いだこともないような腐敗臭が溢れ出ていた。
慌ててドアを閉めてスペアキーを探すが、手が震えて102号室のスペアキーが取り出せない。
まとまっている鍵に苛立ちながらなんとか102号室の鍵を取り出し、鍵を差し込む。
鍵を回し、ゆっくりとドアを引く。鍵はしまった。中から聞き取れるギリギリの低音で「覚えたからな」と聞こえた気がした。
震える手で101号室の鍵を確認し、そのままマンションのオートロックを転がるように出ていく。
少し離れてから振り返ると中に入っていく住人が一度こちらを振り返った気がした。
その口は信じられないほど大きく、笑ったその顔は口が目元まで届くほどに歪んでいた。
急いで最初に着替えたトイレに駆け込み、震える手で最初の何倍もの時間をかけて着替えを済ませ、ゴミ箱に服を捨てる。
駅前まで戻るとまだ居酒屋は賑わっていて現実に戻ってきた感覚がした。
適当に止まっていたタクシーに乗り込み、急いで自宅に向かう。
家に着くと手を洗い、顔を洗う。
ふと鏡を見ると自分の口元が歪んでいくような錯覚に陥った。
そんなとき、そっと鍵ががちゃんとしまっているか確認するような音が玄関から聞こえた。
「な、なんなんだよ。」
震えながら布団に潜ったが結局朝まで一睡も出来なかった。




