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第6話

 部屋全体を、重い空気が包んでいる。状況を説明すると、部屋に入る私をエリーゼは不適な笑みを浮かべながら迎え入れ、言葉を交わさないまま今に至る。先に沈黙を破ったのは、エリーゼの方からだった。


「お姉様、書類の方は大丈夫かしら?私大変に心配しておりましたの…」


 人差し指をたて、口元に当て可愛らしく微笑みながら言った。女の直感で分かる。やはり間違いなく犯人はこの女だ。やや呆れ顔をする私をよそに、エリーゼは続ける。


「…いえ、もうお姉様ではありませんわね。お兄様との婚約は無くなるんですもの」


 それに関しては、私も清々している。あんな男と婚約など、ましてやこんな女が妹となるなど、論外だ。

 けれど、まだ婚約破棄を受け入れるわけにはいかない。今ここを出て行くわけにはいかないからだ。私はエリーゼに言葉を返す。


「それは、公爵が一方的に言っているだけよ。私は婚約破棄をまだ受け入れていないわ」


「まあ、平民女が生意気ですこと。あなたに決定権などかけらもございませんでしてよ」


 エリーゼの言葉を最後まで聞いたのち、私は一枚の誓約書を取り出し、彼女の前に掲げた。その誓約書は、私が婚約を受けるにあたって、公爵に半ば無理やりサインをさせられた誓約書だった。それがまさか、こんな形で役に立つとは。


「この誓約書は、私がここに来て婚約するにあたりサインをしたものよ。ここには、婚約破棄に関してこう書かれているわ。【いずれか一方が婚約破棄を宣告した場合、その日より起算して2週間後に、正式に婚約の破棄が成立することとする】。当然ここには、フランツ公爵のサインもあるわ」


 それを見たエリーゼは、してやられたという表情をしている。無理もない。この誓約書はついさっき、公爵の部屋を出て来る時にくすねてきた物だ。まさか私がこの場に持ってくるとは、夢にも思わなかったのだろう。先程私が婚約破棄を受け入れなかった時、公爵が反論してこなかったのはこの誓約書のためだ。

 おそらくこの誓約書は、私が勝手に婚約の破棄ができないよう、公爵が用意していた物だ。公爵は世間体を気にするので、もし周辺貴族などにこれが流出しても、不平等だと思われぬよう「いずれか一方が婚約破棄を宣告した場合」と記載したのだろう。抜け目のない人だけれど、それが仇となった形。

 エリーゼはやや苦い表情を浮かべながらも、私に言った。


「ふ、ふん。でも、あとたった2週間ではございませんか。せいぜい、ここでの生活を楽しんでくださいませ」


 エリーゼはそう捨て、部屋を出て行った。おそらくまた公爵に泣きつきに行ったのだろう。私の戦いは、始まったばかりだった。

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