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第八十八話

 一定の音の連なりは目的の部屋まで変わること無く続くとそれは時間を刻み続けた。

神殿の中を一人で歩くファシルは、自身の広がりを見せる足音にその回廊の長さを理解するとゆっくりと歩き続けた。

ファシルを迎える神殿は外からは伺い知れなかったその内部構造を鮮明に見せるように、歩く速度に合わせて回廊の灯りをともすとその広さを視覚的に理解させたが、一歩一歩と確かに踏みしめるその歩は神殿から感じ取れる不気味な感覚に警戒を強めさせられての事で、ファシルをゆっくりと歩かせた。


 外観からは考えられない程に広い神殿はゆっくりと歩くファシルを誘うとしばらくの時をもってそこへと辿り着かせた。

長く続いた回廊は両脇の均等に並ぶろうそくによってそこに至るまでの姿を現わしているが、その部屋はファシルが足を踏み入れてもなお暗いままであった。

回廊とその部屋の隔たりは何も無いもののそこには明暗がはっきりと区切りを付けていた。


 ファシルは足を踏み入れたその部屋にさらなる警戒をもって回った。

恐る恐る歩を進めるファシル。

回廊と明確に違う部屋に対してファシルは緊張したものであったがそれは少しの遅れをもって見せられた。

小さく隙間風のようにフッと風が流れるとファシルの後方からその耳を撫でた。

そして一気にその部屋を照らすとその全貌を現した。

広く設けられたその部屋。

そこは灯りによって鮮明に伺い知れる。

ファシルの目に映ったその部屋は礼拝堂のようであった。

一気に取得できるようになった視覚的情報をくまなく調べるように、ファシルは両の目を忙しなく動かすとある一点に集中させた。

それはこの礼拝堂の奥にある祭壇であった。

祭壇は、それ自体は至っておかしなところがないようであったがその祭壇の上に浮かぶある物がファシルの意識を惹きつけた。

それは形を成しておらず、浮かびながらもゆっくりと回り続けて黒く禍々しい気をまき散らすとそこに在り続けた。


 祭壇の上に浮かぶそれを見たファシルはそれが何か分からなかったが、自身の体の奥底から湧く何とも言えない高鳴りがそれであると示すと確信を得た。

──間違いない、これだ!

自然と進められるその歩みはファシルの体を突き動かすと次第に速くなっていった。

急くファシルのそれは、祭壇の上の一点を見つめたままそこを目指すと礼拝堂の中心へと差し迫った。

回廊に響いた一定の足音は今はもうなく、只々早い足音が礼拝堂に響き渡った。

その時であった。

それまでは厳として警戒を続けていたファシルであったが、それに引き寄せられるとその薄れた警戒の隙をつかれてしまった。


 突如として礼拝堂を照らしていた灯りの全てが消えるとその場に闇を創り出した。

過多なほどの情報が一瞬にして取得出来なくなると、ファシルは薄れていた警戒を強めた。

「くっ」


ファシルは自身の甘さに後悔を浮かべるとその感情を口から漏らした。

辺りの状況が掴めないファシルはその場でじっとすると自身の出来る範疇で最大の対応を取るために身構えた。


 礼拝堂が暗くなってから経つ時間は長く感じられたが、実際には短いその時が過ぎ去ると何処からともなく声が聞こえてきた。

「やれやれ」

「貧乏くじを引いたのはわしであったか」

かすれた声はその者が老人であると表したがそれよりも、ファシルにとって声しか分からないその者が自身を誘い込んだことに警戒をさらに強めた。


 何処ともつかめない自身の位置と声の主の位置。

ファシルは緊張の中じっとしていると不意にその場の灯りがともされた。

しかし、その灯りはともされたというには相応しくないものであった。

闇が刹那に消えると辺りは眩しい程に照らされた。

闇に合わせた瞳孔はいきなりのその眩しさに小さくなるとファシルの目を細めさせた。

眩しく照らされた辺りを、ゆっくりと目を慣らすようにしてそれを開けるファシル。

ファシルは辺りを伺い知ると驚愕した。

ファシルが立つその場所は先程の礼拝堂ではなく、まるで違う場所であった。


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