表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/121

第八十六話

 その者はファシルの力を一手に受けるとそれを相殺して消し去った。

そしてファシルの手が止まった隙を見計らうとドラゴンが割って入った。

(待て!)

今にも次の手に移るかもしれないといった状況であったためドラゴンは死と隣り合わせの緊張の中、焦りながらもそう言い放ったがファシルはその制止を聞いてはいなかった。

ドラゴンの言葉が聞こえなかったのか敢えて無視したのかどちらともとれるファシルの態度に緊張は続いたが、ファシルはじっとして次の動きを見せる事はなかった。

いつしかその場を覆っていた魔力の渦が消え失せるとファシルは戦意を失ったようであった。

未来予知が出来るドラゴンであってもそれを読み違える程に、今のファシルは心がぼろぼろであった。

ドラゴンは一先ずに安堵するとファシルに説明し始めた。


 その者の名はサーディアと言った。

サーディアはファシルと同じくゼノムにいた。そしてガイアスとセリーネと旅をした仲間でもあったサーディアは二人がゼノムに居着いてしばらくの間自身も身を置いていたのだが二人の間にファシルが誕生するとすぐに旅に出たのだ。

ファシルが赤子の頃の事で、それ以来の再開であったためファシルが覚えていないのも無理はなかった。


「ごめんなさい」

ファシルは素直に謝るとやっと落ちつきを取り戻した。

「やっと」

落ちついたようだねと口にしたサーディアは受け止めた手を気にしつつゆっくりとファシルに近付いた。

はっきりと見えてくるサーディアの姿は口調こそ年季の入ったものであったが見てくれは、記憶にそう遠くない両親と同じくらいかそれよりも若く見えた。

「しかし」

と続けたサーディアはファシルがどうしてそれほどまでに取り乱していたのかを訊いた。

そしてそれを傍で聞くドラゴンもまたファシルの言葉に耳を傾けたが、それは未来予知が出来るドラゴンでも捉えきれない程にいろんな出来事を経ての事であったと理解すると納得した。


 その場にしゃがみ込んでしまったファシルからは先程までの殺気を剥き出しにした鋭い気配は消えて辛さだけが如実に伺えた。そして今までの出来事を話すファシルの独白は、ひたすらに向いた先の地面へと捨てられた。


 一通り話したファシルは顔を上げて一番の願いであり希望を口にすると、それはそれを聞く両者に充分に伝わった。そしてその顔は赤くなり今にも泣きだしそうであった。

「レイリアを助けたい」

ファシルにとってそれが一番の願いとなった今、その事で頭がいっぱいになるとレイリアの事だけを思い続けていた。


 黙って話を聞いていたサーディアはおもむろにファシルへと手をかざした。

淡く光るそれをファシルは知る由もなかったが、サーディアがそうする姿をドラゴン共々見守り続けた。

真剣な面持ちで少しの間じっと手をかざすサーディア。

やがてサーディアは手を離すと納得した様子を浮かべてその面持ちのままに一言口にした。それは厳しくもどうしようもなく確定した現実であった。

「足りないね」

その言葉の意味するところは、レイリアを助けられなかった事の理由でもあり、これからレイリアを助けられるかの判定でもあった。


 覚醒したファシルはディクシオンズを退けるまでに、充分に強くなったと言えたがそれはあくまで地上での話でありこの先に待つ全てのものに対してはまだまだ充分とは言えなかった。その事をかざしていた手から感じ取ったサーディアは納得するとともに悔しそうな表情も浮かべたがそれにファシルが気付く事はなかった。


「取り返してきな」

あんたの物をとぶっきらぼうに言うサーディア。

サーディアはさらに言葉を紡ぐとそれについて補足した。

「あんたのその力は、あんたがどれだけ強くなっても成立しないんだよ」


 サーディアが口にしたファシルのものという「それら」とはファシル自身を強くすると共に補助するものであった。

ファシルは現状において、その力の殆どを使えたが真にその力を発揮するには「それら」がなくてはならなかった。

「それら」はもとよりファシルのために用意されたもので、三つの道具であった。

そして三つの道具はファシルが充分に強くなった時に渡される予定でゼノムに保管されていたのだが、ファシルの全てを変えた「あの日」に羽付きによってその時を待つことなく奪われていたのだ。

ゼノムを襲い、ファシルの全てを奪っていった羽付き達はそれら三つの道具を奪う事が一つの目的でもあった。


 あの日──ファシルにとって忌々しい記憶でしかないそれは、落ち着きを見せていたファシルの感情を再び大きく動かすと自身の震えが伝播したように立つ地面に大きな傷を作った。


 怒りの感情を露わにしたファシルであったがそれをよそにサーディアの言葉は続けられた。ファシルが全てを失ったあの日──サーディアもゼノムへと向かっていたのだ。

しかしサーディアがゼノムに辿り着いた頃には全てが終わりを迎えておりファシルも旅立った後の事で、サーディアはその時に間に合わなかった。

その事を話したサーディアは悔いた表情を浮かべつつ口を紡ぐ。

「みんなを」

弔ってくれたのはファシルだろとサーディアは訊くとその頭を下げた。

「すまなかった」

サーディアは自身のその行いが無意味とは言わないまでも、全くと言っていい位に足りるものではない事を嫌というほど理解していた。そしてそれは謝罪を受けるファシルにも呆れるほどに伝わると、再びサーディアに八つ当たりしてしまいそうな自身の体を強張らせて振るわせた。


 今となって知った事の揺り戻しはファシルの感情を大きく揺さぶった。

「でもッ」と一言口にすると、やりきれない気持ちとどうしていいか分からない怒りにファシルは食い下がった。その様子はまるで駄々をこねる子供のようで、ファシルにとって珍しく久しぶりに甘えられる大人であるサーディアであったため無意識にそうしていた。

「どうして」

どうして──その言葉の先はファシルの両親である二人の事についてであった。

以前にトゥスタスが口にしていた「普通は効かないんだぜ、お前らの攻撃」という言葉によって一先ずは納得したファシルであったものの心の奥底までは納得していなかった。そしてそれと同時にサーディアの力を目の当たりした今、その思いは活発になった火山のように吹き出した。

その思いは長らく心に引っ掛かり続けていた

「父さん達があんなのに負けるはずがない!」

というものであったが、それを追及する事に意味がない事もその答えを知ったところで二人が帰ることが無い事もファシルは分かりきっていたが、情緒が不安定な今のファシルがサーディアという明確な甘えられる相手の前に子供返りしてしまうのも仕方がなく、そのままに続けて口を衝いた。


 しばらくの間、喚く子供を優しくも真剣な眼差しで見つめ続けたサーディアはひとしきり喚いた後の静けさに自身の言葉を連ねた。

「あんたのためだよ」

口を開いたサーディアは静かに告げると、驚きながらも理解が出来ていない子供のその視線に対してしっかりと目を合せつつはっきりと言った。

「あんたを守るためさ」


 サーディアが言い放った言葉は駄々っ子を大人しくさせるとファシルへと戻した。

セリーネとガイアスは羽付きの襲撃を受けていた時、二人は真っ先にファシルのために動いていた。三つの道具も充分に大事なものであったがファシルを死なせないために二人の力の殆どはファシルに使われていたのだ。

ファシルがまだ幼い頃から、いざという時のために二人はある魔法をファシルに施していた。それを二人は杞憂に終わって欲しいと思い続けたが無情にも来てしまった「あの日」、二人の思いの通りにファシルを優先したその魔法は発動されたのだ。

それによって二人は戦う力を無くして時間を稼ぐ事しか出来なくなってしまい亡くなってしまった。


 ファシルが生まれて間もなく二人から魔法の事を聞いていたサーディアは、ファシルが求めていた答えを伝えると押し黙った。


 ファシルは立て続けに起きた事と聞かされた過去の事に自身をひたすらに責めた。

四つん這いとなって言葉にならない声を上げるファシル。

ファシルの心は堪えきれずにそれを決壊させた。

響き渡る泣き声。

それは次第に嗚咽へと変化するとサーディアの言葉をファシルの耳に届けた。

「簡単に」

最初こそ静かな物言いであったが次の瞬間には違った。

「泣くんじゃないよ!」

ファシルの胸ぐらをつかみ上げるサーディア。

「助けたいんだろ!」

「だったらしゃんとしな!」

そう言い放ったサーディアはファシルの胸ぐらを掴んだ手を離すとそこに腰を突けさせた。

サーディアはファシルに背を向ける。

「さっさとお行き」

「さもなくばそこでずっとそうしているといい」

サーディアはファシルにそれだけを告げると再び押し黙ってしまった。


 しばらくの間自身の足を抱えるようにして座っていたファシルはやっと落ち着きを見せた。

思案に耽るファシルは頭では決まっている事を反芻すると心が追いつくのを待っていた。

その間ファシルの頭の中から心までひたすらに駆けるのはレイリアの事ただ一つ。

ファシルには答えが決まっていたと同時にそれしか選択肢がなかった。

「っ!」

自身の決意に心が追いついたその時、ファシルの口から息が漏れた。

そしてゆっくりと確かに自身の体に力を回して立ち上がるとサーディアの下へと向かった。

「どこに」と口を開きサーディアの意識を自身に向けさせたファシルははっきりと言葉を連ねた。

「俺の物は何処にある?」

サーディアの目に映るファシルは子供の気配を消してしっかりとそこに立っていた。

ファシルの覚悟が伺えたサーディアは「ソイツが知ってるよ」とドラゴンを指した。

それだけ聞くとファシルは一言口にして準備に移った。

「わかった、ありがとう」


 ファシルを焚きつける事が出来たサーディアはドラゴンにだけ話をした。

「あたしはここで待ってるよ」

(サーディア様っ!?)

サーディアの言葉にある事を気付いたドラゴンは心配そうにサーディアを気に掛けると次の言葉を発しようとしたがそれを遮るようにサーディアの声が続いた。

「ついて行っておやり」

ドラゴンは気付きが勘違いではない事に確証を持つと、しかしと食い下がったがサーディアの努めて振る舞うその態度に何も言えなくなった。

「私は大丈夫だから」「お前の主もそう言うはずだよ」

「それに」と言うとサーディアはドラゴンに手をかざした。

流れ込むサーディアの魔力のそれはドラゴンに託された。


「これで場所は分かるだろ?」

サーディアはそれらの場所をドラゴンに託すとドラゴンの体をポンと叩いて送り出した。

有無を言わせないその所作にドラゴンは逆らわずに受け取ると決心した様子を見せた。

(分かりました)

そう伝えるとサーディアの下を離れていくドラゴンは全ての事を振り切るように、振り向かないようにファシルへと向かった。

ドラゴンは準備が整ったであろうファシルを背に乗せると力強く羽ばたき外へと飛んだ。

ドラゴンは無理をしている様でもあったがそうしなければ自身の気持ちが折れてしまうであろうとわかっていた。

ドラゴンは一筋を雫を瞳から零すと最後の言葉としてそれをサーディアに向けた。


 サーディアは自身の下を去っていくファシル達の背中を見つめ続けた。

「いい子だ、頼んだよリュグネロア」



 サーディアはゼノムを出てあるものを探していた。

それは地上と天を繋ぐ「門」であった。


 かつてこの世界では全ての境界がはっきりと分かれているものの一続きとなっていた。

しかし、過去の大戦で敗れたそれらが、一続きの境界に一つの隔たりを設けると行き来を出来なくした。

それは「天」であった。

大戦によって敗北を喫したそれらは「天」に隠れるとそこを一つのものとして「門」を築き上げた。それは如何なるものも通過できず、そこに隠れたそれらは神に非ずして独立を成し遂げると地上を、神とは別の視点でかつ神と地上の間を邪魔するように君臨した。


 サーディアはその「門」を見つけるとそれの破壊に挑んだが、サーディア程度の力では到底壊す事の出来るものではなかった。そしてそれを成し遂げられる唯一の存在である「後継者」であるファシルと合流するためドラゴンの棲み処で待っていたのだ。

そしてやっと「後継者」と合流を果たしたサーディアであったが、どうやらここまでのようであった。


「ピュールはいいのを飼ってるよ」「あたしも何か見繕ってもらおうかね」

サーディアは努めて明るく振る舞うがファシルの力を受け止めたその手がぼろぼろと崩壊していく。それは留まる事無く次第にサーディアの体の全てへと伝播した。

ファシルの「後継者」の力はそれほどまでに強力なものであった。

「いい土産話が出来たねぇ」

「全くセリーネに似て真っすぐだよファシルは」

最後のその時まで気丈に振る舞うサーディアは自身の崩壊していく体を触りながら

「こりゃ、ガイアスに一杯奢ってもらわないと割に合わないねぇ」

とおどけてみせると少し寂しそうな表情を浮かべて涙を流した。

「これでやっと、あいつらの所に行けるよ」

「まさか私が最後とは」

「長かったねぇ、まったく」

連ねられていく言葉。

そして最後のその時がサーディアを迎えると「でも」と言っては留まったが、一言残すとかつての仲間達の下へと導かれてそこへと渡った。

「悪くなかったよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ