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第八十話

 仕方のない事ではあったが、青年の羽付きは後悔した。

目の前に降り立ったその者を始末する事は決められていたものであったため、クインツェッターが創り出し、死後なおも残るその障壁を砕くという事は当たり前の事であり避けられない事であった。

しかし、その障壁が砕かれた瞬間に世界へと広がったその者の存在を知らしめるその気は、最早その場にいる四人の羽付きが敵う相手ではないという事を知らしめた。

さらに、青年の羽付きはその者の気を損ねてその場に降り立たせたので、その自身が先程行った事は、より一層に後悔を加速させた。


 目の前の者に恐れをなして動けない羽付き達であったが、老いた羽付きはうかつに目に出ると、緊張を感じさせない軽快な口調でしゃべり出した。

「いやはや、これは遅いお目覚めで」

「私はオムノースという者」

「貴殿とは手合わせをしたいと思っておりました」

「それでは早速」

そう不躾につらつらと口にした言葉のそれら。

オムノースはそれらを口にすると、帝国城の広場にて見知った二人と対峙した。

オムノースの前に立つその者らは、先に起こった現象を感じ取り広場に出ていたのだ。

「あれ?お二方はどうしてここに?」「あれ私もなぜここに?」

不思議に思た事を口にするオムノース。

広場に立つ二人はオムノースを見て、お互いに口を交わした。

「まずいぞ!」「早く行かねえと!」

「いや駄目だ」「もう間に合わん」

焦る血気盛んな羽付きと冷静な羽付き。

二人が交わすそれらの言葉はオムノースにとって意味が分からないものであった。理解が追いつかず、訳が分からないオムノースは気付いた事を口にした

「それにしても、なぜお二人はそんな位置にいるのです」

「いつもより視線が高く思いますよ」

そう口にするオムノース。

しかし、視界に入る全ての事が自身の視線より上にあることに気が付くとさらに不思議がった。

「おかしいですな」

「あれ……」

「……あれ……」

「……あ……れ……」

オムノースは疑問に思い続けるとそこで事切れた。


 青年は言葉を失った。

オムノースが改めて自己紹介した直後、その首だけが消え失せると、力なくその場に倒れたのだ。

両手で棍棒を持って構えたままに倒れたその体は、恐ろしい程に静まり返ったその場にドサッとした音だけをこだまさせた。

残された羽付き達。

そしてそれらに近付こうとするその者。

≪ドッラ≫

そして、その者がゆっくりとした一歩踏み出したその瞬間、それぞれの羽付きは目の前のその者より先に動いた。

一斉に動き出した羽付き達のそれは一様に恐れをなしてであったがため、羽付き達は連携を失っており本来のそれとは違った。

連携をうまく取れていたとしてもその者に敵う事のない今、連携を失った羽付き達のその行動は、決定していた死が只々早まっただけであった。


 女の羽付きは、自身が今までに感じ取った事のない恐れに対して無意識に力を使っていた。その者に対して手をかざして使われた力は、その場のすべてを止める。

女の羽付きのその力は、時を止める力であった。

「こんなの無理、無理に決まってる」

止まった時間の中で焦ってそう口にした女は、その場から逃げる事だけを考えていた。

止まった時間の中で焦るという事は意味のないものであったが女はそそくさと、その者に背を見せるように踵を返した。

しかし、その時であった。

不自然に軽くなる自身の体。

その体は、目の前の者から向きを変えることなく前を向いている。

「え?なにこれ」

女は訳がわかずそう口にすると姿勢を崩した時の様に、ゆっくりと視界が落ちていった。女は落ちる視界でそれを捉えた。

それはとても小さなものであったが、よく見れば確かにそこに在った。

自身の体に沿うように等間隔かつ狭い間隔で配置された、おびただしい数の小さな粒。

それはその場の色に溶け込むと同時に、目を凝らしてやっと見える程度に小さいものであった。

そしてそれに触れた女の体は、触れた箇所から千切れていた。

首だけになって落ちていく女はそれを理解すると、止まった時の中で死に絶えた。


 青年の羽付きが文字を書くために指を動かした瞬間、視界の端で女の首が落ちるのを見たがそれを無視した。

嫌という程に感じ取れる「死」という感覚が全てを支配して、それどころではなかったのだ。

「フィシリノフ!」

青年は無口の羽付きの名を呼ぶと自身もすぐに指を走らせた。

最後に残った二人で連携を取るためにそう叫んだ青年であったが、その考えはすぐに不可能となった。


 青年に呼ばれた無口のフィシリノフは既に、細い光の糸を網状に張っていた。

それは、目の前の者の動きを制限すると同時に、捉え続ける事が狙いであった。しかし、そのフィシリノフの手へとつながる光の糸はその者の居場所ではなく、自身を死の下へと導いた。


≪メセスフィナ≫

その者はそう口にするとゆっくりとそのままにフィシリノフへと近づいた。

ゆっくりと進めらる歩み。それは普段歩く速度よりも遅く、かといって慎重とは違うその様は不思議な光景であった。その光景を不思議なものとしているのは羽付き達の反応であった。


≪ベークス≫

「……!」

自身の糸で捉えていたはずの相手が姿を消した。

手に伝わってくるはずの反応が一切なくなり、視認できず感じ取れない相手の所在。

しかしながらその「見えない」という状態は羽付き達にだけ起きていた。

先程から変わらず羽付き達の前に立つその者。

それはフィシリノフが焦る珍しい様子を晒させると、青年も同様に焦らせた。


 目の前の者を見失った青年は混乱した。

「どこだ!?」

「どこに行った!?」

混乱し焦った青年はその動揺をフィシリノフにぶつけた。しかしその言葉に反応が返ってくる事はなかった。

いつもなら、無口のフィシリノフであっても何かしらの反応を示すが、それが全くなかった。

青年は焦るままにフィシリノフの様子を伺ったが、位置的に伺えないフィシリノフのその表情。

「おいっ!」

青年はすぐさまフィシリノフに近付いた。

しかし、そこで見えてきたのは固まった表情であった。

固く微動だにしないフィシリノフの表情。それは表情だけでなくその体全身にわたっていた。

そういった造形物のように、フィシリノフは金属の塊となっていた。

青年が確認した時には既に事切れていたのだ。


「そんな……」

絶望する青年にさらなる絶望が襲う。腰を抜かす青年。

姿を現したその者は青年の前に立った。


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