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第七十九話

「って、今回のファシルにはわからないよね」

力なくもあどけない笑顔を見せたレイリアは、一通り思い出を語ると天を仰ぎ見た。

迷宮の中で見るその景色は当然に空を映しはしない。

しかしながら見えることのないその景色は、レイリアのその気持ちを優しく包み込む。

見えないが遥かに広がる空をレイリアは望むと、その先にある天を見ていた。

そして仰ぎ見たままに余韻を味わいつつもしばらく放心していたレイリアはポツリと呟いた。

それは何気なく口にしたものであったが確実に発動した。

近くでそれを目にした者。

遠くでそれを聞いた者。

それらの者はいずれも先にそれを、感じ取った。

大きく広がっていくその光の輝きは、世界のすべてに伝えていく。


 帝国城玉座の間にてその羽付きはそれを感じ取った。そしてその者はすぐに外へと向かった。その羽付きの様子は、後に起こる事を危惧している様でまさに恐れているといった表情であった。

羽付きが広場に辿り着くとそこには同じくそれを感じ取ったもう一人の羽付きの姿があった。

「おい、これって」

その者は立ち尽くしたまま、やってきた羽付きに目もくれず空を見てそう口にした。視線の先に映る綺麗なその広がりは緩やかな波を立てている。

その者の問いに対して、参上した羽付きは静かにそれを肯定した。

「ああ、そうだ」

口にしたその事を確かめるように自らも空を見上げた。


 ビスベーリト洞窟にて伏せて目を瞑っていたドラゴンはそれに気付くと起き上がった。そして空を見上げる。

(やはり……)

ドラゴンはその光景が意味することをすぐに理解すると、押し黙ってその光景を見続けた。ドラゴンはそれを憂いもって望んだ。


 その空に望める光景は様々なものに伝わった。

それはネーベンで患者を診ていた医者であったり、屋敷の主であったり、シュレヒタスの鍛冶師であったり、店番であったりといろんな人々がその時ふと空を見上げた。そしてそれは何にも限らず、世界に伝わった。

そしてその光の根源はじきに消えていく。

その少しずつ光の粒となって消えていくその者は最後に思いを伝えた。

そしてその最後の最後に口にした言葉は勿論その者の名であった。


──ファシル


最後のその言葉を口にしたその者はその場から消えて居なくなる。

レイリアは天へと昇った。

そして完全に治ったその体。ファシルはゆっくりと目を開けた。


 ゆっくりと体を起こしたファシルは、両掌を見た。嫌でもわかるその力の高ぶりは、ファシルに理解を促した。自身の体が求めた力の解放は、そこにいない彼女の姿によって確実なものとなる。自身の体に宿る忌々しいその力が鼓動すると、自身の中に彼女を感じ取った。

「ごめん」

自身の思いを伝える事が叶わない今、ファシルは小さく呟くと、静かに泣いた。


 しばらくして落ち着きを取り戻したファシルは、俯いた視界の端に入ったあるものに気づくとファシルは、自身の傍に落ちていたそれを手に取った。

それは、以前ファシルがレイリアに渡した宝石であったが、今は形を変えてここにある。

加工されたその宝石は指輪となっていた。

ファシルは指輪を見て、レイリアが言っていた渡したいものという話を思い出した。

「たしかに」

これは直接受け取りたかったなと赤らんだ顔のままに呟いたファシルは少し微笑む。

そしてファシルは指輪を当然のように、左手の薬指にはめた。

丁度指に収まる指輪。

ファシルは、その指輪のはめられた左の手を握ると自身の中にとてつもない力の高ぶりを感じた。そしてそれと同時に落ちついていた気持ちも揺れ動く。

ファシルは思わず空を見上げると、その気持ちが伝播する。

泣き出す空、降り出す思い。

ファシルは立ち尽くした。


 それを創り出した者の死が迷宮を無くしていく。

「やっとですか」

青年は死をもって迷宮が消える事を理解していた。

迷宮がなくなり元の場所に立った青年は辺りを見渡すと、そこに囚われていた三人の羽付きの姿があった。

「皆さん無事ですね」

青年はそれが当然であるように言うと、障壁へと目をやった。

異質に浮かぶ障壁。

それは、それを創り出した者が死してなおもそこに在る。そしてその中に立つ一人の姿。

青年はその障壁へと魔法をぶつけた。

「ヴォルーン」

青年の魔法は、唱えた本来のそれよりも高い威力を持って対象に向かう。

対象に激突したそれは大きな爆発を起こすと、辺りの木々を燃やして焼け野原にした。

爆発によって起きた煙幕はゆっくりと消えていくと、やがて狙ったそれが姿を現す。

「まったく」

びくともしない障壁をみて愚痴を漏らした青年。

青年の躊躇ないその行動は、中に立つその者を怒らすには度が過ぎていた。


 残された障壁は外からの攻撃を受け付けないものであったが、それを壊せるのは中にいる者のみであった。

中に立つその者は深呼吸して障壁に触れると、容易くそれを砕く。

砕けたそれに内包されていた魔力は一気に辺りに散っていき、それとともに中にいたその者が降り立つ。

すると、そこにいた羽付き達はその場で固まってしまう。

それはある事を理解しての事で、動けば死ぬ事が明白であった。

その者は覚醒した。

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