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第七十一話

 殺気を携えて進むその者は帝国の城下町に入った。そこで待ち受ける帝国衛兵ら。帝国衛兵らはその者を囲うと一切の警告もなく襲い掛かった。

「どけ」

その者はそれだけを言うと帝国城に向けて歩き出す。その様はこれ以上なく自己中心的なもので、立ち塞がる一切合切を退けた。それが生物であろうと無機物であろうと関係がなかった。

次々と現れる帝国衛兵らはその者を見つけると、すかさずその者を襲ったが帝国衛兵らは肉の壁を形成していく。その者の容赦ない行動の前に帝国衛兵らは無力であった。そしてその者によって切り裂かれた帝国衛兵らは本来の姿に備えた白い羽を散らした。

静かに怒り狂うその者はその散り際を見て苛立ちをさらに加速させる。

≪アージオ≫

その者は城下町の中で、選んで羽付きを殺し始めた。羽付きといえどその体には血が通っている。切り捨てる度に飛び散るその血によって城下町は赤色に染まっていく。帝国トイフェリシュの建物はどれも白色を基調としていたので、それはいやに目立った。

それであっても静かに怒り狂う者の赤く染まった左目には遠く及ばない。その者はさらに赤く染めた。


 帝国トイフェリシュにおいて象徴的なその城は権威の現われであり、それこそが力の象徴であった。その城の規模は大きく、それだけで周辺国に匹敵する。遠くから望めるその城の壁を幾度も砕き広場へと姿を現すファシル。怒りに身を任せて進み続けたファシルはやがてその城で実質的な頂点に君臨する者と対峙した。


「やっと死ににきたか」

帝国城の広場で待ち構えていたその男は、剣を自身の前に突き立てて腕を組んで立つ。

そして口にしたその言葉から感じ取れるその男の心理は慢心などといった甘いものは一切なかった。そしてその男が無意識のうちに醸し出す威圧感に如何なる相手も気圧され、それはファシルも例外ではなかった。

ファシルは帝国城の敷地内に入ってから感じていた、体にのしかかるような重みの正体を理解した。それは目の前にいるその男が作り出したもので、それはその男の力の一端であると同時にそれを知っていた。

≪ガイラーズ≫

ファシルがその力を遮断すると男は口を開いた。

「それでいい」

上からの物言いで紡ぐ言葉は、自身が絶対的なものだと言わんばかりであり、自身が正しく他者が間違いだ、と告げているようであった。

そして勿論その所作も男の意識下にない。

ファシルの行動を見届けた後に口にした言葉には続きがあった。

「──しかし」

と逆接させるその言葉の後、男はくどくどと指摘しだした。

「お前はこの力を知っていたはずだ」

「同じ手に気づいていながら対処しないその杜撰な対応……」

長々と告げる男の指摘は合っていたが、冷静さを欠いていたファシルには些細な事であった。終わりの見えない説教の最中、ファシルは手に持っていた血だらけの槍を消した。

≪セス≫

ファシルの手に現れる剣。ファシルは手に持ったそれの柄の所を何度か握って感触を確かめた。幾度もの戦いで使ってきたその剣の感触は手に馴染んだもので、今更それを確かめるまでもなかった。しかし目の前の説教を続ける男、その羽付きは尋常ではない。説教を続けるその姿に一切の隙が無いのだ。ともすれば見失ってしまうかもしれないファシルの姿を、その羽付きは一切見ることなく捉えているのだ。それに加えて自身の前に突き刺さる剣を手に取る様子もない。それだけ自身の力量にゆるぎないものを感じているようであったが、その者にとってそれは当たり前のことで気になどしていなかった。

ファシルと自身の力量に絶対的な差があると信じて疑わない、あって然るべきと考える羽付き。その羽付きに奇襲は不可能であるとファシルは理解していた。そしてファシルが槍を選ばなかったことにも訳があった。

本来、槍と剣で戦えば、槍を使う者が勝つ確率が圧倒的に高いという事は往々にして知られている事である。

得物を使った戦いにおいて間合いを長くとれるという事は、先手を取る事が出来て戦いを有利に運べるのだが、この場合は違う。その優位性はお互いの力量が同じであるという前提があって初めて成り立つのだ。

ファシルが対峙しているその羽付きはファシルの力量のさらに上を行く。

その事から間合いによる優位性は成立しないと言えた。


「……という事だ」

長く続いた羽付きの説教が終わるの待って、一気に距離を詰めるとファシルは選んだ剣で切り掛かった。

ファシル自身理解して振るうその剣は、無防備に見える羽付きへと向かう。

初めの姿勢から変わらぬその羽付きの姿。それと剣の相対的な位置に余白はなく、後はただ切られるだけであるように見えた。

ヒュンっと風を切る音。それは振るわれる剣の速さを物語ったが、それが羽付きを切る事は叶わなかった。鳴り響く金属音。ファシルの剣は羽付きの剣で受け止められた。

「くそ」

悔しがったファシルのその言葉は自身の力量の未熟さにではなかった。

そもそもそれ以前の話であった。

羽付きの前にあった剣がファシルの剣を受け止めたのだが、その剣の柄の部分に羽付きの手は握られていなかった。そして羽付きはその場から一歩も動かずファシルの剣をいなしている。

ファシルの剣は羽付きの操る剣にいなされていたのだ。

「いい勢いだ、だが」

ファシルの剣術を褒めたその後、足りていない部分を指摘する羽付き。

「踏み込みが甘い」

ファシルには殺し合いの本番であったが、羽付きにとっては稽古といったものであった。

ファシルが繰り出す剣技は一振りごとに速くなり、そして派生して手数を増やしていく。それはとても速く目で追えるものではなかった。しかしそれらは一つ一ついなされていく。それはまるでそれを知っている様で、如何に速く如何に多く打ったとしてもそれぞれ丁寧に対処されて指摘された。

それだけ二人には力量の差があった。


 しばらく打ち込んだファシルであったが、全く手応えのないそれをやめて羽付きから距離を取った。ファシルは目の前の羽付きの強さを改めて認識する。すると羽付きから核心をついた指摘を受けた。

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