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第七十話

 仕方のない事ではあったが、それに直面したその者は荒んだその心を癒す術を持ち合わせてはいなかった。当たり散らすその者は、手に持った槍をひたすらに振り回した。それは穂先で線を描くように流れ、その鋭い軌道はその線上に入ったものを真っ二つに切り裂いていった。血と共に舞う白い羽。

帝国に向かうその者が幸運であったのはその道中の事であった。羽を携えた小さきそれらはいずれも雑魚であったという事だ。それらがその者の進行を妨げるために引っ切り無しに立ち塞がる。雑草を刈るように散っていく羽付き。それらはその者の気がまぎれるまで現れているようであった。


 荒んだ者の眼前に映る帝国。それは名をトイフェリシュと言った。

トイフェリシュは周辺の国々を従えており、王国シュレヒタスもその内の一つであった。そしてその支配下の国々は全て羽付きの息がかかっていた。


 帝国トイフェリシュ城内にて、集う六人の羽付き。それらは玉座の間にて各々が好きにくつろいでいた。その協調性のなさが伺える姿には一つだけ共通点がある。それらの羽付きにはいずれも、四つの大きな白い羽が背中よりのぞかせているという事だ。

その中の血気盛んな男が口にした。

「とうとう来たな」

その言葉には待ちわびたといった節が見えたがそれはそれを口にした者だけで、他の者らはそれにさして興味がないようであった。

「あなただけですよ」

そんなに楽しみにしていたのはと冷静に返す青年。青年は床に座り込んで本を手に取っている。その青年は自身の横にいくつかの本を平積みして本を読み漁っているようであった。

「以前おっしゃっていた者ですな」

血気盛んな男の話に乗る中年の男。中年はその場に集う者全員が視界に入るように佇む。その者は穏やかにそう言うとちらりと窓の方を見た。そこには、窓際で外を眺めて無言を貫く男が一人立ち尽くしていた。その無言の男は中年の男の視線に気づくとスッと姿を消した。中年の男は、やれやれといった表情を浮かべると視線を血気盛んな男に戻した。

「どうせ」

大して強くないんでしょと紅一点の女。宙に浮かんでおり、その姿勢は胡坐をかいた座り方であった。女は「それに」と言葉を続け、帝国に迫るその者をさして

「ペイスティリパに助けてもらってたそうじゃん」

とけなした。そしてさらに続ける。

「あの娘もそうだけど」

「その程度でここに来てもね」

とその場の誰に見せるでもなく両手を小さく広げたその仕草は、その者を見下したものであった。

「というわけで」

「皆さんあまり興味がないので」

どうぞと未だ本から目を離さない青年がそうまとめた。

「お、いいの?」

「じゃあ俺がもらっちゃうよ」と満更でもなさそうに血気盛んな男は言うとともに大きく羽を広げる。その様子は楽しみを前にして堪えきれないといったものであった。そして血気盛んな男の一連の言動は、元より誰にも譲る気がなくむしろ邪魔をするなと暗に忠告しての言動であった。

そして血気盛んな男が飛び立とうとした瞬間、静かにし沈黙していた最後の一人がそれを制止した。

「待て」

その最後の男がそう口にすると他の者は意識をそちらに向ける。最後の男が放つ言葉に一斉に向き直る各々。その様子からその者がこの場をまとめる絶対的な存在であると言えた。そして次に発した言葉に各々は納得しそれを肯定した。一人を除いて。

「俺が出る」

「なんだよ」

「お前が出る程でもないだろ」

決まりかけた事が鶴の一声で覆ってしまった事に納得がいかない血気盛んな男。しかし愚痴をこぼす血気盛んな男であっても、その男の決定が絶対である事を理解している。

「わかったよ」としぶしぶ受け入れる血気盛んな男は「でも」と食い下がる。そのしつこさから男はそれを許可した。

「同行するのはいいだろ?」

「ああ、いいだろう」

そうしてそれら羽付きにとって些細な会議が終わると各々は玉座の間から姿を消した。

そして二人の羽付きは帝国城の大きな広場でその者を迎え待つ。


「楽しみにしてたのによ」と未だに愚痴を漏らしている血気盛んな男。しかしふざけた雰囲気はそこまでで終わり真剣な調子に一変すると「分かってるよな」と男に問うた。

その主語のない問いに男は「勿論だ」と表情一つ変えることなく言葉を返した。

顔を合せずにすごんだ事の返事を聞いて血気盛んな男は納得したようであった。

「ならいい」


二人の羽付きが真剣な表情のままにやり取りをしたその視線の先に帝国城下の道を無視して直進してくるその者。

その者の姿を確認した羽付きは一人を残して姿を消した。

その残った羽付きは目の前に現れた怒り狂うその者に対して表情を変えることなく口を開いた。その口調は単調なもので絶対的な決めつけであった。


「やっと死ににきたか」

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