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第六話 ver2

 手に持った剣の感触を確かめたファシルは視線をケツ顎に向けた。

ファシルはケツ顎の長い準備に付き合う気はなかった。ケツ顎のその無防備な姿は、隙だらけといったもので単純な剣の一振りすら避けられないであろうと思われた。

ファシルはケツ顎に切り掛かるために距離を詰めにかかる。

しかし、地面を蹴ろうとした足が意に反して力む。それは咄嗟の事で距離を詰めるどころか、むしろケツ顎から大きく距離を取った。

ファシルが取った距離は大袈裟な程にケツ顎から離れたもので、完全に手の届く範囲から外れたものであった。

しかし、完全な安全領域の確保といった観点からは充分とは言えず、今のファシルにとってそれは心許なく感じられた。

距離を取ったファシルはすぐに剣を構えるとそれに備えた。

長々と間抜けに詠唱を続けるケツ顎とは対照的に、鋭い緊張に包まれたファシル。

緊張が支配する最中にファシルが瞬きをした次の瞬間、ソイツは現れた。

ケツ顎の詠唱はまだ続けられていたが、急激な変化にファシルの世界は無音となった。

ひしひしと伝わる強者のそれは、目の前のソイツから放たれたものでありファシルはそれを嫌という程に感じ取っていた。

そしてファシルが感じている緊張を加速させている事があった。

それは羽付きであるソイツが、ファシルの知る羽付きとは違う明らかな違和感を見せていたからであった。

目の前の羽付きの見た目は子供ではなく、青年であった。

ファシルは、ソイツの違和感と共に感じる異様さに動けなくなった。

その場に固定されたような感覚で、命令を受け付けない自身の体のそれは、動くことが絶対的な死を招くと体が警告しているようであった。

紙一重のところで死と隣り合わせのその場所が、とてつもない緊張感を醸し出す。

ファシルは、大袈裟なその距離を近いと感じると共に、選んだ行動が完全に正解であったと確信していた。


 目をつむって続けられた長い詠唱は先を残していたが、妙な空気感を感じ取ったケツ顎がそこでやめたためにその先を聞くことはなかった。

鈍いケツ顎でも感じられる程のそれに、恐る恐る目を開けるとソイツはいた。

自身の前に立つ見知らぬソイツにケツ顎は少し驚くと、ソイツを避けてファシルを見た。

「どうだ」

俺にかかればこんなものだと自慢するケツ顎。

しかし、その自慢する声はファシルに聞こえる大きさであったが、ファシルはそれを聞いていなかった。ファシルはそれどころではなかったのだ。

最早ケツ顎など気に留めていなかったファシルは、目の前に現れたソイツに全神経を集中させていた。


「なんだ?」

怖気づいたのかと小馬鹿にして言うケツ顎。そのケツ顎の勘違いはさらに続く。

空気感を感じ取れても、空気を読むことは出来ないケツ顎はソイツの前に出て自慢気に言葉を連ねていく。

沈黙を貫くソイツの異様さに気付く事の出来ないケツ顎はしばらくの間、自身の言いたい事を言い続けると満足したのかソイツに命令を下した。

「さあ、目の前の雑魚を殺すのだ!」

横柄な態度を取るケツ顎。

するとソイツは命令を聞き入れると、全く体を動かさずにして見せた。

──ぐしゃっ。

嫌に残るその音を最後にケツ顎は爆発四散した。


 動けずにいたファシルは、目の前で起きた光景に更に体を強張らせた。

そして羽付きはそれらを気にすることなく喋り始めた。

「よくしゃべるハエだな」

「間抜けの召喚に応じるか、馬鹿が」

飛び散った肉片にさらに吐き捨てられる言葉。

ファシルは目を見開いた。それはファシルの知っている羽付きとは決定的に違ったからであった。

(こいつ、言葉を話すのか?!)


 ファシルが村で戦った羽付きは奇声を上げる程度で、まともに言葉を使えなかったのだが、目の前のソイツは明確に言葉を話している。

醸し出す強さだけに留まらず言葉を介すソイツは、これらの事から上位の存在であると言えた。


「お前だろ」

「あの御方に傷を負わせたのは」

頭の整理が出来ていないファシルは、その羽付きの訊いてきた事に答えあぐねる。

すると、答えあぐねているファシルを待たずに羽付きの言葉が続く。

「とぼけても無駄だ」

「あの御方のニオイがお前からしている」

そう言い切った羽付きは表情を変えた。

ニヤリとする羽付き。

「やるな」

「俺たちに傷を負わせるとは」

「普通は効かないんだぜお前らの攻撃」

本来はあり得ないことに興味を示す羽付きは、顎で指して「その目だろ」と言った。

「その左の赤い目」

羽付きが指摘したファシルのその目は、ファシルが気が付かない内に赤く染まっていた。

ファシルの赤くなった左目は、それそのものが特殊な力を持っていた。

羽付きが指摘したそれは正解であり、それはファシルの中にある疑問を納得させた。

それは、父であり師であるガイアスの死であった。

ガイアスの下で剣術などを学んだファシルにとってそれは、とても大きな疑問となっていたのだ。複雑な気持ちながらも納得するファシル。

そのファシルをよそに羽付きは、足元に落ちていた剣を拾った。

「まあいい」

「やっと見つけたんだ」

「どれほどの強さか見せてみろ」

遊び半分に殺し合いを望む羽付きにファシルは怒りを露わにした。

「ほざけ!」

最早ソイツに訊くことはなく、只の仇となった羽付き。

ファシルは迷いを捨て自身を奮い立たせると啖呵を切った。

「ここで終わらせてやるよ」

羽付きは高笑いをすると表情を一変させて凄んで見せた。

「勘違いするなよ」

「お前が以前殺したのは雑魚にすぎん」

「あんなのと一緒にするな」

羽付きからふざけた気が消え失せる。

「かかってこい」

「アンエンジの力を見せたやる」

「貴様が最後に見るのはこのトゥスタスだ!」

お互いの気持ちが激突すると、お互いの剣が火花を散らした。


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