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第六十八話

 突き立てられた槍を中心に広がる水面の波紋。それは次第に大きくなって映した景色を歪ませていった。慢心が招いたその結果は全くと言っていい程に感触のないものであった。本来なら空気中から水中に移る時、少なからず抵抗というものを感じられるが、そこは水中ではない。ファシルは自身の加速した体を止める事が出来ず、自らそこへと入っていった。

ファシルがそこへと入っていく様はとても静かなもので、綺麗なその着水は少したりとも飛沫を上げることはなかった。それだけファシルの槍は一点を貫くものであった。


「アリファ!」

ファシルを空間に閉じ込めた双子の羽付きの片割れはそう叫んだ。

「ええ」と返事を返した羽付きはファシルを閉じ込めた立方体の空間に新たな空間を覆いかぶせた。そうすることによって立方体から漏れ出る魔力をその場に留めてそれを少しづつ変換吸収して自身の回復に当てた。

先刻の失態から少し巻き返せた羽付きは安堵の表情を見せたが、すぐに緊張した面持ちへと変えた。


 ファシルが見ていた双子の羽付きは蜃気楼であった。それはとても単純な仕組みで一目で分かるものであったが、ファシルは見逃してしまったのだ。詰めの甘さに苛立つファシル。ファシルはその姿が前後左右上下に映し出される空間にいた。ファシルはそこで、苛立つ自分の姿を見て「こんな風な顔をするんだ」と少し冷めた目線で自身を見ていたが、それはひたすらに連続していた。

ファシルは気だるくも、その途方もなく続く自身の姿に触れようと、正面に手を伸ばした。すると直近に映る左右反転した自身が伸ばした手と重なる。それはそこが壁である事を現していた。ファシルが閉じ込められたこの空間は景色こそ途方もなく連続して広がっているがそれは、実態を反転して映し出す壁が前後左右上下に配置されている事によって起きる現象に過ぎなかった。

それが分かったファシルは空間からの脱出を試みる。

ファシルは手に持っていた槍で、突くのではなく払うように軽く壁を切りつけた。この行動は偶然であったが、これは幸運な事であった。

目の前の壁を切りつけるファシルと同じく、左右反転して映る自身も槍を振るうと、壁に亀裂が入った。ファシルは亀裂の生じた壁に映る自身を見てある事に気が付いた。壁に映る自身の体から血が流れているのだ。それはその亀裂を境に流れているように見えた。ファシルは不気味なその光景から目が離せないでいると、自身の体に遅れて感覚がやってくる。それは次第に激痛へと変わった。その激痛は切られた時の感覚に似ていると思ったファシルは自身の体がいつの間にか切られていることに気づいた。そしてファシルは目の前の壁に視線を戻すと壁の亀裂は消えていた。しかし体からは血が流れている。それらが意味することに「そういう事か」と言葉を漏らしたファシル。その予想は的中していた。


 ファシルが閉じ込められた空間はそれまでのものとは違い、この空間は内包した者を映す空間であった。その者の行動はそのまま自身に返ってくるのだ。殴れば殴られ、切れば切られる。これら行動の応報から、閉じ込められた者は自力では脱出できない空間となっていた。そしてこの空間で見える連続した景色はその者の魔力量に比例して広がりを見せ、その量の増減がそのまま連続した景色の数に影響する。そして今もなお、その景色は数を減らしている。この空間は内包した者を閉じ込めると同時に魔力を奪うものであった。


≪シルビート≫

壁に映る行動が自身に返ってくるのならとファシルは、壁に手を当てて映った自身と手を重ねてそう口にした。すると先程切られた体が回復した。体の回復を確認したファシルであったが、その瞬間ふらついてその場にこけてしまった。

訳が分からず、しばらくその場に腰を落としたまま、ファシルは自身の体の気だるい感覚に気が付いた。そしてそれを確かめた。

≪ドッラ≫

ファシルは黒い球を呼び出した。ファシルの近くに浮く一つの黒い球。

そしてファシルは「やっぱり」と呟いてこの空間の仕組みに確証を得た。


 ファシルが呼び出した黒い球の数は一つであったが、消費された魔力の量がそれよりも遥かに多かった。この事からこの空間では魔力を使うと外よりも多く消費されてしまうという事であった。そしてそれは黒い球の消費魔力から大体の量が分かった。その消費量は連続した景色の数に関係する。すなわち映し出された数だけ消費するのだ。ファシルが自身を一回だけ回復したつもりでも、前後左右上下に映った数だけ回復している。そしてそれらは更に広く連続している。ファシルは一回の回復に途方もない魔力を消費していたのだ。そしてそれを確かめるための黒い球。ファシルは立っていられるわけがなかった。


「くそ」

弱弱しくそう悪態をつくファシル。ファシルはその場に寝転んでいた。そしてその姿勢のまま見上げた上の壁に映る自身の姿を見てさらに気付いた事があった。それは連続した景色の数の減少であった。先程までよりも明らかに変わってしまった景色。

その変化が自身の危機である事を理解しているファシルであったが、意識が朦朧として頭が回らない今、どうする事も出来なかった。


「どう?」

「もう大丈夫」

そう言って回復の度合いを確認し合う双子の羽付き。二人は更に魔力を吸収して空間を外から閉じようとしていく。時間の経過によって小さくなった立方体。その立方体の大きさから内包した者の命はあと少しと言えた。それに加えて力を込める双子の羽付き。立方体の大きさは更に小さくなろうとしていた。

その時であった。

この場を覆う障壁が突如粉々に砕けた。


「来てしまったのね」

そう呟く双子の羽付きの片割れの表情は悲哀に満ちて、そしてその視線は小さくなった立方体に向かう小さな光に向けられていた。

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