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第六十七話

 双子の羽付きは加速した。ファシルが拳で砕く壁の一枚先にいたはずの二人は時間が経つにつれて二枚先、三枚先と離れていった。ファシルも加速してそれを追うが、その距離は離れていく一方であった。

手が届く距離から完全に離されたファシルは目で追う事すら怪しくなっていた。そして並び立っていた羽付きは何時しか一人となっていた。そしてそれは不規則に入れ変わる。どちらか一人に絞ってファシルは目で追うが気が付くと入れ替わっていた。

空間の移動を利用してどんどんと加速していく双子の羽付き。それらはとうとう目で追える速さを超えた。そのでたらめな速さで動き回る双子の羽付きにファシルは舌打ちをすると、気の流れに集中して位置を探り始めた。その時であった。ファシルは自身の動きを疎かにしていたのだ。


 自身の後を追うように何度も聞こえていた不快な音が消えた。そしてそれはファシルの向かう先の空間でぎゅるぎゅると音を立てつつ待ち構えていた。

あまりにも同じ行動の連続であったため、ファシルは無意識に次の動作も同じようにしてしまっていたのだ。ファシルはその新たに聞いた音の空間にまんまと足を踏み入れてしまう。そしてその瞬間その空間は、それまでの閉じる空間とは違い空間そのものをねじれさせた。新たに聞いた音はその音であった。それはそれまでの空間と違いゆっくりとねじ切るように動く空間。ファシルの体は空間のねじれに沿ってゆっくりとあらぬ方向にねじれていった。

空間の中の対象者がねじ切れるのを足を止めて上空から見据える双子の羽付き。それらはこれで終わったと高をくくっていた。

≪シーオース≫

しかしその空間の仕組みが幸いした。ゆっくりとした動きであったその空間がねじ切れてなくなるとそこには粉々の細剣があった。そしてそことは違う場所に立つ対象者。その者は保険として、複製した細剣をあえて落としていたのだ。

それを確認した双子の羽付きは先程のファシルと同じ様に苛立ちを露見させると、再び加速しだした。


 間一髪で死を逃れたファシルであったが保険として仕込んでいた手が使えなくなった。次にまた同じ手が通用するほど甘くない相手である事をファシルは分かっていた。しかしファシルはねじれる空間に入る瞬間、その空間の小さな綻びを見逃さなかった。それはファシルが双子の羽付きを「追っている」という事であった。ファシルはそのとても小さな糸口に確証を持っていなかったが、考え得る事より感じ取る事を優先させた。

不快な音が自身の後を追ってくる中、ファシルは細心の注意を払いつつもその場に足を止めた。


≪ビスキナ≫

加速し続けていた双子の羽付きはその声を聞いた瞬間、対象を見失った。厳密には見えているのだが、その視覚的に見えている対象は残像であり実体がない。対象の捕捉に自ずと減速していく双子の羽付き。その直後であった。片方の羽付きが吹き飛ばされた。かろうじて防がれたその一撃は次にもう片方の羽付きも襲う。自身の創り出した空間に叩きつけられる双子の羽付き。二人は混乱しそして足を完全に止めた。双子の羽付きの視界ででたらめに動き回る対象。それは先程までと完全に立場の逆転と言えた。そしてその対象はなおも加速していった。


 双子の羽付きは自分たちが作り出した数多の空間に翻弄されていた。そして一度種が明かされたこの空間は全てにおいて後手に回る事となった。それは空間が、移動の手段と攻撃の手段を兼ねているがための事であった。それと同時に対象の残像が空間の閉鎖を無意味なものとした。空間を利用して先を行く者が有利に戦うためのこの攻撃は最早機能していなかった。どんどんと離れていく対象であったが、後追いとなってしまった双子の羽付きはそれを追うしかなかった。

加速し続ける対象。それは次第に離れて羽付きの手の届く範囲から消えた。自分たちがしていた行為であったが、それが自身に降りかかる事の苛立ちに片方の羽付きがしびれを切らした。足を止めた羽付きは連続する空間の継ぎ目を無理やり閉じ始めたのだ。

「だめ!イルファ」

そう声を上げた羽付きは、もう片方による空間閉鎖で出来た壁に阻まれて袋小路へと追い詰められた。そこへ現れる対象。羽付きは細剣を振るったが壁の隔たりのない今、対象の相手ではなかった。対象は素手で細剣をいなすと羽付きに一撃を入れた。それは対象にとって待ちに待った瞬間であり、そしてそれは間違いなく羽付きの体に触れて食い込み、奪われていた魔力を回収した。


 ファシルの魔力回収が成功したことと予想外の追い掛けっこによる魔力消費で連続した空間攻撃は維持出来なくなった。そしてその場を覆う大枠の障壁を残して全て粉々に砕け散った。渡る砕ける音の重なりが大きく響く。その音の大きさがその場の空間の数を現していた。

双子の羽付きとファシルの間を遮るものは何一つなくなった。


 ファシルの拳を直接受けた羽付きは消耗が激しくその場を動けない様であった。そしてそれを庇う様に立つもう一人の羽付き。その羽付きは自身の軽率な行動の結果に焦りを見せていた。

≪エルシーク≫

魔力を存分に使って槍を呼び出したファシルはそれを構えると、視線の先にいる双子の羽付きを見定めた。そして槍を握る手に力を込める。

空間の攻撃が突破されて、そして今は隔てる壁一つ造り出せない双子の羽付き。

ファシルの次の攻め手が決着であると思えた。

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