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第六十六話

 意識が薄れ、感覚すらも薄れていく中ファシルは不気味な感覚に襲われていた。それは果てしなく深くそして暗く、それであって凍える程に寒い。ファシルはそれから逃れるために必死に足掻いて抜け出そうとした。ファシルにとってそれは目の前の出来事よりも恐ろしい事であった。ファシルはそれが何か知っている。そしてそれを二度と思い出したくはなかった。ファシルは無意識に叫んでいた。

≪ドッラ≫

黒い球はファシルの叫びに呼応する。いくつか現れた黒い球は形を変えてファシルの左右で細剣を突き立てる羽付きそれぞれに向かって突撃した。細剣を突き立てた姿勢のまま、至近距離とあって羽付きは躱す事が出来ず黒い球が直撃する。しかし左右の羽付き達はそれを気にも留めず反応を示さなかった。

左右それぞれの羽付きに触れて、鋭く尖らせた部分を突き立てていく黒い球。その黒い球の尖らせた先が触れた瞬間、それは不自然に食い込んだ。それは人体に食い込んでいるはずが、目に見えて様子がおかしい。羽付きの肌と黒い球との間の、その接触面に何かがあった。それは薄い膜であった。薄い膜は黒い球がどれだけ強く食い込ませようと突き立てても羽付きに刺さるのを阻害した。本来なら長さ的に肌に刺さって傷口が出来るであろう所まで突き立てられた尖った先もそれは貫く事が出来なかった。

不自然な引っ掛かりを見せるその薄い膜をそれでもなお突く黒い球。その突撃はやがてその薄い膜を突破した。柔らかな感触を見せていた薄い膜は突如として固くなり、そして表面をひび割れさせた。ひびとなって亀裂を生じさせたその隔たりはやがて、状態を維持出来なくなり砕け散った。音を立てて粉々になっていく隔たり越しの羽付き達。それらはやはり本体ではなかった。


 かろうじて死を免れたファシルであったが、双子の突き立てた細剣によって多量の魔力を吸い取られていた。そのため魔力を失い本来の力が出せなくなったファシルは意識が朦朧としてその場に膝を突いていた。

「あと少しで楽になれたものを」

「運がいいですね」

膝をつきながら姿勢を保ちつつ声のする上空へと顔を上げるファシル。その視線の先に広がる光景に驚きを隠せなかった。そこには数え切れないほどの双子の羽付きの姿があった。それらは上からファシルを見下ろしている。それらの視線はファシルを憐みの目で見ていた。まだ、はっきりとしない感覚の中ファシルは苛立ち、歯を食いしばった。そしてそれは全身に力を伝えた。ファシルは今にも飛び掛かりそうであった。


 体の末端まで感覚が戻り始めたその時、双子の羽付きはその数を二つに収束させた。ファシルに見せつけるためだけにしたようなその行為はファシルの戻りつつある神経を逆なでした。ファシルは薄い感覚によって制御の甘い黒い球を飛ばした。ほぼ無意識に近いその攻めは視界で捉える双子の羽付きに真っすぐに向かう。羽付きの動作の隙を突いたはずの黒い球であったがそれは見えない壁に阻まれて進行を止めた。


「無駄ですよ」

「私たちに触れることは出来ません」

慢心して見える双子の羽付きはそう言い放ったが、黒い球の突撃はやがて見えない壁を突破する。音を立てて砕ける見えない壁を横目に直進する黒い球。それはあと少しで双子の羽付きに触れるといった距離まで差し迫ったが、黒い球は羽付きに触れることなく真っ二つに切られてしまった。縦に切られた黒い球はその直後に何回にも分けて切られていった。そして細かく切られた黒い球の欠片が一つファシルの下に落ちてきた。ファシルはその欠片を見てある事に気が付いた。それは欠片の切断面であった。綺麗に切られたその切断面は一切の綻びがなく、その欠片は元々その形であったかのように見受けられた。そして形の意地が出来なくなった欠片は霧散していく。

ファシルが気づきを口にしかけたその時であった。

「空間を切ったのか」

片方の羽付きがそう言ってファシルの言葉を奪い遮ると、もう片方の羽付きがそれに返事するように言葉を続けた。

「その通りですよ」

二人だけで会話を完結させる羽付き達をファシルは再び見やった。そしてその肯定的な返事の確証を得るためファシルは双子の羽付きを中心に辺りを見渡す。

≪アージオ≫

するとその返事の確証が得られた。


 最初にファシルを閉じ込めたこの空間は、大小様々に区切られた空間を連続したものとして内包していたのだ。そしてそれらの空間を閉じる事によって、その場に閉じ込めた物をなかった事に出来る。先程の黒い球はそれの繰り返しで細かく切られていたのだ。

さらに、先程の無数に分身して見えた双子の羽付きの姿はその幾重にも重なった空間を使った応用であった。

数を増やす事も瞬間的に違う所へ移動することも、そしてその一つ一つの空間を閉じる事は勿論、作り出す事も出来る双子の羽付き。

今ファシルが相対する双子の羽付きは空間の操作が得意だという事であった。


「そういう事か」

相手の力を理解したファシルはそう呟くと、見る、ことに集中した。それは死を回避するためでもあり、糸口を見つけるためでもあった。

この一見不利な状況下であったが、ファシルはまだ運に見放されていないと言えた。

ガイアスの教えを理解できたこと。

空間の隔たりが見えること。

そして双子の羽付きはファシルの魔力を吸収したこと。

これらがファシルの心を繋ぎとめた。さらに最後の行為は何か意味があるとファシルは考えていた。

≪クルエーレ≫

考えがまとまったファシルはその場から消えるように凄まじい速さで動いた。すると先程までファシルが立っていた場所は、見えてそこにはあるものの不快な音と共に閉じられていた。


「おらっ」

空間の外から拳をぶつけて砕くファシル。ファシルは一つの空間を砕いて壊すとすぐさま次へと移動した。その直後に不快な音がファシルの後を追う。

ファシルは隔たりの見える空間を殴って壊して回った。それは先程双子の羽付きによって魔力を吸収されてしまったためであった。武器を形勢するために魔力を必要とするファシルであったが、魔力に余裕がなくなっていたのだ。それと同時に長さがあるそれらの武器は取り回しが悪く空間に取り残されると考えたファシルは拳を選んだのであった。さらに、黒い球によって空間の隔たりは外からの攻撃に弱い事がわかっている。これらの事により拳が最適解であると言えた。


 壁を砕きながらも空間閉鎖を避けて迫るファシル。それを壁を隔てて嘲笑う双子の羽付き。ファシルは壁一枚挟んで目と鼻の先にいる羽付きに手が出せず、苛立ちを隠せないでいた。そんなファシルの姿を見て、逃げる事ばかりしていた双子の羽付きはそれぞれ反転攻勢に出た。

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