第六十五話
双子の羽付きの目つきは何時しか険しいものとなっていた。それは相手を捉えて離さない。もとより加減する気などなかった双子の羽付きは細心の注意を払い相手に向かう。そしてそれら双子の羽付きから繰り出される攻めは手に持つ得物によって次々と展開した。しかしそれらが相手に触れる事はない。間違いなく目の前にいる相手を目で捉え、感覚で捉えているにもかかわらず掠りもしないのだ。双子の羽付きは苦々しい表情を現していた。
その相手自身の記憶にとどめていない過去のそれに似たその動きは、羽付きにとって忌々しい記憶を想起させた。
もしその相手が記憶と同じかそれ以上であるなら今対峙していること自体が無駄であり、戯れにすらならない。双子の羽付きは先程までと全く違う相手に焦りを覚え、そしてそれは立場の逆転を意味した。
焦る羽付きは自身の意思とは関係なく相手を恐れていた。その証拠に今手に持つ得物は一撃が必殺なのだ。そしてその得物が機能しないことに対して徐々に恐れを実感する。相手が捉えられない程の速さで動いてくれていればどれだけよかった事か。それなら打つ手がまだあった羽付きであったが、目の前の相手は速く動いてなどいない。むしろ止まってしまいそうな程に遅い。その動きはさながら踊って見えた。双子の羽付きの前で得物も何も持たずに踊る相手。その動きの原理は羽付きには理解できないもので、気を読むものであった。その芸当は微々たるものでも見逃さない。二人がかりでお互いの隙を極力なくして攻めるがそれらは紙一重で躱されていく。しばらく続いたその二人の剣舞は、片方の羽付きが調子を外したことで、そこが綻びとなって終わりを迎えた。隙が出来てしまいそこに、相手の綺麗な踊りの流れに沿った流麗な蹴りが炸裂した。それをもろに受けてしまった羽付きは後退を強いられ距離が離れてしまう。そうして相手の出番へと舞台を移した。
≪ジズ≫
聞こえてきたその声に双子の羽付きは相手にさらに鋭い視線を飛ばす。そしてその視線の先に立つ相手はお互いが持つ得物と同じ形の物を手に持っていた。その得物は白を基調とした細剣で刺突を主とした戦い方を得意とする。そんな双子の羽付きと同じ得物であったがそれは彼女らに合わせて作られた特注の物。複製とはいえそれは羽付き以外に触れる事は出来なかった。しかし目の前の相手はそれを当たり前のようにそれを手に持っている。そしてそれを構え、迎え撃つつもりであった。
使い方がなっていない、ましてや握り方も曖昧な相手。
その様子を見た双子の羽付きの、彼女らの感情が初めて露呈した瞬間であった。驕り高ぶる相手に堪えられずに先手を取る羽付き。それはこの時の最速の動きで相手に差し迫った。細剣の名の通り刃の部分が細く、相手からは点に見えるその鋭い刃先が凄まじい勢いのまま刺突として相手を襲った。
不慣れな武器に見様見真似の構え。その素人同然の相手に渾身の刺突を見舞う羽付きの片割れ。それは瞬く間に間合いを詰め、相手の中心を狙ったもので避けられはずがないと思えた。しかしその刺突は、刃先同士が擦れる音を立てつついなされると、羽付きの勢いを反対に利用されて羽付きの体に食い込んだ。
凄まじい勢いと細剣の点のように小さい表面積。これらが触れた面はとてつもない圧力を帯びていて、いとも容易く触れた面を突き破っていく。瞬間的な事であったが羽付きは反転攻勢を受けて串刺しとなった。
そこへ遅れてもう片方の羽付きが攻め入る。相手はそれを躱すために細剣を引き抜いてその場から少し後退した。双子の羽付きは並び立つ形を取ったがこれは誤りであった。
無情に徹するのであれば捨ておくべきであったが、それが出来ないことすら織り込み済みで相手は動いていたのだ。
≪クルエーレ≫
遅れてきた攻め手を躱すため後退した時、羽付きの血を携えた細剣の刃先が、赤い細い線を空中に描いた。そしてその赤線は途切れることなく方向を転換すると再び二人並び立つ羽付きの下へと差し迫った。それらは速くそして鋭く幾重にも赤線を引く。双子の羽付きは刺突による剣山に晒された。それは純白に赤を滲ませた絵画のようであった。
そこに留まって動きを見せず、されるがままの双子の羽付き。ファシルはそれらにとどめの刺突を見舞った。すっと刺さる細剣。ファシルはそれを引き抜くと、ある違和感に気が付いた。刃先に付いていたはずの血がそこにはなかった。そしてそれは辺りにも飛び散っていない。それは元々そうでなかったような感覚であった。さらに違和感に気が付いたファシルであったがそれは死線の中では遅いと言えた。双子はもとよりその空間そのものが左右反転していた。そして気付くのが遅れたファシルの左右から細剣が突き刺さった。それは双子によるものであった。完全に二つの細剣がファシルの体に突き刺さると、左右反転していた空間が粉々に砕けて本来の空間を現した。ファシルはいつの間にか双子の羽付きが創り出す空間の罠に嵌っていたのだ。優位に立っていたつもりのファシルであったが実際は、踊っていたのではなく踊らされていたのだ。
そして、左右からの刺突は激痛を伴いつつファシルの魔力を吸い取っていく。
ファシルは見る見るうちに体から力が抜けていくのを感じつつもどうする事も出来なかった。




