表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/121

第六十三話

 陽が沈み、すっかり辺りが暗くなった頃二人は廃村にいた。森を抜けてしばらくして見つけたこの廃村は生命の痕跡はとうになく、文明が朽ちていくのをただただ待っているようであった。それはとても長い時間を要して行われるもので、この先のどれ程長い時間がかかるのか分からなかった。今までに経過した時間の流れよりも、長いかもしれないその時間をただただ待ち続けていた。

この廃村より先は広大な砂漠地帯が待ち受ける。その砂漠に入る前の緩衝材のような事前準備の場所としてはうってつけだったのかもしれない。

この廃村に残る建物はどれも砂が侵食している状態であった。そのなかでも比較的に大丈夫そうな建物の二階に二人は身を寄せていた。天井が崩れてなくなったその場所からは満点の綺麗な星空が見渡せた。近くに街などの人の営みがなく、光源としての火の光などがないその場所は、とてもよく星が見えた。


「綺麗」

そうポツリと言葉を漏らすレイリア。その表情は暗い夜の下であってもはっきりと認識できる。そんなレイリアの横顔を少しだけ見つめて「そうだね」とファシルも呟き、空を見上げた。そんなファシルの言葉を聞きつつもレイリアが星の話を始める。それはどこか遠い国に伝わる話であった。その星座の話は、今ファシル達が見合上げている夜空にはなく、どんな形をしているか分からない。しかしそんな見えない星座に思いを馳せつつ二人は星を、夜空を見上げ続けた。


 星座の話が終わってもなお夜空を見つめていた二人。しかし、再び口を開いたレイリアによって、その雰囲気は終わりを告げて別の話題へと移る。それはファシルが向かっている場所の事であった。

「行きたくない」

そう言い放ったレイリアの表情はとても暗いもので、めずらしいレイリアからの自己主張にファシルは押し黙ってしまった。そんなファシルの様子に構わずに矢継ぎ早に言葉を並べるレイリア。それはどうしようもなく、とても焦っているようであった。

レイリアの感情の吐露の意図がつかめないファシルはそっと抱きしめるしか出来なかった。ファシルはレイリアが落ち着くまで抱きしめ続けた。


 落ち着きを取り戻したレイリアに顔を合わせるファシル。その時ファシルが見たレイリアの顔は美しいと共に可哀そうなほどに目をはらしていた。その様子に二の足を踏むファシル。しかし、それでも言葉を続けた。

「ごめん」

そういったファシルの思いは間違いなく伝わった。そしてそれを聞いてレイリアはファシルの胸に飛び込んだ。二人は抱き合う形のまま夜を過ごした。


 この時の、レイリアのひどく動揺した様子はこの後に嫌という程理解することになる。そしてこれ以上ないくらいにファシルは後悔することになった。

生きてきたファシルの生涯の中でこれほどに、もしも、と思う事はなかった。


 雲一つなく広がる空に一際輝く太陽。それは果てしなく、地面を照り付ける。それによってとても高いところまで昇り詰める気温。その上と下からくる熱源によってその場はとても過酷な環境をつくり出していた。

ファシル達は砂漠を歩いていた。踏みしめる砂は少し沈み込むと、一定の所で止まる。それは歩くことを邪魔していた。ごくわずかな事であるが、それは一歩一歩と繰り返されて次第に大きな弊害となっていく。わずらわしいそれらは足取りを重くして行動を遅くさせる。

ゆっくりと歩くファシルであったがふと見た前方にその砂漠に似つかわしくない色が見えてくる。それは緑色がほとんどを占めて涼しげに思えた。砂色がひたすら続く場所に突如として現れたそれは幻覚のように思えた。それ程に浮いた場所であったからだ。二人はそこに向かった。


 二人が辿り着いたのは池がありその周りを木々が囲う場所であった。そこは道中では考えられない程に涼しく、暑さに疲弊していた二人はここで休憩をとる事にした。時として陽が頭上に来る頃であった。

池に足を着けて涼むレイリアを少し離れた所から見つつ、木にもたれながら休むファシル。

ファシルは木陰に座り込むと考え事を始めた。それは前日のレイリアの様子に起因する事であった。レイリアから、自身の考えと真っ向から反対の意思表示を受けたことが無かったファシルはとても動揺したのであった。それは日を改めた今、木陰で考え込む程には印象が強い事であった。しばらく難しい顔をしていたファシルの顔に冷たいものがかかる。それは思案する中のレイリアではなく、目の前にいるレイリアによってであった。

一瞬の事に、何が起きたのか分からなかったファシルであったが、視線の先のレイリアの子供のような笑顔を見て理解した。ファシルも子供の時のようにすぐにやり返すため池に向かった。

水を手ですくって掛け合う二人。それは最近のうっぷんを忘れるように、何もかも投げ出すように何度も何度も行われた。少しの間、童心に戻ってはしゃぐ二人であった。

しばらく続いた水遊びも満足したのか落ちついていた。お互いに水を掛け合った二人の姿はすっかり水浸しとなっていた。どちらからともなく笑い声を上げる二人。束の間の休息を楽しんだ。


 遊び終えた二人は、池から上がろうとしたその時であった。レイリアが姿勢を崩しこけそうになったのだ。別段こけたとて危険でもないのだがファシルの体は反射的に動いてレイリアの手を掴んで引っ張り抱き寄せた。唐突に抱きしめられるレイリア。そのレイリアの顔は水遊びによる体の火照りとは別に、顔を赤く火照らせていた。それに気が付いたファシルは咄嗟に手を離した。その焦った行動によって結局二人ともその場にこけてしまった。少しの沈黙の後、二人はその滑稽さに再び笑いあった。それはその場にこだました。


 池から上がった二人。水浸しになったものを乾かしている間、二人は木陰に入って、並んで座り込んでいた。周りが砂漠というだけあった少しも寒さを感じる事はなかった。

そんな中、ファシルはまた少し険しい顔をしていた。考え事をしていたのだ。今度は先程の事によった。こけそうになったレイリアの手を掴んだ時、ファシルは再びかすかな衝撃を感じていたのだ。

その事で黙り込むファシルを横目にレイリアが訊ねた。

「どうかした?」

そう言葉を放つレイリアの顔も先程までとは打って変わって真剣なものであった。そして次の言葉にファシルは驚きを隠せなくなかった。

「まただよね」

レイリアのその言葉端からはファシルの考え事の内容が全て筒抜けだと言わんばかりの様子が伺えた。実際にどれ程勘づかれているか分からないファシルであったが、ここ数日考えている事についてレイリアに洗いざらい話した。それはレイリアと出会う前の事からであった。


 ファシルの出身の村の事から始まり、そこで起きた出来事、その相手を追っている事、その者がいると考えられる場所が分かった事、それがレイリアの手に触れて判明したという事と順序だてて詳しく話した。

それらを話したファシルは今更ながら自身の事をレイリアに対して話していなかった事に気が付いた。機会がなかったとも言えたが、何故話さなかったのか不思議にも思えた。しかしそれと同じくらいに、言わなくてもレイリアは知っているという不思議な思い込みが確かにあった。それについて意識が逸れてしまいそうになっていると、静かにファシルの話を聞いていたレイリアが口を開いた。そのレイリアの言葉はファシルのそれと同じくらいに逸れた事であった。

「渡したい物があるの」

そう言うレイリアの顔はまた少し赤らんでいた。その様子の意図が掴めないファシルは短く「ああ」と受け入れた。するとさらに言葉が続く。

「この旅を無事に終えたら」

と付け足すレイリアの顔は先程の様子に加えて真剣なものであったので、その様子に応えるようにファシルも真剣に「わかった」と返事した。

ファシルの言葉を聞いたレイリアは緊張から解放されたような、言いたいことをやっと言えたような、そして安堵したように笑顔を見せた。弛緩した笑顔から悪戯っぽく「だから、上手くいくように願ってる」と言って少し乾きつつあった自身の服も構うことなく、着衣のまま池に浸けて、そして体を広げて大きく、空高くにある陽にさらした。


 木陰からその様子を見ていたファシルは少し呆気にとられたがすぐに笑顔になってレイリアを見つめていた。そしてファシルは立ち上がると「ちょっと」と言ってレイリアを残してその場から離れた。レイリアも皆まで言わずファシルを見送った。


 まだ少し水が滴る軽装の衣服を引きずり一人で砂漠に出たファシル。それは前日のレイリアの様子から、悲しませたくなかったからであった。

「出てこい」

居るのはわかっていると言うファシル。その言葉を合図にファシルを含めた少しの空間に魔力の結界が張られ、ファシルはそこに閉じ込められた。ファシルは甘んじて閉じ込められると目が疼くのを感じた。ファシルの左目は赤く染まっていた。するとファシルの視線の先に蜃気楼と共に二人の羽付きが現れた。それらは二人とも女性でファシルより年上に見えた。

そしてその者らの顔はどことなく既視感があり、瓜二つであった。

「あなたには」

「ここで死んでもらいます」

二人の羽付きは交互にそう言うと四つの白い羽を広げた。ファシルは前方の二人を注視しつつ結界をちらっと見た。それは透明でかすかに境界線が伺える。それは外から中の様子を見えなくする効果がある様であった。

ファシルの視線に答えるように羽付きの片方が言う。

「これは、あの娘のためなのです」

そう言った対象はレイリアの事であった。それを聞いたファシルは視線を完全に前に戻すと「ちょうどいい」と言い放った。そして

≪エルシーク≫

≪ミュラース≫

≪クルエーレ≫

ファシルは槍を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ