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第六十二話

 ネーベン領を出てしばらく歩いた二人は森へと入っていた。ファシルが目指している場所に向かうにはこの森が最短の道であったのだ。

森を歩く二人であったが舗装された道はなかった。しかしそこには確かに、歩くには困らない道があった。それはそこを通る人の往来によって出来た道であった。その道は森中に分岐していて、それは迷路のように広がっていた。そんな人を迷わすために出来たような道であったが、目印があるわけでもないその道を迷いなく突き進んでいくファシル。ファシルは記憶を頼りに道を進んでいた。

しかしながら方向音痴のファシルを知っているレイリアには、ファシルのその姿はとても不思議なものとして映っていた。

そんないつもと違う雰囲気を纏って道を進むファシルであったが、ファシルにも不思議に思うところがあった。それは今歩いている森の様子であった。

この森は、ネーベン領の森と違って全くと言っていい程に管理されていない。したがって、獣や怪物などが跋扈していてもおかしくないのだ。しかし、森に入ってしばらく歩けどもそれらに遭遇するどころか、気配すら感じられなかった。もし怪物などが何者かによって討伐されているならその痕跡などが残っているはずなのだが、それらは少しも確認出来なかった。


 ネーベン領の場合で考えるなら、その領地を支配下に置く国が人を募って、仕事として森の調査や間伐などを行う。そしてその際に遭遇した怪物の討伐なども行うのだ。さらにネーベンは国柄、商業の荷車が多く通るので森の開拓及びその舗装がなされていた。これらの管理によってでも怪物は出現する。なので全くの無にすることは不可能であった。


 しかし、この森は何処の国の支配下にもなく、人の往来によって出来た道こそあれど、全く手が付けられていない。いわば未開の地なのだ。

ビスベーリトのように、一個の強個体の存在によって統率がとられていたとしても無断で襲撃を計る怪物は存在するのだ。

そのことから二人が森を歩いている現在の状況はとても不自然であった。その不自然さに筋を通すとしたら、可能性として考えられるのは二つであった。

一つは、そもそも生き物がいない。

一つは、ビスベーリト以上の、強個体の存在を恐れて怪物が寄り付こうとしない。

この二つであった。

しかし、前者は論外な事なので、後者しか考えられないのだが、もしその存在がファシル達と時を同じくして森に居るのならファシルが見逃すはずがなかった。

それだけ強く、それだけ気配を消す事が出来る存在。その存在は、森の異常な不自然さよりも不気味な存在であった。


 ファシルはそんな不思議を通り越して不気味な事態に考えを巡らせているとある一つの答えに辿り着いた。

それはその強者が森に存在しているとしてその存在が

「気配を消すどころか気配をまき散らしている」

としたらと考えたのだ。仮にそうだとするとその考えはファシル或いはレイリアを起点に引き起こされていることになる。

なぜなら森の中で、二人がいる場所とは別の場所に居るであろうその者の存在をファシルが感じ取れていない上に、その存在を恐れて逃げた先で、ファシル達の前に飛び出てくるといった事もなかったからであった。むしろファシル達のいる場所を起点に、そこを中心に円が描かれて気配が感じられずにいるのだ。

このことから森の生物が軒並み恐れている対象はファシルかレイリアであった。ファシルはその答えにまず自信を当てはめてみた。しかしながらそれは間違いであると自身で分かっていた。すると、答えであるその存在は一人に絞られる。ファシルは少し後ろを歩くレイリアを恐る恐る見た。

「ん?」

どうかしたと言って、ファシルの視線に気づいたレイリアは少しハニカミながら言葉を返す。

「いや」

なんでもと歯切れ悪く言うとファシルは前に視線を戻した。

進行方向に視線を移したファシルは、まさかなと思いつつもまた違う考えを頭によぎらせた。

それは今までに全く考えたことが無い事であった。

(レイリアってどれくらい強いんだろ)


 ファシルはその小さな思いつきに考えを巡らせていると、その思いつきが好奇心を生んだ。ファシルは心の中に好奇心を芽生えさせると、それを次第に大きくしていった。

いろんな縁が重なり今まで行動を共にしてきたレイリア。そのレイリアと手合わせをする機会はこれまでなかったのだ。その事が偶然か必然かファシルは知る由もなかったが、これもまた不思議な事だなとファシルは考えていた。


黙々と歩き続けた二人はとうとう何者にも遭遇することなく森を抜けた。

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