第五十九話
物凄い速さで駆け抜ける映像。それはとある場所に向かっていた。
映像はネーベンの外から始まり、森を抜けて砂漠を抜けてさらに突き進んでいく。速く流れていく景色をしばらく見ていると大きな城が見えてきた。その城は、ファシルが以前に見た映像と同じ場所であった。
その場所に辿り着いたファシルは上空から見渡す。そしてファシルの視界に映ったのは不自然な光景であった。城の前にある大きく開けた場所にひしめく羽付き。それらは三人を中心に円を作るように囲い立っていた。円に立つ三人は二対一の構図であった。
一人は誰の目から見ても明らかな程の重傷を負って横たわっている。その者は少しの時間で事が切れるといった有様であった。
そしてそれを庇う様に二つの羽を持つ羽付き。その羽付きは横たわる者程ではないものの、かなりの怪我を負っていた。
そしてこれが不自然な光景と言わしめる決定的な事であった。最後の一人も羽付きであったのだ。その者は四つの羽を持ち、その二人に余裕の態度をとっていた。それは誇張でもなんでもなかった。
羽付きが命を懸けてまで羽付きに相対している。
その光景を見たファシルは酷い怒りを覚え、ファシルの左目は赤く染まった。どうしてそう感じるのか分からなかったが、居ても立っても居られなくなったファシルはその場に割って入ろうとした。しかし、それは出来なかった。見えない壁に遮られるファシルの体。ファシルはその見えない壁を壊すべく叫んだ。
≪──≫
≪──≫
≪──≫
立て続けに発せられる言葉はファシルの意思に反して、全く機能しない。
為す術がないファシルは壁を思い切り殴る。それはとても原始的で浅はかな行動であった。その行動が無駄なことは理解しているファシルであったが、本能が騒ぎ立ててじっとしていられなかった。
ひたすらに壁を殴り続けたファシル。両の拳からは血が流れ始めていた。
その場に向かう事が出来ないファシルをよそに、その場所は先の展開を見せる。
四つの羽付きに圧倒的な差を見せつけられた羽付きは、横たわる者を巻き込んで魔法を放つ。その魔法は光の砲撃であり、それは辺りを照らし、全てを飲み込んでいく。その場にひしめいていた羽付きのは光に吸い込まれていく。その光からは逃れる事は不可能であった。
「やめろ!」
ファシルは叫んだ。それはこの先の出来事に対してであった。その言葉の直後、余裕の態度を見せていた四つの羽付きは自らが握っていた光の剣を相手に投げつけた。それは光の魔法を放った羽付きに突き刺さる。そうして横たわる者とそれを庇った羽付きを残してその場は全て消え失せた。
剣に体の中心を貫かれた羽付きはとうとう倒れてしまう。そしてその羽付きは横たわる者に近づきそっと手を握った。すでに事切れて横たわる者に何かを話す羽付き。横たわる者に向けられるその言葉の一つ一つは先程まで起きていた事とは全く違い、思い出話であった。努めて優しい口調で語りかける羽付き。それはゆっくりと少しずつ語られた。
羽付きが事が切れる間近、ぽつりぽつりと紡がれた言葉。それは横たわる者に伝わることはなかった。
「ああ、知ってるよ」
「だから俺は絶望して」
「逃げてしまったんだ」
いつしか殴る事をやめて、手から血を流しつつファシルは呟いた。
それはその二人の会話に割って入っているような、既視感の様な感覚であった。ファシルはそう呟いた後、自分の言葉にはっとした。何かを思い出したファシルは終わりを迎えようとしている映像を見つつ言い切った。この後に、ここで見た事を再びを忘れてしまうからであった。その言葉に羽付きは笑みを見せた。
「逃げないから」
その言葉を最後にファシルは目を覚ました。
目を覚まし上体を起こしたファシル。その事に気が付いた医者がすぐに寄ってきた。無理しないでと言いつつファシルの体を支える。
「私が分かりますか」
医者は起きて間もなく、ボーっとしているファシルにそう質問した。
「ああ」
と言って次の言葉を発しようとした瞬間、別の者が飛び込んできた。
それはレイリアであった。レイリアはファシルの胸に飛び込むとそのまま顔を胸に埋めた。無言のままのレイリアにファシルは少し謝りつつ左手でレイリアの頭を撫でた。
「ただいま」
ファシルの左手は呪いから解放された。




