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第五十六話

 上段に構えられた大剣はより一層の輝きを放つ。それは天から降り注ぐ陽の光を浴びているかのようであり、持ち手が纏う金色の鎧と相まって後光が射している様に見えた。再び気を捉えられなくなったファシルはそれを止めることは出来なかった。


「お前を倒すために編み出したこの剣」

「受けて見ろ!」

そう言い放った後、金色の鎧は雄叫びを上げる。

辺りに漂っていた気は金色の鎧の大剣に吸われていく。その様は目に見えた。そして十分に力を込めた大剣は巻き込んだ気と共に振り下ろされた。

闘技場ごと切るその一撃をどうする事も出来ないファシルは呼応するように叫んで、大剣で受け止めにかかった。


 闘技場が衝撃で大きく揺れる。それは空気が波打っている所が見える程であった。二振りの大剣が交わって生まれたその衝撃は大きな音をも生んだが、それを上回るように二人の雄叫びが闘技場を支配した。言葉にならない声を上げつつお互いは持てる力を振り絞る。

二人が振るう大剣は金色なのだ。その金色の大剣は未だ折れる事を知らず、ただひたすらにぶつかり合う。その様は世界一の頑固さの現われであり、持ち手の意思を最大限に主張した。二人の意地がぶつかり合う。

ここで自分の意思を折る事は死ぬ事である。それは二人にはあり得なかった。


 片方は上から押し付けるように、もう片方はそれを受け止める様に、その形のまましばらく続いた力の拮抗は一つの事を起点に崩れ始める。それはファシルの大剣であった。受け止める大剣にひびが入ったのだ。そこからファシルは膝をつく。剣が折れる事すなわち死ぬ事を恐れたファシルは我を通す意思を弱めてしまったのだ。じりじりと押されていくファシル。そのファシルの姿勢は、単純に力で押されていると同時に意地が押されているという事でもあった。そしてその劣勢のファシルの大剣は最後の時を迎える。


 ファシルはその刹那をゆっくりと長く感じ取る。

ファシルの、複製された金色の大剣が折れたのだ。その音はなとも言えないものであったがそれどころではないファシルは咄嗟に左手を上げて顔を覆った。その行為は全く意味がないと分かっているがそうするしかなかった。ファシルは折れて、諦めていたのだ。しかしその時であった。


「ファシル!」

それは全くの意識の外であった。その声を聞いたファシルと金色の鎧の二人は動きを止めた。ぴたりと止まった二人の時間、共有された時間が正しく動き出す。二人を取り巻く景色はポロポロと崩れていった。


 その声を聞いた金色の鎧は声の主に何かを感じ取り、ハッとしてその方向を見た。

「────」

金色の鎧は女性の名前を叫んだ。

しかしその名前はこの場にいる誰のものでもなく、その叫びに対する返事はいつまでも返ってくる事はなかった。

闘技場に空しく響く金色の鎧の叫び。

金色の鎧の視線の先にはレイリアが立っていたが、彼女を見てはいなかった。それはレイリアの身に着けているマントに向けられている様に見えた。

金色の鎧は肩を落とした。そしてファシルにとどめを刺そうとして向けた大剣をも落としてしまう。音を立てて地面に落ちる大剣。それは終わりの合図のようであった。


「そうか、我は」

そう呟いた金色の鎧は何かを思い出した様に、そして本来の姿に戻っていく。

そうして少しの間を置いた。それはためらっている様子であった。

次に口から発せられる言葉が本当の終わりだと理解していたからであった。金色の鎧はためらいながらもを最後にそっと呟いた。

「いつの間にか、眠っていたのか」

そう言って金色の鎧はポロポロと崩れる景色と共に、崩れて消えた。


 死を覚悟したファシルであったが、金色の鎧の剣を受け止めようと上げかけた左腕は全く上がらずだらりとしていた。その左手が何もかもを現していた。

近付いてきて後ろから抱きしめられて、叫ぶ声にハッとする。

「ファシル!」

再び聞こえてきたその声は間違いなくレイリアの声であった。

ファシルは今まで起きていた出来事が急な展開で終わりを告げて混乱していた。目の前にいた金色の鎧の姿はなく、闘技場の様子も先程までとは全く違う様になっていた。砂が敷き詰めらていた闘技場は所々草が生え、周りを囲う座席はひびが入り砕けて座席の用を成していない。その座席にあったはずの大きな斧も、そこに在りはしなかった。

ファシルはレイリアに寄り添われながらゆっくりと立ち上がった。そして、辺りをゆっくりと見回し理解していく。ファシルは闘技場に辿り着いたその時から、幻覚を見ていたのだ。


 正気を取り戻したファシルはゆっくりと歩みを進める。そのファシルの視線の先には先程まで死闘を繰り広げていた金色の鎧が鎮座していた。しかしそれに覇気はなく、ただそこにあるだけ。その姿からそれは、とても長い年月そこにあったことが伺えた。その金色の鎧は所々綻び、継ぎ目は錆びて、それを支えるように草木に覆われてそれらは鎧の上を這っている。金色の鎧は長い間そこに居続けたのだ。

それを見て虚しさを感じたファシルは、使い手を無くし形だけとなって残り続けた金色の鎧に言葉を告げる。

「ゆっくりと眠ってくれ」

そう言って、ファシル達は金色の鎧の横を通り抜けていく。

その時であった。

金色の鎧から意思が飛び立って行くのを感じたのだ。

ファシルはそれを見送った。


 闘技場の奥にある部屋に辿り着いた二人。その部屋は扉によって外との繋がりを隔てている。元は厳重であったであろうその扉も今は朽ちて、ただの扉でしかない。

二人はその扉を開いた。


 扉の先にはハイクラウタがいくつか生えていた。それはここで育てられているようであったが、長い間手入れが施されていなかった。自身の生命力だけで生き続けたハイクラウタの一つをファシルは頂いた。


 ハイクラウタを手に入れたファシル達は、山頂を下り果物の木々の所まで来ていた。するとそこにはドラゴンが待ち構えていた。

(手に入れたか)

ファシル達を見たドラゴンは少し安心したように見えた。そしてドラゴンは背を屈めた。下山を手伝ってくれる様であった。

ファシルはドラゴンの意思をくみ取ってお礼を言った。

「ありがとう」

ファシルの言葉にドラゴンは

(構わん)

と短く言った。その言葉からは少しばかり照れた様子が伺えた。

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