第五十四話
「ファシルか」
そう復唱した金色の鎧はその名を深く心に刻んだ。そして一つ前の問いに戻る。
「お前の使う」
その技は何処で手に入れた、そう言って問うたそれには金色の鎧にとって特別な意味が込められて見えた。それは生半可なものではなく、積年の恨みと言って差し支えなかった。
しかし、その質問には答えが返ってこなかった。そして、しばし闘技場に静けさが漂った。
この時の沈黙はファシルにとって居心地の悪いものであった。相手から伝わってくる怨念はファシルには身に覚えのない事であり、ファシルの心の内ではどう返したものか、と考えていたのであった。しかしその沈黙の時間は短いものであったが、それは相手にとって十分な時間であり、回答を拒否したと取られたのであった。
「まあいい」
いずれにせよその力を持つという事は奴の後継者であろう、と言って金色の鎧は自問自答する形をとって納得した。それは金色の鎧にとって望ましくなかった。静けさの漂う闘技場に気まずさが加わった。
「して」
その身のこなしは、とファシルの動きについて問いを投げかける。少しのやり取りで相手の動きを見切った金色の鎧は、その所作を妙に気にした。
「以前に見た事がある」
と言った次に出た単語にファシルは驚きを隠せなかった。
「ガイアスと同じ動きだ、お前はあいつの弟子か何かか」
この問いにファシルは、食い気味に答えた。
「ガイアスを知っているのか」
「ああ、あいつとは何回も剣を交えたからな」
と言う金色の鎧。ファシルの食いつきから予想通りであったと思った金色の鎧は
「やはり」
弟子であったか、と腑に落ちた様子であった。しかし、納得する金色の鎧を横目にファシルにはまだ言いたい事があった。その事でファシルは言葉を付け足す。
「ガイアスは」
「俺の師であり、俺の父親だ」
そう言い切ったファシルの言葉には力が籠っていた。それはガイアスの事を知っているという相手に対しての驚きと自身についての知らしめによるものであった。
「なんと」
あいつには倅がいたのか、と金色の鎧はファシルをまじまじと見て記憶の中のガイアスとその姿を重ねた。その目は忙しなく、少しばかり驚きを隠せない様であった。
「しかし、あいつに倅がいたとはな」
と信じられない様であったが、ファシルを見定めつつ自身の理解を確かなものへと固めていく金色の鎧。
実際はそうではなくとも、旧友の子供、親戚の子を見るようにファシルを脳裏に焼き付ける金色の鎧。しかしながらその者は、そこでため息をついた。
「だが」
奴の後継者を見逃すわけにはいかん、とそう言って地面に突き立てていた大きな斧を持ち上げて、闘技場の周りに備えられた座席に投げつける。それはその重さからは考えられない程に軽く投げられて、そしてその大きな斧は座席を砕いてその場に収まった。
「仕方のない事だ」
許せと金色の鎧は言った。その言葉はガイアスとファシルのどちらに対して投げた言葉なのか、その答えは知る由もなかった。
金色の鎧は新たに、金色の大剣をその場に現す。それは先程の大きな斧よりは幾分か取り回し易いと思えたが、それでもなお大きな大剣は一対一の闘いにおいて扱いづらい様にも思えた。
「あいつの弟子だ。最後に稽古をつけてやる」
「死に物狂いで、かかってこい!」
そう言うと金色の鎧は再び殺気を纏った。それは先程までよりも強く、一切の容赦がないと分かった。
「そうか」
ファシルは短く吐き捨てる様にそう言って自身も構える。
目の前の相手と自身の身内の関係性を把握できずに終わったファシルのその姿は少しばかり落胆の色を見せたが、すぐに殺気へと変わっていった。
こうして、束の間の問答は終わりを告げ、この場を闘技場たらしめる闘いが再び始まった。




