第五十三話
ドラゴンの言いつけ通りに食べ過ぎる事なく、果物を満足いくまで堪能したファシル達は山頂に向かって歩き出し、薬草探しを再開した。
果物の成る木が並ぶ場所を抜けた二人の目に見えてきた山頂はすぐそこであったが、すぐに着くことはなかった。
山頂までは、山肌の露出した少しきつい勾配の続く険しい道がそこまで繋がっていた。二人は歩き慣れない道に時間を要した。
山頂へと辿り着いた二人を待っていたのは開けた場所であった。
火山口の様に掘れて下がった位置にあるその場所は、降りられるようになっていた。そしてそこは山頂までの険しい道のりとは打って変わって草木が生い茂っていた。
その場所に降りて草を踏みしめた足への負担の少なさを感じつつも二人は、その環境の変わり様よりもあるものに目を奪われる。
それは複数の柱と屋根で出来た石造りの建造物であった。
その建造物の柱は、一本一本が太く、変わった彫刻が施されている。それらは狭い間隔で立っており、その狭さから光は遮断されて内部は暗くなっていた。さらに屋根もまた彫刻が施されており、それは柱と同じ種類の彫刻であった。
二人は、誘われるようにその建造物の中へと入っていった。
外からはうかがい知る事の出来なかったその建造物の内部は、暗くなっているが不思議と、はっきりと構造を認識出来た。二人は道に迷うことなく奥へと進んで行く。しかし、構造が認識できるという事よりも不思議な事があった。この建造物は、外からは一軒家程度の大きさにしか見えないのだが、中に入るとそこには外観の何倍にも大きい空間が広がっていたのだ。
夜のように暗い内部を歩く二人。その二人の前にぼんやりとしたかがり火が姿を現す。そのかがり火は四角い形になるように四隅に配置されており、その場所を照らしていた。その照らされた場所の地面は砂で満たされており、そこは踏みしめると硬く感じられた。その砂場を一歩一歩進むファシルはある事に気づく。それはこの砂場の周りを囲う、階段のような広がりを見せる石造りの座席であった。それに気づいたファシルはここが闘技場だとすぐに理解した。
今いる場所が闘技場であると理解したファシルは自身の対面にある気配に気づく。その気配は、今まで気づいていなかったのが不思議なくらい強い殺気をまき散らしていた。ファシルは気付いたその殺気に集中するとはっきりとそれを捉えられた。そして、それがとても危険だと理解した瞬間にファシルの体は後ろに退いていた。
ファシルの体が後退した瞬間、ビュンと風を切る音が聞こえてくる。それは地面に叩きつけられて止まる。それは大きな斧であったが、ファシルはその武器の種類の事よりもその武器自体に目を奪われた。
その斧は一般的な斧を大きくした物でそれは、金色に輝いていた。金色に輝くその斧はうす暗い闘技場であってもはっきりと認識できた。そして、その斧はその大きさからは考えられない程に速く振り回される。それはただでたらめな軌道ではなく、全く隙が無かった。
奇襲にあったファシルは避ける事に集中していると、さらに不利な情報が視界に入って来る。それはその斧を振り回す者の格好であった。その者は金色の鎧を着けていたのだ。その金色の鎧に目を奪われていたファシルは砂の地面に足をとられて体勢を崩してしまう。
体勢を崩し焦りを見せるファシルに容赦なく斧が振り下ろされる。それは一切の躊躇がなく、確実に相手を殺すものであった。
≪クルエーレ≫
金色の鎧は渾身の力を込めて大きな斧を振り下ろした。おおよそ斧を振り回しているとは思えない軌道の斧は流れるように相手へと向かう。しかしその攻めは地面へと叩きつけられた。叩きつけた衝撃で砂が舞う闘技場。そこは先程まで斧を振り回すビュンという音が止んだことにより静けさを取り戻す。
金色の鎧は刃の部分が地面に食い込む大きな斧をあっさりと持ち上げた。その斧は間違いなく重いが、金色の鎧には全く重くない様であった。
肩に斧を担いだ金色の鎧は辺りを見渡した。不気味なほどに静かになった闘技場。しかし相手は必ずこの闘技場の上に立っている。金色の鎧は口を開いた。
「また」
私を苦しめに来たのかと虚空に問う金色の鎧。
しかしその問いに対して返答は返っては来なかった。戦闘中により警戒している相手はその問答に答えるつもりはない様であった。金色の鎧は斧を肩から降ろし、地面に突き立てた。相手の警戒を解かせるためであった。その光景を見てか相手は金色の鎧から少し離れた場所に姿を現す。その距離は、まだ少し警戒をしている事の現われであった。
姿を現した相手の方を向いて、再び問う金色の鎧。しかし先程とは違う内容へと変わっていた。
「その力、どこで手に入れた」
先程と違う問いを投げつける金色の鎧は続けざまにまた違う問いを投げかける。
「名前はなんという」
不躾な質問に目の前の相手は
「ファシル」
とだけ答えた。




