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第五十話

 このドラゴンがビスベーリトの実質的な支配者であり、このドラゴンの存在が怪物たちに統率を引き起こしていた。このドラゴン自体にそのつもりはなかったが、その強さや気高さにひかれて各々が勝手にそうしていた。


 ドラゴンの威圧感によってファシル達は動く事が出来なくなっていた。

ファシル達は、魔力が安定する今となっては大抵の怪物に後れを取ることはなかったが、目の前にいるドラゴンに対しては二人がかりであっても、良くて一人だけしか生き残れないといった有様であった。

二人に向けられていた威圧感であったが、視線をレイリアからは外してファシルだけに向けられた。

視線が外れた途端、フッと体が軽くなったように感じたレイリアはその瞬間、ドラゴンに魔法を放った。レイリアの両手から放たれる魔法は別々のもので、それらは瞬間的に放つには十分に強い威力と言えた。ドラゴンに向かう二つの攻撃。それらの攻撃はドラゴンに触れる少し前のところでかき消された。レイリアは自身の攻撃があっさりと無かった事にされたことに一瞬驚いたと同時に吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。瞬く間の出来事にレイリアは理解が追いついていなかった。そして、そのとても短い時間の思考のすぐ後に遅れて、レイリアの体に結果がもたらされた。レイリアは吐血した。そして呼吸が乱れて不自然な息遣いに変わっていく。苦しそうなその呼吸は調子がおかしく不安定であり、そしてそれは次第に少しずつゆっくりになっていく。ひと呼吸の間隔が広がっていきやがて、それは止まった。

レイリアは吹き飛ばされた際、内臓に大きな損傷を負っていたのだ。呼吸が止まったレイリアの命はあと少しで終わりを迎えようとしていた。



「レイリア!」

ファシルはレイリアに向かって動いた。しかし、それをドラゴンによって阻止される。ドラゴンの作り出す障壁によってレイリアが閉じ込められたのだ。隔たりが出来てレイリアに近付く事が出来なくなったファシルは、障壁のすぐ向こう側の、一刻の猶予もないレイリアを助けるためにその障壁を力いっぱい殴りつけた。しかしその障壁は全く割れる気配がなかった。

しばらく殴り続けたファシルであったが、急に体の自由を奪われて動けなくなった。見えない大きな手で握られているように絞めつけられたその体は、レイリアから引きはがすようにドラゴンの目の前に持ってこられた。


(やはり)

弱いな、と直接的に頭の中に言葉をぶつけてくるドラゴン。ファシルは一瞬驚いたが、すぐに叫んだ。

「放せっ!」

レイリアを助ける事で頭がいっぱいのファシルにドラゴンが言葉を続けた。

(落ち着け)

彼女は死なんと告げるドラゴン。

しかしファシルは乱心となって暴れ続けた。

見かねたドラゴンは語気を強めて言葉を告げる。

(黙れ!)

体を締め付ける力が一段と強くなり、頭の中に轟くように響いた言葉は激痛をもたらしてファシルを大人しくさせた。そしてドラゴンが話を続ける。

障壁内は時間が止まっているという事であった。その事に落ち着きを取り戻したファシルはドラゴンとの会話に乗じた。


(薬草を取りに来たのだろう)

ドラゴンは何故か目的を言い当てた。そしてそれを否定した。

(やめておけ)

後悔するぞと言うドラゴンに対してファシルは理由を訊いた。

(お前が弱すぎるからだ)

簡潔にそう答えたドラゴンはさらに、ファシルが力を上手く使えていないと補足した。意図が掴めないファシルに、続けて諭すドラゴン。

そのドラゴンの言葉はファシルの未来を見透かしているようであった。


 ドラゴンの言葉は実際その通りであった。ファシルは魔力の限界を感じていた。パスケ達を倒した後、自分に成長が見られないと思っていたファシルは、確信はなかったが感覚的にそう捉えていた。それにより、ドラゴンの指摘もある程度、合点がいった。

只がむしゃらに進んできたファシルであったが、自身の力を詳しくは理解していなかった。

しかし、それを他人に訊く事は出来ない。それは目の前の相手に対しても同様で、ドラゴンも漠然とファシルが力を発揮できていないと感じ取れただけであった。

ファシルの力が何なのか、それを知るのは神のみであった。


「俺は」

それでも前に進む、そう力強く宣言したファシルにドラゴンはまだ食い下がったが、ファシルの意思は固く折れる事はなかった。


 決心の固いファシルを見て諦めたドラゴンは

(ならば)

我に力を示せ、そして二度とここに戻るな、そう言ってドラゴンはファシルの力の一端を解放した。それは一時的なものであったが途轍もない事であった。このドラゴンの住処の魔力が一瞬にして吹き飛んでファシル一色と言える空間になった。

そしてそのファシルは、かつてない程にみなぎる自身の力に高揚していた。

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