表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/121

第四十九話

 体に痺れが残るファシルは、逆さまに吊られたまま緑色の袋に入れられそうになっていた。その袋は入口が大きく縦に長い形をしている。袋の中には液体が溜まっており、その液体は入れたものを溶かす溶解液であった。段々と近づく溶解液。それはぐつぐつと気泡を弾けさせていた。


「ヴォルーン」

溶解液に浸かる直前であった。周りが眩い光に包まれた。ファシルは目を閉じた。それは周りの緑色を瞬時に赤くし、そして白一色へと変えていく。ファシルの足に絡みついたツルも例外ではなく、すぐに白一色へとのみ込まれていった。


 ファシルの体を支えていたツルがなくなり、重力に引かれて下に落ちる。そこに溶解液はなく、地面であった。ファシルはゆっくりと目を開き、顔を上げた。その視線の先にはこちらに手をかざしたレイリアが立っていた。ファシルの意図は伝わったようであった。


 ファシルの周りは様変わりしていた。白一色に包まれた後、そこにあった木々は全てなくなり空から日の光が射していた。燃え尽きていく植物の怪物。断末魔を残さず、それらは小さな火の粉を残し灰になっていく。やがて、灰とともに火の粉もなくなっていった。レイリアがその中をゆっくりと歩いて近づいてくる。

「ありがとう」

レイリアの差し伸べた手を取りつつ、ファシルは礼を言った。


 レイリアの手で立ち上がったファシルであったが、まだ少し体が痺れていた。よろめいたところをレイリアに支えられる形となって、レイリアの肩を借りながら歩き出した、その時であった。抗議団体が再び現れたのだ。まともに動けないファシルと、それを支えるレイリア。二人は窮地に立たされた。そしてこの状況を好機と捉えた抗議団体の一体が物凄い速さで突撃してくる。

≪ミュラース≫

ファシルは咄嗟に魔力の盾でその突撃を防いだ。鳥のような怪物は大きな図体をお構いなしにぶつけてくる。盾と図体の押し合いになったその時、地面が大きな音を立てて揺れ始めた。

二人が今いる所は先程まで植物の怪物の手中であった場所。そのため地主が塵になって消えていく今、植物が急速に枯れていくのも不思議ではなかった。その事により地中に張った怪物の根っこまでもが無くなって地面がスカスカになっていたのた。いつ崩れてもおかしくない地面。そのスカスカの穴だらけになった地面が、衝突による振動を起点に崩れ出した。

普段の二人ならそんなことはなかったが、上手く出来ない魔力制御とファシルの体の痺れで二人とも崩れ落ちる地面と一緒に滑落した。


 崩れ落ちていく最中、ファシルは前方に張っていた盾を消した。

≪フィリオース≫

狭く幅のない縦穴であったが落下の衝撃を和らげるため羽ばたいた。一緒に落ちる岩などが邪魔をしてうまく羽ばたく事が出来なかったが、それでも必死に黒い翼を羽ばたかせ続けた。


 地面がすぐそこに差し迫った時、ファシルは、レイリアごと自分を黒い翼で覆った。黒い翼で覆われて球体となった二人は地面に激突すると、その衝撃で少し跳ねて壁にぶつかり止まった。黒い翼が消えて二人が現れる。ファシルがレイリアの下敷きになったおかげでレイリアはほぼ無傷であった。


「大丈夫?!」

気が付いたレイリアがファシルの上からどいて言った。ファシルは、大丈夫と言って笑って見せた。レイリアはファシルに手をかざした。

「フィルグ」

レイリアがファシルに回復魔法を施すとファシルの体は、左腕を残して回復し痺れもなくなった。ゆっくりと上体を起こすファシル。それを見てレイリアは安堵ため息をついてその場に腰を落ち着けた。

二人がその場所で落ち着いていると、ファシルがあることに気づいて口を開いた。

「追ってこないね、あのうるさい連中」

そう言ったファシルの言葉に続いてレイリアが付け足す。

「それに」

魔力が安定してると手の感触を確かめながら呟いた。

二人は落ちてきた穴を見上げた。穴はかなり深くなっていた。遥か上でうるさい連中が穴を覗き込んでいたが、二人を追ってくる様子はなかった。その連中の様子はそれが出来ない様でもあった。

ファシル達は落ちた穴が洞窟と繋がっている事に気付き、落ちてきた穴を登らず、洞窟を進んで脱出を試みた。


 この洞窟は不思議なところであった。外とは打って変わって空気が澄んでいた。不自然な魔力の流れもなく、居心地がよく気分が良くなる程であった。二人は洞窟を進んでいると、道を遮るように、上から大量の水が流れている場所に辿り着く。それは落ちてくる水によって壁となっていた。洞窟はほぼ一本道であったので二人はそのまま進んだ。水の壁の少し空いた横のところを通って進む二人。水の壁を抜けた二人の視界に入ってきたのは大きく開けた場所であった。開けたこの場所には池が存在する。二人が通ってきた水の壁は滝の裏であった。滝の流れは勢いが強く留まる事を知らない。その滝に視線を添わせて見上げていくと、空が見える。ここは洞窟でありながらも天井がなく吹き抜けで空が見えていた。見える空はとても高い所にあった。


 二人は本来の目的を忘れて、自然の雄大さに触れていた。深呼吸をする二人。そこは空気がおいしく、とても心が和らいだ。この場所にずっと居たいとすら思えた。

この場所は管理されているかのようであった。

居心地のいい場所。

管理されている場所。

そう管理されている場所なのだ。

この場所の管理主が丁度今帰ってくる。


 この場所全体に響き渡る大きな音は、仰いで風を起こす大きな翼によるもの。その主はこの世界において伝説であり、確認された証拠などはほぼ存在しない。しかしファシル達の目の前に今、生きた証拠として舞い降りる。

その姿は頭、胴体、翼、手、足、尻尾どれをとっても大きく気高い。表皮を堅い鱗に覆われており、鋭い爪を手足に生やす。大きな翼を一度仰げば、たちまち突風を引き起こす。尻尾の先は鋭く研いだ大剣のようで、それを振り回せば辺りは細切れになる。頭に生えた大きな二本の角。それは威圧感を放つ。そしてそれよりも威圧感を放つのが鋭い眼光である。その鋭く綺麗な眼は二人を捉えて放さない。この伝説の生き物は普通名詞を持つが、そのものは普通に非ず、聞くことはあっても見る事は叶わない。その名をドラゴンといった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ