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第四十七話

 ファシル達が探している薬草はハイクラウタという名前であった。ハイクラウタは耐陰性の強い植物であり日向には絶対に自生しない。耐陰性の強い植物はあまり日の当たらない場所でもしっかりと光合成を行い成長する植物である。

空気のよどんだ場所を好み、ほとんど日の当たらない日陰に自生し、ごく僅かな数しか自生しない植物であるハイクラウタ。このような、限定的な場所と量しか育たないハイクラウタは濃い緑色の葉を生やし、その葉は光を反射するほどの光沢を帯びていた。

ハイクラウタが自生する場所は、ハイクラウタが分泌する匂いによって満たされており、その匂いは生き物にはとても心地よく感じられた。その匂いは神経に作用し、感覚を弛緩する。この感覚の弛緩によって人は悩みなどの消極的かつ悲観的な思考から解放される。それによって中和して呪いを解くのだ。この効果によってハイクラウタは呪いを解く事に使われる貴重な薬草であると言えた。

しかしハイクラウタには欠点もあった。それはこの薬草の弛緩効果にあった。匂いで感覚を弛緩するという仕組みはそれだけ危険だったのだ。ハイクラウタはその匂いを吸う量によってその危険度が増す。

少量であれば気分をよくする程度であるが、その量が増えると段階的に症状を現す。

まず、眩暈、頭痛、吐き気へと変わる。次に幻覚見始める。さらに、身体の麻痺へと移り、そしてそれは失神へと繋がり、臓器に被害を及ぼす。そして最終的には眠るように死に至る。

このような事から、ハイクラウタが自生する場所と量が限られている事は幸いなことであった。


 ファシル達は山の中腹辺りまで来ていた。

ここまでくると怪物の凶暴性も上がり、襲ってくる怪物も増えていた。しかし山の中腹辺りにいる怪物達はファシルの相手ではなかった。

ファシルは左手を使わずに怪物を倒していく。その姿は事務的であり、淡々と行われる。

今のところ苦戦するような事はなかったが、それでもやはり左手を使えないという不利な状況は戦いづらそうに見えた。単純に、左側の対応は右側より遅くなるのだ。この不利な状況はファシル一人で対処出来るほどであったが時折、レイリアの助けを要した。今でこそ問題なく対処出来ているが、この先に待つであろうより凶暴な怪物には上手く対処出来るか分からなかった。


 ビスベーリトを登り始めて最初の日は、山の中腹を超えたあたりで終わりを告げた。

ファシル達は少し開けた場所に野営を敷いた。そこは河川が近くにある場所であった。

≪ドッラ≫

ファシルはその場所の警備として大量の黒い球を、その場所を覆うように配置した。


 日も暮れて辺りは何も確認できない程真っ暗になっていた頃、二人は焚火を囲んでいた。二人はいい塩梅で緊張を保ち、ゆっくりとくつろいでいた。焚火には河川で捕まえた魚が串焼きになっている。ファシルは程よく焼けた魚の串焼きを手に取った。

「久しぶりだ」

こういう食事とファシルが言った。

たしかにこういった食事はファシルにとって久しぶりの事であった。以前は当たり前にしていた野営も、最近ではすっかりご無沙汰になっていた。遡ればリーケス以前の事となる。ゼノムを出てリーケスに辿り着くまでファシルは一人で旅をしていたのだ。一人旅をしていた時は、幼い頃にガイアスに同行して教わった生存術に倣って、狩猟した野生の生き物などを食していた。そのおかげで、体調を崩す事はなかったが、それらは料理と言うには程遠く専ら丸焼きであった。ガイアスは器用で野生の生き物を美味しく調理出来たがファシルは出来なかった。


 それは、随分と遠くまで来たものだとファシルに思わせる程であった。そんな風に以前の事を懐かしむファシルであったが、魚の串焼きを手からポロっと落としてしまう。地面に落ちていく魚の串焼き。それを地面までもう少しのところで拾ったレイリア。

「はい」

気を付けてとレイリアが言って、ファシルに渡した。

「ありがとう」

ファシルはそう言って受け取ったそれを食べだした。左手の使えないファシルはとても不便そうであった。

その光景を見ていたレイリアの表情は落ち込んで見えた。しかし、レイリアのその落ち込んで見える表情の理由は別のところにあったのだが、この時のファシルは知る由もなかった。

レイリアはポケットに手を突っ込んだ。そしてあるものを握る。それに思いを込めるレイリアであったが、握ったそれはファシルへの気持ちを強めるとともに、レイリア自身の気持ちを落ち込ませるものでもあった。


 二人は食事を終えて少し談笑してくつろいだのち、次の日に備えて眠りについた。二人が野営する周りを覆う黒い球達は滞りなくその役目を全うし続けた。

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