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第四十五話

 レイリアを抱いたまま空中で待機していた分身は、羽付きの昇天を確認するとゆっくりと舞い降りた。そして分身はレイリアを地面にそっと寝かせると、その姿勢のまま霧散して消えた。


 レイリアが目を覚ます。ゆっくりと目を開けて上体を起こし、はっきりしない意識で辺りを見回した。すると、レイリアはその場の惨状に完全に覚醒した。

「ファシル!」

状況が読めず、焦ってファシルの名前を叫んだ。返事はなかったが、視界の端にファシルを捉える事が出来た。ファシルは丁度、手の感触を確かめている所であった。レイリアはとりあえず安堵してゆっくりと立ち上がり、足を引きずりながらファシルの元へと向かった。

ファシルとの距離が縮まるレイリア。レイリアは落ち着きつつあったが、近付くにつれて見えてくるファシルの姿にまた落ち着きを失う。

ファシルの体はかなり酷い状態であった。全身のいたるところに怪我が見られ、それらがこの場で起きていた戦いの凄まじさを物語っていた。

「大丈夫?!」

レイリアは、視界に入っている自分に反応を示さないファシルに声を掛けて安否を確認した。外的損傷以外にも大きな怪我をしているかもしれないと思ったからだ。まず、目立ったのは左目であったが、レイリアの声にようやく反応を示して向き直る瞬間、ファシルの目は普段のものへと戻っていた。それは些細なことで、それよりも何よりも左腕に目を奪われた。だらんと力の抜けきった左の腕の肘より先の損傷は火を見るより明らかなもので、他の怪我の状態などと比べ物にならなった。レイリアは咄嗟に、その左腕に手をかざして回復魔法で治そうと試みたがそれは出来なかった。

「無理だよ」

魔力が切れてるからとファシルはなかば諦めたように言い捨てた。レイリアの魔力が十分になく、回復魔法を行使できる状態でないことを分かっていた。それと同時にファシルは自分の腕が治らないことを感覚的に理解していた。焦るレイリアといたって冷静なファシルはどうする事も出来なかった。


 焦るレイリアはネーベンへの帰還を考えた。ありとあらゆるものが世界中から集まるネーベンの街ならと考えての事であった。そしてレイリアはあることに気づく。それはレイリアがこの場所に来た方法であった。我を忘れてがむしゃらに壁を裂いて、ここに割って入ったレイリアであったが、その裂け目のことは忘れてはいなかった。レイリアはすぐに裂け目を探し始めた。レイリアがこの場に来た時とは大きく様変わりしてしまったが、なんとか記憶を頼りに探していると、その裂け目の場所を見つける事が出来た。裂け目は運よく閉じていなかった。レイリアは棒立ちしているファシルの右手を引いてその裂け目からネーベンの街に戻った。


 ネーベンに戻った二人は、真っ先に屋敷に向かった。そして屋敷の主に怪我の事を説明して、ネーベンで腕利きの医者を案内してもらった。主が読んだ医者は魔法にも精通していた。

ファシルが診てもらっている間、レイリアは家政婦に手当をしてもらっていた。レイリアは戦闘中、ファシルに回復してもらったことにより大事には至っていなかった。


 ファシルは別室で医者に腕を診てもらっていた。医者は髪が長く、それは白色でパーマがかかっており、額に魔力を帯びた額飾りをつけていた。医者はファシルの腕を見てすぐにただの怪我ではないことを理解していた。医者は持参した大きな鞄からいろんな薬などを取り出した。魔法に劣る薬で治せるのかと怪訝な表情を浮かべていたファシルに

「これは」

私自身に使いますと言った。

主に紹介された医者は少し変わった医者であった。


 回復魔法の発達した世界において、医者の存在はあまり重要とされていなかった。治療するにあたり、医者が患者の体を切開、縫合するといった事はなく、治療は専ら回復魔法で行われる。それにより医者でなくとも回復魔法が使えれば大体の病気や怪我は治す事が出来た。よって、医者の主な意義は回復魔法の研究であり、回復薬の開発であった。


 主が紹介した医者は、患者の様態を快復させる薬ではなく、回復魔法の精度を上げる薬を開発しており、それは回復薬ではなく強化薬の部類であった。

本来、回復魔法の精度を上げるなら魔法自体の研究をするのだが、この医者は薬による魔法の強化、高精度化に着目していた。一見、回りくどいことをする者であるため、変わった医者とみられていた。


 医者は上半身裸になった

「さあ」

始めますかと言って用意した薬を三本程一気に飲み干した。すると医者の体は筋肉が盛り上がり、血管を浮かび上がらせた。その医者の変わりように驚いたファシルは医者の背に、あるものを見た。それは背景が歪んで見えるほどの気のうねりであった。その異様な気を纏った医者はファシルの左腕の患部に両手をかざす。

「はぁ~っ」

医者はかざした手に魔力を込める。

ファシルの目からは、医者の治療は魔法というより気を使ったもののように見えた。その一風変わった治療はしばらく続いた。しかし、ファシルの腕の怪我は治ることはなった。

「すまない」

万全を尽くしたのだがと気を落とす医者。その医者の見た目は元に戻っていた。

ファシルは医者に原因を訊いた。医者はあっさりとした答えを教えてくれた。

「呪いだ」

呪いが腕先を覆っていると教えてくれた。

腕の怪我の原因は以前ギーザ―に聞いたものと同じであった。ファシルはその答えにうんざりしていた。


 医者が帰った後、主が少し話をしてくれた。それは呪いを解く手段についてで、ギーザ―が言っていた話と同じであった。ネーベンの森を抜けてそのさらに奥にある山に自生する貴重な薬草。ファシルの怪我を治すにはそれしかなかった。ファシルはあまり気乗りしないが山に向かうことを決意した。

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