第四十二話
何一つ見逃される事はない、それぐらい厳しい目で見張るように立つ操縦者。その視線の先には、ただの的になった二体の怪物とそれらを粉々に蹴散らす巨体。どれだけカウンターを決めても効き目のなかったチシィも動かないとなれば、巨体の相手ではなかった。四肢は胴を離れ、細かくなっていく。チシィは生命の維持が不可能な状態になったところで、断末魔の一つも上げることなく消えてなくなった。次の標的に向かう巨体。巨体は拳を振るい、チテリィの頭を砕くと、潰された頭部の血が勢いよく噴き出す。虫に似たチテリィの血は劇物であるようで、巨体は返り血で自壊していく。それでもなお、殴り続ける。辺りにたまる血。それにより巨体は足元から溶けて、背が小さくなっていく。殴る巨体も殴られるチテリィもお互い無言であり、凄惨な状況を作り出す効果音以外はなく、粛々と行われる。しばらくするとチテリィも消えてなくなった。
この生物に対する尊厳を極めて無視した有様は、見るに堪えず、二人の羽付きは目をそらして動けずにいた。血だまりでゆっくりと小さくなる巨体に対して操縦者は無慈悲にも命令を下す。小さくなった巨体は這ってゆっくりと操縦者の足元に向かう。その姿はもはや原形をとどめず、ただの肉塊であった。操縦者はそれの血が付いていない箇所に触れて
≪シルビート≫
巨体を復活させた。
その冷酷無比な操縦者による凄惨な現場を見つつネーファはポツリと呟いた
「だめだ」
見て理解している現状を心が受け付けない。しかし、現状の打開しなければならず、その根源である相手の否定を簡潔な言葉で表現した。これしか言葉にならなかった。
そして復活した仲間の抜け殻を見てネイラに話始める。
ネーファはお互い一人ではどうにもならないこの状況を打開すべくネイラに提案する。
「ネイラ」
あれを使うしかないよと気を持ち直して、真剣な面持ちで言うネーファ。それをネイラは、心ここに非ずの様子であったが気を持ち直して頷き承諾する。
二人は並び立ち、手を繋ぐ。すると、二人を取り巻く魔力が一気に上昇する。その凄まじさは誰であろうとも見て取れるほどで、周りに落ちている小さな石ころなどは振動して浮かび、それらは全て小さな光の粒子となって、二人を中心とした魔力の渦を作り収束する。何もかもを粒子に変え、それらを集めた二人はお互いの空いた手を合わせる。そして言い放つ。その言葉は羽付きにしか使う事の出来ない魔法。
「「ヴァース」」
その合わせた二人の手より放たれる瞬間、音は消え、光でさえも飲み込む。一瞬モノクロの世界へと変えた光の束は砲撃となり突き進む。
その砲撃をまず受けたのは、矢面に立つライアトであった。ライアトは操縦者の手を逃れて纏った光を無くし、手を広げた。それはまるで全身で浴びるように、砲撃を受け止める。砲撃を全身で浴びたライアトは消滅していく。その顔は安らかで、光に感謝すらしているように見えた。この光が唯一ライアトへの救済であったからだ。そのライアトの思いはネーファ、ネイラに間違いなく伝わった。そして、ライアトは完全に消滅した。
ファシルは、二人の砲撃が放たれる寸前に動いていた。
≪クルエーレ≫
≪フィリオース≫
ファシルはすぐさまレイリアのもとへ向かい、レイリアを抱き上げて上空へと飛んだ。ファシルは魔法に疎く頭では理解はしていないが本能が理解して、それを回避した。間一髪で逃れて下を見たファシルは、この行動は完全に正解であったと確信した。地上は綺麗な更地へと変貌していた。
羽付きにのみ許されたこの魔法は、属性としては光を司るものである。さらにこの砲撃は物理的な痛手を負わせるものではなく触れたものを、根源の消滅へと導くものであった。触れた対象は魔法などでは復活できない。したがって、ライアトはこの世界から消失したことを意味し、召喚で呼び出すことは、神を除いて、二度と出来なくなった。




