第四十話
人より遥かに大きな炎球が飛び交う。それらは二つの方向から飛び、相手を一片たりとも残さないという強い感情で出来ていた。剝き出しの感情が飛び交いぶつかり合う。それは時として、氷となり、雷となりと刻一刻と変化していく。おおよそあり得ない天変地異が短時間で局所的に起きるのだ。その魔法の応酬によって引き起こされる地形の変わりようは、最早この場所が荒野であった事を分からなくするほどであった。しかしこのどつき合いの喧嘩にも変化が訪れる。
「まったく」
意地っ張りな方と言ってネーファは両手を広げた。すると、右手と左手で違う輝きを放ち始める。それは別々の魔法の同時行使であった。
魔法を使うという事はこういったものである。
頭で詳細な想像を思い浮かべて、その想像したものに魔力を流し込み発動する。起点となる魔力は同じであるが、想像一つで全く違うものになるのだ。魔法を発動する際、詳細な想像の補助として用いられるのが詠唱である。詠唱はより正確な想像を生み、魔法の練度を上げる効果があった。そういった事から、無詠唱の魔法と詠唱を施した魔法に差があったのだ。
なので、無詠唱でしか発動できない別々の魔法の同時行使は簡単なことではなかった。
詠唱という正確性の補助を使わずして二つの想像を同時に行い、それら二つの想像に対して流す魔力の流れを二つ作り出さなければならない。
魔力の流れを制御出来てかつ想像も正確に出来なければならないのだ。さらにネーファが使う魔法は、単一であっても難しい中級以上の魔法である。
いかにネーファが魔法を得意とするか見て取れた。
ネーファは同時に作り出した二つの輝きを相手に放つ。
この時、別々の属性の魔法を凌ぐには、魔法を相殺するか防ぎきるか避けるしかない。
魔法を相殺するという事は、同じく魔法の同時行使が出来なければならず。防ぎきる事と避ける事は、相手がパスケのネーファである以上不可能であった。
ネーファは得意な魔法で少し力を見せつけたといったところであった。その余裕綽々のネーファであったが、その余裕は長くは続かなかった。
放たれた魔法の攻撃は相手に勢いよく近づいていく。それらが相手に当たる瞬間の事であった。ネーファの放った魔法は相殺されたのだ。さらに白く輝く雷光がネーファへと走る。
頬を掠める雷光にネーファは一瞬頭が真っ白になった。
ネーファは魔法を得意としたが、その領域に同程度か或いはそれ以上の領域に相手は存在していたのだ。
突然のことにネーファはぼうっとして、隙だらけになってしまった。そこを相手は見逃さなかった。魔法の同時行使でネーファを狙ったのだ。雷と炎がネーファに肉薄する。それら二つの魔法がネーファに命中した。ように見えた。巻き上がった煙が薄れてネーファが見えたがその様子は無傷であった。ネーファの周りに何かが浮いていた。それをよく見ると、それは金属のような光沢をもつ小さな虫の集まりであった。それらがネーファの周りを飛び、盾の役割をしていた。無傷のネーファに近づいたネイラが手を取った。
「だめだよ」
ネイラはネーファを叱った。
説教を始めた羽付きの隙を伺うレイリア。しかし二人の羽付きには隙が全く無かった。二人が別々の時にあった隙が、二人が手を繋いでからなくなったのだ。さらに厄介なことに盾の役割をする虫の群れ。鉄壁といった有様であった。
レイリアは数的に不利な状況を打開すべくファシルを見た。ファシルは大きな岩に生えた氷の棘に刺さったまま気絶していた。レイリアはファシルに向かって走った。レイリアがこの場に来てからずっとなかった機会、ファシルを回復する機会は今しかなかった。
「「見逃さないよ」」
二人の羽付きは同時に動いた。片方は魔法による攻撃、もう片方は虫に命令を下した。
それらの攻撃は走るレイリアを容赦なく襲う。ネーファが放った雷撃を、レイリアは走りながらも、相殺するため魔法を放つが虫に阻まれてしまう。相殺出来なかった相手の魔法を受けてしまうレイリア。しかし、少しだけではあるがマントで凌ぐ事が出来た。けれどもマントにも許容量が存在し、そこを超えれば防ぎきれなくなってしまう。
ファシルのいる所まで走るレイリアに向けて連続した攻撃が迫る。それは魔法と虫の合わせ技であった。ネーファが放った雷撃を虫に当てて反射させ、その反射した雷撃をレイリアに向けて収束させた。虫の反射で四方八方から迫る雷撃。レイリアはマントの許容量も魔法を相殺することも全て捨て、なりふり構わずファシルに向かった。しかし、ファシルまであと少しの所で羽付きの攻撃を受けてしまう。吹き飛ばされたレイリアであったが、幸いそれはファシルに近づく形となった。痛みが走る体に鞭を打って這うレイリア。そしてファシルに触れて呪文を唱える。
「フィルシグ」
それは上級の回復魔法であった。レイリアはこのため魔法の使用を抑えていたのだ。ファシルの体は回復した。しかしファシルは目を覚まさない。
「遅すぎたようだね」
羽付きはそう言ってレイリアに向けて雷撃を放つ。収束した雷撃がレイリアに迫る。
「起きてファシル!」
レイリアが叫ぶが反応を示さないファシル。レイリアに向けて放たれた雷撃はすぐそこまで迫っている。マントも次の攻撃を防ぎきる事は出来ないほど損傷し、レイリアも魔力が尽きて雷撃を相殺できない。万事休すであった。
「終わりのようね」
羽付きは飛ばした雷撃見つつそう言った。
「ファシル!」
レイリアは目を瞑り思いを込めて叫んだ。収束して大きな矢のようになりレイリア達を狙う雷撃。その雷撃が触れる瞬間
≪ルオーリ≫
腕組をして立つ巨体が現われて雷撃を受け止めた。
突然現れたその巨体にネイラとネーファは動揺して攻撃の手を止めてしまう。それは、二人が一番知る者であったからだ。そんな二人の動揺を無視して言葉を紡ぐ。
≪ウォーラ≫
そして動き出す巨体。腰を落とし、構えて両の拳と両の足に光を纏う。そしてその場で拳と足を振るう。それは風の斬撃となり二人の羽付きを襲った。
二人の羽付きは敢えてその斬撃を受け止めた。
「「殺す」」
二人は反射的にそう呟いた。




