第三十九話
二人の羽付きは闖入者を見て顔を険しくし、繋いでいた手を離した。
「僕らの邪魔をするみたいだよ、ネーファ」
「そのようね、ネイラ」
二人は言葉こそ落ち着いて聞こえるが、怒りが頂点に達して今にも飛び掛かる勢いであった。
まず、ネイラから動いた。
ネイラは二匹目の怪物を召喚した。二匹目の怪物は虫のような見た目をしている。頭に大きな三つの目があり、辺り探るようにギョロギョロと動いていた。背中には半透明で筋が透けて見える大きな翅をもち、その翅で飛翔する。それは巨体を浮かすため忙しなく動き、ブーンといった重低音を響かせる。そして極めつけは、両の手に備わった大きな鎌。その鎌は、怪物の体の半分くらいを占めていると言ってもいいほどの大きさであった。
ネイラはその虫を撫でつつ、焼け焦げて炭になった一匹目の怪物に言葉を投げかけた。
「ごめんよイェデン」
「君の仇はこのドゥヴァが返すから」
ネイラはそう言って一匹目の怪物を弔い、二匹目の怪物であるドゥヴァに命令を下した。ドゥヴァは大きく咆哮して闖入者に向かって飛んだ。その速さは見た目によらず、とんでもなく速い。ドゥヴァは闖入者に肉薄しつつ両手の鎌を大きく振った。すると半月形の斬撃が飛ぶ。その斬撃は重なり大きな×印となって闖入者に向かう。
「フィナク」
闖入者はその場から動かず魔法により巻き起こされた疾風でそれをかき消した。その様子を見ていたネイラは目を見開いた。ドゥヴァの斬撃は中級魔法程度では防げないのだ。しかし闖入者はそれをやってのけた。ネイラはその光景に驚いていたが、ドゥヴァはそれ以上に動揺していた。怪物とは元来、人ほどしっかりとした感情を持たないので、まず動揺などしない。しかしドゥヴァは動揺したのだ。それだけドゥヴァの攻撃対象は危険であると本能が示したという事であった。
ネイラの命令を待たずしてドゥヴァは飛行速度を上げた。本能に従った事により反射的にそうしていたのだ。さらにドゥヴァは軌道を読まれないようにするため、曲技飛行といった離れ業をして見せた。これらによって、攻撃を当てることはおろか、目で追う事すら困難になった。さらにドゥヴァは速度を上げたことで、音がドゥヴァから遅れる。音速を超えたのだ。音速を超えたことにより飛行するだけでとんでもない風圧が起きる。それすらもドゥヴァの攻め手となった。
闖入者を中心に周りを飛ぶドゥヴァ。そしてその闖入者に向かって斬撃を飛ばす。今までと違い斬撃が一度に複数放たれ、それを何度も行う。これにより闖入者の周りをほぼ隙間なく覆う形となった。
風系の魔法で疾風を巻き起こし対処する闖入者であったが、幾重にも重なるその斬撃を徐々に消しきれなくなる。そうなると当然、闖入者に当たるのだが、それらの斬撃は全く効いていなかった。
その様子を見ていたネイラが愕然とした。
「おかしいっ」
珍しく焦るネイラであったが、闖入者の仕組みを探った。すると、ある事に気づく。それはドゥヴァの斬撃が闖入者に触れた瞬間に消えているという事だ。とてもあり得ない状況であった。
そのあり得ないことを成立させていたのは闖入者の纏うマントであった。それは凄まじい魔力を帯びていて、斬撃などのあらゆる攻撃を無効化していた。ネイラはその事に気づいてドゥヴァに命令を下そうとした。しかしその判断は少し遅れた。闖入者が動いたのだ。
遊びは終わりだと言わんばかりに、言い放たれる魔法。
「セラリア」
水系の魔法を使い闖入者は、自身の周りに雨を降らせた。すると、ドゥヴァの動きが雨によって浮き彫りになったのだ。浮き彫りになって確認が取れるようになったドゥヴァの動きであったがそれは、無茶苦茶な軌道であり捉えることは難しく充分ではなかった。しかし、それらは一般的な話であり、闖入者にはこれで充分であったのだ。
しばらく続いたドゥヴァの斬撃の嵐もついに止む。闖入者があらぬ方向に無詠唱の雷撃を飛ばす。その直後、それは雨を伝ってあみだの様に広がり、ついにドゥヴァを捉える。
雷撃を受けたドゥヴァの体は自由が利かなくなり墜落してしまい、墜落した衝撃と雷撃による痺れとで動けないでいるとそこへトドメが霹靂する。
「ストラーガ」
ドゥヴァは避ける事の出来ない雷によって砕け散った。
その展開を見ていたネイラは激昂し叫びつつ次の手に出ようとしたが、それより先にネーファの魔法による攻撃が飛んだ。それを闖入者は動いて避けてみせた。
ネイラの次の手を待たずして魔法を放ったネーファであったが、そのネーファも凄まじく激昂していた。




