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第三十八話

 ファシルは、先ほどまでいたネーベンの街並みではなく、荒れ果てた地面や岩が無造作に転がる荒野にいた。ファシルは転移させられたのだ。そのことに戸惑っていると、ファシルの左目が疼く。ファシルの前に二人の羽付きが手をつなぎながら舞い降りた。二人は少年と少女といった見た目であった。二人は見た目こそ違うが、一つ大きな共通点があった。それは大きな白い四つの羽であった。二人はファシルを見て可笑しそうに笑う。その仕草はまるで悪戯がうまくいったような、無邪気な様子であった。二人はファシルを気にすることなく話し始めた。

「次は」

どうしようかと少年が少女に問う。すると少女は

「あれは」

どうかなと答えた。二人の会話は指示語のみで聞いていても内容が分からなかった。二人は楽しそうに次の悪戯を画策している。ファシルは隙だらけのその姿に先手を打った。


≪エルシーク≫

≪クルエーレ≫

ファシルは地面を蹴った。

すると、ファシルの姿が消えて、元いた場所の砂が舞う。ファシルの動きは音のみを残して、全く見えない。それだけ高速で動くファシルは少年に向けて槍を構えた。そのままの勢いで突撃する。しかし、槍は少年に触れる寸前のところで止まってしまう。

「遅いよ」

少年の目の前で止まったファシルが姿を現す。ファシルは不自然な体制で止まっている。すると、ギギギと軋む音が鳴り響く。ファシルは呻きながら槍を落とした。ファシルの体を大きな何かが掴んでいた。ファシルはもがきそれから逃れようとするがびくともしない。ファシルを掴んでいた者が正体を現す。それは大きな怪物であった。その怪物がファシルを後ろから片手で掴んでいたのだ。怪物はファシルを掴んだまま、少年から離すようにファシルを思い切り投げる。ファシルは直近の大きな岩に激突した。激突した際に大きな音を立てた岩はファシルを受け止めた後、砕けた。

ファシルは立膝を突きつつ体制を立て直して少年を見た。すると少年は使役している怪物のあごの下を撫でて労っていた。ファシルは再び槍を出現させて、思い切り投げる。すると今度は少女がそれを止めた。

「フィナク」

槍は突風による逆風で勢いを失い、そのまま吹き飛ばされてしまう。そしてその突風は勢いを維持しつつファシルを襲った。ファシルの体は突風に押されて宙に舞う。そして空中で突風の勢いは消え、自由落下するファシル。

「ストラーガ」

落ちるファシルを雷撃によって地面に叩きつけた。

「セラリア」

地面に叩きつけられたファシルをさらに氷の刃が襲う。空中に発生させた水を氷に変えて何本もの剣とし、それを雨の如く降らせた。

≪ドッラ≫

ファシルは咄嗟に黒い球での相殺を試みる。黒い球と氷の刃の衝突は強度の差で黒い球が勝ち、どんどん向かってくる氷の刃をを砕いていく。しかし、少女はそれでも構わず氷撃を続けた。砕けた氷は水となってファシルの足元に溜まっていく。


 ファシルは氷の刃を全て砕き、その場から動こうとしたが足が言うことを聞かない。ファシルは足元を見た。足元の水は氷になり、足を固定していたのだ。ファシルは黒い球に氷を砕くように命令したがそれは叶わなかった。黒い球は付着した水によって全て氷漬けにされ動かなくなっていた。ファシルは焦って足掻くが少しも動かず、足元の氷はみるみるうちに腰のところまでファシルを固めた。すると、前方から、どすどすと足音を立てながら怪物が走って迫ってくる。怪物が迫る中、ファシルは抜け出すため足掻く。しかし、抜け出すことが出来ず、ファシルは上半身だけでも防御の体制を取った。避けることのできない怪物の攻撃をもろにくらうファシル。怪物の攻撃によって下半身の氷は砕けて、ファシルを吹き飛ばす。吹き飛ばされたファシルは岩へと向かう。ファシルが岩に触れる瞬間、岩から氷の棘が生える。ファシルを棘は串刺しにし、受け止めた。背中から多量の血を流し、痛々しい姿のファシル。

二人の羽付きはファシルの前まで近づいてきて、様子を伺う。

「死んじゃったかな」

「死んじゃったかも」

二人はお互いを見てくすくすと笑った。そして少女がこう言って切り出す。

「それじゃ終わりにしちゃうね」

そして魔法を言い放った。

「ストラーガ」

「ストラクス」


 雷鳴轟かせ光る上空の魔方陣を、より一層眩しさを放つ雷光が打ち砕く。

それは一直線に二人の羽付きに向かう。

少年の怪物が咄嗟に二人を押し飛ばし、二人を逃がし怪物は消し炭となって消えた。

「誰だ!」

少年は怒りを露わにしつつ鋭い眼光で睨みつける。その視線の先には、空間を無理やりに裂いて割って入る者の姿があった。

それはこの場の誰よりも遥かに怒り狂うレイリアであった。

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