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第三十七話

 ネーベン観光を十分に楽しんだ次の日、ファシルは一人で、薬品を主に扱うネーベンで一番有名な店に来ていた。ここは世界各地の薬品を揃えており、多岐にわたった。素材としての薬草や調合済みの薬品、どこにでも流通している薬品から滅多にお目にかかれない高級な薬品まで、ありとあらゆる品が揃っていた。ちなみにゾスが使っていた強化薬もここなら揃えられた。

ファシルはある傷を治すためにこの店に来ていたのだ。その傷とは、先日マントを羽織った時にできた火傷であった。その時、レイリアの中級魔法で治癒を試みたのだが治りが悪く、状態の進行を抑制する程度にとどまっていた。なので、魔法以外の手段として薬を頼ることにしたのだ。

一般的には魔法に劣る薬であるが、ネーベンのこの店なら或いはと探しに来たのだ。ファシルは意気揚々と店に入った。


「ないですね」

うちでは取り扱ってないですと店員の丁寧な言葉にファシルは気を落とした。目的の薬は見つからなかった。


 そもそも、火傷を治すこと即ち身体的状態の異常を治癒するのに薬品を使う者は滅多にいない。なので世界的にもそういった薬品は数が少なく、あっても魔法に劣るのだ。ネーベンのこの店にもそういった魔法に劣る薬品は置いてあったが、ファシルの傷はその程度の薬品で治る傷ではなかった。


 ファシルは諦めてその店を出ようとすると、見知った顔が入店してきた。それは武術大会で戦ったギーザ―であった。ギーザ―はファシルに気づかず、目的の薬品がある一角へと向かっていった。ファシルはギーザ―に用がなかったので声をかけずに店を出ようとした。しかしその時、ファシルはあることを閃いた。そうしてギーザ―のところへ行き、声をかけた。

「お、お主は」

ギーザ―は声を掛けてきたファシルに少し驚いた様子であった。


 ファシルとギーザ―は店の裏へと来ていた。

「なんじゃ」

なんの用じゃと言いつつギーザ―はファシルを訝しむように見た。

「ちょっと」

頼みたいことがあると言ってファシルは傷の事を説明した。この時ファシルはマントの事を伏せて説明した。


「分かった」

見せてみよと言ったギーザ―に傷を見せた。ファシルの火傷を見たギーザ―は目を見開いて驚いていた。

「どうだ」

治せそうかとファシルはギーザ―に訊いた。しかしギーザ―の返事は芳しくなかった。

「無理じゃな」

「どうして」

とすぐに訊き返したファシルにギーザ―は説明してくれた。

「これは」

火傷ではない、呪いだと言った。厳密には呪いと傷の複合であった。


 ギーザ―は長年魔法の研鑽を積んでいた。その中で幾度と見てきたものであり、挫折を味合わされてきたものであった。

数ある状態異常の中で呪いは特段異質なものであった。身体的に異常は出るものの、それの根本的な要因は精神的なものによる。なので治そうにも精神的要因の特定が必要でそれは難しく、そういったことからギーザ―は治す事が出来なかった。

その精神的要因が加害者のものか、被害者のものなのかと分かれていて、それに加えて多岐にわたる。もはや医学的なところから外れ、精神論の域に達する。ギーザ―はここで諦めてしまったのだ。


 ファシルはギーザ―の話が難しいので、他の方法を訊いた。すると

「ないことはない」

と渋った様子でギーザ―は言った。

「なになに」

どうやるのとファシルは急かした。ギーザ―から返ってきた答えは単純だが難しかった。

「治すには」

上級以上の回復魔法を使うのじゃと言った。

この単純な回答はファシルにとっては途方もなく難しかった。ファシルは生まれながらに魔法との相性が悪く、初級の魔法も使えない。にもかかわらず上級の魔法を使えと言う。


 落胆しているファシルを見てギーザ―も唸りながら考え込んでいると、ある事を思い出す。

「そうじゃ」

薬草じゃと言った。

今更そんなものと思っているファシルにギーザ―は説明しだした。


 ネーベンの森を抜けてそのさらに奥にある山に自生する貴重な薬草が存在するという。それは精神的な不安などをなくす効果があり、それを使えば呪いをかき消す事ができる。そうすれば回復魔法で傷も治すことができるという事であった。


 ギーザ―の説明を聞いてファシルは納得したが、今すぐにできる事ではなかったのでまた今度にした。そしてギーザ―に礼を言って別れた。


 ギーザ―と別れ、レイリアと待ち合わせした宝飾店へとファシルは急いでいた。そこは以前寄った宝飾店であった。そこへ向かうファシルを奇妙な感覚が襲う。それは以前味わった意識が遠のく感覚であった。

「前にも言っただろ」

「えらく、気が抜けているな」

と以前にも聞いた声と言葉でファシルはゾッとした。ファシルは反射的に声のする方を向いた。するとそこは見た事のない景色で、辺りを見渡すと先ほどまでいた場所ではなかった。


 レイリアは件の宝飾店にいた。

「ありがとうございました」

店員の丁寧な接客を後にして、店を出た。レイリアは以前この宝飾店に来たときに頼んだものを受け取りに来たのだ。レイリアは受け取った小包をしまい、ファシルが来るのを宝飾店の向かいのカフェで待っていた。待ちわびるレイリアは、ファシルが予定の時間になっても来ないので探しに向かった。その際、すれ違いを防ぐために宝飾店の店員に伝言を頼んだ。ファシルが向かった薬屋に向かってしばらく歩いていると、レイリアはある感覚を捉えた。それは膨大な魔力の集まりであり、それは目的の店の方角で発されていた。

(ファシル)

と身を案じて心配そうに心で呟いた。

レイリアは気掛かりなファシルのもとへ急いで向かった。

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