第三十五話
観戦会場の映像がやっと復旧した。すると、そこに映っていたのはファシルだけであった。観客席は少しの間の後、割れんばかりの大歓声に包まれた。ファシルが優勝したと理解したのだ。
レイリア達も立ち上がる程に歓喜した。主は仲間に自慢するため会場からすっ飛んでいった。レイリアはホッとしたのか会場の席にすわる
「よかった。おめでとうファシル」
レイリアは優しい表情で映像に映し出されるファシルを見ていた。
森に大会終了の合図が流れていた。ファシルは大会の終了と同時に力が抜けたようで、その場に座り込んだ。
「終わったのか」
先程までの羽付きとの死闘でドッと疲れたようであった。ファシルは、自分が優勝したことを森を出て運営に迎えられるまで知らなかった。
ファシルは森の外にある運営テント前で少しもめていた。色音との勝負に邪魔が入って、勝ち負けが決まっていなかったからであった。ファシルは自分が優勝したことが気に食わなかった。すると、色音がファシルに向かってきた。ファシルは少し身構えた。
「お前の勝ちだ」
「でも」
決着はついていないだろと言いかけたとき、色音が
「俺の国では」
自分の武器を相手に取られるという事は負けを意味すると言った。
「それに刀は命だ。肌身離さず持つ、いわば一心同体」
「それを取られているというのは、死んだようなもの」
お前はこの色音を殺さずして勝ったのだ誇っていいと言った。ファシルはまだ少し不満がある様であったが周りにいた人の、色音を称賛する声とファシルの優勝を喜ぶ歓声でかき消された。ファシルは去っていく色音を追いかけて、呼び止めた。
「これ」
と言ってファシルは刀を返した。
「いい剣だった」
「刀だ。覚えておけ」
色音はそういって踵を返し、去っていく。その背中に向かって
「次は絶対に勝つからな」
誰にも邪魔させないと叫んだ。その言葉に色音はフッと笑ったようにファシルには見えていた。
色音を見送った後、振り返るとレイリアがいた。ファシルはレイリアに声をかけようとした時、レイリアがファシルに飛び込んだ。ファシルはそれを抱きとめた。
「勝ったよ、俺」
「おめでと」
そう短く言ってレイリアはファシルの胸に顔を埋めたまま黙り込んでしまった。レイリアはファシルを大変に心配していたのだ。ファシルが優勝するかどうかよりも、無事であったことに安心して感情が爆発したようであった。ファシルとレイリアはしばらくそのまま抱き合っていた。
ファシルは大会優勝の表彰式を受けていた。街の大きな広場で執り行われた。国王より優勝者にトロフィーが渡された。優勝者であるファシルは観衆に向き直ってトロフィーを掲げて見せた。広場が大きな歓声で包まれた。それはその場が揺れているかのような錯覚を覚えるほどであった。優勝者にはトロフィーともう一つ、世界に一つしかない大変貴重な品が贈られた。それはファシルが世話になっている主の屋敷に送られた。表彰式は厳かに粛々と行われ、そのあとはどんちゃん騒ぎとなった。その騒ぎは夜通し行われた。
ファシル達は騒ぎを抜け出して屋敷に戻っていた。この時に主はおらず、優勝したことを商売仲間に自慢するため、意気揚々と酒場に向かったのであった。主は酒場でその場にいた全ての客の代金を奢って大騒ぎした。主が戻るのは次の日であった。
屋敷に戻ると執事が迎えてくれた。
「ファシル様、優勝おめでとうございます」
優勝の品が届いておりますと祝いの言葉もそこそこに教えてくれた。大会優勝者に贈られた品であった。ファシル達はそれを確認した。それはマントであった。
「なんか古びてるね」
とマントを手に取るファシルを横目に、そのマントを見ながらレイリアが驚いていた。レイリアが説明してくれた。
このマントは大昔にあった大戦争の時、人間の勇敢な者とともに戦った大魔導士が身に着けていた物であった。その大魔導士は、今は確かめることのできない全ての最上級魔法を使えた。その大魔導士が使う魔法を補助し、さらに外敵による如何なる魔法も無効にしたマントであった。その完全無欠のマントも今は主をなくし、効力を失いつつあった。魔力が薄れているとはいえ、相当の魔力を帯びていた。しかし、魔法を全く使えないファシルにはそれを感じ取れていなかった。
「そんなに」
凄いのかこのマントと言って持ってひらひらとさせつつ前後を見た。
「着てみたら」
何かわかるかもとレイリアは促した。レイリアは、魔法に疎いファシルでも何か感じるところがあるかもしれないと考えての事であった。
「わかった」
ファシルはマントを羽織ってみた。羽織った途端、ファシルは雷撃を受けた様な激痛に襲われた。ファシルはすぐにマントを投げた。
「大丈夫?!」
レイリアがファシルに駆け寄った。ファシルは、マントの触れた部分が火傷になっていた。ファシルは使うことができなかった。




